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[24738] 【特撮初挑戦】こんなガイアメモリの使い方【ネタでしかない】
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:c0c05dff
Date: 2010/12/12 23:42
いろいろと書いてみたい年頃なんです。
オリジナルキャラが満点でごめんなさい。
昔の創造意欲が戻ってきたと信じてやまない。







「ガイアメモリって知っているかい?」

扉越しに聞こえた聞き慣れない単語に私ははしたないと思いながらも、扉に耳を近づけて聞き入った。
扉の向こう 廊下に居るのはよく来てくださる食品の配達業者さんと……

「っ? 聞いた事がありません。なんなのですか?」

この家を一人で切り盛りして、不自由な私の面倒も見てくれるメイドさん 荻野香澄さんの声。
私なんかよりずっと物知りであろう彼女が知らないモノとなると興味が増していく。

「最近この風都に出回っている魔法の道具の名前さ」

「魔法の道具って……都市伝説の類でしょう?」

香澄さんのあきれたような返事。それでも宅配業者さんは話を続けたし、私も耳を話せずにいた。

「USBメモリみたいな形をしているらしいんだが、なんでもそいつを使えば……」

使えば……に続く言葉。それが私のガイアメモリなる眉唾アイテムを、本気で欲しくなってしまう契機となった。


『超人になれるらしい』


普通の人間を超人にできるのならば、私のこの体も何とか出来てしまうのではないかな?……なんて





こんなガイアメモリの使い方






さぁ! 探しましょう!!……となったのは別にかまわない。問題はどう探すか?である。
熱意と裏腹に襲いかかる困難な状況を前にして、彼女 志野崎美奈穂はため息を突いた。
昨今ではインターネットとそれに伴う通信販売の発達で、部屋に居ながら大抵の物を容易く入手することが可能だ。
それゆえに彼女もその方法から試してみることにした。

「えっと……ガイア……メモリっと……」

一人では滅多に起動しないパソコンを立ち上げ、覚束ない指使いでキーボードを叩く。
これでトップページに『楽●』や『ア●ゾン』の通販サイトが来て、そこから商品を選ぶだけだったならば、この困窮的状況も容易く突破出来たのだろう。
だが残念な事にそんな事には成らなかった。美奈穂が見え難い画面と必死に睨めっこして見ていたサイトは冴えない都市伝説のサイト。
黒の画面に蛍光イエローという健常な瞳にも毒な配色を読み解くと、眉唾マジックアイテムの存在がより信憑性を増していく。

『名前はガイアメモリ』

『少し大きなUSBメモリ』

ここまでは壁越しに聞いた情報の通り。次に読みとれたのは新しいファクター。

『沢山の種類がある』

『種類によって値段も異なるが概ね高価』

『性能にも差異があり、共通する点としては所有者を……』

そこから段落が大きく飛んだ。大事なところで酷いな~とスクロールバーを下げていけば、当然続きが見えてくる。
その内容だけが先ほどの噂話と大きくかけ離れていた。

「っ!? これって……」

液体が垂れるような奇抜なフォント 色は赤=血文字。



『怪人にしてしまう』



ここで驀進していた美奈穂の思考にストップがかかった。
超人と怪人では随分とニュアンスが変わってきてしまうじゃないか。
ここ数年で一番楽しい時間だったというのに、どうしてくれよう。
超人というのはいわゆるアレだ。ウ●トラ●ンでありグ●ッドマ●、宇宙●事だったりゴ●ンジャーだ。
怪人となればアレしかあるまい。端的にいえば『蜘蛛男』であろう。乙女的にも若干の抵抗を感じつつ、その想像図を思い浮かべる。
超人たちも怪人も人間離れしているが、どちらも自分の足で立って自由に歩き回っている。
目が虫の複眼であろうと全てを自由に見る事が出来る。ならば……

「どちらでも構わない……」

どちらでも目的には則している。後はもう少し近づいてから考えれば良いだろう。
そう彼女はそう考えてページのコメント欄を探す。ページの評判は良いとは言えず、コメントは殆ど無かった。
再び覚束ない指使いでコメントを入力。画面もキーボードも殆ど見えない中の入力は困難を極める。
普通ならば一分もかからないだろう入力を十分ほどかけて終える。端的な内容は……


『どうすればガイアメモリは手に入りますか?』







「何やらお疲れのようですが……」

「へっ? そっそんな事無いですよ? ちょっとパソコンで調べ物を」

美奈穂は夕飯までの数時間を見えない画面と格闘して過ごしたのだが、最初のページ以上の情報は得る事が出来なかった。
長時間パソコンの画面とにらめっこするのは普通の人間でも遠慮したいところだが、彼女はまた事情が違う。数倍の疲労は確約済みだ。
二人だけの夕食の席でお嬢様の無茶にメイドである香澄は大きくため息。

「そういう時は私をお呼びください」

「でも香澄さん忙しそうだったから……」

「お嬢様の目では余りにも難事です。どうかご自愛を」

「はぁ~い」

美奈穂は目が悪い。全く見えない訳ではないが、全ての像が歪んで見えてしまう。幼い頃から進行性の奇病らしい。
専用の眼鏡と虫眼鏡の組み合わせを微調整し、何とか画面の文字を読み取っているのだから、時間と体力と精神力が掛かってしまうのは仕方が無い。



「ふ~ごちそうさま! 今日も美味しかったです」

「お粗末さまでした」

そんな食後にありがちな主従の会話を終えて、部屋に戻った美奈穂は先ほどの言葉をさっぱり忘れた様にパソコンの前へ。
まだ未閲覧なサイト≒都市伝説系サイトを見る作業と先ほどのコメントに対する返信を確認する作業。
前者にはこれ以上の情報があるとは思えなかったので、とりあえず返信に期待してブックマークしたページをクリック。
もっともまだ数時間が立っただけなので、そんなに早く返信があるとも考えにくいのだが……

「あった」

よっぽどタイミングが良かったのか、よっぽどページの主が暇なのか?
とにかく読んでみれば内容は以下の通り。

『ガイアメモリはネットや電話での販売、及び大規模な売り込みは一切行っていない』

まぁ、都市伝説のサイトに乗るようなアイテムなのだから当然そうだろう。

『手に入れるには闇のセールスマンと呼ばれる売人と接触するしかない』
『彼らは風都の闇を巡回しながら、メモリを欲する者の元へと現れるだろう』

接触するしかない……しかしこんな風都の外れまで売り込みに来てくれるものだろうか?
普通に考えればそんな可能性はゼロに等しい。となれば中心部まで美奈穂自ら赴かなければならないということ。
優秀なメイドさんにお願いする? まさかそれこそありえない。『ガイアメモリが欲しいです!』なんてあの噂を聞いた本人に言える訳が無いじゃないか。
とりあえず正気を疑われニ・三日は部屋に軟禁されてしまうだろう。

「捜査の基本は足と聞きますけど、この足じゃ……」

もう一つの問題点 不自由な足を見下ろして、彼女はさらなるため息を重ねる。
杖に寄りかかるように、足を引きずるようにしか歩けない足。数年前の事故が両親と一緒に奪って言ったモノ。
ソレに加えて辺りを見る目にも事欠く状況。これで数撃てば当たる理論に基づく捜索は余りにも無謀が過ぎる。
必要なのは確かな情報。少なくて不便な弓で正鵠を射る事が出来るほど確かな情報。そんな上限に心当たりがある筈が……

「あっ! 確か前に……」

美奈穂は風都名物のラーメン 風麺を食べに行った時の事を思い出した。



『ナンセンスです。丼の大きさとラーメンに占める割合が不自然にすぎます』

『え!? そこが良いんじゃないですか!  麺が見えない位に大きなナルト! 
 ナルトってなんだか風っぽいよね~っていう安直な考えに基づく風都名物の名前は伊達じゃないです!!』

『……ときどきお嬢様がわからなくなりそうです』

屋台に並んで風麺と呼ばれる巨大なナルトとラーメンで構成される食物を食べる香澄と美奈穂。
そこに現れるのは胡散臭い笑みを自然と浮かべる特徴的な髪形の男。

『風麺の素晴らしさがわかるなんて! もしかして通だね!?』

親しみ易い雰囲気とは正反対に女性に対する軽薄な色は感じられない。

『もちろんです!』

男はふと二人をじっくりと眺めて取り出すのは携帯電話。

『っとよく見たから可愛いじゃないの。写メとってブログにUPしていい?』

女性を写真に納めるという行為にもかかわらず、イヤらしさも微塵と感じさせない。
そこには子供じみて居ながら一歩引いた知性を感じる。男性との付き合いがあまり無かった美奈穂にして、『面白い人』であった。

『僕の名前はウォッチャマン! ちょっと風都に詳しくて、友達いわく『情報屋』ってのもやってるのよ~あっ! これ名刺』



「情報屋……あの時の名刺!!」

美奈穂は慌てて机の引き出しをひっくり返す。忘れっぽいが物持ちは良い性格が幸いした。
見つけた名刺に記された電話番号。震える指でスイッチ。数回のコールの後に続くのはあの底抜けに明るい声。

「情報屋としての貴方にお願いしたい事があります」

他愛ない社交辞令の応酬の後、美奈穂がそう口にした時、空気が変わった。
情報屋なんていう一般的ではない職業についているのは飾りでは無いらしい。
ゴクリと唾を飲み込み、告げる依頼内容は想像以上に簡潔極まる。


『ガイアメモリの売人を探しています』





須藤霧彦は札束で重くなったジャケットと本当に僅か ガイアメモリ数本分軽くなった鞄を持って歩いていた。
今日も今日とて積み重ねられる営業成績がこの町の闇を濃くし、彼を栄光の階段へと押し上げていく。
進む道のりに満足しつつ、ふと頬を撫でた風に顔を顰める。

「イヤな風だ」

風の街と呼ばれる彼の愛すべき風都では沢山の種類の風が吹く。
風向や風量、温度や湿度。さまざまな要因が組み合わさり、それを受ける人間に様々な印象を与える。

「バーバー風にでも行こう」

口から零れたのは風向きが悪い日、何時も足を運んでいる理髪店の名前。
表立った職業では無いガイアメモリの売人には細かい就業規則などはない。
どれだけの時間働こうと、どれだけの時間サボろうと評価にはどんな影響も無い。
何時間働こうと結果を出さなければ無能で在り、何時間サボろうと結果を残せば有能なのだ。
よってこれから彼が髪を切りに行こうと何の問題も起こらない。


「ふむ、あの道は景色も良かったし近道だったな」

愛する風都の新たな魅力と新たな道を発見して、上機嫌になりつつ辿り着いたバーバー風の前で、霧彦は不思議な者を見た。
女性が座っている。年の項は十代後半くらいだろうか? 柔らかくウェーブを描く茶系統の髪を腰近くまで伸ばしている。
肌は余り陽を浴びて居ないのだろう陶磁器の白。身につけているのはちょっと子供っぽいポシェットとレモンイエローのワンピース。

そして残りの二つが彼女の第一印象を強力に決定づけていた。傍らには杖。全体重を預ける事が出来るだろう頑強な作り。
愛らしい顔をしているはずなのだが、その大部分を隠しているのはサングラス。
大きなその下には通常の眼鏡≒極厚の特注品が微かに見えていた。
以上の事から推測して目と足に問題があることが推測できる。そんな人物が道に座り込んでいるとなれば、霧彦のような人間とすれば話かけない訳にはいかない。

「やぁ、どうしたんだい? お嬢さん」

「……」

なるべく人受けするように話しかけたつもりが反応の無い事に困惑。
しかも先ほどから彼女が見ているのは霧彦のスカーフ。そしてそこにある赤いワンポイント。
目が悪いというのならば反応が鈍いことは理解できるとしても、なぜスカーフなどを見ているのだろうか?
そんな疑問に答えるように少女は口を開いた。

