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[28248] 一発ネタ IS 史上最強の弟子イチカ (IS 史上最強の弟子ケンイチ クロス) プロローグ
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:bea3fd25
Date: 2011/06/19 00:04
「一夏ぁ!」

「ふぉふぉ、安心するといい、千冬ちゃんや」

「ちふゆ、ねぇ……」

弟の身を案じる少女に向け、老人が愛嬌のある表情を浮かべて安心させようとする。
その老人の手の中には千冬の弟、衰弱した様子の一夏が抱かれていた。

「いっくんに手を出した不届き者は、わしが皆懲らしめてやったからのう。怪我もないぞ。ただ、いろんなことがありすぎて疲れただけのようじゃ」

なんでもないことのように、陽気に言う老人。彼の名は風林寺隼人(ふうりんじ はやと)。無敵超人の異名を持つ、史上最強の生物。
風貌はそれに相応しく、二メートルを優に超える筋骨隆々の巨体。ただでさえ目立つ容姿なのに、それに拍車をかける長い金髪の髪と髭。
その姿は圧巻で、隼人の微笑みが妙なギャップを生み出していた。だけど千冬は隼人に怯えることなく、一夏を受け取り、抱き締めながらお礼を言う。

「ありがとうございます、本当にありがとうございます」

「なぁに、困った時はお互い様じゃよ。それにしてもよかったのかのう?いっくんが心配だったのはわかるが、今日は大事な試合だったのじゃろう?」

「そんなのはどうでもいいんです。一夏が無事だった、それだけで十分です」

「ふむ、お主は良い姉じゃの」

隼人は自身の顎鬚を撫でつつ、空いている手で千冬の頭をポンポンと叩いた。

「後はわしらに任せるといい。黒幕にはきっちりと落とし前を付けるからのう」

優しい笑顔でささやかれるその言葉。それは千冬にとってとても頼もしく、そしてとても恐ろしかった。


†††


「風林寺さんには、本当に頭が上がりません」

「気にするでない。何度もいっとるが、困った時はお互い様じゃ」

「ですが、いつもこちらが一方的に助けられてると思います」

「じゃから気にするでない。うちの者もいっくんのことを歓迎しとるからのう」

千冬と一夏の姉弟には両親が存在しない。幼い一夏と、当時高校生である千冬を残して突然失踪したのだ。
2人には頼れる親類もおらず、どうしたら良いのかわからなかった。そんな姉弟に向け、手を差し伸べてくれたのが隼人である。

「アパパパ~」

「アパチャイすげっ!」

「いちか、スピード上げるよ。しっかりつかまってるよ」

「うん!」

あらゆる武術を極めた者達が集う場所、梁山泊。
幼い一夏の姿はそこにあり、今は優しき巨人、アパチャイ・ホパチャイと遊んでいた。
隼人にも負けない巨体であり、褐色の肌と水色の髪をした青年。その風貌から恐れられることが多々あるが、彼の本質はとても優しく、子供や動物などには絶大な人気を誇っていた。
一夏を肩車して嬉しそうに走っている姿から想像できるように、彼は大の子供好きだ。そんな彼が裏の世界では『裏ムエタイ界の死神』などと呼ばれているのを誰が想像できるだろうか?

「それはそうとドイツはどうじゃった? 世界は広いからのう、何か新しい発見があったじゃろう? 今の千冬ちゃんはそんな顔をしておるぞ」

「……流石ですね」

隼人に指摘され、千冬は感心した。こうも見事に自身の心境の変化を突かれるとは思わなかったからだ。
千冬は今までドイツにいた。あの事件から既に1年以上の時間が経ち、既にIS操縦者の現役を引退している。

IS インフィニット・ストラトス
女性にしか扱えない、世界最強の兵器。
当初は宇宙空間での活動を想定して作られていたのだが、千冬の親友である篠ノ之 束(しののの たばね)が兵器として完成させた。
彼女1人でISの基礎理論を考案、実証し、全てのISのコアを造った天才科学者なのだが現在は失踪中であり、世界中が束の行方を追っているとのことだ。
束の親友だったために千冬はISの開発当初から関わっており、ISに関する知識や操縦技術は並みのパイロットよりも遥かに高い。しかも公式試合で負けたことがなく、大会で総合優勝を果たしたことからも誰もが認める世界最強のIS操縦者だった。
そんな彼女の突然の引退。よくよく考えれば、隼人じゃなくともなにかあったと勘ぐるのは当然かもしれない。

