(cache) ＪＣＯ事故の経過と問題点

「ＪＣＯ臨界事故」の経過と問題点
　　　　　－－－ＪＣＯ臨界事故緊急シンポジウム報告を中心に－－－

　　一、要項

１，日時：１９９９年１１月１４日（日）１４時～１８時
２，会場：中央大学駿河台記念会館
３，内容：報告

①「事故の経過について」館野　淳（ＪＳＡ原子力問題研究委員会委員長、中央大学教授）
②「臨界事故について」青柳　長紀（元日本原子力研究所）
③「放射線被曝と環境影響について」野口　邦和（日本大学講師）
総合討論

４，主催：日本科学者会議原子力問題研究委員会、原子力問題情報センター　

　　二，概要報告

１，東海村、ウラン加工施設ジェー・シー・オー（ＪＣＯ）臨界事故の概要　　

９月３０日午前１０時３５分頃、ＪＣＯ東海事業所の転換試験棟で、高速増殖炉「常陽」の燃料用の濃度１８．８％のウラン燃料加工工程において臨界事故が発生した。核分裂したＵ２３５はおよそ１ミリグラム。作業員３人が最大１７シーベルトという大量の中性子線を浴びた。
　この転換試験棟で行われるのは軽水炉用の５％（以下）のウラン燃料のの精製加工であり、安全審査はその線で行われ、許可されていた。しかし、現在は高速増殖炉用のいわゆる高濃度溶液の加工も行えるよう施設が変更されており（施設・計画変更に伴う安全審査が十全になされていたかには疑問がある）、時に今回のように高濃度溶液の加工も行われる。
　ウラン燃料となるＵ２３５は、ある一定量を超えると核分裂が連鎖的に起こる性質をもつ。したがって、加工工程で連鎖反応が起こらないように安全対策がとられている。たとえば、Ｕ２３５の重量が一定値を超えないよう、一度に処理する溶液の量を制限している（重量規制）。処理装置の大きさ・形に条件をつけている。特に処理槽・塔の内径を定めている（形状規制）（細いと中性子が逃げて臨界が起こりにくい）。
　今回は、加工の最終段階で、硝酸ウラニル溶液を「貯塔」に入れるべきところを、製造時間短縮のために、手順を変えて「沈殿槽」（「貯塔」に比べ内径がより大きく、かつ大量の溶液を入れることが出来る）に入れた。ここで連鎖的核分裂・臨界反応が起きた。「沈殿槽」に実際に投入されたウラン量は１６．６キログラム（バケツで７杯）と推定される。

２，ＪＣＯ臨界事故の関連経過

　　９月３０日　

１０：３５　ＪＣＯ転換試験棟で、高速増殖炉「常陽」用の高濃縮ウラン（約１９％）を処理中、臨界事故発生。３名被曝。
１０：４５　所長、臨界事故ではないかと疑う。救急車到着。従業員正門まで避難。
１１：１０　ＪＣＯ，科学技術庁・県・村へ事故第１報。
１１：５８　現地在住の科学技術庁職員がＪＣＯに来た、しかし、何の指示もせず。
１２：３０　村役場、防災無線で「念のため外出しないよう」放送。科学技術庁、総理秘書官に「３人が被曝、病院に運ばれている」と報告。
１３：００　原研那珂研究所（距離約２ｋｍ）で放射線監視モニターの中性子線量率が異常に増加していることを発見。担当者は「ノイズとみられる」とコメントをつけて、科学技術庁に記録をファックス送信。約１時間後「中性子が到着したもの」と訂正を入れた。
１４：００　原子力安全委員会開催。住田委員、臨界が継続している可能性を指摘。一委員がいっても科学技術庁としては動けない。
１４：３０　ＪＣＯ、役場に周辺住民の避難を要請。
１５：００　村長、３５０メートル以内の住民に自主的避難を呼びかけ。１６０人避難。ＪＣＯ社員１６ｋｇのウラン注入を県に報告。同席の専門家、臨界継続の可能性を指摘し、中性子線測定を進言。
１６：１６　官房長官「これ以上の事故拡大はないものと考える」
１７：００　施設周辺で中性子測定。４ｍｓｖ／ｈｒ（２万倍）。科学技術庁重大事態認識。国は依然県や村に指示を行わず。
２０：３０　茨城県１０キロ圏内の住民の退避を検討。原研防護対策本部設置。技術的検討開始。冷却水を抜いた場合のシミュレーション。
２１：０２　首相官邸で政府対策本部初会合。
２２：３０　国は退避を了承。茨城県、屋内待機を発表（１０キロ圏３１万人。防災指針：国の助言を得て行う）。ＪＣＯ管理棟に（原研の）対策本部設置。住田委員長代理派遣。