「もし人違いだったら私は意味の分からない事をお願いしてしまう事になります」

「ふむ……そのお願いとは?」

分厚い黒の上からでも分かる戸惑いの表情。それが男のサガとして彼をときめかせ、続く言葉が一気に冷めさせた。

「ガイアメモリを売ってください」

「っ!?」

思わず霧彦は一歩下がる。こんなあどけない少女にそんな事を真正面から言われるとは思っていなかったから。
そのアクションが人違いだと感じさせたのか、彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。

「あれ? 人違いでしたか? 白いスカーフに赤のワンポイントが素敵な人だと聞いていたのですけど」

「いや……しかしどこでそんな事を?」

「風向きの悪い日にバーバー風によく来るって……クスッ♪ 風都の情報に詳しい友人から、とだけ」

もう少し人目を気にする必要性を感じる霧彦に少女は続けた。さっきよりも強い口調。
欲しい物を前にした実に子供らしい熱を持った声。

「で! 売ってくださるんですか!? ガイアメモリを!」

「残念だけどね、お嬢さん? それは大人のちょっと危険な嗜好品なんだ。君みたいな子供には過ぎた代物だよ」

その言葉にカチンと来たのか、少女=女性=志野崎美奈穂は財布から取り出すのは健康保険証。

「失礼な方! 私はこれでもお酒が嗜める立派な淑女です!!」

「……確かに。あまりにも若々しかったので」

投げつけるように渡されたそれを確認して、霧彦は仕事モードへと思考を移行させていく。
たとえ遭遇の仕方が今までにないパターンだろうと、見た目が少女だろうと関係ない。
後はただ……売るだけだ。そう、売るだけのはずだったのだが……



「ここではなんですので、場所を移しましょう」

そう言って訪れたのは近くの神社だった。一般的な地方の神社といえるその場所は広い割に人影は無い。
都市伝説級のアイテムをやり取りするにはちょうどいい場所といえるだろう。
ただ階段の多さに美奈穂が困り果て、霧彦がおんぶして上がるという肉体的にも精神的にも厳しい試練が発生したりしたが……

「こちらがガイアメモリです」

息を整えた遣り手のセールスマンが広げたビジネス鞄にはびっしりと並ぶUSB状のアイテム。
デザインは統一だが、色と表面に印刷された図柄が異なる。
見えない目を凝らすように睨みつけていた美奈穂は直ぐに全てを解読する事を諦めた。

「これを使えば超人になれるんですよね? もしくは怪人?」

「超人?……怪人? 陳腐な言葉ですね。どちらかと言えば神に近い」

何時も使う煽り文句。これを聞いただけで概ねの顧客は更なる熱に浮かされるものだ。
だが目の前の少女は違った。まるで磔にされた聖人を見るような瞳でガイアメモリを見つめる。

「神は……私を自分の足で歩かせてくれますか?」

「え?」

「神は私を自分の瞳で見る自由を与えてくださいますか?」

須藤霧彦はディガルコーポレーション成立時、もっと言えばミュージアムの歴史の中でも、もっともガイアメモリを売った男である。
そんな彼だったが、こんな人物は初めて見た。憎しみや怒り、もしくは超人になる事が目的ですらない。
ただ普通の人のように見て、歩きたいという願い。そんな当たり前を再び味わいたいという嗜好品。

「私の願いはそれだけなんです。これは私の願いを叶えてくれますか?」

「もちろん」

それだけの返答に美奈穂の顔に広がるのは満面の笑顔……からの心配な表情。
子供っぽいポシェットから取り出されたのはありふれた茶封筒から覗く一万円札の束。

「あの……お値段の方はいかほどで? 私っあんまりお金が無くて! これくらいで足りますか?」

それは大した使い道が無いのに妹思いの兄が、彼女のために毎月振り込んでいるいわゆるお小遣い……から内緒で備蓄してきた数年分の隠し財産 ヘソクリ。
こんなに面白い客にならば幾らでも売ってあげたい本心を抑え、やり手の霧彦は封筒の中身を確認して安堵。

「ご安心ください。これだけあれば一般的なメモリならば、どれでもご購入いただけます」

再び開かれたスーツケースと並ぶガイアメモリ。
石畳の階段に腰を降ろした美奈穂にも、見え易いようにしてくれているのだろうが、大きな問題がある。

「じっくりお選びください。決して安い買い物ではない」

「よく見えないんで、どれでも良いです」

「ちょっ!」

全く予想していなかった言葉。選ぶ行程やその先の違いには興味が無く、美奈穂が求めているのはたった一つのくだらない共通点。

「どんなメモリでも超人にはしてくれるんですよね?」

「えぇ、まぁ」

どんなメモリでも彼女の目と足を補う事は出来るだろう。だがそれではあまりにも味気が無さ過ぎる。
故にロマンチストで胡散臭いセールスマンはこんな提案。

「しかしガイアメモリとの出会いは運命の出会い。せめて触れて選ぶというのはいかがですか?
 それだけで分かるほど強烈な運命を感じることもあると報告されています」

「はぁ、それなら……」

おずおずと差し出された細い指がなぞるガイアメモリの列。触ってみれば分かる何処にでもあるプラスチック製。

「っ!?」

何かを感じることも無く、ただ過ぎていく指が不意に離れた。沸騰したやかんに触ってしまったかのように。
自分の指先をまず見て、その触っていた先 無数にあるガイアメモリの一つへと目を凝らす美奈穂。
何とか見えたのはそのほの暗い色と頭文字 D。確信を持って告げるのは購入の意思。

「これにします」

「お買い上げ、ありがとうございます」

カバンから取り出されたメモリを美奈穂はおずおずと受け取る。先ほどのような衝撃は無い。
ただプラスチックの質感と僅かな重みがあるだけだった。そして口に出すのは子供じみた衝動。

「これはどうやって使えば良いんですか?」

買ったばかりの玩具で直ぐに遊びたい子供の心。十数年ぶりに感じられる二つの自由への高なり。

「まずは体に生体コネクタを設置します。な~に痛みもかかる時間も一瞬ですよ」

取り出されたのは銃のような形状の機械。一度借り受けたメモリを後ろから装填し、設置場所を問う。
返答は左鎖骨。あどけない女性の僅かな色香に戸惑う事無く引かれる引き金。
肌には二重の□を中心にして根をはるような入れ墨=コネクタ。

「あとはメモリを起動し、生体コネクタへと接続部分を差し込むだけです」

美奈穂は示されたメモリのスイッチを押す。響くのは電子音。それこそ安っぽい外見通りの電子音。
そのはずなのにどこか感じる凄みは何なのだろうか? 

『Deinonychus』

美奈穂はまずその言葉の意味がわからずに首を傾げるが、論より証拠である。
差し込まれたメモリは沈み込むようにコネクタを通して体の中へと解けていく。
そして理解できた。Deinonychusという単語が表す全ての事柄が一瞬で。

全身を駆け回る情報。心が、頭が、体が地球の記憶を直接受け取る感覚。
堪らない。今まで感じたどんな喜びにも勝るだろう。駆け巡る力は細くて不便な体を書き換える。
封じられた地球の記憶を体現するのにふさわしい形へと。

「素晴らしい……」

霧彦の呟き。既にそこには目と足が不自由なか弱い女性は居なかった。居るのはガイアメモリが生み出した超人、いや神の姿 ドーパント。
多くのドーパントたちと比較すればかなりスレンダーな部類に入るだろう。
だがか細いのではなく全身で無駄なく動き回る為、引きしまった結果。胸部の膨らみが女性体であることを示す体を覆うのは暗褐色の鱗。
頭は体の割には大きい。大き過ぎるフルフェイスのヘルメットを被っているようにも見えるが、それは大きな凶器 鋭い牙と強力な顎を供えた肉食恐竜の頭部。
頭の後ろと肘から先の一部分には鮮やかな羽毛。四肢の指ともに鋭い爪が並ぶが足の第一指が大きく鎌のように発達している。

Deinonychus ディノニクスとは中生代白亜紀前期に生息していた肉食恐竜。
特徴的なのは15センチにもなる鉤爪と、莫大な運動力を支えるために体を温めていた羽毛。
中型だが知能に優れ、集団で狩りをし大きな獲物をも仕留めていた優秀で凶暴なハンター。

だけどそんな言葉でどれだけ語るよりも、美奈穂は世界中のどんな恐竜学者よりもこの種の事を理解できた。
そしてそんな事は一切関係なく、彼女が感じたのはたった一つのこと。

「綺麗……」

十数年ぶりに見た歪んでない景色と彼女を祝福するような綺麗な黄昏の色。

「■■■■!」

恐竜の口から迸った雄たけびは余りにも小さな喜びを祝福するモノ。
超上の力を得て美奈穂が最初に行った事は走って家まで帰ることだった。





とりあえず沢山原作キャラやら場所やらを出したくて頑張った。
だがやっぱり特撮難しい。キャラがよくわからない感じ満点。
可愛いよ、ミック(なに?



[24738] 続けてみてしまったのだから仕方がない
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:c0c05dff
Date: 2010/12/12 23:41
感想が三件もついて、テンションが上がり書いてしまいました。
各所を弄ったので、一話目をもう一度見ていただけると幸いです。










「何か良い事でもあったのですか?」

昨日と同じ夕食の席での会話だった。
簡素ながら作り手の技量が窺える食事を乗せたテーブルを挟んで、メイド服の女性と分厚い眼鏡の少女?が向かい合う

「わかりますか? 凄く良い事が」

メイドからの質問に対する少女の答えは笑顔。端的に表現するならば花が咲いたような笑顔。

「……それはようございました」

深く追求するようなことはしない。
家族も同然の住み込み仕事だが主従の関係である事には違いなく、私 メイド 萩野香澄はそれを弁えた人間だからだ。
しかし口に出さずとも今日のお嬢様 志野崎美奈穂の行動には不審な点を覚えざるえない。
まずは急に一人で外出すると言い出したこと。昔の友達に呼ばれたとか言っていたが、そのような人物はロストして久しいはず。
次に結構な額があったはずの彼女のヘソクリ=隠し財産が私の把握していた場所から消えた事。
そして最後にこれは私が聞き逃しただけなのかもしれないが、お嬢様のお帰りの時に『車の音』が聴こえなかったこと。
足が悪い人間が風都の外れにあるこの家から中心街へ行こうと考えれば、当然選択される方法は車である。
実際に朝、出かけになる時はタクシーを使っている。なのに帰りはそれが無い。どうやって……


「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」

そんな思考を一切表に出す事は無く、何時も通りの言葉に何時も通りの言葉を返す。
萩野香澄は本当によく出来たメイドということができるだろう。
既に彼女の脳内にそんな疑問は記憶の一つとしてしか存在せず、直ぐに明日の朝ごはんの献立へとシフトしていた。





引き摺るように自室へ入って柄にも無く扉にロックをかける。
文字どおりの意味で投げ出すように整えられたベッドの白いシーツに身を落とす。

「くふっ♪」

そこが限界だった。女性 志野崎美奈穂は思わず笑みが零れ出したのがわかった。
ベッドの上に置かれていたポシェットを漁り、取り出すのはUSBに似た物体。
暗褐色と生き物のろっ骨のようなデザインが成され、表面にはデフォルメされた爬虫類の足と長い鎌状の爪が描く頭文字 D。
そこから続いて示される単語はDeinonychus。

『ガイアメモリ』

それがその不思議な形状のアイテムの名前であり、美奈穂が上機嫌な理由でもある。
風の街である風都で影ながら流通しているこの道具の効果は単純明快。
『使用者を超人にする』という余りにも胡散臭いものなのだが、その効果はすでに美奈穂自身が試している。
生まれながら進行性の奇病に瞳を侵され、十数年前の事故で足の自由を失った体すら一瞬で、『カエテ』しまったのだ。