「最初は……借りを返すつもりで教官の話を受けました。ですが人に教えると言うことに意義を感じるようになり、その道に進んでみるのも面白いかと思っただけです」

「そうか……お主の決めたことじゃ。わしは応援するぞ」

「ありがとうございます」

「いっくんのことは任せなさい。血はつながっていなくとも、彼は既に家族のような存在じゃ。わしらがしっかりと面倒を見るから、安心するといい」

「はい」

縁側に腰掛け、お茶を飲みながら談笑を交わす隼人と千冬。
そんな2人に、背後から女性の声がかけられた。

「千冬……来て、たんだ」

「お久しぶりです、しぐれさん」

「ん……」

剣と兵器の申し子、香坂しぐれ。
ポニーテールのように髪を後ろで束ね、くノ一のような格好をした美女。
年齢不詳だが、見た目からして歳は千冬とあまり変わらないだろう。彼女もまた、梁山泊で暮らしている者の1人だった。

「しぐれや、『あいえす』とやらの整備は終わったのかの?」

「今……秋雨が仕上げをしてい、る」

「そうかそうか、秋雨君に任せとけば安心じゃのう」

剣と兵器の申し子であるがゆえに、また、梁山泊で唯一の女性の達人であるがゆえに、彼女もまたIS操縦者だった。
しかも公式では負けなしとされている千冬だが、非公式、訓練などではしぐれに手も足もでなかった。
千冬が誰もが認める世界最強のIS操縦者なら、香坂しぐれは正真正銘、世界最強のIS操縦者である。

「逆鬼、一気に発電してくれ」

「ったく、何で俺がこんなことを……」

ISにいくつものコードをつなぎ整備、調整をしている胴着の中年男性。
彼が哲学する柔術家こと岬越寺秋雨(こうえつじ あきさめ)。黒髪と口髭が特徴的で、隼人やアパチャイに比べるとスマートな身体つきだが、武術の達人なだけにとても鍛えられた肉体を持つ。
書、画、陶芸、彫刻のすべてを極めたと謳われる天才芸術家だが、その他にも医師免許などを所持しており、からくりや機械関連の知識にも精通している。まさに完璧超人。
そんな秋雨だからこそ、世界最先端の技術の結晶であるISの整備ができるというものだ。

そして、ISにつながったコードの先端、自転車のような発電機で電力を生み出している人物の名が逆鬼至緒(さかき しお)。
ケンカ100段の異名を持つ空手家。口調は乱暴で、頬から鼻にかけて横断する一文字の傷があり、素肌の上に革のジャケットと言ういかにも恐ろしい風貌をしているが、心根はとても優しい青年だった。

「相変わらず、秋雨君の発明は見事じゃのう。その発電機のおかげで、うちの家計は大助かりじゃわい」

「収入が不定期な分、逆鬼の体力は有り余ってますからね」

「うるせぇよ!」

逆鬼達のやり取りを見て、千冬は思わず笑みをこぼす。
平和な日常。両親がいなくとも、自分達姉弟を支えてくれる家族のような者達。
これが幸せなのだと噛み締めていると、あっさりとその考えは崩壊してしまった。

「久しぶりね、千冬ちゃん。相変わらず良い体してるね♪」

「……………」

あらゆる中国拳法の達人、馬剣星(ば けんせい)。
長身とはいえ女性である千冬よりも小さく、小柄な中年の中国人男性。長い口髭と眉毛が特徴的で、帽子とカンフー服を愛用している。
彼を一言で表すならエロ親父。美女を見ればセクハラ行為を働くため、千冬は馬のことを苦手としていた。

