研究の概要

 当教室の研究テーマとしては、胸腺外分化T細胞(NKT細胞)の起源・分化・生体内機能の解析、神経・内分泌・免疫の相互作用の解析およびマラリアの感染防御機構などが挙げられる。

 胸腺外分化T細胞は、胸腺に依存せずに分化・成熟するT細胞であり、肝類洞、腸管上皮内、生殖器粘膜などに見いだされている。このT細胞群は、形態学的にはNK細胞に似た顆粒リンパ球であり、NK細胞と同様な表面抗原と細胞障害活性を持つ。すなわちNK細胞とT細胞の中間タイプの細胞集団と考えられる。マウスの肝類洞に存在するこれらの胸腺外分化T細胞はCD3(TCR αβ)とNK細胞に発現するIL-2R β鎖の二重染色法により同定されるが、さらにNK1.1+細胞(NKT細胞)とNK1.1-細胞のサブセットが存在し、その細胞構成は異なっている。この細胞は加齢、坦癌状態、妊娠、細胞内寄生細菌感染、自己免疫疾患などで増加することから、病態の各種免疫応答に重要な働きをしていると考えられ、第4のリンパ球として注目を浴びてきている。

 肝臓の胸腺外分化T細胞は胸腺及び骨髄から供給されると考えている研究者が多い。しかし、我々は胎児肝が造血の場であることから、成体でも肝臓が造血幹細胞供給の役割を担い、肝臓の胸腺外分化T細胞は独自の造血幹細胞から分化しうることを見いだした。放射線照射したSCIDマウスに肝の造血幹細胞を移入すると、骨髄の移入よりも早く胸腺が再構成され、肝臓および他のリンパ組織にも血液系の細胞が出現する。また、パラバイオーシスマウス(併体接合マウス)を作製し、循環系がつながった状態で各臓器におけるパートナーリンパ球の割合を経時的に調べると、胸腺での置換率は極めて低いが、他の臓器では2週後ですでに約半数がパートナーリンパ球であった。一方、肝の胸腺外分化T細胞の置換率は低く、NK細胞はその中間であった。これらの実験から、胸腺外分化するT細胞はその臓器独自の造血幹細胞から分化することが示唆されている。

 胸腺外分化T細胞は胸腺で除去される自己応答性の禁止クローンを多く含んでいる。 多くの研究者は胸腺のいわゆるmainstreamであるT細胞分化の失敗で自己応答性の禁止クローンが生じると考えているが、胸腺内にも肝臓に局在するT細胞(胸腺外分化T細胞)を分化させうるprimodial pathways of T cell differentiationの系が存在する。しかも、この分化経路は系統学的に古く、常に自己応答性の禁止クローンをある程度含んだ状態で、分化・成熟していることが分かってきた。各種の病態でこの細胞が重要な働きをしているのは、自己応答性を持ち感染自己細胞や異常自己細胞を認識し、速やかに排除する機能を有しているからと考えられる。

 神経、内分泌、免疫系の相互作用は現在注目を浴びている分野であり、ストレスの多様性と疾患の関連性を追求している。リンパ球や顆粒球の機能が種々の環境因子によって影響を受けていることは、出生時の顆粒球増多が肺呼吸開始に伴う酸素ストレスであることや、顆粒球もリンパ球と同様にアセチルコリンレセプターを持っていることなどから明らかになってきた。すなわち、生体の防御系が自律神経系の調節下におかれているという新しい知見であろう。

 上記のような基礎研究に基づく免疫理論を論文や著書で紹介していますが、この免疫理論は、私、安保徹の個人的見解であり、新潟大学医学部が認めたものではありません。さらに私は臨床医ではなく、新潟大学医歯学総合病院では診療はしていないことをお断りしておきます。また、民間療法の手技(例えば、ノンアトピーノンステロイドの吉野丈夫氏の療法など)とは一切関係ありません。

 寄生虫学の分野では、マウスマラリアモデルを用いマラリアの感染防御機構の解明を進めている。マラリア原虫感染では肝臓の胸腺外分化T細胞が活性化され、この細胞群が感染防御に重要なエフェクター細胞であることを細胞移入実験で明らかにすることができた。これらの解析より、マラリア感染における胸腺外分化T細胞の認識機構や他のリンパ球との相互作用は、胸腺で分化するT細胞とは異なったシステム、すなわちinnnate immunityのシステムと考えている。


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