社長の仕事術
2011年 6月 11日

「すっから菅総理」のスタンドプレー

飯島 勲 「リーダーの掟」

<最新7/4号からチョイ読み>被災地と永田町にこれだけの温度差が出てしまうのは、菅直人総理の繰り出すスタンドプレーが原因だ。

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すぐ言い返す、すぐ怒鳴る……

厚生大臣の変遷(写真=PANA)
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厚生大臣の変遷(写真=PANA)

以来「総理にふさわしい人」として菅大臣はマスコミの寵児となった。一方でファイル探しに汗を流した前大臣は無能呼ばわりされ、キャリアとノンキャリの壁を超えて探し回った官僚たちは情報隠ぺいの犯人扱い。菅大臣はこのときから他人の手柄を横取りし、自らが発表するという手法を確立していたのだ。

厚生大臣時代を振り返るとき、もう一つ忘れてならないのが、カイワレ大根の風評被害事件だろう。

薬害エイズで人気絶頂となった菅大臣をO-157の食中毒問題が襲った。果断な発表は支持率アップにつながると、2匹目のドジョウを狙い「O-157の原因としてカイワレ大根の可能性が否定できない」と記者会見した。

あっという間に全国のスーパーからカイワレ大根が消え、カイワレ栽培農家は大騒ぎとなった。特に大阪の農園経営者は、厚生大臣ではなく、菅個人を訴えると激怒した。

あわてた菅大臣が思いついたのがカイワレを食べるパフォーマンスだった。しかし、関東地方の店先にはカイワレは一パックも残っていない。全国中を探し回り、ようやく数パックのカイワレが見つかった。あわててノンキャリアを買いに走らせたが、このときの交通費などが6万円かかっている。無論、国民の血税からの支出だ。

大臣がカイワレをドレッシングもかけずに涙目でむしゃむしゃと食べたところで、風評被害が収まるはずもなく、カイワレ農家は国を提訴した。

パフォーマンスの効果は、農園経営者の訴訟の被告を菅個人から厚生省に変更させた程度にとどまった。菅大臣にはそれでよかったのだろう。

最高裁は04年12月、国に賠償総額2290万円の支払いを命じる判決を言い渡した。菅は、カイワレに関して、合計で2296万円の損害を国に負わせたことになる。自殺者まで出したカイワレ事件。驚くべきことに最高裁で敗訴が確定しているにもかかわらず、本人はこれを成功体験ととらえているらしい。目立つことさえすればマスコミに賞賛される。それを感覚として知っているのだ。

菅大臣退任後、厚生省官僚のどん底まで落ちたモチベーションの問題は少しずつ改善されたが、ひとつ困った置き土産があった。クレーマー化した市民運動団体の来訪だ。本当に困っているのであれば、全力で助けるのだが、国を叩くことだけが目的の集団が押し寄せてくると手のつけようがない。

私自身が対応していて感じたのは、問題のある市民運動家には(1)すぐ言い返す、(2)すぐあげつらう、(3)すぐ怒鳴る――という3つの共通点があることだ。第三者が何か指摘すると、相手が口をはさめないほどのスピードで反論する。些細な矛盾を血眼になって探す。相手が納得しないと声を荒らげて怒鳴り散らす。相手をやり込めることが目的では問題も解決のしようがなかった。

震災後の菅総理を見ていて、市民運動家の3カ条に付け加える必要があると考えた。それは、上手く立ち回れなくなると、「すぐ誤魔化す」だ。


※すべて雑誌掲載当時

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プロフィール

飯島 勲

いいじま・いさお●1945年、長野県辰野町生まれ。72年小泉純一郎衆議院議員秘書。永年秘書衆議院議長表彰、永年公務員内閣総理大臣表彰。小泉純一郎内閣首席総理秘書官。現在、松本歯科大学特任教授、駒沢女子大学客員教授。著書に『人生「裏ワザ」手帖』。

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