「ほ、れ……」

「ありがとうございます、しぐれさん」

「ちょ、ちょっと待つね! いくらなんでも真剣は洒落にならないね!!」

それでも最近は慣れてきたのか、馬に対する遠慮がない。
しぐれに渡された刀、真剣を受け取り、千冬はそれで馬に斬りかかる。
中国拳法の達人なだけあり、千冬の斬撃を紙一重でかわす馬だったが、その表情は引き攣っていた。

「アパパ、剣聖楽しそうよ」

「これ、アパチャイ。どこを見ればそう取れるね!?」

「千冬姉、頑張れ~」

「いっちゃん!? 頑張られたらおいちゃん死んじゃうね!」

その様子をケラケラと眺める一夏達。そんな彼らを制する少女の声が、梁山泊内に響き渡る。

「みなさ~ん、おやつの用意ができましたわ」

無敵超人風林寺隼人の孫娘、風林寺美羽(ふうりんじ みう)。
一夏と歳の変わらない、長い金髪の美少女。幼いながらも梁山泊の家事を一手に引き受ける才女だ。

「あ、美羽ちゃん、私も手伝おう」

「ありがとうございます。では、こちらを運んでいただけますか?」

馬を追いかけるのを中断した千冬は、手伝いを申し出る。
いつまでもこんな日々が続けばいいのにと思う、平和な毎日。だが物事に永遠なんてものは存在せず、日常とは些細な切欠で崩壊するものだった。

「これが、IS……」

「これこれ、勝手に触ったら……」

おやつを食べ終わった一夏が、秋雨の整備していたISに興味を持つ。
興味本位で触ることを咎める秋雨だったが、もう既に遅い。一夏は既にISに触れてしまった。
これはしぐれの専用機だったが、整備のために一時初期化していたのが原因だろう。そうでなくとも、まさかこのようなことになると誰が想像できただろうか?

「こ、これは……」

どんな原理かはわからないが、ISとは女性しか起動することができない兵器。男性では到底扱うことができない。
だが一夏は男性、男の子である。普通なら起動するはずがない。動くはずがなかった。
だと言うのに……

「ISが……起動した?」

ISの起動。動かせないはずの男が、ISを動かした。
これが日常の崩壊であり、世界を巻き込むことになろうとは、一体誰が想像しただろうか?



















あとがき
クララ一直線が終わり、勢いに任せて書いてしまった一発ネタ。
まさかまさかの史上最強の弟子ケンイチクロスです。うん、反省はしています。後悔もしています(汗
この作品を書こうと思った切欠は、長老ならISも倒せるんじゃね、と思った理由から。ってか、あの人普通に飛んでますよね、空。制空権なんてあの人の前じゃ無意味ですよね……
さらにはしぐれさんにIS。いや、だって、梁山泊の達人で唯一の女性ですし、剣と兵器の申し子だからISも例外じゃないかなぁ、って。違和感ないですかね?
ちなみに一夏と美羽は同い年です。必然的に兼一も同い年ですが、続くとしたら原作主人公とヒロインの出番がかなり少ないです。舞台はIS学園になりますから、出番はほぼ皆無です。
でもしぐれさん、彼女はIS学園に教師として入るのなんてどうかなと思ってますw

さて、なにやってたんでしょうね、俺。フォンフォン一直線の常連の読者の方がISのSS書いてると聞いて、SS読むには知識が要るからISのアニメ見て見事にはまったこのごろ。
アレはSS書きたくなっても仕方がないです。セシリアかわいいです、鈴かわいいです。
セシリアや鈴がヒロインで、強い一夏が書きたいと衝動的にやってしまいました。もう一度言います、反省はしている。後悔もしています。



[28248] BATTLE1 剣と兵器の申し子に弟子入り!?
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:96f8e2c1
Date: 2011/06/19 17:41
「ボクの弟子にす……る」