１０月１日

２：３５　　冷却水抜き取り作業開始。作業時間１人１分間限度。
６：００　　中性子線量ゼロに。臨界終了。
８：１９　　沈殿槽に硼酸注入（１３リットル）。住民の被曝測定始まる。
１５：００　官房長官「事故終息」を宣言。
１６：３０　県「屋内退避要請」解除。
夜　　　　　県公害センター、土壌にＮａ－２４検出。

１０月２日　３５０メートル圏の避難解除。

３，ＪＣＯでのウラン加工（硝酸ウラニル溶液製造）の流れと装置

　　　原料Ｕ３Ｏ８（黒い粉末）→【溶解】「溶解塔」→「溶媒抽出塔・逆抽出塔」→硝酸ウラニル溶液製造（黄色い溶液）「沈殿槽」→硝酸ウラニル→【沈殿】→重ウラン酸アンモニウム（ＡＤＵ）「沈殿槽」→【ばい焼（１０００゜Ｃで）】「仮焼炉」→Ｕ３Ｏ８→【溶解】「溶解塔」→製品硝酸ウラニル溶液「貯塔」……→　核燃サイクル機構（動燃）に納入。
　　　　今回の手順（上の正規の手順を下のように変更していた）
　　　Ｕ３Ｏ８→【溶解】「ステンレス容器」（そこに硝酸を入れる）→製品硝酸ウラニル「沈殿槽」

４，放射線被曝と環境影響

　（１）基礎知識

①グレイ（Ｇｙ）…吸収線量の単位で、物質（人体でなくてもよい）１キログラム当たりに吸収されたエネルギーが１ジュールのときが１グレイ。
②シーベルト（Ｓｖ）…線量当量の単位で、線量当量は吸収線量に人体に対する放射線の種類等による効果の違いを補正した量で、放射線防護の目的のためにのみ使う。　　　　（シーベルト）＝（グレイ）×（線質係数）　　　　　ただし、中性子線の線質係数の評価にはまだ議論があるとのこと
③ベクレル…放射能の強さの単位ふぇ、放射性原子が１秒間に１壊変するときが１ベクレル。

（２）放射線被曝

①ＪＣＯ社員の被曝
　　　＊急性放射線障害の３名の作業員（線量計をつけていなかった）
　　　　・症状からの推定によればそれぞれ１８，１０，２．５グレイ。入院中。　　　　・１０月２０日に労災申請を行い、同月２６日に認定（水戸労働基準監督署）
　　　＊臨界を停止するために沈殿槽の冷却水の抜き取り作業を行った作業員
　　　　・１８名が、０．０５～１２０ミリシーベルトの被曝、このうち２名は１００ミリシーベルトを超えて被曝（職業人の年間許容限度５０ミリシーベルト。ただし、緊急時にはそれを超えることも可、しかし１００以上は不可）科学技術庁安全委が法律違反をしたことになる。（１１／４の発表によれば、ナトリウム２４（Ｎａ２４）が体内から検出された１４名の作業員について、９．１～４４ミリシーベルト）　　　　　　（注）体内のＮａ２３は中性子線をうけるとＮａ２４に変わる。Ｎａ２４の半減期は約１５時間。ベータ壊変、ガンマ線放出。
　　　＊再臨界を防止するために沈殿槽にホウ酸水を注入した作業員
　　　　・６名が、０．０３～０．６１ミリシーベルトの被曝（Ｎａ２４が体内から検出された者はいない）
　　　＊その他の社員（５６名）
　　　　・Ｎａ２４が体内から検出された者は４３名中３６名で、このうち最大の者の被曝は３．８～２３ミリグレイ。　　　　・フィルムバッジにより測定された者は２２名で、このうち最大の者の被曝はガンマ線で６．２ミリシーベルト（中性子線はこの６～８倍あったと考えられるという）。
②救急で駆けつけた消防士の被曝（このとき、３人の作業員は現場近くに倒れていた。他の従業員は彼らをおいて逃げたらしい）　　　　・体内中のＮａ２４の放射能から、それぞれ０．５～３．０，０．６～３．９，０．６～３．８ミリグレイの被曝　　　　・１１／４の発表によれば、それぞれ６．２，１３，１２ミリシーベルトの被曝
③一般住民の被曝
　　　＊当初、発表されていたのは以下の通り
　　　　・事故現場近くにいた７名については体内中のＮａ２４の放射能から、最小の者が０．４～２．６ミリグレイ、最大の者が１．５～９．１ミリグレイの被曝　　　　・その他の一般住民については不明（３５０メートル圏内は５時間後に避難開始、１０キロメートル圏内は１２時間後に避難開始）
　　　＊１１／４の発表によれば、事故現場からの距離に応じた屋外線量が基礎資料として示され、事故時の行動に応じて個人の被曝線量を評価していくことが必要。
　　　＊いずれにせよミリシーベルト、１０ミリシーベルトの桁で一般住民が多数被曝したことは間違いない。