「綺麗だったな~♪」

既に記憶の奥底に消えてしまっていた歪んでいない風景。
それが再び目の前に現れたとなればその喜びは計り知れない。
さらに味わってしまった『自由に走り回る』という喜び。これもまた何も考えずに走り出してしまい、大事な杖を神社においてきてしまったり。
思い出して戻ってみればニコニコと微笑みながら待っていてくれたセールスマン。
トカゲ女?な格好で恥ずかしそうに杖を受け取ると一緒に渡された名刺。
『アフターサービス』までするのが彼の流儀らしい。有難く受け取り、今度こそ走り出すのは帰路。

「自由に走れるって最高!」

自分の意志と自分の力でどこにでも行ける。その過程で出会う全てを見る事が出来る。
取り戻すどころか人間という枠を容易く飛び越えた運動能力は人の目に極力止まることなく、風都を自由自在に駆けさせてくれた。
車に乗ってきた道を今度は自分の足で走って帰るという彼女の中ではまさに奇跡と呼ばれるだろう行為。

「まだまだドキドキしてる」

今は何時も通りの歪みに歪んだ視界であり、何時も通りの不自由な足だったが、心臓と心にはしっかりとあの景色とあの力の脈動が刻まれている。
ソレを回想するたびに再び湧き上がってくる感覚。今すぐにでも再びアレを味わいたいという欲望。
昔ならばそれは正しく無限の彼方にある遠くて儚い願望。だが今はスイッチ一つで手に入る。
細い指が押すのはガイアメモリの起動スイッチ。

「Deinonychus!」

響き渡るのは高温気味の獣の叫び ガイアヴィスパー。これで準備は完了。
あとはUSBメモリ似の接続端子を鎖骨 白い肌の上に刻まれた生体コネクタに差し込むだけ。
そこでふと手が止まる。

「いや……今日は止めておこう」

志野崎美奈穂は幸せに馴れていない。自分が楽しむという事に重度の禁忌を感じる。
自分には何でも気がきく優しいメイドさんが居てくれて、それなりの資産があるのだ。
『だから』ワガママが過ぎては罰が当たるというモノ。そんな風に勝手に自分を定義している。
この場合の『だから』なんて完全に彼女が自身で決めたモノであり、幾らお金があろうと目も足もまともに動かないのは多すぎる不幸なのだが。

「Deinonychus!」

もう一度だけ名残惜しそうにスイッチを押しこむとガイアメモリはベッドサイドへ。
全て枕元で操作できるように作られた照明などのスイッチを一気にOFF。
暗闇が訪れれば何時もは運動で疲れた体である。すぐさま眠りが訪れるのがわかった。






しかし……だ。いかに幸せ馴れしていなくても、自分の楽しみに禁忌を感じようとも、所詮は彼女も人間である。
その日の夜こそちゃんと寝たし、次の日の昼間は若菜姫のラジオもあるから我慢もした。
だけど夜になればもう駄目だった。

「夕暮れの景色は見たけど、夜景は見てないですよね~」

と誰にも聞こえない言い訳を呟く。時間は深夜12時を回っており、明日の朝も早いメイド 香澄は既に眠りについているだろう。

「Deinonychus!」

昨晩は起動しただけだったガイアメモリを今度は鎖骨にある生体コネクタへ。
溶け込むように体内へと消え、美奈穂は変わる。引き締まった長身、胸部などが膨らむ女性のボディーライン。それを覆うのは暗い色の鱗。
大き過ぎるフルフェイスヘルメットを思わせる恐竜の頭部。頭部後方と肘から先を覆うのは極彩の羽毛。
両腕・両足には鋭い爪があり、足の一対が異様に発達して鎌状。
大きさこそ無いがその発達した運動能力と知能、群れによる集団戦で狩りをした肉食恐竜の記憶を体現したディノニクスドーパントである。

「う~ん……やっぱり怪人ですね」

部屋には在っても滅多に覗かない姿見の前でディノニクスドーパント=美奈穂は呟いた。
何時もは歪な姿だけを見せるこの平面物体は現在彼女に実にすばらしい『トカゲ女』っぷりを魅せつけまくりである。

「まっ! いっか♪」

数秒間、大きな頭部の割に小さめな爬虫類特有の黄色いクリクリお目目を眺めていたが、直ぐにそう結論付けた。
蜘蛛男だろうとトカゲ女だろうが全てを見て自由に走り回れること以上に重要な事は無い。
彼女自身がそう考えたし、ガイアメモリの強大な力は受け入れた人間にその異形を『普通』だと思わせる力すら持つ。
故に大きな悩みごとには成りはしない。開け放たれた窓からは心地よい夜風。

「いってきま~す」

誰にも聞こえないようにトカゲ女は呟いて、部屋を後にした。









夜景というのは昼間とは全く違うモノを感じさせるものだ。
照明が映し出す曖昧な町の輪郭。昼間よりもなお優しい夜風。

「夜も素敵だわ」

彼女 美奈穂は普通の人間が感じる数倍の喜びを今眺める景色に感じている。
風都タワーのほど近く、高いビルの看板の上。圧倒的な身体能力と鋭い爪が彼女をこの場所まで容易く届けた。
一通り風と景色を堪能したディノニクスドーパントはその視線を下へと向ける。
風都の中心地たるこの場所ならば、もはや日を跨いだ深夜といえど人通りと明かりがある。
そこに歩く人影は一人である事も多かったが、複数人によるグループも少なくは無い。
年からすればニ十代前半、美奈穂と変わらない年の若者たち。酒を帯びているのか顔を赤くし、高いテンション。
くだらない話にも大爆笑し、肩を組んで歩く彼らを見て彼女は思う。

「たぶん私もあんな風になりたかったんだ」

そして同時にあの場所には入れないと気がつく。自由に歩いて見ることができるようになった代償は実に分かり易い怪人の姿だ。
どうしたった友人など出来るはずが無い。だがやっぱりそれは仕方が無い事だと納得させる。
こんなズルまでして手に入れた普通なのだ。それが他の人が持ちえる本物幸せと同じに成れるはずが無い。
どこにでも幸せに馴れない人間なのである。

「女子学生が感心しないな~」

ふと続けていた人間観察の最中で見つけた二人組。どこかの高校の制服を身に纏うまさに今風と呼べるだろう姿。
自分たちが遅くなってしまった自覚はあるらしく、明るい表情の中にも焦りの色。
あのくらいの頃の私は何をしていただろう?なんて考えたところで、学校の思い出も制服を着た覚えもないのだが……

「キャッ!」

「ちょっと! 何するのよ!?」

ふと夜風に乗った彼女たちの声……悲鳴?
無い思い出を漁る作業を中断して再び視線を下へ。そこには片方の少女が倒れており、走り去るスクーターが見えた。

「!?」

いわゆる引ったくりだろうか? 普通ならば自分がされる側、もしくはされても何もできないだろう。
だが今は違う。神とまで言わせた力を持っているのだ。使ってみるのも悪くない。思考は数瞬、行動は一瞬→美奈穂は跳び下りる。
途中のビルの壁面や看板に爪を立てて僅かに減速。瞬く間に近づく地上、微動だにせず着地する。その衝撃すら心地よい。

「トッ!」

「あっ……」

だけど着地した場所に問題点。スクーターと人間の速度の違いにもめげず、犯人を追っていた女子高生の眼前に着地してしまう。
目が合った。

「トカゲ女!!」

「ヒドイッ!」

目は合ったけど直ぐに背けた。感じたままを口に出せるその純粋な心が今は憎たらしい。
イヤな思いでを振り切る為に走りだす。向かう先は女子高生と同じ方向。追うのはひったくりのスクーター。
進む向きが一緒でもその速度にはあまりにも大きな差。一人で走る時よりも明らかに今の方が早い。

『オエ』

重心はなるべく低く、成るべく前へ。「一度も」味わったことなど無い興奮を「思い出す」という奇妙な感覚。
内封された『カレラ』の記憶がそれを伝える息遣いと声。『肉食動物が獲物を追う喜び』。
女子高生は瞬く間に置き去りにして、瞬く間に視界に入るスクーターの後姿。

『トベ』

如何すればいいのかなんて欠片も分からなかったが、その声に従う。
ディノニクスの最大の武器は獲物に食い込み、引き裂く足の鎌状の爪。
射程を見計らい跳躍。爪を最大限に生かす蹴り 飛び回し蹴りというあまり聞かない状態。
記憶された情報をより精度を増した状態で体現するドーパントの爪である。
紙か何かのようにタイヤをホイールごとに両断。当然のように転倒するバイク。

『カレ』

着地、すぐさま飛びかかる。獲物は無様に転げている。立ち上がるどころか状況すら理解していない。
あの時の得物=草食恐竜たち 精錬された野生では在りえない鈍重で愚鈍。これでは狩りが簡単に過ぎる。
さぁ突きたてよう、爪を。喰いつこう、牙で。噛み千切ろう、喉元を……

「!?」

いままで、私は何を考えていた? 目的は何だ? そう、女子高生のカバンを取り返すことだったはず。
なのに何故……私は 志野崎美奈穂は何を……

「ヒィッ! 助けてくれ~」

足 爪は引ったくり犯の僅か横に突き刺さっている。バイクを紙のように引き裂く爪だよ?
ビルを駆け上り、バイクに追いつく脚力でその爪を振るったらどうなる?
死ぬ……人なんて簡単に死ぬ。

「私はっ! 何を!!」

口からは驚きが漏れた。もちろん心の底からそう思った。だけどほんの僅かな心の片隅で。
『別に構わないだろう。獲物の生死なんて』って呟く私も確かに居て……
襲いかかる眩暈。嫌悪感から? もちろんそれもある。同時に『狩り』に対する喜びも原因の一つであると冷静に分析する自分もいる。
フラフラに成りながら、拾い上げる女子学生のカバン。

「あぁ……受け取って貰えないかな?」

こんな化け物の方が引ったくり犯なんぞよりも数百倍恐ろしいに決まっているじゃないか。
だけど掛かるのは声。

「あのっ……」

「ちょっと! 危ないわよ」

片方に止められながらも近づいてくる女子高生が一人。おっかなびっくり差し出したカバンを受け取り、小さな微笑と共に呟く。

「ありがとう、トカゲ女さん」

なんだか猛烈な背徳感。途中からカバンの事なんて忘れて、狩りに夢中だったなんて言えない。
言葉を交えること無く駆け出す。もう帰ろう。直ぐに帰ってベッドに入ってシーツを被って、震えて眠らなければ。
私は楽しんではイケないんだ。ましてや人様に迷惑をかけるなんてありえない。




でも夢に見たのは狩りの興奮。






『園崎若菜のヒーリングプリンセスー♪』

朝から、正確にいえば夜から引きずったままの暗い気持ちで志野崎美奈穂は、日課にしているラジオに耳を傾けていた。
いい加減に何時もの調子を取り戻さなければ、香澄さんにも迷惑をかけてしまう。

『今日も元気130%でお送りします♪』

目が見えないならばテレビよりもラジオを選ぶのは珍しくもない。
そして元気を出すという意味ではこの番組は最適だろう。園崎若菜 若菜姫の声には何処かガイアメモリに通じる地球のような温かみがある。

『まずはこのコーナーからお送りします。風都ミステリーツアー。 最初のお便りは48分の1AKBさんからです』

ミステリーツアーか……今度はここに出てきた場所を巡ってみるのも良いかもしれない。

『若菜姫! わたしは昨晩の夜遅くに風都タワーの近くで出会ってしまいました! トカゲ女です』

「ブッ!」

どっかで聞いたことがある通称だな~なんてトボケている余裕はない。
不自由な足で器用にお気に入りの安楽椅子から転げ落ちながら、美奈穂はラジオに聞き入る。

『友人と二人で歩いていたら引ったくりに遭ってしまったのですが、そのトカゲ女さんが犯人を追い掛けて、カバンを取り返してくれたんです。
 トカゲ女さん、ありがと~!とのお便りです』