「待ってくださいしぐれさん!そんないきなり……」

一夏がISを起動させ、梁山泊は騒々しい空気に包まれていた。

「まぁまぁ、落ち着くね千冬ちゃん。しぐれどんもいきなりすぎるね」

一夏を弟子にするというしぐれと、それを反対する千冬。言い争いを始めそうな2人を馬が仲裁し、仕切り直させた。

「しかし驚いたのう。本来、その『あいえす』というのは女性にしか動かせないんじゃろ?なのに何故、いっくんが動かすことができたのかのう?」

「私にもわかりかねます。ただひとつだけ言えることは、彼は世界中で唯一ISを動かせる男ということでしょう」

隼人と秋雨は驚きと共に感心し、一夏を見定めていた。
IS、世界最強と呼ばれる女性専用の兵器。例え武術を極めた達人でも、男性なら動かすことは不可能な代物だ。
それをどこにでもいるような普通の少年、一夏が起動させた。ならば彼に何かがあると思うのは当然だろう。

「あぱぱ、凄いよ一夏!」

「えへへ」

アパチャイは自分のことのように一夏を褒め称え、一夏は照れ臭そうに笑っている。
まるで他人事のようであり、とても客観的な反応だった。

「一夏! お前のことなんだぞ、もう少し真面目に……」

「だから落ち着くね、千冬ちゃん。いきなりのことでいっちゃんもどうしたらいいのかわからないのね」

馬の言っていることはもっともだった。自身が世界で唯一ISを動かせる男と言ったところで、別に何かが変わるわけではない。一夏は一夏であり、千冬の弟、梁山泊の仲間なのだから。
だが、このことが世間に知られればこれまでの生活ができなくなるのも事実。何せ、世界で唯一ISを動かせる男なのだ。世界各国の研究機関、またはその関係者が放っておかないだろう。

「幸い、このことを知っているのは我々梁山泊の身内の者だけだ。平穏な暮らしを望むというのなら、一夏君のことは内密にすべきだと思います」

「ふむ、そうすべきじゃろうな。もっとも、それはいっくんがどうしたいかによるがの」

「へ?」

話を降られた一夏は、間の抜けたような顔で呆然とする。
真剣な表情で問いかけてくる隼人の雰囲気に恐縮し、言いようのない緊張感を味わっていた。

「これまでどおり平穏な日々を望むか、それとも茨の道を歩むのか? それはお主の決断しだいじゃ」

「俺の、決断……」

場合によっては人生を左右するほどの決断。それを迫られた一夏は瞳を閉じ、真剣に思考を巡らせる。
世界で唯一ISを動かせるという事実。それを知った時はいまいち現実味を感じず、アパチャイに褒められるがままに喜んでいた。自分は特別な存在なんだと思い、表現のしようがない高揚感に包まれた。
だが、冷静になって考えてみると話は違ってくる。確かに一夏は特別な存在だ。それは否定のしようがない事実だろう。けど、そのことが知れ渡れば彼は日常を失ってしまう。
これまでどおりに梁山泊の者達と一緒に過ごすことができなくなり、研究付けの毎日を送ることになるかもしれない。流石に非人道的なことはされないだろうが、モルモット(実験動物)一歩手前の生活を送ることになるかもしれない。
そう考えると、喜んでばかりもいられなくなった。

「俺は……このままがいいです。梁山泊から離れたくないです」

だから、正直な気持ちを吐露する。男でISを動かせるというのはとても名誉なことだが、だからと言ってこの暮らしを失いたくはなかった。

「そうか、それがいっくんの決断じゃな」

隼人が微笑む。身内に向けられる、とても優しそうな笑みだった。
千冬も一安心したようで、安堵の息を吐く。

「残……念。弟子、欲しかった……な」

しぐれは残念そうに俯き、畳の上にのの字を書いていた。

「あ、いや、それはISについての話であって、別にしぐれさんに弟子入りするのが嫌だとかそういうわけじゃないですから」

「本当……?」

「はい。むしろしぐれさんほどの達人に剣を教えてもらえるなら教えて欲しいくらいです」

落ち込むしぐれに向け、一夏は彼女を気遣ってのフォローを入れる。
それが、地獄の始まりだということをまったく理解していなかった。

「じゃあ、教え……る」

「へ?」

「そうだな。私はISに関わるのは反対だが、しぐれさんに剣を教わるのは悪いことじゃないと思うぞ。お前も昔は剣道をしてたからな」

「ほう、ならいっくんはしぐれの弟子じゃな。剣の道は険しいぞ」

「しぐれズルいよ~。アパチャイも弟子欲しい!」

一夏を他所に進んでいく話。
しぐれのフォローのために言った言葉が、なぜか彼女に弟子入りする意として取られていた。

「え~と、今のは冗談で……」

「弟子……ふ、ふふ……一夏、これからは私のことを、師匠と呼……べ」

(しぐれさんが笑ってる!?)

