臓腑弁証
 臓腑弁証とは,各臓腑の生理機能にもとづき,疾病において現れる各症状を分析し,帰納を行い,その病理機序を明らかにして,病変部位を判断する方法である。中医学には数多くの弁証方法があるが,どの方法においても,疾病の部位を明確にするためには臓腑という視点が必要となる。例えば八綱弁証の1つに陰虚証があるが,これは・肝・腎・という各臓腑に生じる病証であり,治療においてはどの臓腑の陰虚なのかを明確にしなければならない。臓脈弁証は,臨床上きわめて実用性が高く,弁証体系にあっては重要な位置づけがなされている。
 臓腑間および臓腑と各組織器官とのあいだには密接な相関関係かある。したがって,臓腑弁証を行う場合には,一臓一腑の病理的な変化を見るだけでなく,臓腑間の関係と影響にも注意しなければならない。
 臓腑弁証には,臓病弁証・腑病弁証・臓腑相関弁証の3つがあるが,このなかでは臓病弁証が臓腑弁証の中心的な内容となっている。臓腑間には表裏の関体があり,病理上もしばしば相互に影響しあう。

・小腸病弁証
 心の病証には,虚証と実証がある。心の虚証は,長期にわたる病気のため正気を損傷したり,

禀賦(ひんぶ)不足,あるいは思慮傷心などが要因となって,心気や心陽を損傷したり,心陰や

心血を損耗しておこるものが多い。また心の実証は,痰阻・入擾〔擾(じょう)とは,がき乱すこと]

・寒凝・淤滞・気鬱などによりおこるものが多い。

 心病の常見症状……・心悸,正中(せいちゅう),心煩,心痛,不眠、多夢,健忘、譫語(せんご)

