東京は外国人脱出の第二波に備える
(フィナンシャル・タイムズ 2011年6月19日初出 翻訳gooニュース) 東京=グウェン・ロビンソン
東京・六本木の繁華街で最大のアメリカ式スポーツバーとその隣のイギリス風パブは、「gaijin」コーナーと呼ばれたりする(「gaijin=ガイジン」とは外国人を差す口語表現)。テレビ画面にメジャーリーグや欧州サッカーを大音量で映し出すこの2つの店は、金曜の夜になると外国人オフィスワーカーであふれかえっているものだ。
けれどもこのところ、レジェンズとホブゴブリン(どちらも同資本の系列店)に集まる客の数はふだんの半分だし、そのほとんどは日本人だ。日本の東北地方沿岸部に大打撃を与えた3月11日の地震と津波以降、両店の商いは35%ほど減っている。
「売り上げは少し持ち直しつつあるが、減ったのは外国人がいなくなったから。それは間違いない。一目見れば分かる」と店の関係者は言う。
いろいろな意味で東京の生活は元通りに戻っている。余震は止まったし、店の品揃えはたっぷりあるし、学校は通常通りのスケジュールだ。ただし、インターナショナル・スクールの生徒数は20〜25%ほど減っているのだが。
東京には大きな外国人コミュニティーがあるが、その一部の人にとって、生活は普通とはほど遠い。震災後に大勢が東京を脱出したし、そのほとんどがいったんは戻ったものの、今度は小さい子どものいる家族を中心に第二の大脱出が始まったようだ。
学校はまもなく始まる夏休みに備えているし、不動産契約の更新期日は迫りつつある。そんな中で一部の外国人ビジネスマンは日本を離れる決断をしていると、転職斡旋や引越会社や不動産会社は言う。
東京にある人材コンサルタント会社「G&Sグローバル・アドバイザーズ」の代表取締役社長、フクシマ咲江氏によると、外国人ビジネスマンの約8割が震災直後に東京を離れたという。このうち約5分の4が東京に戻り、残りは異動を願い出たとのことだ。東京を離れようとしている外国人ビジネスマンたちはもっといるだろうとフクシマ氏は見ている。津波で大打撃を受けた福島第一原発の危機が未だ収束しないことが、彼らの恐怖をあおっているのだと。
「特に子供のいる外国人居住者の不安が強い。そして仕事の面では、経済の状態や自分の雇用状況を心配する人たちもいる」
そういう懸念があるだけに、東京では優秀な外国人スタッフへの需要が新たに強まっているというのが、ヘイズ・ジャパンやエゴンゼンダー、マイケル・ペイジ、T2東京などのヘッドハンティング会社の見方だ。ヘイズ・ジャパンのマネージングディレクター、クリスティーン・ライト氏によると、特にITや法務、金融、会計の分野でプロフェッショナルに対する需要は強い。もっとも「あらゆる分野で人材不足が見受けられる」とライト氏は補足する。
安全懸念を気にせずにいられる人にとって、見返りはある。エゴンゼンダーのマネージング・パートナーのツカダ・ヒデアキ氏は、才能ある人材に通常より高い報酬を用意する企業もあるかもしれないと話す。ただし、外国人ではなく日本人を採用しようという動きも高まっているとも言う。
在東京の外国人ビジネスマン向けに物件を斡旋する不動産会社は、昨年に比べて取引量はかなり減ったと話す。ケン・コーポレーションの外国人向け部門を担当するマネージャー、デーブ・コヤマ氏は「3月と4月は本当にひどかった。約50%が契約をキャンセルした。特にヨーロッパ人のキャンセルが多かった」と話す。
回復の兆しもある。「優良物件は動いているし、新しい人たちが日本に来ている」とコヤマ氏は言う。しかし東京で家を探す顧客のタイプが変わりつつあると不動産会社は見ている。寝室が四つある大きな一軒家(高い地区では家賃が月150万円以上)に住んでいた外国人家族は東京を離れている一方で、東京の新しい住人たちは子供のいないカップルや独身者が多いというのだ。
日本を出ようとする外国人居住者の需要が記録的に高まる中で、引越業界は絶好調だ。外国人クライアントを主に扱う中堅企業の「エコノムーブ」によると、前年比の売り上げは50%近く増えているという。
同社マネージャーのシマ・シンイチ氏は、「学年末なので6月はいつも忙しいが、今では週7日働いてやっと注文をさばいている状態」と話す。
「多くのドイツ人やフランス人やオーストラリア人が日本を離れている。みんな放射能や地震を心配している。シンガポールや欧州に移る人が多い」
こうした心配について、イギリス人の母親がこうまとめていた。「みんなまだ動揺している。放射能が心配で、地元の食品を買うべきか、水道水を飲むべきか、心配している。子供がいるなら、子供たちのことが本当に心配だ」
この外国人脱出によって、仕事以外のチャンスも生まれている。さよならパーティーやガレージセールへのお誘いが次から次へと飛び交う中で、ひときわ目を引くものがあった。東京・広尾には、外国人ビジネスマンとその家族に人気のスーパー「ナショナル麻布」がある。そこの掲示板(訳注・「売ります買います」などの情報を誰でも張り出すことができる)に、こういう張り紙があった。「買いたくないなら6月5日に来て残っているものをタダでどうぞ。ウチは行かなきゃならないので」。