普段はどんなことがあっても顔色ひとつ変えず、感情を表に出さないしぐれが確かに笑っていた。
香坂しぐれ、年齢不詳のスタイル抜群の美女。そんな彼女が笑う姿はとても美しく、そしてとても恐ろしかった。


†††


「ふ、ふふふ、ふははははっ! いっそ殺せェェェ!!」

「わっ!? 一体どうしたのよ、一夏」

「鈴~」

一夏は錯乱し、狂ったような悲鳴を上げた。
そんないきなり取り乱し始めた一夏に向け、一夏曰く『サード』幼馴染で中国人の凰鈴音(ファン リンイン)、通称鈴(リン)が心配そうに声をかけてきた。
これまた一夏曰く、ファースト幼馴染の篠ノ之箒(しののの ほうき)が家庭の事情で転校し、その後に仲良くなったのが鈴なのだ。ちなみにセカンド幼馴染は美羽だ。
一夏の悪友である五反田弾(ごたんだ だん)とも仲が良く、美羽も合わせて4人で一緒に遊んだりもしている。

「しぐれさんが無茶苦茶なんだよ……お前はあるか? 日本刀持った女性に1時間以上追い掛け回されたことなんて……………刃物怖い刃物怖い刃物怖い」

「な、なんか大変なのね……」

流されるがままにしぐれの弟子となった一夏は、毎日のようにトラウマを植えつけられる日々を送っていた。
そして、時折羨ましそうな視線を送ってくるアパチャイ。彼は一夏にムエタイを教えたいらしいが、それは謹んでご遠慮したい。
裏ムエタイ界の死神と呼ばれる彼の修行風景を見れば、その理由も理解できるだろう。

「何度死ぬ思いをしたか……今、こうして鈴と並んで帰宅しているのが俺の唯一の癒しだ」

「い、いい一夏!? えっと、あの……私も一夏と一緒に帰るのに悪い気はしないわ」

「そうか……ああ、腹減った。帰りに鈴の家によっていいか? 鈴の親父さんの酢豚と杏仁豆腐が食べたくなった」

「別にいいけど……一夏ってうちの酢豚好きよね」

「おう、アレは絶品だよな。もう毎日食べたいくらいに」

「そっか、そうなんだ……」

道中、いい雰囲気になる一夏と鈴。
鈴は頷きながら何かを考え、ある決意をした。

「じゃあね、一夏。私が料理がうまくなったら……」

「ん?」

「酢豚を毎日……」

「ラララ~! 一夏殿、奇遇ですね」

「あ、響」

「……………」

だが、鈴が言い切るより前に邪魔が入った。
歌いながらやってくる邪魔者、それは羽帽子と奇妙な服をした不気味な少年、九弦院響(くげんいん ひびき)。
彼は暇があれば歌って踊り、作曲などをしていた。その作曲に関しては類稀なる才能を持っており、将来的には音楽学校への進学が決まっているとか。
天才気質の少年だが、そんな彼を一言で表すなら変人である。

「本日はお日柄も良く、良い天気ですね。まるで私達の出会いを天がしゅくふ……」

「なんでいいところで出てくんのよぉ!!」

「ぐふぁ!?」

そんな響を、鈴は情け容赦なく殴り飛ばした。

「スフォルツァンド(特に強く)……良い一撃でした。今ので素敵なメロディーが舞い降りてきましたよ。ラララ~!」

「だからあんたは、殴られたのになんでそんなにピンピンしてるのよ!? この国じゃ邪魔をする奴は馬に蹴られて死ねって言うけど、あんたは馬にけられても平気そうね」

「ララララ~」

殴り飛ばされた響はやばい倒れ方をしたものの、すぐさま起き上がって作曲を始めていた。
羽帽子の羽の部分がペンとなり、懐から五線譜紙を取り出して曲を書き込んでいく。
彼から声をかけてきたというのにそれに熱中し、一夏と鈴の存在は忘れ去られていた。

