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“原発被害”酪農家自殺 補償区域外の不安広がる
| 村松和行さんが飼育する乳牛。放射性物質が心配で刈り取った牧草は使えず、蓄えていた飼料を与えている=相馬市玉野 |
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福島県相馬市西部の玉野地区で9日、酪農家の男性(54)が自ら命を絶った。堆肥を保管する建物の壁には「原発がなければ死なずに済んだ」と書かれていたという。福島第1原発事故の影響を苦にしたとみられる。阿武隈山中の玉野地区は相馬市中心部に比べ放射線量が高く、自主避難する住民も出始めている。地域に根差して働き、暮らし続けることができるかどうか。地区の存続を危ぶむ声も上がっている。
<牧草処分できず> 宮城県境に接した集落に約470人が暮らす玉野地区。乳牛や育成牛約50頭を飼育する村松和行さん(55)の牛舎横には、大量の牧草がビニールをかけて積まれていた。 放射性物質が付着している可能性があるため、牛には与えていない。とりあえず、昨年購入した飼料を食べさせている。 「牧草の処分方法も決まっていない。刈り取るにも費用はかかるのに」と、村松さんは困惑した様子だ。 地区住民によると、亡くなった男性は35頭の牛を飼っていたが、3月から4月にかけ、原発事故の影響で原乳が出荷停止となり、経営が圧迫されていたらしい。借入金の返済が遅れがちだったため、被災者向けの制度融資も受けられなかったという。 4月には外国人の妻らが母国に避難した。精神的な負担も重なったとみられる。 玉野地区の放射線量は毎時1.5マイクロシーベルト台。1マイクロシーベルト未満の相馬市中心部よりかなり高いが、南隣の飯舘村のような「計画的避難区域」には指定されておらず、農家への補償は今のところない。 男性の死について、村松さんは「国の対策が遅すぎだ。県や自治体は東電などと協議し、早急に補償に向けて取り組むべきだ」と言う。 <汚染情報足りぬ> 同じく酪農家で区長を務める村松征吉さん(73)も「勤め人はともかく、われわれは牛や土地を捨てて避難したら、何も残らない」と訴える。 市は5月下旬、相次いで地区住民の健康診断を実施したり、放射能に関する講演会を開催したりした。市内の仮設住宅に避難することも認めた。 だが、地区で鋳物加工会社を営む大橋芳広さん(58)は、市の対応が「的外れ」と感じる。 「避難も大切だが、土壌汚染などの情報が足りない。そうしたデータを集めた上で、ここに残るのかどうかを決めたり、日常生活上の対策を示したりすべきではないか」 地区内では既に、幼児らのいる15戸が避難を希望している。大橋さんは「いったん子どもらがこの地区を離れたら、戻ってくることはないだろう。このままでは集落自体が消滅の危機に直面するかもしれない」と心配する。 (加藤敦)
2011年06月20日月曜日
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