「お礼……なんて久しくされたことなかったな」

帰ってからなんだか怖くて机の引き出しに封印していたガイアメモリを取り出す。
ギュッと抱きしめるように握りしめ、心の底から美奈穂は思うのだ。

『やっぱり手に入れて良かった』って

ラジオからは若菜姫の明るい声が流れ続けていた。









原作キャラ出ない!? 女子高生二人組が誰かなんて、口が裂けても言えません。



[24738] こんなに感想を貰ったら頑張るしかない
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:c0c05dff
Date: 2010/12/20 23:59
話が進んで無い? そんなのはいつものことです。





ディガルコーポレーションの社長である園崎冴子と一介のセールスマンに過ぎない須藤霧彦。
この二人が何故にして親密にお話をする関係になったかと言えば、それは霧彦が誰よりもガイアメモリを売ったからである。

「つまりね? いかにガイアメモリの流通量を増やそうとも、そこで遭遇する被験者のタイプに幅が無ければ新しい成果は得られない」

黒い高級スーツに身を包み、首元には白に血のような赤いワンポイントが映えるスカーフ。
好感を抱かせるためにだけ作られた穏やかな微笑と僅かに自分を高そうに見せる気取った声色。
そんな要素を備えた須藤霧彦は身振り手振りを交えて持論を展開。

「価格を下げるなどして、流通層に幅を持たせる必要があるというわけ?」

高級と呼ぶにふさわしいレストランの一角、テーブルを挟んで彼と向かい合うのは女性。
間違い無く美しい女性なのだが、そこには棘がある。弱き者が纏う自衛の棘ではない。
圧倒的に他者が下であると確信しているが故に生じる棘は格差に等しい。
園崎冴子。風都一の名家 園崎家の長女にして、ディガルコーポレーションの若き女社長。
つまりはガイアメモリ流通の管理者であり、霧彦の上司であり婚約者である。

「ふむ……それでも良いのかもしれないが、目的意識として得られる被験者に差異はないかもね?
 社会への復讐とか犯罪への利用。逆にこちらの統制が効かない混乱へと陥るリスクもある」

「はっきり言って。私は無能な部下の次に要点を得ない報告が嫌いなの」

冴子の鋭い言葉に『怖い怖い』と肩を竦める霧彦。少なくともこの二人はそんなやり取りがジョークとして通じる関係なのだろう。

「必要なのは純粋な目的さ。力としてガイアメモリを欲さないような」

「? そんな人間ならメモリを使うという選択肢を選ばな…「それが居たんだよ」…興味深いわね」

テーブルの上には食べ終えたランチと紅茶が置かれているが、これはビジネスの話であり、科学の話であり、悪の組織の話をしている状況。
誇るような声色と冷淡な追及の姿勢が交錯した時、無粋にも鳴り響く携帯電話。

「おっと失礼……」

発信源は霧彦のスーツの内ポケット。

「出て構わないわ」

だが間髪いれずに降りる通話の許可。普通の女性ならば文句の一つが出ても可笑しくはない状況だろう。
だが冴子にとって圧倒的に仕事≫プライベートであり、ガイアメモリ流通の最前線に立つ霧彦への電話は疎かにするべきものではない。

「もしもし?」

知らない電話番号だった。ガイアメモリの売人 闇のセールスマンは完全に裏の職業であり、多くの人物が知る番号とは必然的に言えない。
彼はアフターサービスまでする流儀なので高額なメモリ≒データとして価値のある客にはアドレスを教えているのだが、さてはて?

「あの……急にお電話してごめんなさい」

目の前に居る婚約者のソレと比べて高山病が起こりそうなほど控えめな声。
女としてよりも少女という言葉が相応しいだろう純粋な色。忘れられるはずが無い。
出会ったのは数日前だし、これから何人の客を相手しようともこの女性の事を忘れることはないだろうと、須藤霧彦は確信していた。

「あっ! 私はですね! 前にお世話になった客でして……」

思わず零れる微笑みとは逆に返事が無かったことから、電話の相手は霧彦が困惑していると感じたのだろう。
慌てた紹介の声に重ねるビジネスボイス。

「覚えていますよ。ディノニクスメモリをお買い上げの志野崎美奈穂さん?」

電話の相手が女性であることにも向かい合う冴子は眉一つ動かさない。

「良かった! 覚えていて貰って嬉しいです。それで今回お電話したのは……相談したい事があって」

相談したい事。もちろんガイアメモリの事に決まっている。
なんというタイミングの良さ。手にして数日ほどが経ったわけだが、ぜひとも使い心地を直接伺いたい。
そう考えた霧彦はすぐさま切り出す。

「良かったらぜひとも直接お話ししたいですね。三時にお茶でもいかがです?」

婚約者の目の前で他の女性をお茶≒デートに誘う。普通の女性ならば確実に激怒するだろう。
だがやはりそういうアクションを冴子は起こさない。霧彦という人物の行動を完璧に把握しているからでもあり、そこまで心を裂く必要が無いと考えているから。

「え? 迷惑ではありませんか? お仕事もあるんじゃ」

「な~に、アフターサービスも大事な仕事の内です。場所は……」

場所を告げて携帯電話を閉じて懐へしまう。霧彦は視線を向かい合う婚約者へと戻しておどけた様に呟き問う。

「すまないね……嫉妬した?」

その言葉には興味が無いとばかりに立ち上がり、背を向けて歩み去りながら冴子はこう返した。

「お茶でもディナーでもご勝手に。ただ……有意義な報告だけを待っているわ」

急に席を立ったのは絶対に霧彦の言動に腹が立ったからではない。
ただ午後からの仕事のスケジュールを考えて、これ以上ここに居られないと判断したまでの事。
仕事のスケジュールと婚約者のあれこれを天秤にかけた場合、冴子は圧倒的なまでに前者を優先しているというだけ。

「全く怖い奥さんだ」

肩を竦めて残された旦那さんも立ち上がる。怖くて綺麗な花嫁(予定)に捨てられないよう一生懸命仕事をしなければならないから。










風を感じるという風都 もしくは風都住民ならでは楽しみの為、オープンテラスという存在がこの町ではかなり多い。
木製のテーブルとイスの間で様々な色の風車がカラカラと回るその場所も無数にある喫茶店の一つである。

「やぁ♪ お待たせしました」

「ッ! 私もいま来たところですから!」

明るくて気さくで気取った声の主は男。約束の十分前に来た須藤霧彦。
優しくて慌てたような声の主は女。約束の三十分前に来ていた志野崎美奈穂。

「それじゃあコーヒーを、ホットで」

美奈穂と向かい合う形で腰を降ろした霧彦は寄ってきたウェイターに一声。
頼んだ物が運ばれて来れば、よほどの事が無い限り二人の会話を邪魔する者は居ないだろう。

「どうですか? ガイアメモリの使い心地は?」

切り出すのは最も重要な案件。

「最高です♪」

切り返すのは簡潔かつ最善の返答。そこから始まるのは美奈穂の独演会。
どれだけ十数年ぶりの世界が美しく、どれだけ自分の足で地を踏んで進むという感覚が偉大であるのか。
身振り手振りを交えて風都という街の魅力を余すところなく伝え……思い出したように固まった。

「ってこんな事の為にお会いしたんじゃないのに! ごめんなさい……」

パッと朱に染まる顔色と伏せられる見えない視線。そんな動作にすら愛情を覚えるとでも言いたげに、霧彦が浮かべるのは微笑。
微笑ましいと表現できるような対象 あどけない子供や子犬を見るような目。

「いえ、私もこの風都を愛している人間の一人ですからね。同好の士が居るというのは喜ばしい事です。
 それが貴女のような可愛らしい女性ならばなおのこと……ね?」

セールスマンとしても好青年としてもごく自然に微笑みを浮かべる霧彦だったが、すぐさま表情を変える。

「これの事をもっと詳しく知りたいんです」

美奈穂のカバンの中から取り出されたのは生き物のろっ骨とも、三葉虫とも取れるデザインが施されたUSBメモリ状の物体 ガイアメモリ。
暗い灰色のボディーカラー、目を引く文字は爬虫類の足とそこから延びる鎌状の爪が描くD。

「貴女に自由を与える魔法の道具……だけでは問題でも?」

霧彦が表情を変えた理由は単純明快。美奈穂もまた表情を改めていたから。

「夜の散策の途中で引ったくりの現場と遭遇しました」

霧彦の曖昧な返答には答えず、美奈穂は続けた。
通常の状態では決して外せないサングラスの向こう側から、歪む視界を挟んだとて感じる真っ直ぐな意志の発露。

「普通なら私が引ったくりをされちゃう側だけど……あの姿なら取り返して上げられると思って……」

噛みしめるようにゆっくりと美奈穂は思い出すように、言葉を並べていく。

「だから犯人を追いかけたんです。すぐに追いついたんですけど……私は……その人を……」

言葉に出すという行為は再認識の作用がある。つまり口に出すという事は思い出すという事だ。
その時の光景が、感情が鮮やかによみがえってくる。

『殺そうとしたんです』

一人で駆け抜けるのとは異なる疾走感。冷静ながらも過熱する知性。
全く違和感なく振り下ろした足の鋭い爪。男のすぐ横のコンクリートに穿つ爪痕。
彼女にとって幸せになる事、願望を優先することは多大なまでの禁忌だったはずなのに……
自分が何をしようとしたのか理解できない恐怖。そして同時に思い出す、あの興奮を。


「ふむ……まず先に断わっておきましょう。我らの組織は公的な組織でもなく、法的拘束力も及ばない。
そしてこれからお話しする事は本来一般のメモリユーザーに話すことではない、ということを」

「っ!?」

その話に聴きいっていた霧彦は慎重に言葉を選ぶように、まずそう前置きして話し始める。

「ガイアメモリの主作用はすでにご存じの通り、人間を超人 ドーパントにすることです。
この原理を簡単に説明するならば、地球に刻まれた記憶を情報化 貴女のメモリならば小型の肉食恐竜 ディノニクスの記憶を取り込むことでドーパント化する訳ですが……」

いったん区切ると霧彦は若干冷たくなってしまったコーヒーに口を付け、一瞬で多重の思考を展開。
本来ならば話さない内容を伝えるとなると若干の脚色は必要であろう。
そして何故そんな事を語ろうと決めたかと言えば……美奈穂は余りにも魅力的な……

「実は副作用が存在するんです」

「……」

「記憶を取り込む際に『因子』と呼ばれる物が取り込まれ、体内に残留する」

因子とはいまこの場所で霧彦が作った言葉に過ぎない。本来彼ら ミュージアムの中でそれは『毒素』と呼ばれているのだから。

「因子は使用者の精神に影響を与えます。全体に言える事は欲望の肥大化、生物系メモリでいえば生命活動の躊躇な現れなどが報告されていますね」

「っ! じゃあアレは……これのせいなんですね?」

嫌悪感、しかしどこか安堵したように美奈穂はテーブルの上に置かれたプラスチックの塊を突く。
逃げる獲物を狩り、その命を汝が糧とするのは捕食者たる本質。激動の大恐竜時代を生き抜いていた肉食恐竜の本懐。
だがそれがわかったとて、美奈穂は完全に安心する事は出来ない。

「そうですね、ガイアメモリの謎は深い。売っている私にも分からないほどに。
 だが対策は簡単だ。もう使わなければいいだけなのですから」

「それは!!」

それだけはできない。絶対に拒否する。美奈穂は思わずテーブルの上のメモリを手に取り、握りしめていた。
人を殺しそうになった原因だろうがなんだろうが、コレには彼女の楽しみと生きる意味がかかっている。

「本来ならばこんな事を一般のユーザーにはお話しません。ですが貴女にはお話ししました」

「何故……ですか?」

「貴女なら因子すら己の物としてしまえる気がして……ね?」

これは嘘でも何でもない。多くのメモリを売り、多くの人間にアフターサービスをしてきた霧彦は既に確信していた。
彼女 志野崎美奈穂こそが閉塞感が漂うミュージアムのガイアメモリの流通・実験に新たな風を吹かせる存在だと。
なぜならばいままでのどんな顧客も『自分がこんなにひどい事をしてしまった!』と不安を訴えてなど来なかったのだから。

