知られざる オバマ氏と菅首相のトモダチ作戦〜外伝
【土・日曜日に書く】
◆バナナ共和国
北西部に比べ、経済的に恵まれない人々が多く暮らすワシントン北東部。10日、小学校で卒業式があり、藤崎一郎駐米大使が主賓として出席した。児童が3カ月かけて集めた東日本大震災への義援金600ドル(約4万8千円)の小切手を受け取るためだ。
給食費を支払えない恵まれない家庭の児童が1ドルのブレスレットを作って集めた“大金”だ。多忙の藤崎大使は代理を立てることもできたが、そうはしなかった。大使は、児童からもらった青色のTシャツに着替え、炎天下で一人一人に卒業証書を手渡していた。
翻って、わが国はといえば、「そんな小さな金は目に入らない」とばかり、未曽有の国難に直面してなお、政情不安な“バナナ共和国”を上演中だ。
大根役者の一人は、米軍普天間飛行場移設問題で「最低でも県外」と非現実的な言動を弄した鳩山由紀夫前首相だ。
「言ったの、言わないの」「辞めるの、辞めないの」
議員バッジをはずすはずだった鳩山氏と政権にしがみつく菅直人首相との笑えない三文芝居だ。海外で側聞する永田町の光景は、これがわが祖国の中枢で起きている出来事かと、めまいを覚えるような惨状だ。
◆意外な評価
それもこれも、菅首相の思いのほかしぶとい粘り腰に原因があるのだろうが、実は日本国内で案外知られていないことがある。オバマ政権の菅政権に対する評価が意外なほど高いのである。米国は軍や物資の提供だけでなく、菅氏の退陣を願う国民にとっては、ある意味、はた迷惑なオペレーションを実施していたのだ。
菅首相を支える「トモダチ作戦〜外伝」と名付けておこう。
調整とか根回しという、かつての自民党が得意とした政治のイロハや、与党議員として政策をじっくり学ぶ機会のなかった市民運動家出身の菅首相。党内運営どころか高度に複雑化した国家のリーダーなど務まるはずもなく、外堀を埋められ万事休す、退陣は時間の問題とみられていた。
だが、不信任案を突きつけられると辞任をほのめかす荒業を繰り出し、可決の公算があった同案を土俵際でうっちゃった。異論はあろうが、菅氏が戦略家だから倒れそうで倒れないのではなく、そのぬえ的な強さの背後にオバマ政権のつっかえ棒があったのである。
原発事故処理では当初、全面支援を申し出た米政府への協力をしぶって米国の不興を買った。しかし、日本国民の好むと好まざるとに関わらず、オバマ政権、具体的にはホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)は、総合的判断で菅政権を高く評価していた。
◆けがの功名
5月26日にフランスで行われた日米首脳会談。オバマ大統領はいつ辞任に追い込まれてもおかしくなかった菅首相に9月前半の公式訪米を要請した。公式招請は衆院での不信任案採決に先立ちオバマ大統領がいち早く支持表明したのに等しい。裏事情をよく知る日米関係筋の話では、オバマ大統領が招待したのは「日本の首相」ではなく、菅首相その人だった。
オバマ氏は会談で菅氏を「重大な危機にあって傑出した指導力を発揮し深く尊敬している」と持ち上げた。不信任案を提出した野党ならいざ知らず、与党が不信任案に賛成するということは、菅氏を正式に招待したオバマ大統領の顔に泥を塗ることを意味する。
その辺の機微が鳩山氏には理解不能だとしても、自民党幹事長時代に日米通信交渉に携わって米国の裏表を知る小沢一郎氏はよく分かっていたはずだ。逆に菅氏の辞意表明で振り上げたこぶしを下ろすことができて、内心ホッとしているのではなかろうか。
実は、菅政権に対するオバマ政権の評価を決定付けたのは、昨年9月にニューヨークで行われた日米首脳会談だった。菅首相は事の重大性を知ってか知らずか、東アジア共同体構想を「米国を含む構想としたい」と明言。鳩山氏が「米国に依存しがち」だとして、アジアから米国を排除しようとしたのとは正反対の対応がオバマ政権から評価され、今年前半の訪米招請につながったのである。
さらに、普天間飛行場の辺野古沖移設を明記した昨年5月末の日米合意の履行の確認、自由貿易圏づくりを目指す環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の推進、子の連れ去り問題に関するハーグ条約への加入方針、在日米軍基地費用負担に関する「ホストネーション・サポート」の維持…。気がつけば、日米間の懸案が一挙に前に進んでいた。21日の日米外務・防衛閣僚による安保対話。良くも悪くも、菅銘柄がまたしてもワシントンで高値をつける可能性がある。
ワシントン支局長・佐々木類(ささき るい)
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みんなで日本を守ろう 寄稿・佐々淳行 7月24日(月) 15時30分 (gooニュース) |
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