インタビュー急接近

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急接近:石原慎太郎さん 節電対策、政府や社会は何をすべきですか?

 <KEY PERSON INTERVIEW>

 今夏は電力不足による突然の大停電を回避することが、国を挙げての目標となっている。政府に強いリーダーシップの発揮を求めるとともに、いち早く自動販売機とパチンコの電力消費について問題提起した東京都の石原慎太郎知事に聞いた。【聞き手・渡辺暖】

 ◇政令で徹底、我欲抑えよ--東京都知事・石原慎太郎さん(78)

 --節電対策が今夏の大きなテーマとなっています。

 ◆ オイルショックの頃に政府は電気事業法に基づく政令を出して利用規制をした。蓮舫・節電啓発担当相が3月に協力要請に来たので、「政令を出しなさい」と言ったんです。(官房副長官の)仙谷君にも首都圏4知事で「具体的な政令を出しなさいよ」と言った。対象の業種や相手を挙げて具体的に指示しなかったら徹底しないよ。いくら目標の数字を掲げても、どうしていいかみんな分かるようで分からないんだから。それなのに「やります」と言うばかりで、全然やらないんだね。

 --知事は自動販売機やパチンコ業界を「電気の無駄」と厳しく批判しました。

 ◆ パチンコ業界の関係者が「25%以上の節電をやりますから、これ以上いじめないでくれ」と言ってきた。いじめてるわけじゃないけれど、朝から傘を差してパチンコ屋の開店を待ってるような国は世界中にないよ。娯楽なんだから、やるなら夜中にすればいい。自販機の業界も25%節電を自主的に決めた。どんな先進国でも自販機を置いたら一晩で壊されちゃうが、日本は治安が良いから、あまり人通りがない田舎にも二つ、三つと並んでいる。こんなにあるのは日本だけだ。それに日本の街は余計に明る過ぎる。そういうのを「取り締まる」は言い過ぎだが、対処しないとしようがない。戦争中は灯火管制があって、「明かりがついていると爆撃される」と注意し合ったもんです。

 --民間の自主的な取り組みでは足りませんか。

 ◆ 政府はもっと具体的に何をどうすべきかを言うべきです。大口の規制だけでなく、「何時から何時まで明かりをつけるな」などと政令で徹底したらいいんだ。政府の権限、責任なのにやらないのは責任回避でしょう。時によっては行政は憎まれなきゃならない。でもきちっとシステマティックな政令を出したら、みんな危機感を持ってるんだから、だれも文句を言わないと思います。日本人は従順だし知的な水準が高いですから。

 --電力をどう確保するかも考えなくてはなりません。

 ◆ 東京都は天然ガスの発電所を造りますよ。埋め立て地に持っていけばいい。先日も副知事の猪瀬直樹君に川崎市にある施設を視察してきてもらいました。コストパフォーマンスは非常にいい。天然ガスはあちこちで今、発見されているしね。石油を燃やすより二酸化炭素の発生も少ないし。ソフトバンクの孫正義社長が、大規模太陽光発電所「メガソーラー」や風力発電などの普及を図る「自然エネルギー協議会」を自治体と協力して設立するといい、黒岩祐治神奈川県知事が「一緒にやってくれ」と言ってきた。でも「東京は東京でやるから」って言ったんです。ソーラーだけの発電で日本社会が動くと思いますか?できっこない。

 ◇原発事故は管理が悪い

 --原発とはどう付き合うべきでしょうか。

 ◆ みんな戦々恐々してるけど管理が悪い。それに今度は完全に想定外、天災ですよ。人災じゃないんだよ。米スリーマイル島の事故もチェルノブイリの事故も人災なんです。今度の地震は「古文書に大津波の記録があった」といったって、あったのか無かったのかも分からない。きちんとした記録というものをみんな参照するんでね。「ここまで水が来た」と記録があっても、それで原発の対策を考えろというのは酷な話。ただ今回の事故では、後のハンドリングが悪かったと思いますよ。

 --震災後、社会に反省を求める発言を度々しています。

 ◆ こういう災害や電力危機を踏まえて、日本人は我欲を少し抑制しなきゃだめです。みんな野放図で、いろんな我欲がまかり通っている。政治もそれにおもねって。節電の具体策を出さないのも、政治が我欲におもねっているからだ。一種のポピュリズムですよ。震災をきっかけに我欲を減らさなきゃ。だから街が暗くたっていい、自販機が無くたっていい、パチンコが限られた時間しかできなくなったって構わない。それで人が死ぬわけじゃない。野放図にやっていれば電気は足りなくなって、お年寄りが熱中症で死ぬなんていうことになりかねない。その前にみんなが節電したらいいんですよ。国民はみんな分かっていると思います。でも具体的にどうしたらいいかということは分からないから、せいぜい無駄な電気を消すぐらい。街には自販機が相変わらず並んで、パチンコだってジャラジャラやってるわけだろ。そんなものはまかり通らないよ。政府が具体的に国民にお願いをして、節制を説かないなら、もうメディアが主導するんだな。

 --都庁舎で25%の節電を目標にしています。かなり高いハードルではないですか。

 ◆ やってみなきゃ分かんない。やるの、まずやるの。言ったかぎり、やらせるんだよ。

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 ■ことば

 ◇東京都の節電対策

 東京都内の電力消費量は東京電力管内の約3割。都は、都庁舎で25%節電するため職員にサマータイム制を導入。事業所への啓発に加え、約100万世帯に約3000人の節電アドバイザーを派遣する。公立学校の子供らにも家庭での取り組みをチェックしてもらう。

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 ■人物略歴

 ◇いしはら・しんたろう

 一橋大学在学中に「太陽の季節」で芥川賞受賞。参院議員を経て衆院議員となり、環境庁長官、運輸相を歴任。「東京から日本を変える」をスローガンに99年から都知事。4期目。

毎日新聞 2011年6月18日 東京朝刊

 

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