【1】心気虚証
【臨床所見】

 心悸・正中・胸悶・息切れ・活動後に症状が増悪する・顔色は淡白あるいは自汗があ

 る・舌質淡舌苔白脈虚

【証候分析】

1)心悸・正中一心気が虚衰すると,血脈の運行を維持しようとして,心の鼓動に過剰

  な負担がががるためにこの症状が生じる。

2)胸悶・息切れ―心気が不足すると,胸中の宗気の推動機能が低下するためにおこる。

3)活動後に心悸などの症状が増悪一活動すると気を消耗して,心気がますます虚すの

 で症状が増悪する。

4)自汗一気が虚すと,衛外(えがい)不固となるために自汗がおこる。

5)顔色は淡白・舌質淡・舌苔白一心気不足のため,血行の推動が低下し,血液が充分

 に顔面部に到達しないためにおこる。

6)脈虚無力一心気虚のため,血行の推動が低下しておこる。

【治 療】

治法:補益心気 解説 益気  強心  滋補  補益

処方例:養心湯

【2】心陽虚証
【臨床所見】
心悸・正中・胸悶・息切れ・顔色光白・畏寒・四肢の冷え・心痛・舌質・舌苔滑・脈微細。

【証候分析】

1)心悸・正中・胸悶・息切れ一心陽虚は,心気虚がいっそう進んだものである。これ

 らの証候は,心気虚と心陽虚に共通しで現れるものである。

2)顔色光白・畏寒・四肢の冷え―陽気が嘘衰し,温煦機能が低下して現れる。

3)心痛―陽虚によって内寒が生じ,寒が経脈に影響して,気機が鬱滞し心脈が阻滞すると,

 心痛がおこる。

4)舌質淡胖・舌苔白滑一陽虚寒盛の象。

5)脈微細一心陽虚のため,血行の推動が低下し,血液が脈道に充足しなくなった現れである。

【治 療】

治法:温道心陽 解説  益気  助陽  補気

処方例:桂枝加附子湯

【3】心陽暴脱証
【臨床所見】

冷汗がしたたる・四肢厥冷・呼吸微弱・顔色蒼白・口唇青紫,意識がはっきりしない・

心痛・脈微弱欲脱。

【証候分析】

1)冷汗がしたたる―陽気が急激に虚衰するために,虚陽が体表に浮越し,衛表から暴

 脱するときに油状の汗がしたたる。

2)四肢厥冷―陽気衰弱のため,温煦機能が低下しておこる。

3)呼吸微弱―心陽が衰弱し,宗気が減少し,肺を助けることかできなくなっておこる。

4)顔面蒼白・口唇青紫一陽気が暴脱し,血行の推動が低下し,絡脈が於滞するためにおこる。

5)意識がはっきりしない・昏睡一心陽が衰弱し,神明を主る機能を維持できなくなっておこる。

6)心痛―腸虚寒盛により,寒が心脈を凝滞させるためにおこる。

7)脈微弱欲脱―心陽暴脱のため,血脈の推動機能が低下しでおこる。

【治 療】

治 法:回陽救逆・固脱 助陽  補肺 

処方例:四逆湯

* 心気虚,心陽虚,心陽暴脱の鑑別

 心気虚証とは,心の機能衰弱を特微とする。心陽虚証は,この心気虚をベースにさらに

虚寒症状が現れたものである。また心陽暴脱証は,心陽虚をベースにして虚説亡陽の症状

が現れたものである。

【4】心血虚証
【臨床所見】
心悸・正中・不眠・多夢・眩暈・健忘・顔色は淡白で艶がない・萎黄・口唇の色は淡・

舌質・脈細弱。

【証候分析】

1)心悸・正中―心血が不足しているために,心を養うことができなくなっておこる。

2)不眠・多夢―心血不足のため神を養えずに神明が乱れておこる。

3)眩暈・健忘一血虚により脳髄を濡養できなくなるためにおこる。

4)顔色がすぐれず・唇や舌の色は淡―血虚の象である。

5)脈細弱―血液が脈道に充足していない現れである。

【治療】

治 法:養血安神

処方例:炙甘草湯

【5】心陰虚証
【臨床所見】
心悸・正中・不眠・多夢・五心煩熱・潮熱・盗汗・両顴部が赤い・舌少津・脈細数

【証候分析】