「まさか……タバコやお酒と同じで一度知ると手放せない。ただそれだけです」

愛おしそうに頬をメモリに擦り寄らせる幼さを残す女性。
宗教画のように神聖であり、同時に春画のように卑猥ささえ感じさせる奇妙な構図。

「いえいえ、貴女こそ『楽園を追われないイブ』であり『快楽を知る聖母』です」

ガイアメモリの圧倒的な因子=毒素の影響を違和感として感じている時点で、それは既にほかのユーザーとは一線を隔す存在と言って過言ではない。
その引ったくり犯も大変な幸運に遭遇したと言っていいだろう。普通ならば問答無用で殺され、ソレに心を痛める事すらない。

「やだっ! 恥ずかしい……イケない私を神様は許してくださるかしら」

だが美奈穂は元来からの自分を戒め過ぎる性格に加えて、ガイアメモリの毒素を受けても尚この謙虚さ。
いや、そこには変化こそあるが完全にメモリの力に飲まれたものの反応とは異なっていた。

「もちろん、ガイア 大地母神はそれを望んでいますよ」

「どこまで貴方たちの期待にお応えできるかわかりませんけど、がんばってみますね。
 あぁ……頑張るっていうのも久し振りの素敵な感覚だわ♪」

新しい楽しみ≒余りにも小さな『欲望の肥大化』 がんばるという余りにも一般的な行為すら楽しみに過ぎる。押し込まれた起動スイッチ。

「Deinonychus!」

響くガイアヴィスパー。背徳な音を立ててされる口付け。

「Chuッ♪」

捲られたワイシャツの下から覗くのは奇妙な入れ墨 生体コネクタ。
そこに突き立てられたガイアメモリが美奈穂の体へと解けていき、その姿をか弱い女性から驚異の超人にする劇的変化。
目と足が不自由だというハンディキャップの中、手に入れた強大な力にすら酔わない虚無感にも似た謙虚さ。
実に魅力的なサンプリであり、実に魅力的な女性。霧彦は何時も通りに、何時も以上の感情をこめてこう呟いた。

「こんごもじっくりお楽しみください♪」








本編二話でメモリにキス→鎖骨のコネクタ魅せて→『T-REX!』なマリナさんがエロすぎて困る。
だから美奈穂にも定期的にやらせたいと思います(趣味全開
そして書いてて思ったのは冴子さんマジ鬼畜。尻彦さん頑張れ。
探偵? そんな人たちの出番は遥か彼方です(なに?





[24738] 年末年始の忙しさは半端ない
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:4c37c687
Date: 2011/01/11 23:48
頑張った……年末年始テラ魔物……






私は夢を見た。『私たち』の夢だ。
荒い息遣いと流れる景色、地を踏みしめる早いリズム。
景色の中で流れていくのは針葉樹の鬱蒼とした緑。

私は夢を見ている。『彼ら』の夢だ
ハッと開けた視界の向こう。目に飛び込んでくるのは後ろ姿。
人間のそれでは無い。尻尾を振りながら必死に走る草食恐竜。

私は夢を見ている。『私たち』なのか『彼ら』なのか分からない夢だ。
いかに頑張ろうと生まれ持った身体能力の差は如何ともし難い。
瞬く間に詰まる距離、既に射程距離。『私たち』よりも大きな獲物一斉に飛びかかった。

私は夢を見ている『私たち』≒『彼ら』の夢だ
『彼ら』が突き立てるのは爪。鎌状に肥大化している足の爪。強固な肌を容易く切り裂く。
草食恐竜から吹き出る鮮血と笛の音のような苦悶の声。取りついて、失血をしいり、弱らせる。

私は夢を見ている。『私たち』=『彼ら』の夢だ。
最後には『私たち』の誰かが喉元に噛み付いて、動脈を締め上げて息の根を止めた。
崩れる巨体を前にして、『彼ら』は雄叫びを上げる。生きる糧を得た歓喜の叫び。



「……良い夢だった」

どんな夢を見たのかを詳しく覚えていなかったけど、私 志野崎美奈穂は何の疑いもなくそう呟いていた。
見上げる白い天井は下手くそな幻想を描くが如く歪むのが日常。手だけで探るベッドサイド。
感じたプラスチックの感触を握りしめて、安堵のため息。そこにあるだけで安心でき、そこにもしも無かったら悲しくてどうにか成ってしまうだろう。
既に手に馴染んだ肋骨のようなデザインを確かめるように撫で、押し込むのは既に見えなくても分かる起動スイッチ。

「Deinonychus!」

聞こえた電子音。易い玩具のようでもあり、どこか力強さを感じさせる甲高い声。
声の主 少し大きなUSB 人間を超人に変える魔法の道具。名を『ガイアメモリ』といった。









「……」

なんでしょう……この違和感は。一日の始まりである朝食の席からビンビンと感じるこの感覚は。
萩野香澄は内心で首を傾げながら、周りにちらちらと視線を送る。飛び込んでくる情報は実に何時も通り。
私が掃除したダイニングの中央、私が選んだ椅子と机のセット。その上には私が作った朝食が置かれている。
お嬢様と二人だけの生活とはいえ掃除を怠ったつもりはないし、見た目と味と値段と栄養バランスを両立させた料理も何時も通り。

「香澄さん、そちらのベーコンエッグをとってくださいますか?」

「はい、かしこまりました」

表には全く動揺を出さないように、テーブル上のベーコンエッグをお嬢様に……私が一人でここに居る時には無かった違和感。
つまりお嬢様が違和感の原因だとでもいうのか? とりあえず思い出してみるのはその入室時……

「お嬢様、足の具合が良かったりなさいますか?」

「? えぇ、最近はちょっと良いですね」

足音からして違った。普段ならば引き摺るような足取りが、杖こそ使っているが幾分かしっかりとしたソレ。
違和感の正体はお嬢様が軽快で確かな足取りだったこと。何だ喜ばしいじゃないか、この問題はこれで解決だ。
そう思い、正面に座るお嬢様を見て新たに感じてしまった違和感……ベーコンエッグ?
卵もベーコンもあまり好きではなかったはずだ。動物性たんぱく質全般が好みでは無いと公言していた気もする。
バランスという面、昨晩のおかずの残り、そして私の好みで偶然にも朝食に姿を現したソレをわざわざ他人にとらせてまで食べるお嬢様。
消えたようで再び湧き上がる疑念が加速する。

「香澄さん、おかわりってありますか?」

「おかわり……ご飯の、ですか?」

おかわりだと!? ありえない!! 少し気分が優れなければ小さな茶碗に軽く盛った白米さえ残す人だというのに!
もう朝から意味が分からない事が多すぎる! お嬢様を問いただすか? いや!! そんな事は尽き従う者≒メイドとしてあるまじきことで……

「あの……駄目ですか?」

そこで私の意識を現実に引き戻すのは違和感兼パニックの原因であるお嬢様その人。
視線と共に意識すらそちらへ向けてみれば、そこにはヴァルハラが広がっていた。
突きだされる可愛らしい絵柄が書かれた小さなお茶碗。
私の方を見ないように伏せられた視線、口に加えられたお箸。それらが羞恥によるものか僅かに震えている。
愛らしいお顔は馴れない事をしている自覚があるのかやはり赤く染まり、なによりも頬に付いた伝説のアイテム≒『お弁当』=ご飯粒、だと!
おぉ、神よ。身の丈に合わぬ思考をしたメイドにこんなご褒美を……いままでお仕えしてきて、最上の日です今日は。
感涙を言葉どころか表情の片隅にも出すことなく、私はこう返した。


「なにも、もんだい、ございません」






「ふぅ……食べ過ぎてしまったかしら?」

何時もよりも僅かに動く足を引きずって部屋に戻り、お気に入りの安楽椅子に腰を降ろしながら、私 志野崎美奈穂は呟いた。
あんな夢を見るのがイケないのだ。獲物を倒しただけで食事をしないまま目を覚ましてしまえば、それは空腹にもなるというもの。
いままでは全くと言っていいほどに運動せず、加えて元来の小食からあまり必死に食事をとった覚えが無い。
客観的に判断すればかなり美味しい部類に入るはずである香澄さんの手料理も『食べなきゃダメ』という感覚すらあった。
だが最近 ガイアメモリを使うようになってからはそんな事は無くなった。強化されているとはいえ、自分の体一つで風都中を駆け回るのである。

「お肉も食べたくなったんですよね~」

肉……それは足と両親を奪ったあの事故以来、口にする事を避け続けて来たモノ。
口にすると思い出してしまっていたのだ。うっすらと曇る視界には少し前まで両親の一部であったはずの肉塊とそれを彩る鮮血の赤。
しかしもはや過去の幻に過ぎない。彼ら=ディノニクスの記憶が獲物を貪るビジョンを感じてしまうと、肉が猛烈に美味なモノと認識してしまった。
いままで避けて来たのだから、家で肉らしい肉を食べるのは難しいだろう。自由な足があるのだから、焼肉屋さんというのに行ってみるのも良いかもしれない。

「これもガイアメモリの『因子』の影響かしら?」

見ず知らずの引ったくり犯を殺しそうになる事と比べれば、なんと可愛らしい影響だろう。
そう言えば今朝の香澄さんは何処か様子が変だったな…「園崎若菜の! ヒーリングプリンセス~」…あぁ、もうそんな時間。
日課にしているラジオ番組。小さく安楽椅子を揺らしながらその内容に聞き入る……最初のコーナーはミステリーツアーですか。

「最初のお便りは『オープンカフェが自慢の喫茶店さん』からです」

オープンカフェって素敵ですよね。風都の風を感じながらお茶をするのって最高です。
そう言えばこの前、セールスマンさんとお会いしたのもそんな場所だった。

「私は正直全く信じていなかったのですが、先日ご来店いただいてしまいました。『トカゲ女』です!」

「ブハッ!」

どこかで聞いたことがあるフレーズ。余り品が良いとは言えない音を立てて私は椅子から転がり落ちていた。

「私が見た時はすでに跳び去る直前だったのですが、ぜひとも次はゆっくりお茶をして欲しいものです……とのことでした。
 いや~二件目ですね、トカゲ女さん。若菜も会ってみたいです♪」

風都住民の観察力と行動力恐るべし……若菜姫にお会いするのは素敵な事この上ないのだが、それはドーパント体では話にならない。
警察どころか自衛隊だったり、正義の味方が飛んできても可笑しくは無いくらいだ。








「トカゲ女……実に興味深い」

レトロな室内だった。映画もしくはドラマのセットを思わせる生活感に欠け、まるで一つの作品のように完成された室内。
ラジオ一つとっても家電量販店ではなく、アンティークショップに置いてありそうなデザイン。
その前に置かれたソファーに座った青年が捲るのは一冊の本。雑誌類では無く立派なハードカバー。
しかしながら捲られる全てのページが何も刻まれていない白紙と呼ばれる状態。
だがその青年は確実にそこに刻まれた何かを読み耽っている。

「ドーパントか? 相棒」

そんな青年に声をかけるのはこれまた青年。木製の立派な机の上に置かれたタイプライターをパチパチ叩きながら問う。
声色といちいち気取ったポーズ。壁に掛けられたトレンチコートと帽子。総じてハードボイルドを気取るハーフボイルド。

「まず間違いないよ。恐らく恐竜の記憶を内封したメモリだね」

「といってもすぐに追う訳にも行かねえんだよなぁ、他の仕事もあるし」

他の仕事=ペット探しとか浮気調査とかなのだが、ハードボイルドなだけでは彼らとてご飯が食べられない。

「問題無いよ。いずれガイアメモリ使用者は事件を起こすだろうからね」

どんな人間もその魔力に逆らう事は出来ない。徐々に自体は大きくなり、その余波は容易く彼らの元まで風を吹かせるのだ。
だけど本を捲る青年のようにタイプライターを打つ『半熟探偵』は割り切れない。故に世界の理不尽と己の弱さを端的な言葉で吐き出した。