（３）周辺環境への影響　　

①ウラン２３５の核分裂数と質量　　　＊核分裂したウラン２３５はおよそ０.９８ミリグラム。１.２～２.５×１０１８個の核分裂が起こった。
②周辺環境に漏れ出た核分裂生成物の放射能　　　＊主として排気筒から周辺環境に漏れ出た核種は希ガス（クリプトンとキセノン）の同位体と揮発性元素であるヨウ素の同位体　　　＊周辺環境に漏れ出た核分裂生成物による被曝線量は、事故現場近傍でも０．１ミリシーベルト程度と推定される。
③中性子線による放射化生成物の放射能　　　＊人体中に生成するＮａ２４を含め、中性子線とガンマ線による被曝線量と比較すると、放射化生成物による被曝線量ははるかに低く問題にならない。

５，問題点

　（１）原子力発電所の事故の国際評価尺度のレベル５（レベル５：所外へのリスクを伴う事故。放射性物質の限定的な外部放出を伴う）。国内の原子力関連施設での最大規模の事故。作業員が致死量の被曝をした。一般住居が隣接する地域で起き、一般住民が多数被曝した。
　（２）安全審査が適正に行われていたか。原子力安全委員会の責任は重い。　　①ＪＣＯが高濃縮ウランを加工できるよう施設変更をする際、その審査に（５％以下を加工する）ウラン加工安全指針を準用している。そのために、＜臨界事故＞に関する考慮はしていない（想定していない）。　　②安全審査において準用した指針に示していることへの対策もない（例：誤操作があっても制限値を超えないための対策）。　　③安全対策が不十分。フェイルセーフ（多重防護）、プールプルーフ（人間がバカなことをやっても安全が保たれる）になっていない。　　④設計変更、計画変更は事故発生の原因・誘因となる。
　（３）技術の空洞化している。　　①必要な知識技術がしっかり伝えられていない。守られていない。たとえば、「臨界」がどういうものかを（恐らく多くの）社員・作業員が知らない。作業員が５％溶液と１９％溶液の違いを弁えていなかった可能性が高い。　　②「裏マニュアル」がつくられていた。　（４）行政の責任は重い。　　①政府・科学技術庁が的確な判断を速やかに下せなかった。避難勧告などについて、県市町村への助言を速やかに出来なかった。　　②加工施設の定期検査がなされていなかった。　　③保安遵守調査がここ何年間なされていない（やめてしまった？）。その後で、「裏マニュアル」がつくられた。そのため、その存在を見つけることが出来なかった。　（５）リストラや経済優先の考え方が事故発生のリスクを高めている。　　①技術革新の遅れによるコスト増をリストラ・作業手順変更（「裏マニュアル」）で切り抜けようとした。　　②リストラで、技術をもっている社員が退社・転職してしまった（らしい）。　（６）「原子力は基本的に危険なもの」という認識を行政・業界（者）が欠いている。　　①核燃料サイクル技術は未成熟技術である。事故が続いている。　　②世界中が危惧するプルサーマル計画を中止して、核燃料サイクル計画を全面的に見直す必要がある。　（７）救急医療体制が適切に働かなかった。正確な情報が伝わらず、医師側の対応に混乱が生じた。　（８）核燃料溶液の臨界事故は、世界的には７０年代に克服されている。それにもかかわらず今回の事故を起こした。日本の技術水準は信頼性を失墜した。

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