1)心悸・正中・不眠・多夢一心陰虚のため,心を滋養できず,心神不寧〔心神が安ら

 かでないこと〕となっておこる。

2)五心煩熱・午後の潮熱・盗汗一陰虚内熱の症候である。

3)両顴部が赤い―虚熱上炎によりおこる。

4)舌紅少津・脈細数―陰虚内熱の舌脈所見

【治 療】

治法:育陰寧心 解説 補陰 

処方例:天王補心丹

【6】心火亢盛証
【臨床所見】

心胸部の煩熱・不眠・面赤・口渇・小使は黄色・大便は硬い・舌尖紅絳・あるいは口舌

に瘡が生じ・びらんして痛む・脈数有力。

【証候分析】
1)心胸部の煩熱―心火が盛んになるとおこる。

2)不眠―火熱が神明に影響しておこる。

3)面赤・口渇・尿黄・大便硬・脈数有力一裏実熱の症候。

4)舌尖紅絳・瘡・びらん―心は舌に開竅しているが,心火亢盛となって火熱か経絡に

 沿っで上炎すると舌尖紅絳となる。また脈絡を損傷すると,瘡やびらんが生じる。

【治 療】

治法:清心瀉火

処方例:瀉心湯

【7】心血淤阻証
【臨床所見】
心悸・正中・息が詰まる・胸部に劇痛がおこる・痛みが肩背部に放散することがある・

舌質暗紫あるいは淤斑・淤点がある・脈細嗇あるいは結代

【証候分析】

1)息が詰まる,胸部の剌痛,痛みが肩背部に放散一血が心脈に淤滞するためにおこる。

2)心悸・正中・脈結代一血が心脈に淤滞し・心の鼓動が影響をうけるためにおこる。

3)脈嗇・舌質紫・あるいは淤点,淤斑がある一気滞血淤の象

【治 療】

治 法:活血化淤

処方例:通竅活血湯

【8】痰迷心窺証(たんめいしんきょう)
【臨床所見】

精神抑鬱・ひとりごとを言う・痴呆・表情が淡白・動作や振舞いに異常がみられる。突

然昏倒する・人事不省となる・痰涎が口から出る・喉に痰鳴がする・両目上視・手足が

痙攣する・奇妙な声を発する。舌苔白膩・脈滑。

【証候分析】

本証は癲癇病に多くみられる。癩証は,肝気鬱結のために気が鬱して痰が生じ,その痰

濁が心竅に影響しておこるものが多い。

1)精神抑鬱・表情が淡白―肝気鬱結のため,疏胆機能が失調しておこる。

2)痴呆・ひとりごと・異常な振舞い一痰迷心竅のため,心神が影響を受け,自制でき

 なくなるためにおこる。

 癇証は,臓腑の機能が失調し,痰潤が心経に内伏している状態にあるときに,肝風が

 内盛し伏痰とからんで心竅に影響しておこる発作である。

3)突然昏倒・入事不省・口がら痰涎が出る・喉に痰鳴がする―肝風内動によって,痰

 が風とともに動き心竅に迷入しておこる。

4)両目上視・手足の痙攣―肝は筋を主っているが,内風か動くと目系と筋膜に影響す

 るためにこれらの症状がおこる。

5)奇妙な声を発する―肝気が上逆し,さらに痰がこの上逆した肝気の影響を受けておこる。

6)舌苔白膩、脈滑―痰濁の象

【治 療】

治法:化痰開竅

処方例:蘇合香丸

【9】痰火擾心証(たんかじょうしん)
【臨床所見】

発熱・面赤・息が荒い・不眠・多夢・痰は黄色で粘稠・喉に痰鳴がある・便秘・尿赤・

舌質紅・舌苔黄膩(じ)・脈滑数。あるいは言語錯乱・精神異常・狂躁状態。

【証候分析】

1)発熱・面赤・息が荒い・便秘・尿赤  外感火熱の邪あるいは気鬱化火により,邪熱

 が盛んになるためにおこる。

2)痰は黄色で粘稠・喉に痰鳴がある―邪熱が津液に作用すると,痰を形成する。熱の

 影響で,痩は黄色て粘稠となる。

3)舌質紅・舌苔黄膩・脈滑数―痰熱の象

4)不眠・多夢・言語錯乱・狂躁状態・精神異常―痰と火が結合し,痰火となっで心神

 に影響するためにおこる。

【治 療】

治 法:清心豁痰開竅(豁(かつ)とは,切ること,開くこと)