「これは家で早速奏でてみたいですね~! では、一夏殿、鈴音氏。私はこれで失礼します。ラララ~!」

「………なにしに来たんだ?」

「こっちが聞きたいわよ!」

自由翻弄な響に呆気に取られ、一夏と鈴は同時にため息をついた。


†††


あれから暫くの時が経った。
響経由で知り合った新たな友人、千秋祐馬(ちあき ゆうま)と知り合ったり、鈴や弾と共に遊んだり、しぐれの修行によってまた新たなトラウマを刻まれたり……
楽しかったことや思い出したくない出来事などなど、いろいろなことがあった。本当にいろいろなことがあった……

「俺の癒しが、心のオアシスが、酢豚が……」

「もう、一夏。そんなにマジ泣きしないでよ……」

「だって、だって……」

その日常が崩壊する。梁山泊の修行でボロボロとなった一夏の心のよりどころ、鈴が所謂家庭の事情と言う奴で祖国に、中国に帰るというのだ。
それに一夏は本気で涙を流し、空港で鈴との別れを惜しんでいた。

「ホントにやめてったら……帰れなくなるじゃない」

「帰らないでくれよ、鈴」

「そういうわけにもいかないわよ……」

「俺と一緒に暮らそう。絶対に幸せにしてみせるから」

「え、ええっ!? ちょ、一夏! それってプロポ……」

「馬さんがそう言えば一発だって言ってたけど、これってどういう意味なんだ?」

「死ね!」

「ぐはっ……」

鈴の手加減なしのビンタが一夏に叩き込まれる。バチーンと乾いた良い音が響き、一夏の頬には鮮やかな紅葉の跡がついていた。

「な、なんで怒るんだよ?」

「うっさい馬鹿! 死ね、本当に死ね!!」

怒鳴り、口論を始めてしまう一夏と鈴。
周囲からは呆れたような視線や、どこか微笑ましそうな視線が投げかけられるが、2人にはそんなものを気にする余裕はなかった。

「まぁ、いいわ。一夏の病気は今に始まったことじゃないし……」

「俺はいたって健康だぞ」

「いいから黙れ」

これまでのやり取りで疲労し、鈴はがっくりと肩を落とす。
だが、その表情はにやけており、例え一夏が言葉の意味を理解していなくともとても嬉しそうだった。

「ねぇ、一夏」

「ん?」

だから、ちょっとだけ積極的になった。
一夏の背は標準だが、男なだけあって鈴よりも高い。鈴は背伸びし、一夏に顔を近づける。

「え……?」

呆気に取られた一夏は、状況を理解するのに少しばかりの時間を要した。
頬に触れる感触。柔らかくて温かいもの、鈴の唇。

「えへへ……」

「鈴……」

鈴は真っ赤な顔で照れ臭そうに笑い、一夏に言った。

「じゃあね、一夏。一時のさよならだけど、いつかきっと……」

「ああ……」

言い終わり、鈴は一夏に背を向ける。そのまま飛行機の登場口に向かって歩いていった。
鈴の笑顔を正面から見た一夏は未だに呆然としながら思う。鈴のこと、今まで一緒に遊んでいた良く知っているはずの鈴が、意外な一面を見せたような気がした。

(鈴って……笑うとあんなに可愛かったんだ)

胸が高鳴る。それと同時に締め付けられるような痛みが走った。
感じるのは喪失感。いて当然だった存在が、自分の前からいなくなる悲しみ。
一夏はなんとなく、鈴に口付けされた頬の部分に触れて気づいた。