東京・六本木の繁華街で最大のアメリカ式スポーツバーとその隣のイギリス風パブは、「gaijin」コーナーと呼ばれたりする(「gaijin=ガイジン」とは外国人を差す口語表現)。テレビ画面にメジャーリーグや欧州サッカーを大音量で映し出すこの2つの店は、金曜の夜になると外国人オフィスワーカーであふれかえっているものだ。
けれどもこのところ、レジェンズとホブゴブリン(どちらも同資本の系列店)に集まる客の数はふだんの半分だし、そのほとんどは日本人だ。日本の東北地方沿岸部に大打撃を与えた3月11日の地震と津波以降、両店の商いは35%ほど減っている。
「売り上げは少し持ち直しつつあるが、減ったのは外国人がいなくなったから。それは間違いない。一目見れば分かる」と店の関係者は言う。
いろいろな意味で東京の生活は元通りに戻っている。余震は止まったし、店の品揃えはたっぷりあるし、学校は通常通りのスケジュールだ。ただし、インターナショナル・スクールの生徒数は20〜25%ほど減っているのだが。
東京には大きな外国人コミュニティーがあるが、その一部の人にとって、生活は普通とはほど遠い。震災後に大勢が東京を脱出したし、そのほとんどがいったんは戻ったものの、今度は小さい子どものいる家族を中心に第二の大脱出が始まったようだ。
学校はまもなく始まる夏休みに備えているし、不動産契約の更新期日は迫りつつある。そんな中で一部の外国人ビジネスマンは日本を離れる決断をしていると、転職斡旋や引越会社や不動産会社は言う。
東京にある人材コンサルタント会社「G&Sグローバル・アドバイザーズ」の代表取締役社長、フクシマ咲江氏によると、外国人ビジネスマンの約8割が震災直後に東京を離れたという。このうち約5分の4が東京に戻り、残りは異動を願い出たとのことだ。東京を離れようとしている外国人ビジネスマンたちはもっといるだろうとフクシマ氏は見ている。津波で大打撃を受けた福島第一原発の危機が未だ収束しないことが、彼らの恐怖をあおっているのだと。
「特に子供のいる外国人居住者の不安が強い。そして仕事の面では、経済の状態や自分の雇用状況を心配する人たちもいる」
そういう懸念があるだけに、東京では優秀な外国人スタッフへの需要が新たに強まっているというのが、ヘイズ・ジャパンやエゴンゼンダー、マイケル・ペイジ、T2東京などのヘッドハンティング会社の見方だ。ヘイズ・ジャパンのマネージングディレクター、クリスティーン・ライト氏によると、特にITや法務、金融、会計の分野でプロフェッショナルに対する需要は強い。もっとも「あらゆる分野で人材不足が見受けられる」とライト氏は補足する。
安全懸念を気にせずにいられる人にとって、見返りはある。エゴンゼンダーのマネージング・パートナーのツカダ・ヒデアキ氏は、才能ある人材に通常より高い報酬を用意する企業もあるかもしれないと話す。ただし、外国人ではなく日本人を採用しようという動きも高まっているとも言う。
在東京の外国人ビジネスマン向けに物件を斡旋する不動産会社は、昨年に比べて取引量はかなり減ったと話す。ケン・コーポレーションの外国人向け部門を担当するマネージャー、デーブ・コヤマ氏は「3月と4月は本当にひどかった。約50%が契約をキャンセルした。特にヨーロッパ人のキャンセルが多かった」と話す。
回復の兆しもある。「優良物件は動いているし、新しい人たちが日本に来ている」とコヤマ氏は言う。しかし東京で家を探す顧客のタイプが変わりつつあると不動産会社は見ている。寝室が四つある大きな一軒家(高い地区では家賃が月150万円以上)に住んでいた外国人家族は東京を離れている一方で、東京の新しい住人たちは子供のいないカップルや独身者が多いというのだ。
日本を出ようとする外国人居住者の需要が記録的に高まる中で、引越業界は絶好調だ。外国人クライアントを主に扱う中堅企業の「エコノムーブ」によると、前年比の売り上げは50%近く増えているという。
同社マネージャーのシマ・シンイチ氏は、「学年末なので6月はいつも忙しいが、今では週7日働いてやっと注文をさばいている状態」と話す。
「多くのドイツ人やフランス人やオーストラリア人が日本を離れている。みんな放射能や地震を心配している。シンガポールや欧州に移る人が多い」
こうした心配について、イギリス人の母親がこうまとめていた。「みんなまだ動揺している。放射能が心配で、地元の食品を買うべきか、水道水を飲むべきか、心配している。子供がいるなら、子供たちのことが本当に心配だ」
この外国人脱出によって、仕事以外のチャンスも生まれている。さよならパーティーやガレージセールへのお誘いが次から次へと飛び交う中で、ひときわ目を引くものがあった。東京・広尾には、外国人ビジネスマンとその家族に人気のスーパー「ナショナル麻布」がある。そこの掲示板(訳注・「売ります買います」などの情報を誰でも張り出すことができる)に、こういう張り紙があった。「買いたくないなら6月5日に来て残っているものをタダでどうぞ。ウチは行かなきゃならないので」。
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(翻訳・加藤祐子)
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