処方例:蒙(ぼう)石滾(こん)痰丸

【10】小腸実熱証
【臨床所見】

 心煩・口渇・口や舌に瘡が生じる・小便が赤い・尿道に灼痛感がある・血尿・舌質紅・

 舌苔黄・脈数。

【証候分析】

1)小便が赤い・尿道灼痛  心と小腸とは表裏関係にあり,心熱が小腸に移るとこれら

  の症状がおこる。

2)心煩・口渇一心火が感んとなり,心神に影響ずると心煩がおこり,津を損傷すると

  口渇が生ずる。

3)口や舌に瘡が生じる一心火上炎による。

4)血尿―熱が強く,陰部の血絡を損傷するためにおこる。

5)舌質紅・舌苔黄・脈数  裏熱の象。

【治 療】

治 法:心と小腸の熱を清瀉する。 解説  清熱瀉火

処方例:導赤散

・大腸病弁証
 肺の病証には,虚証と実証がある。肺の虚証は気虚と陰虚が多く,実証は風寒燥熱など

の邪気の侵襲,あるいは痰湿阻肺によりおこるものが多い。

 大腸の病証には,湿熱によるもの,津液不足および陽気虚などがある。

 肺病の常見症状……咳嗽、気喘,胸痛など

 大腸の常見症状……便秘,泄瀉

【1】肺気虚証
【臨床所見】

咳喘・呼吸に力がない・動くと喘がひどくなる・声に力がない・痰はうすくて透明・顔

色は淡白あるいは光白・精神疲労・倦怠・舌質淡・脈虚弱。あるいは自汗・畏風・感冒

にかがりやすい。

【証候分析】

1)咳喘・呼吸に力がない一肺気虚のため,宗気が不足し,呼吸機能が低下しでおこる。

2)動くと喘がひどくなる一動くと気を消耗し,いっそう気虚を促進するために症状は

 増悪する。

3)声に力がない一肺気が不足すると,発声にも力がなくなる。

4)顔色淡白・精神疲労・倦怠・舌質淡苔白・脈虚弱―気虚の症候。

5)自汗・畏風・感冒にかがりやすい―肺気が虚して,衛気を肌表に宣発できなくなる

 と,自汗・畏風などが現れる。また,外邪の侵襲を受けやすくなり,感冒にがかり

 やすくなる。

【治 療】

治 法:補益肺気 解説  益気  補気  補肺

処方例:補肺湯

【2】肺陰虚証
【臨床所見】

咳嗽・無痰,あるいは痰は少なくて粘稠・口や咽喉部が乾く・消痩・午後潮熱・五心煩

熱・盗汗・顧紅・ひどい場合には痰中に血が混じったり,声がかすれる・舌紅少津・脈細数

【証候分析】

1)咳嗽一肺陰が不足したため,虚熱が内生し,そのために肺気が上逆しておこる。

2)無痰あるいは痰は少なく粘稠・口や咽喉部が乾く一陰虚内熱により,津液が損傷さ

 れるため,燥証が生ずる。

3)消痩・午後潮熱・五心煩熱・盗汗・顴紅―虚熱内盛と虚熱上炎の症候。

4)痰に血が混じる一一虚熱が肺絡を損傷しておこる。

5)声がかすれる一喉が陰津による潤いを欠き,さらに虚火が作用するためにおこる。

6)舌質紅少津・脈細数一陰虚内熱の象

【治療】

治法:滋陰潤肺

処方例:百合固金湯

【3】風寒束肺(そくはい)証〔束は,しばる,拘束の意〕
【臨床所見】
咳嗽・痰は希薄で白・鼻閉・鼻汁は水様・軽い悪寒発熱・無汗・舌苔白・脈浮緊。

【証候分析】

1)咳嗽・痰は希薄で色は白一風寒の邪により,肺の宣発機能が制約され気逆するた

めにおこる。また寒邪のために,痰は希薄て白い。

2)鼻閉・鼻汁は水様―鼻は肺の竅であり,肺気が失宣すると鼻竅の通りが悪くなるためにおこる。

3)悪寒発熱・無汗一風寒の邪が肺衛を犯し,衛気か抑えつけられると悪寒がおこり,

 正気が邪気と抗争すると発熱がおこる。また肺気不宣のため,毛竅が閉塞して無汗となる。

4)舌苔には著明な変化がない一邪がまだ内に伝わっていないためである。

5)脈浮緊一風寒の邪を感受しだ象。

 風寒束肺証と風寒表証の臨床所見は,非常に類似しているが,弁証の要点は次のとおりである。

 風寒束肺証:肺気不宣による咳嗽が主症であり,さらに風寒表証をともなう。一般に

       は表証は軽く,表証がほとんど現れない場合もある。