「風向きが変われば……か」










最高に過ぎる。
ゴッ!と風が通り過ぎる音が強化された鼓膜を揺さぶった。
時は黄昏。オレンジ色に染まった風都の空を跳ねるのは漆黒の鱗に覆われた体。
胸の膨らみが女性であることを僅かに示す異形。体の割には大きな頭部はフルフェイスヘルメット……を思わせる肉食系爬虫類の頭。
頭部後方と肘先には黒い鱗と相反する飾り羽。四肢ともに鋭い爪、特に足の一対が異様に発達している。
ディノニクスドーパントと呼ばれる姿に変じた志野崎美奈穂は駆ける。

「あぁ……素敵です」

着地したビルの屋上で腕を広げ、風都を掻き抱くように美奈穂は呟いた。
他者からすれば何か目的がある訳ではないだろう散歩という行為。彼女の目的とはその散歩自身。
自分の足で駆けまわり、自分の目で見るという彼女だけの凄まじい贅沢。
そんな良い気分の彼女の顔面に張り付く一枚の紙。

「わっ!……って博物館……か」

風の都の気まぐれな風に紛れて、彼女の顔に飛びついたのは風都の博物館=風都博物館のパンフレット。
視覚に障害が在ればやっぱり楽しむことが難しい施設だろう。もちろん美奈穂もこの十数年、訪れた覚えが無い場所。

「行ってみようかな」

……そんな風に『肥大化された欲望』を持ってして行きついてしまうのは自明の理。



「へ~こんな風だったのね」

行ってみたところで営業中ならば当然入る事は出来ないのだが、偶然にして幸運な事に『展示品入れ替え中』の看板を発見。
一般人の姿は無く、時間帯も微妙な時間故に従業員の姿も無し。
圧倒的な感覚器官と運動能力をもってすれば、警備が完璧になされているとは言い難い私設博物館など、大穴のあいたザルだった。
もし見つかったとしてもその能力をもってすれば逃げ切ることは容易いだろうという短絡的な思考。
『力に溺れる』と表現するには余りにも小さなワガママ。故に美奈穂は貴重なサンプル足りうるのだろう。


「ティラノサウルス……か」

ゆっくりとした足取りの散策の最中、彼女が完全に足を止めて見上げたのは誰もが知っているだろう有名な肉食恐竜の全身骨格。
トカゲ女が巨大な爬虫類の骨を見上げるというもはやシュールを通り越して笑えてくる構図。
そこでかかる声。

「素晴らしいだろう?」

「!?」

悲鳴ではなかった。余りにも余裕をもった静かな声。

「地球に刻まれた記憶というのは」

美奈穂は慌てて振り向く。静かな足取りで近づいてくるのは初老の男性。
銀色に染まり出した髪は綺麗に整えられ、仕立ての良い服を身に纏っている。

「ッ!?……貴方は」

美奈穂はその人物を見て『怖い』と思った。
強化された肉体と野生化しているはずの精神が、スクラムを組んで恐怖を訴えてくる。
既に二つの事を考え始めた本能。つまりニ択は『逃げる』か『戦うか』。
だが戦うという選択肢は彼が懐から取り出した物体によって掻き消えた。

「君の話は聞いているよ? ディノニクスメモリの志野崎美奈穂くん」

名前まで!?と焦って取ろうとした戦闘態勢。機先を制するように男が取り出したのは金色 見知った形=ガイアメモリ。
押し込まれた起動ボタン。

『TERROR!』

響くガイアヴィスパー。背中を駆け巡るのは鳥肌。直ぐに分かった。
勝てない! 男とは怪物としての次元が違いすぎる、と。
美奈穂のそんな様子など気にも留めず、男は名乗った。

「はじめまして。私は当館の館長 園崎琉兵衛だ」










メイドさん大暴走、そしてラスボス登場の巻(ぇ



[24738] 書いてしまったのだから投稿してみる
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:53944f9b
Date: 2011/06/10 23:50
久しぶり過ぎて良く分かりません(ぁ








「そう構えなくても良い。私には君をどうにかするつもりは無いのだからね?」

『構えなくても良い? それは出来ない相談だ』
志野崎美奈穂はビリビリと背筋を走る緊張を受けながら、内心でそう吐き捨てた。
怖いとか怖くないとか、もはやそういう問題ですらない。生きるか死ぬかの問題である。
所有するガイアメモリ 小型肉食恐竜 ディノニクスの記憶を内封したメモリが無ければ、既に恐怖で意識を手放していただろう。

「君の話は聞いている」

「……?」

いったいどこでこんな魔人に私のような臆病者の事なんて……そう首を傾げてから私は思い出す。
たった一つの共通点。人間を超常の存在へと変える神の恵み もしくは悪魔の誘惑。
地球上に存在する概念のひとつを内封した禁断の聖遺物。

「……ガイアメモリ繋がりですか?」

「ほぉ! 本能が肥大化し易い生物系のメモリのユーザーであり、なおかつ依存度はAランクと報告されていたのだがね?
 実に良く出来たレディだ。冴子がわざわざ私に報告書を書いてくる理由も頷ける」

他のガイアメモリの種類なんて知らなかったけど、私のメモリが『生物系』であるならば『非生物系』も存在するのだろうと予測。
このゴッドファーザーさんが持っていたメモリの起動音は『TERROR!』……テラー=恐怖だろうか? いわゆる『概念系』?

「勝手に忍び込んでいた事は謝ります。今すぐにでもここから居なくなりますから……」

『どうかそのメモリを使用するのだけは止めてください』
敵意を持っていなくても、それを使われてしまえば私は正気を保っていられる自信がない。
人間の恐怖心が勝り気を失うか、ディノニクスの本能が勝り何も考えずに暴れ回るか。
どちらにせよ私には厳し過ぎる結果が待っている……いざとなれば多少の物的被害は許してもらえると信じて全力で逃げよう。
というか今すぐ逃げるべきだ。うん、そうしよう。

「まぁ、待ちたまえ。君に危害を咥えるつもりはないよ」

こちらの言葉を遮り、琉兵衛さんは言う。穏やかな言葉遣いに優しい物腰。
だけど安心できる要素は一つも無い。

「ここで在ったが何かの縁、尊き地球の導きであろう。君に是非とも見せたい物がある」

「?……っ!!」

疑問は驚きへと変わる。魔人は背を向けて歩き出したのだ。
どうする? 今ならやれる。距離もさほどは離されていない。完全に私=ディノニクスドーパントの射程距離内。
やれるだろ、私? 変身する暇など与えはし無い。人間のままならば人など脆い。
強固な鱗におおわれた草食恐竜の息の根を止めることが出来る爪と牙だ……って! 私は何を考えている!?

「不意討ちの相談かね? なら止めておいた方がいい」

しかも読まれている……いや私のメモリを『生物系』って評する辺り、この人はガイアメモリ流通の元締めか、もしくはそれに近い人。
つまり私にメモリを売ってくれた霧彦さんの上司だ。生物系メモリの使用者がこういう状況で考える事まで、計算の内なのだろう。
そして他人なんて全く信じている風がないこの男は、既に私がそういう手段に出る事を予測済みで、何とでも迎撃出来る状態。
ならば攻撃する活路はもちろん、後退することにも何らかのアクションを取られてしまうのだろう。


「……」

沈黙とその背中に付き従う事で私は先程の忠告に答えることにした。
活路が何処にも無かった事も原因だけど、何よりも好奇心が勝った結果と言っていい。
ガイアメモリの元締めにして起動音 ガイアヴィスパーだけで恐怖を感じさせるメモリを操る人。
そんな人が目も足も不自由で、唯のトカゲメモリを使ってようやく見て歩く私に『見せたい物』があるという。

「さぁ、こっちだ」

直ぐに本来の順路から外れる。関係者以外立ち入り禁止と書かれた鉄の扉。
暗い照明の下で展示品が所狭しと並べられている。入れ替えの時期らしくかなり乱雑な様相。

「これって……」

案内された先に在ったのは化石だ。
さっき見ていたティラノサウルスのように立体的に組み上げられている状態ではない。
まだ掘り出されたばかり、下の地層ごと運び込まれていたソレは大きかった。

「もしかして……」

しかし骨一つ一つの大きさは、先ほどのティラノサウルスとは比べ物に成らない程に小さい。
だが全体として大きな形を保っている。つまりはその骨の元になった生物の匹数。
石版、もしくはキャンパス。掘り出されたばかりのような生々しさ。描くのは無数の化石たち。
吸い寄せられるように美奈穂はソレとの距離を詰める。

「やっぱり」

直ぐに体に対して多くを占める尾から、哺乳類の化石ではなく爬虫類系である事がわかる。
そして前肢と後肢の大きなサイズの違いから、現在地球上に存在する分類にも当て嵌まらない。
つまりこれは『恐竜の化石』であり、中央に横たわる中型の草食恐竜とその周囲に散らばる複数の肉食恐竜のソレによって構成されていた。
ティラノサウルスなどとは異なる小型の肉食恐竜。しかもその後肢、第二指が鎌状に発達していた。


「ディノニクスの化石……ですよね?」


ディノニクス。私の持つガイアメモリの元となった恐竜の名前。
大きさこそ小さいが卓越した運動能力と鎌状の爪、群れによる集団戦法を得意とした恐るべきハンター。
知識として、もっと言えば精神から肉体の奥底まで理解している物を、目の前にするのはとても灌漑深いものだ。
たとえ理解していたとしても、その実物を見る機会は決してなかった。既に彼らは滅びた種族なのだから。
しかしいま眼前に広がる化石の群れは知識と合わさり、恐るべき存在感を示している。

「そうとも! 今回の入れ替えで納入した新しい展示品だ。
 なんとも偶然なことに報告された魅力的なサンプルの記憶と一致するのでね?
 どうしても君に見せたかった」

『サンプル』なんて空恐ろしい単語は何とか聞き逃して、私は問う。見ているだけでは足りない!

「触ってみて良いですか?」

「もちろんだ」

怖々と差し出す手。ふと思いついた。反射的にドーパント化を解除。
感覚が鈍い鱗の手ではなく、本来の手で触れたいと思った。そしてそれが危険な事だと直ぐ気がつく。
人間の私は余りにも弱いのだ。だがもう遅い。腹を据えよう! 差し出された手が化石に触れるのは冷たい石の感触。
だけどそれだけではなかった。

『■■■■!』

「あぁ……」

迸る咆哮はきっと私だけが聴こえたのだろう。耽溺のため息。
世界中の誰よりも彼らの事を理解しているつもりだったが、触れることで更にそれが深くなった。

『■■■?』

「えぇ……そうですね」

外部に感じる存在するはずがない同胞の記憶に、彼が上げるのは疑問の囁き。思わず頷く私。
記憶は所詮記憶に過ぎないし、化石に宿る記憶はガイアメモリとは比較に成らないほど純度が低い。

『■■■』

「そう……空はいまも青いですわ」

それでも私には理解できたし、聴こえた。もしかするとさっき琉兵衛さんが言っていた『依存度』という空恐ろしい単語はこう言う状態を指すのかもしれない。




「やはり興味深いね、君は」

愛しい人に触れるように化石を撫でる志野崎美奈穂を観察しながら、ガイアメモリの開発流通を総括する組織 ミュージアムのトップにして、風都一の名家の当主である園崎琉兵衛は呟いた。

「関係者用のパスを進呈しよう。また何時でも来ると良い」

ガイアメモリと内封された物体、もしくは生物の対面というのは結構な頻度で行われた実験だ。
現存する生物はもちろんのこと、眼前のメモリのような絶滅種 たとえば恐竜などの化石とそのメモリの相互関係。
今までのどんなメモリ及びその使用者が化石などと接触しても、一切の変化などは現れなかった。

