2011年06月19日

見えない「敵」と闘う母

放射能から子どもを守るために

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編集部 小林明子、山根祐作 写真 家老芳美


 冷蔵庫を開けて青ざめた。シューマイの皮が、ない。

 明日の給食の献立はシューマイ。だが千葉県に住むアユミさん(39)は小学1年の長女に入学当初から給食を食べさせていない。表向きはアレルギーを理由にしているが、実のところは食品の放射能汚染が心配だから。クラスで1人だけ弁当を広げる長女のために毎日、給食と同じメニューを作り続けている。

「私のせいでイジメにでも遭ったりしたら......」

 車を走らせた。近所のスーパーは閉まっている。ドラッグストアにも売っておらず、30分かけて24時間営業のスーパーへ。帰り着いたときは午前1時半。それから具を練って下ごしらえをした。

 穏やかだった生活を一変させたのは、福島第一原発の事故だった。

 3月21日、雨にあたった長女のおでこに発疹のようなものができた。「もしかして放射能のせい?」。23日、東京の水道水から放射性物質が検出された。慌てて新幹線に乗り、縁もゆかりもない京都のウイークリーマンションに避難したが、入学式があるため1週間で戻らざるをえなかった。

 外食は一切やめ、野菜や納豆は関西から、卵は九州から取り寄せる。出費がかさむのでペットボトルの水は1日4リットルまでと決め、皿洗いにはウオーターサーバーの水を使う。

 秋葉原で線量計を捜し回った末、6万5千円の米国製をネットで購入し、自宅や学校、学童保育施設の周りを毎日測る。他機種を持つ母親3人で同じ場所を測り、自分のものは「0.02マイクロシーベルトほど低めに数値が出る」というクセも見抜いた。線量計の型番を聞けば性能がわかるほど詳しくなった。

 もはや信じられるのは線量計だけ。それでも自己防衛できるものは限られているーー。

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