 風寒表証:悪寒発熱が主症であり,咳嗽は随伴症状として現れる。咳嗽のおこらないものもある。

 風寒束肺証の治療ポイントは宣肺止咳であり,風寒表証の治療ポイントは散寒解表である。

【治 療】

治 法:疏散風寒,宣肺止咳 解説 疏風  散寒

処方例:華蓋散

【4】痰湿阻肺証
【臨床所見】

 咳嗽・痰は多く粘稠・痰の色は白く喀出しやすい・胸悶・ひどい場合には気喘・痰鳴が

 おこる・舌質淡・舌苔白膩・脈滑。

【証候分析】

 肺は「貯痰の器]といわれるように,痰飲の邪に侵されやすい。寒湿が肺に侵襲ずるか,

または脾虚により生じた内湿が肺に貯留して,肺の宣粛機能を傷害すると,肺の通調水道

機能が失調して水液が肺に停留し痰湿となる。喀痰の量が多いのが喝徴である。

1)咳嗽・痰は多く粘桐・痰の色は白で喀出しやすい一痰湿のために,宣降機能が失調し,

  肺気上逆するために咳嗽がおこる。

2)胸悶・気喘・痰鳴―痰湿が気道に阻滞し,肺気不利となっておこる。

3)舌質淡・舌苔白膩・脈滑―痰湿内停の象,

【治 療】

治 法:燥湿化痰

処方例:平陳湯

【5】風熱犯肺証

【臨床所見】

咳嗽・痰は粘稠で黄色い・鼻閉・鼻汁は質色く粘稠・身熱・軽い悪風悪寒・口乾・因

痛・舌尖紅・舌苔薄黄・脈浮数。

【証候分析】

1)咳嗽―風熱が肺を犯し,肺の粛降機能が失調しておこる。

2)痰・鼻汁が粘稠で黄色い―風熱が液に作用すると黄色く粘稠になる。

3)鼻閉―風熱が肺を犯し,肺の宣散機能が失調すると,鼻竅不利となるためにおこる。

4)発熱・軽い悪風悪寒―肺衛が邪を受け,衛気か邪気と抗争すると,発熱がおこる。

 また衛気が抑えつけられると,悪風悪寒がおこる。

5)咽痛一咽喉は肺の門戸であり,風熱が肺を犯すと咽喉不利となって咽痛がおこる。

6)舌尖紅・舌苔薄黄一舌尖部は,上焦の病を主っている。上焦に位置ずる肺の熱を反

 映している。

7)脈浮数―風熱犯肺の現れである。

【治療】

治法:散風清熱止咳

処方例:桑菊飲

【6】熱邪壅肺証
【臨床所見】

咳嗽・痰は粘稠で黄色い・気喘・息が荒い・壮熱・口渇・煩躁不安・ひどい場合には鼻

翼煽動・衄血・喀血をともなう。肺癰(はいよう)になれば,壮熱が激しくなり,胸痛・膿血や生臭

い痰を吐く。便秘、小便短赤・舌質紅・舌苔黄・脈滑数。

【証候分析】

1)咳嗽一熱邪のために,肺気が上逆しておこる。

2)痰は粘稠で黄色い―肺熱が液に作用すると,痰は粘っこく黄色くなる。

3)気喘・息が荒い・呼吸困難―肺の清粛機能が失調しておこる。

4)壮熱・口渇・煩躁一裏熱の盛んな象。

5)鼻翼煽動一痰熱が絡んで肺道を滞らせ気道不利となると,肺気が鬱閉され鼻翼煽動が現れる。

6)鼻衄・喀血一熱が肺絡を損傷しておこる。

7胸痛一痰熱が肺絡に阻滞して気滞血壅となり,絡脈の気血が通暢しなくなるために痛みが生じる。

8)膿血・生臭い痰が出る―熱が盛んで勢癰を生じたもの。

9)便秘―裏熱が盛んで津液を損傷すると,揚に潤いがなくなるためにおこる。

10)小便短赤―裏熱が津を損傷しておこる。

11)舌質紅・舌苔黄―裏熱の現れである。

12)脈滑数―裏熱あるいは痰熱の象

【治療】

治 法:清肺泄熱,止咳平喘

処方例:麻杏甘石湯,千金葦茎湯


風来束肺・痰湿阻肺・風熱犯肺・熱邪壅肺の鑑別要点

症候
主症
隋伴症状
舌苔
脈象
風来束肺 咳嗽,痰は
水様で白滑数
鼻閉,鼻汁は水様
軽い悪寒発熱,無汗
舌苔白 浮緊
痰湿阻肺 咳嗽,痰は白で
多く喀痰しやすい
胸悶,気喘,喉に
痰鳴がある
舌質淡
舌苔白膩
風熱犯肺 咳嗽,痰は
黄色で粘い
鼻閉,鼻汁は黄色,身熱、悪風、口乾、咽痛
舌尖紅
舌苔薄黄
浮数
熱邪壅肺 咳嗽,気喘,
痰は黄色,高熱
口渇,煩躁、鼻翼煽動,衄胤、喀血,胸痛,膿血や生臭い痰を吐く
舌質紅
舌苔黄
滑数