だが眼前の少女の様子はどうだ? 何かを語らうような様子。しかもメモリを使用していない状態。
記憶を体現するドーパント体ではなくても、これほどの反応。確かにそこには何かが在る。
メモリの高純度な情報と物体に宿る不確かな情報。それがお互いに情報を交換するような様子。
貴重なサンプルだ。ガイアメモリユーザーはある程度の消耗率をも計算に入れなければならないのだが、今回は全くの別の事例。


「冴子にも万全の支援をするように伝えなければ……な」


志野崎美奈穂の名前がミュージアムの中でも重要なポジションを占めた瞬間だった。












「香澄さん、お買い物に行きましょう」

「はぁ?」

午前中に行うべき仕事を完了した私 萩野香澄にご主人様たる志野崎美奈穂様はそう仰られた。
最近は如何した理由かお一人で外出する事が多いとは思っていたが……

「お忙しいですか?」

「いえ、そういう訳ではないのですが……今日はお一人ではなくても良いのですか?」

「っ!」

お嬢様の顔色が変わると同時に私が感じるのは後悔。
たとえ今までの行動に不可解な点が見受けられるとはいえ、それをワザワザ指摘するなど従う者として、あっては成らない事だ。
自らお話に成らないという事は、それはお話に成り難い内容だということ。つまりは私が知るべき事などでは無いという事だろう。

「失礼いたしました、身にそぐわぬ発言をお許しください」

姿勢を正して深々と一礼。先ほどとは異なるニュアンスで焦るお嬢様。
顔を赤らめてワタワタする様が何時もとは違った魅力が大爆発である。

「あっ! いえ!! 別にそういうつもりじゃ!!
 ただ……偶には二人で外出するのも良いかなって……最近は外に出る機会も多いのですけど、昔の服しかなくて。
 もしよかったら一緒に選んで欲しいと思ったんですけど……」

お嬢様の服を選ぶ……もしかしてそれって……猛烈に幸せなのではなかろうか?
あれ……お嬢様を着せ替え? 全く今までには無い体験。お風呂に入れるのとは違った魅力発見。
お嬢様とお出かけ? これも病院の定期検診以外には無かった事だ。
私は何のためらいも無く頷くしかない。

「ご一緒いたします」

表情こそ変わらなかったとは思うが、心の中では笑顔満開だったことは疑いのない事実だ。




ウィンドスケール。風都限定で言えばどんなメーカーよりも大きな知名度を誇る洋服メーカー。
風都中に支店を持ち、風都っ子の感性を刺激する洋服や帽子などなどを生み出し続ける地域密着系ブランドである。
そして当然のことながら風都が大好きな美奈穂もこのブランドが大好きだった。
しかもここは限定の品を扱う数少ない店。テンションも上がってしまうというもの。

「これなんてどうですか?」

「よくお似合いです」

しかし彼女の新しい服探しは難航している。


「あっ! こっちも良いかも♪」

「良くお似合いです」

なぜなら……


「やっぱりこれも捨てがたいです」

「良くお似合いです」

さっきから……


「これは私には大人っぽいかもですね……」

「よくお似合いです」

お連れのアドバイスが……


「あの……香澄さん?」

「良くお似合いです……何か?」

「他にもう少しアドバイスを頂けると嬉しいんですけど」

お連れ 良く出来過ぎたメイドたる香澄が同じ言葉 肯定と褒める言葉を繰り返している事だ。
美奈穂の控えめな催促にどんなお願いにも即座に答えてくれる優秀な従者は、本当に困った顔をして答える。

「しかしどれもお嬢様に大変お似合いでしたので。というかこの世界にお嬢様に似合わない服が在るのかが問題です」

「それはちょっと言い過ぎです……」

全く自信満々に尊大な事を宣言する香澄も今はメイド服ではなく、私服に身を包んでいる。
と言ってもメイド服というカテゴリーから白いエプロンとカチューシャを取りはずしただけ 藍色のワンピースという服装。
それを見て美奈穂が思いついたのは新しい楽しみ方。

「それじゃあ次は香澄さんの服を選びましょう!」

「え? いえ……それは恐れ多いので……」

何だか急に顔を引き攣らせる香澄を逃すまいと、最近ドーパント化の影響か? 強まった握力でガッシリと手を握りながら、美奈穂は自分の服よりも大きくて大人びた服のコーナーを物色し始めた。





「あ~! 楽しいですね!?」

「ぇぇ……」

なんだか猛烈に元気がない香澄は休憩用のいすに座り込み、自分にはないプロポーションに遭う服を選べた美奈穂はホクホク。
そしていま手に取っているのは帽子だった。ダイヤのような宝石から綺麗な羽が風車のように生えるコサージュが印象的。

「これも買っちゃいましょう」

「よく……お似合いです」

どうせ正規のお小遣いは大した額を消費しない数年だったのだ。少しくらい贅沢をしても罰は当たるまい、と美奈穂は一人で納得。
気に行ってしまった帽子も買う事に決め、他の品を物色しようとした時、偶然その青年が視界に入った。

「っ!?」

もちろん美奈穂の目は相変わらず多くを捉える事が出来ない。
だがその青年のそれは直ぐに異常だと分かった。今風の何処にでも居る金髪の青年。
アレは違う。植えた肉食動物、もしくは噴火寸前の火山のよう。
直ぐに服を探し来たんじゃない事がわかった。反射的に叫ぶ、それが相手を先走らせてしまうとも知らずに……

「そこの人!!」

「!?」

まるで獲物を物色するような視線が驚きに染まり、暴発する。片腕の袖を捲りあげ、そこに見えたのはコネクタ。
そして反対の手で取り出したのは少し大きなUSB状の物体。

「っ!? ガイアメモリ!!」

美奈穂にとっても馴染み深いアイテム。人間を地球の記憶を体現する超人へと変える魔法の一品。
デザインこそ一緒だったがその色は赤色。刻まれた文字、嵌めこまれた記憶は……答えるのは重々しいガイアヴィスパー。

「Magma!」

燃え上がる男の体は鉱物のように弾ける。その下から現れるのはまさしく異形 ドーパント。

「全て燃えろ!!」

叫びと共に放たれた炎の砲弾が数発。すぐさまこの系列に見せにしては広い店内に着弾。
客たちの悲鳴と燃え上がる服の炎、そしてそこから湧き上がる煙が辺りを満たす。


「イタっ……」

そんな中で足も目も不自由な若い女性が無傷だったのは本当に奇跡だと言える。
揺さぶられる意識を取り戻し、美奈穂がまず探したのはこんな事をした犯人でも、自分が逃げるべき非常口でもない。
自分のたった一人の家族の姿 メイドの香澄の姿。そして見てしまった。
倒れる棚の下から覗く藍色のロングスカート。生きている事を示すうめき声。
そしてそこに炎を撒き散らしながら近づくドーパントを。


『ウバワセルナ』

声が聴こえる。何時ものポシェットの中、手を突っ込めばすぐに探り当てられた。

『ウバウノダ』

賛同しよう。心の奥底から。
押し込むのは起動スイッチ。響くのは聞き慣れた雄たけび。

「Deinonychus!」

突き立てるのは鎖骨の聖痕 コネクタ。溶け込むのは知識。変わるのは体。

「■■■■!!」

口から洩れるのは闘争の声。引き締まり黒鱗に覆われた体。大きな頭部には鋭い牙が並ぶ裂けた口。
頭部後方から伸びるのは鮮やかな羽毛。足には鎌状の鋭い爪が一対。ディノニクスドーパント。
跳びかかる。驚いた様子の相手を押し込んで店内から連れ出す。背後にはガラス ここはビルの六階。


『気にしない。どうせどちらも人ではないのだ。まずは他の人たち 香澄さんの安全を!!』


ガシャンと窓ガラスが割れる音。



こうして志野崎美奈穂は闘争の舞台へと落ちて行く。










原作に突入かしら?(疑問形



[24738] 書けるときに書くしかないのです
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:29823c33
Date: 2011/06/18 23:05
本編に入ったような、入らないような?
原作キャラがちょこちょこ現れてる。










「きゃあああ!」

「バッバケモノだ!!」

落下した先はカフェテラスだった。落ちたのは溶岩と恐竜っぽい人型。
室内で炎をばら撒かれるよりは良いだろうけど、下に居た人たち本当にごめんなさい。
私 志野崎美奈穂 ディノニクスドーパントが感じた衝撃は大したことはない。何せ六階『程度』の高さだし、しっかりと反射的にマグマドーパントさんを下にして落下したから。

「邪魔をするなぁ!!」

落下+私の重量で生成された衝撃を受けながらも、流石はドーパント。
すぐさま立ち上がったマグマは炎弾を吐き出す。まき上がる炎で恐いもの見たさで遠巻きにしていた風都っ子もすぐさま退散。

「キャー!」

もうカンカンどころか炎上している彼から距離をとり私は考える。
『どう対処すればいいのだろうか?』と。当然だけど私はケンカなんかしたことが無い。
ケンカってどうすれば終わるのだろうか? どちらかが『まいった!』とかいうのだろうか?
それならば大変に分かり易い。だけど私が参ったと言って居なくなったら、きっとこのウィンドスケール(もしくは服屋さん全般)に恨みがあるだろう彼は、きっと目的を果たしに行く。

「それはダメ」

闘うなんて向いていない事は分かっている。風都一後ろ向きな人間と言っても差し支えないだろう。
しかしそれでもそれだけは宜しくない。中にはまだ避難していない人 何よりもたった一人の家族である萩野香澄がいるのだ。
つまり……炎の切れ目に飛び出して拳を突き出す。生まれて初めて人?を殴った。

「ガっ!?」

上がるのは苦悶の声。つまり……相手に『まいった!』と言ってもらうしかないのである。



一発決められれば難しい事はない。連撃。美奈穂の拳が、足が面白いようにマグマドーパントに吸い込まれていく。
人間がいくら殴っても衝撃にすらならないだろう岩石の肌だが、強化された筋力が振り下ろす鱗の拳はそれなりに効果があるらしい。
もちろん相手からの反撃もあるのだが、それはまるで彼女には届いていなかった。

これは二つの原因に由来する。まずはメモリの系統。ディノニクスは恐竜 いわゆる生物系。
その特徴としては身体能力の強化が上げられる。圧倒的な運動能力を有したディノニクスの記憶ならばなおのこと。
対するマグマは物質、もしくは現象系。身体能力よりも特殊能力が特徴的な分類だ。
一部の強力なメモリを除外すれば、身体能力と特殊能力のバランスは必ずどちらかに偏る。
これにより近距離の格闘戦に限定するならば、この怪人大決戦はディノニクスドーパントに軍配が上がる。

そしてもう一つの要因はメモリと使用者の相性。
ミュージアムのトップたちが持つゴールドシリーズなどは例外として、多くのメモリは購入者の自由意思によって選ばれる。
そして一般ユーザーに販売されるメモリはどんな人物が使用しても、一定以上の性能を保証しているような物を指す。
これはマグマ ディノニクス、どちらにも言えることだ。違いは人。
マグマメモリの使用者は何処にでも居る普通のユーザー。復讐の為に力を欲した今時の若者。
対するディノニクスメモリが出会ったのは運命の人だった。高い親和性、行き過ぎた謙虚さ。
抜群の相性。メモリに飲み込まれるのではなく、逆に包み込んでしまうような懐の広さ。
能力に使われていては駄目なのだ。能力は自由に扱えなければ意味がない。

メモリの性能とユーザーの性能。この二つの違いによって、現在の状況は成立しているのだ



『楽しいな』

拳を振るう感覚。硬い物を殴る手応え。そのたびに相手が上げる苦悶の声が心地良い。

「あはっ♪」

思わず口から零れてしまう笑み。拳だけを使ってラッシュ、相手の注意を上半身に引きつけておく。
そちらに防御の意識が完全に移ったが故に生じる下半身に対する大きなスキ。
下半身を捻ってからのキック、回し蹴り。ディノニクス最大の特徴である鉤爪を使うのにもっとも適した攻撃方法。

