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2011年6月21日(火)付

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菅首相―最後の使命を明らかに

菅直人首相はいま、思っているに違いない。自分が辞めれば、与野党の協議がうまく進むなんてことはあり得ない、と。それに、経済界などに抵抗が根強い脱原発依存に、道筋をつけたい[記事全文]

原発賠償交渉―裁判以外の道の用意を

原発事故で人々が受けた被害をどう償うか、政府の原子力損害賠償紛争審査会で範囲や金額の指針づくりが進んでいる。社会に受け入れられる内容にするのはもちろんだが、個々の住民や[記事全文]

菅首相―最後の使命を明らかに

 菅直人首相はいま、思っているに違いない。自分が辞めれば、与野党の協議がうまく進むなんてことはあり得ない、と。

 それに、経済界などに抵抗が根強い脱原発依存に、道筋をつけたいという思いも、日に日に強まっているのだろう。

 だから続投したいという心情は、わからないではない。

 だが、はっきりしていることがある。首相に長期続投の目などないという現実だ。

 首相は震災対策への「一定のめど」を条件に、辞意を表明しているのだ。それも民主党の分裂を避けるという内向きな理由だった。この事実は、誰にも消しようがない。

 いまや野党からだけでなく、与党幹部、一部の閣僚からも辞任時期の明言を求められる展開は、政権の最末期症状をぶざまにさらすばかりだ。

 きのう東日本大震災復興基本法が成立した。首相の指示で、被災者の二重ローン対策などを盛り込む第2次補正予算案の編成作業も始まっている。政府の復興構想会議の第1次提言も週内には出る。

 そろそろ「一定のめど」がついたと言わねばならない。

 政府・与党は、あす会期末を迎える国会を4カ月程度延長する考えを野党に伝えた。夏休みをはさむ異例の大幅延長になるが、切れ目なく震災対策に取り組むうえで当然である。

 この延長される国会を、被災者や国民そっちのけで「首相辞めろコール」で埋め尽くされてはかなわない。

 事態を打開できるのは、首相なのだ。まず記者会見を開き、退任時期と、それまでに何としても成し遂げたい政策課題を明確に示すべきだ。いわば、最後の使命を明らかにして、理解を求めるのだ。

 首相は内閣不信任案が否決された夜を最後に、20日間近く、記者会見を開いていない。これ以上、国民への説明から逃げ続けることは許されない。

 首相がめざすのは、2次補正予算と赤字国債の発行のための特例公債法の成立だけに限らない。自然エネルギー普及のための「全量固定価格買い取り制度」の導入法案も前へ進めよう。内閣として原発輸出を掲げた首相だが、この制度はかねての持論だったではないか。

 「この顔を見たくなければ早く法案を通した方がいい」などという野党への挑発は要らぬ。

 首相の延命のための道具としてではなく、与野党が日本の今後のエネルギー政策を徹底して議論する出発点に使う。そんな気構えを示すときだ。

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原発賠償交渉―裁判以外の道の用意を

 原発事故で人々が受けた被害をどう償うか、政府の原子力損害賠償紛争審査会で範囲や金額の指針づくりが進んでいる。

 社会に受け入れられる内容にするのはもちろんだが、個々の住民や企業に当てはめたとき、被災者側と東京電力との間で意見が食い違う局面は当然あるだろう。指針そのものへの疑問や異論が出ることも予想される。従来の公共事業に伴う補償などとは、質も広がりも全く異なる紛争と言っていい。対立をどう解きほぐし、決着させるか。

 被災者にとってそれは切実な問題だ。賠償を受け取るまでにどの程度の手間がかかるのか、誰がどんなサポートをしてくれるのか。そんな問いにこたえ、混乱を回避し、安心させる施策が政府には求められる。

 もちろん紛争を最終的に解決する手段は裁判である。だが、その負担は小さくない。茨城県東海村で12年前に起きた原子力事故の訴訟が決着したのは昨年のことだ。裁判所にとっても、多くの提訴があればパンク状態になり、ほかの裁判の審理にも影響が及びかねない。

 法廷に持ち込まなくても、専門知識をもつ第三者が間に入り当事者が納得できる解決策を探る方法として、裁判外紛争解決手続き(ADR)がある。

 この考えを生かしたい。原子力損害賠償法で「和解の仲介」機能が定められている紛争審査会の下に、手数料なしで話し合いができる場(パネル)を設けるのが現実的ではないか。

 パネルは推薦された弁護士ら3人程度で構成し、全体の数は紛争の量や質に応じて伸縮自在とする。統括する事務局を設けて統一した運用を心がけ、審査会指針に実情を反映していない面があると判断すれば、意見具申する。審査会は現場の声に耳を傾け、見直しを含め柔軟に対応する――。そんな仕組みであれば、被災者も安心して解決を委ねることができよう。

 審査会の下部機関で踏み込んだ判断ができるかとの疑念があるかもしれない。だがそれは、仲介にあたる人の力量と見識次第だ。和解が成立せず裁判に進み、パネルの判断が覆されるような事態が続いたら存在意義にかかわる。そんな緊張感をもってのぞむ必要がある。

 被災者の思いをくみつつ、適正で迅速な解決を図るには、行政機関や裁判所は言うまでもなく、弁護士の協力が不可欠だ。弁護士の一部には賠償交渉をビジネスチャンスととらえる動きもあるようだが、「被災者のため」という原点をくれぐれも忘れずに対応してもらいたい。

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