 風寒束肺・痰湿阻郎・風熱犯肺・熱邪壅肺証には,共通しで咳嗽,痰の症状が現れるが,

その随伴症状はそれぞれ異なる。弁証要点は,上の表の通りです。

【7】大腸温熱証
【臨床所見】

腹痛・粘液使・裏急後重。あるいは激しい下痢(黄色い水櫛便)。肛門の灼熱感・小便

短赤・口渇をともなう。悪寒発熱,または但熱不寒が見られることがある。舌質紅・舌

苔黄膩・脈滑数。

【証候分析】

1)腹痛―湿熱が大腸に阻滞し,気機に影響するとおこる。

2)粘液便・膿血便一湿熱が腸道に影響して便に粘液・膿がまじる。また湿熱が脈絡を

 損傷すると出血する。

3)裏急後重  湿熱が,大腸の伝導機能を失調させるために生じる。

4)黄色い水緑便を下痢する―湿熱が大腸を犯して,湿が重ければ水様便となる。

5)肛門の灼熱痩一熱が腸道に作用しておこる。

6)小便短少・黄赤・口渇一裏熱の象。

7)悪寒発熱・担熱不寒一表邪未解の場合には悪寒発熱がおこり,邪熱が裏に入ると但

 熱不寒となる。

8)舌質紅・舌苔黄膩・脈滑数―湿熱内蘊〔内蘊(ないうん)とは,内にこもること〕の象である。

【治 療】

治法:清熱利湿

処方例:白頭翁湯

【8】大腸津虚証
【臨床所見】
大便秘結・排便困難・数田に一行・口乾・口臭・舌質紅少津・舌苔黄燥・脈細嗇。

【証候分析】

1)大便秘結・排使困難一久病による陰液の損傷や,熱病または出産時の出血過多など

 により,津液を損傷し大腸の潤いが不足したために生ずる。

2)口乾咽燥・舌質紅少津・舌苔黄燥一津液不足の象

3)口臭―大便秘結のため,濁気が下泄せず上逆しておこる。

4)脈細嗇―津虚液燥の現れである。

【治療】

治法:潤腸通便

処方例:潤腸湯

【9】腸虚滑泄証
【臨床所見】

下痢が止まらなくなる,あるいは大便失禁,ひどい場合には脱肛をともなう・腹部がシ

クシク痛む・喜熱喜按・舌質淡・舌苔白滑・脈沈弱。

【証候分析】

1)下痢が止まらなくなる・大便失禁・説肛一長期にわたる下痢により,陽気が虚脱し,

 大腸の固摂機能が失調したためにおこる。

2)腹痛・喜熱喜按一大腸の陽気が虚したため虚寒内生となり,この寒が気滞を引き起

 こしておこる。温め按ずると冷えが和らぎ楽になる。

3)舌質淡・舌苔白滑・脈沈弱――一一陽虚陰盛の象

【治療】
治 法:嗇腸固脱 解説  止痢  助陽

処方例:養臓湯

脾・胃病弁
 脾胃の病証には,寒証・熱証・虚証・実証がある。脾病では、陽気虚衰のため運化機能

が失調し,そのため水湿や痰飲か内生しておこる病証、あるいは統血機能が失調しておこ

る出血病証がよくみられる。また胃病では,受納機能や腐熟機能の障害,あるいは胃気上

逆の病変がよくみられる。

【1】脾気虚証
【臨床所見】

 食少・腹脹・食後に腹膜は増強・大便溏薄・倦怠・息切れ・頼言・顔色は萎黄・消痩・

 舌質淡・舌苔白・脈緩弱。

【証候分析】

1)食少・腹脹―脾気が虚弱なため,運化機能が低下すると,食少や腹脹がおこる。ま