「あれ……?」

濡れていた。瞳から一筋の雫が垂れ、一夏の顔を濡らしていた。一夏は泣いていたのだ。

「やはり、お友達がいなくなるのは寂しいですね。はい、一夏さん」

そんな一夏に、隣に立っていた少女がハンカチを手渡す。

「ああ、ありが……って、えええええっ!?」

「うわっ、びっくりした!」

それを受け取った一夏だが、気配なく隣に立っていた少女に今更ながらに気づき、悲鳴染みた声を上げてしまう。
その大声に、少女も吃驚したように声を上げた。

「いや、それはこっちの台詞……なにしてんだ美羽!? ってか、見てた?」

「はい、ばっちりと」

「……………」

少女、美羽は素敵な笑顔で一夏の言葉に同意する。
一夏は顔は火が吹き出そうなほどに熱くなった。

「いいですね、幼馴染というものは」

「いや、それを言うなら美羽と俺も幼馴染なんだけど……」

「あら、そうでしたわね。ならこの場合、なんと言うのでしょう?」

「知らない。で、なんで美羽がここにいるんだ?」

「お友達の見送りをするのは当然ですわ。もう挨拶はしましたし、場の空気を読んで今まで隠れていたんですの」

「そうだったのか……」

「もっとも、それ以外にもここにいる理由はありますが」

「え?」

美羽の言葉に、一夏が首をかしげた。

「いっくんや、どうやらお別れは済んだようじゃのう」

「長老……え、どうしてここに?」

そんな一夏に、梁山泊の長である隼人が声をかけた。いや、彼だけではない。

「けっ、見せ付けやがって」

「グッジョブね、いっちゃん。でも、さっきの台詞は頂けないね」

「若いのはいいねぇ」

「う……ん」

「アパパ~」

「逆鬼さん、馬さん、岬越寺さん、しぐれさん、アパチャイまで!?」

梁山泊の者達勢揃い。未だに状況を理解できていない一夏は、パクパクと口を動かして固まっていた。

「はい、これ。一夏さんの荷物ですわ」

「え、ええ……なにこれ? 今から旅行にでも行くようなこの大荷物は」

「ようなではなく、本当に行くんです。飛行機に乗って空の旅ですわ」

「えええっ!?」

状況がまったく理解できない。既に定められた決定事項に、一夏は驚きの声を上げる。

「ちょ、説明を! マジで理由を説明して」

「ふぉっふぉっふぉ、さぁ、ゆくぞ皆の衆」

梁山泊、日本を発つ。


†††


「セシリア・オルコット……ガキを始末するのに、なんでわざわざ俺達武器組がイギリスまで出向かなくちゃいけないんだ」

「そういうな。何でもその小娘は良いとこのお嬢ちゃんでな、事故で亡くなった両親の遺産をたんまりと持っているのよ。それが周りの親族達には面白くないらしくてな、我々『闇』に厄介ごとが回ってきたということだ」

「ふん、気にくわねぇ。反吐が出そうな仕事内容だな」

「依頼だから仕方がない。それにこの小娘、代表候補の腕前を持つIS操縦者らしいから結構楽しめるかもな」

「IS……か。世界最強の兵器ねぇ。確かに使うものが使えば強力だが、ガキには過ぎた玩具だ。それにわざわざ、相手の土俵で戦う必要もない」

「まぁ……始末さえしてくれるなら、方法は任せるさ」

「ああ」

事態が動き出す。ある少女に、強力な魔の手が迫っていた。

























あとがき
何故か続いたし(汗
ISに関しては今のところスルーしましたが、一夏は将来的にISに乗ります。っていうか、次かその次くらいにISに乗ります。
弟子入りに関しては今のところしぐれのみ。修行風景はカットしましたが、一夏はそれなりに辛い目に遭っているようで。将来的に修行風景は書きますのでご安心を。
さて、そんな俺はセカン党。いや、このSSの設定ではサード幼馴染なんですけど。でもセシリアも好きなこの気持ち。
ヒロインは鈴とセシリアのツートップで行くかも。そんなわけでフラグ、もとい接点を作るために一夏旅立ちます。後1,2話くらいオリジナルをやりますが、それから原作に突入する予定。闇が出てくるのは基本、このオリジナル部分だけですね。

それにしても一夏が誘拐されたのって中二の時? えっ……マジですか。
アニメしか見てなかったですから、俺……えっと、時間系列が、その……そこら辺は二次創作ということで割り切ってくれるとありがたいです(滝汗

矛盾点はありますが、これからも執筆頑張っていきますので応援のほどよろしくお願いします。


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