「ギャァ!!」

大きくて硬くて鋭い爪の攻撃は衝撃でなくて斬激。溶岩じみた外皮を容易く切り裂き、マグマドーパントが上げるのは悲鳴。
悲鳴と共に放たれた炎弾は完全に自分に対する被害を無視した反射的な反撃。まるで児戯に等しい。
軽いステップ、踊るように避ける。

「さぁ♪ チャンと戦うのか、さっさと逃げるのかお選びなさい。じゃないと……」

ガイアメモリが持つ生物的衝動と『闘いたくは無いから逃げてください』という美奈穂の意思が交差し、こんな言葉を吐き出していた。
本人には全く悪気は無かったのだろうが、完全に悪役たる言葉の波。
鋭い牙が怪しい光を放ち、反射的に舌舐めずり。


「恐いトカゲに食べられてしまいますよ♪」


そんな言葉を受けた相手の反応は実に単純だった。恐怖に対して力を持っただけの一般人がもっとも取り易い方法。

「うわぁあああああ!!」

つまり暴走。

「っと!」

先ほどの数倍の強さで溢れだす炎弾。下手くそな射撃力をフォローしてあまり在る数の暴力。
思わず広く距離をとりながら、内心で疑問符を浮かべて美奈穂は舌打ち。
『優しく説得したつもりだったのに……何か不味い事を言ったのかしら?』と


「でも、これは不味いですね」

先ほどまでの小さな炎弾ならば大した被害は無い。せいせいオープンテラスに大量の焦げ跡を残す程度だったろう。
だが今の火力はそんな程度では全然効かない。相変わらず狙いこそテキトウなのでディノニクスの運動能力を持つ私には当たらない。
先ほどまでとは違って余裕を持って回避することこそ出来ないが、相手が力尽きるなり正義の味方が現れるまで避けることは可能。
だが背後に控えたビルは回避する事は出来ない。一階部分が炎によって焼かれればビルが倒壊する危険もあるし、そこまでいかなくても中に居る人が脱出できない。

「そうだ! 香澄さん……」

ふと思い出す。最も重要な事柄。忘れてはいけないはずなのに、目の前の獲物が魅力的過ぎて忘れてしまっていた。
先ほどまで居たウィンドスケールのショップにて、炎と煙に苛まれつつ棚に挟まれて動けない状態のはず。
一階部分がこのお祭り騒ぎでは、正規の消防が駆け付けるまでどれだけ掛かるか分からない。
つまりは私が助けに行かなければならないのだ。

「このぉ!!」

魅力的な獲物は一瞬で邪魔な障害へとランクダウン。
直ぐに倒す。力尽きるまでなんて待って居られない。だが如何すれば良い?
相変わらず体は岩石の頑丈さ。鉤爪で無ければ致命傷は与えられない。しかし近づき難い炎の弾幕。
身体能力こそ圧倒的に勝っているが、逆に特殊能力を使えないことが現在は大きなディスアドバンテージ。

「くぅっ!」

何か手が在る筈だ。すぐさまコイツの息の根を止める方法が……
また奪われるのか? 私は何時だって奪われるに任せて来た。来てしまった。
生まれた時から蝕み続ける病は私から視界を奪っていった。
突然訪れた事故は私から自由に歩く足と大好きな両親を奪った。
そして突然現れた怪人は私から最後の家族を持って逝こうとしている。

「私は……」

志野崎美奈穂は奪われる事を許容してきた訳ではない。
志野崎美奈穂は失ったモノを易く見ている訳ではない。
志野崎美奈穂は失った後に自分の手元により大事にしてきただけだ。
そうすることで悲しみを少しでも癒そうと思った。何時だって零れ落ちる涙を少しでも少なくしてきた。

だけどそれはもう止める。ガイアメモリの毒素で肥大化した欲望が叫んでいる。
子供っぽいとコンプレックスを持っていた彼女は実に子供らしい願望を唄う。


「私はもう……泣きたくない!!」


答える。彼女に宿された地球の記憶は答える。
少し離れた風都博物館の裏方でぼんやりと輝くディノニクスの化石たち。
純度の高い記憶と接触したことによって生じたネットワーク。たった一匹で現世に生きる同胞の声にこたえる。
記憶たちは走り出す。僅かな化石と道すがらに取り込んだ雑品で体を構成。
彼らの足を持ってすれば目と鼻の先にいる同胞にして生贄にして姫たる少女の元へ。


「「「「■■■!!」」」」

「なっ!?」

物が擦れ合うような雑音のはずなのに、生き物の咆哮のように聞こえる奇妙な音。

「来て……くれたんだ」

美奈穂の呟き。突然現れた『ソレら』は一斉にマグマドーパントに跳びかかる。
大きさは本物のディノニクスと比べれば小柄、人間の腰くらいの大きさ。
体を作るのは雑多なガラクタたち。その合間に僅かに覗く本物の化石。
だが全てが明確な殺気を持ってマグマドーパントに跳びかかる。大きさに似合わない鋭い爪と牙が確実にダメージを与えていく。
炎による迎撃はもちろんあるのだが、中々当たらない。数が増えたことによる狙いにくさと更には美奈穂と変わらぬ高い身体能力。
そして何より時々犠牲が出ようとも、彼らは決して獲物に向かっていく事を辞めなかった。


「ありがとう」

一方から襲いかかり、そちらが迎撃されれば反対側の個体が責める。獲物を休ませない波状攻撃。

これがディノニクスドーパントの固有能力。
ディノニクスを模して高い運動能力と知恵を兼ね備えた半自立稼働する小型の戦闘用端末を複数体まで精製する。
ディノニクスの特徴は鋭い恐ろしい鉤爪と高い運動能力だけではない。群れをなして効率的に獲物を狩る高い知性。
身体能力の向上が著しい生物系メモリとて、能力の一つや二つは存在する。効率的な狩りを求めていた美奈穂には実に都合が良い能力だった。

「はっ離れろ!!」

「無駄です。『恐ろしい鉤爪たち』は決して獲物を逃しません」

数とはイコール戦力で在り暴力である。
一撃で自分以上の獲物を殺せるような武器 たとえば銃や毒を持たない肉食動物の狩りは、種族に関わらず同じようなプロセスを踏む。
大きな獲物に跳びかかり弱らせてから、引き摺り倒す。最後に動脈を占め落とすなり、首を圧し折るなりするのである。
炎を吹きだす力も失い、端末 ディノニクス・レプリカに集られたマグマドーパントに、美奈穂は跳びかかる。
流石に首に噛み付く勇気はまだないらしく、高度を取った跳躍。空中でクルクルと縦回転。加速と遠心力をプラス。
まるで某仮面の正義の味方じみた必殺の蹴り。正確にいえば足の鉤爪を最大限に生かすためのプロセス。

「グワァアア!!」

いままでにない加速から繰り出された鉤爪はマグマドーパントを上から下に切り裂き、爆発する。
中から現れたのはボロボロの青年と掌から排出された赤いメモリ マグマメモリ。
グシャリと無防備に倒れる青年に当然のごとく跳びかかろうとしたレプリカたち。
獲物は胃袋に納めてこそ真の価値を持つという弱肉強食のルールに忠実な一団。

「止めなさい!」

だがそれを止めるのは美奈穂の一喝。
ピタリと足を止めて不満そうに見上げる端末たちを尻目に、ご主人様はトカゲの顔に先ほどと変わらぬ不安の色を宿して走り出す。

「香澄さん……」

僅かに残された人の理性が『人を殺しては駄目!』と叫んでいたのも確かに影響している。
だが本質はそうではない。同胞たちが獲物をグチャグチャに食い千切る時間が勿体なかっただけ。
ただただ案じるのはたった一人の家族のこと。ビルの外壁を駆け上る姫を見上げて、レプリカたちはやれやれと首を振り、その後に続いた。










『香澄さん!』

戻ってきたウィンドスケール店内にて、大声でそう叫びそうになった美奈穂はふと思い至る。
全く違和感なく活動していたので気がつかなかったが、いまの自分は疑いようも無い見事な『トカゲ女』である。
そんなヤツにいきなり名前を呼ばれたらどうにか成ってしまうだろう。呼びかけて探すような真似は出来ない。
一人ずつ確認していくしかないだろう。ディノニクス・レプリカに指示。

「人を探して。絶対に食べちゃダメ」

なんだか少し残念そうに煙と炎に包まれた店内へと散っていく同胞たちには、後でしっかりとご褒美を上げようと美奈穂は決意。
探し始めて直ぐに一体が吠えた。慌てて駆け寄れば倒れ伏す女性。
残念ながら香澄では無かったが、基本的に善意の塊たる美奈穂は彼女を背負って外へ。
あれ? 見たことあるな~と思ったら、引ったくりを捕まえた時の女子高生の片方だと判明。

「むにゃむにゃ……やっぱり良い人だね、トカゲ女さん♪」

夢の中で零したはずのそんな言葉に思わず頬が緩む。


「■■■!」

「え? もう居ない?」

彼女を安全な場所に降ろして、店内へ戻ろうとした時、走ってきたレプリカたちが口々に美奈穂に告げた。
『もう中には誰も居ない』と

「じゃあ……香澄さんは何処に……」

そこでふと思い至る。自力で脱出した可能性。もしくは他の人に助けられた可能性。
どちらもあり得るのだが、それを確認しに行くにはこの姿は余りにも目立ち過ぎる。


「おぉ~い! 誰か! 誰かいないかぁ~」

「っ!?」

響いたのはどこか芝居がかった独特のイントネーション。

「こちらは風都警察の刃野刑事のだぁ~」

わざわざこんな所に入ってくるあたり、流石は警察の人だと感心。
警察の人なら香澄さんを探すのも簡単だろう。保護されるならばこの人だ。

「みんなありがとう」

小さな声で同胞たちにお礼を一つ。変身を解除すれば彼らも崩れて消えた。
何時もの姿に戻ればここは余りにも怖い場所。ただ純粋に湧き上がる恐怖から私は声を上げる。

「こっちで~す! あの!! 私の家族が見当たらなくて! 中には居ないみたいなんですけど!」

「なぁ~に!? そいつは大変だぁ! まずは外へ出よう。さぁ、掴まって!!」

躊躇い無く私を背負う男性の背中は何だか暖かくて、戦いの後の疲労から志野崎美奈穂は気を失ってしまった。










「はぁ……はぁ……」

寂れた裏路地を歩くのはボロボロの青年 マグマドーパントに変身していた戸川陽介。
痛々しい姿だったが、その目にはガイアメモリ使用者特有の欲望と本能のギラツキが宿ったまま。
片手には強く握りしめる赤い大きなUSB マグマメモリ。メモリが耐えきれない負荷を受けことにより、変身が解除されたがメモリは健在。

「あのドーパント……今度はただじゃおかない……」

混乱に乗じて逃げ果せた彼が考えるのは新しい復讐のことだけ。
メモリの力に呑まれてしまった人間らしい考え方。自分が何のために力を使い始めたのかも解っていない。


「その傷でこれだけ動けるとは驚きです」

「っ!?」

反射的に振り向き、ガイアメモリを起動。連続使用によるマイナスなど既に思考の中には無い。
ただただ掛かる言葉に恐怖しただけのまさに子供の反応。腕に突き刺したメモリが体を怪人のソレへと変ずる。

その様子を見ても声の主 女性は驚いた様子も無し。淡々と続ける。

「でも良かった。あのまま動けずに警察に捕まられでもしたらいい迷惑です」

女性が取り出すのは同じくガイアメモリ。それは男が見た一覧の中には無かった色 銀。
何か自分以上の力の脈動。ディノニクスドーパントとの戦いとは異なる圧倒的な実力差。

「うわぁああ!!」

恐怖により襲いかかる。女性が捲りあげたロングスカート。覗くのは美しい太股。そこには自分の物よりも肥大化したコネクタがあった。
押し込まれた起動スイッチ。

『■■Ight ■■re』







一分と待たずに戸川陽介の最後の悲鳴が路地裏に響いた。









ヤナギさん、難しい(なに


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