  た食事をとると,脾に負担がかがるため,食後に腹脹が増強する。

2)大便溏薄―脾虚のため,水湿をうまく運化できなくなり,水湿が腸に流れると大便

 塘薄となる。

3)倦怠・脱力感・息切れ・懶言・顔色萎黄一気虚の症候。

4)消痩一脾気が虚弱なため,水穀の精微を充分に吸収。輸布できなくなり生じる。

5)舌質・舌苔・脈緩弱一脾気虚弱の象。

【治 療】

治法:益気健脾

処方例:六君子湯

【2】脾陽虚証
【臨床所見】

腹膜・食欲不振・腹痛・喜温喜按・大便溏薄あるいは完穀不化,四肢不温・舌質・舌

滑・脈沈遅無力・身体や手足がだるい・浮腫・小便不利・帯下が水様で量が多い。

【証候分析】

1)腹膜・食欲不振一脾気虚が長期にわたるなどによって中焦に虚寒を生じ,脾陽を損

 傷したため,運化機能が低下しておこる。

2)腹痛・喜温喜按一脾陽虚哀のため虚寒が内生し,寒の収引の性質のために気滞を引

 きおこすと腹痛がおこる。寒が関係しているので温めると緩解し,虚証であるので按

 じると緩解するという特徴がある。

3)大便塘薄あるいは完穀不化*―脾陽虚のため水湿不化となり,この水湿が揚に流れて

 おこる。脾気虚証の場合より水様性がつよいかまたは未消化である。

4)四肢不温―脾胃は四肢を主っているが,脾陽虚となって四肢を温めることかできなくなるとおこる。

5)小便不利・浮腫一陽虚による水湿不化のため水湿が内停し,水液の輸布が失調する

 ためにおこる。

6)身体や四肢がだるい―陽気の不足と水湿内停の影響によって生じる。

7)帯下が水様で量が多い一帯脈の機能が低下し,水湿が下注しておこる。

8)舌質淡胖・舌苔白滑・脈沈遅無力―腸虚,水湿内盛の象である。

【治療】
治 法:温陽健脾

処方例:附子理中九、人参湯

【3】中気下陥証
【臨床所見】

完腹部に下垂感と膨満感があり、食後増悪する。息切れ・倦怠・脱力感・声が低く懶言

頭暈・目眩・舌質・舌苔・脈弱。あるいは慢性の下痢・脱肛・子宮脱などをともなう。


【証候分析】

1)内臓下垂―脾気虚のため,昇提機能が低下して焦の気が下陥しておこる。胃下垂が多い。

2)完腹部の下垂感と膨満感―中気不足のため,昇挙無力となり,胃が下垂しておこる。

 飲食物が入ると気陥がひどくなるので、症状は増悪する。

3)しばしば便意がおこる・下痢・脱肛―中気下陥の症候。

4)子宮脱一脾気虚のため昇挙無力となりおこる。

5)息切れ・倦怠・脱力感・声が低く懶言―脾気不足の症候。

6)頭暈・目眩―脾気下院により,清腸の気が頭部に到達しないためにおこる。

7)舌質淡・舌苔白・脈弱―脾気虚弱万象

【治 療】

治 法:益気昇提

処方例:補中益気湯

【4】脾不統血証
【臨床所見】

血便・血尿・肌超・歯衄・月経出血過多・崩漏。食少・大便泄薄・精神疲労・脱力感・

息切れ・懶言・顔色がずぐれない・舌質淡・舌苔白・脈細弱。

【証候分析】

1)各種出血―脾気が虚して統血機能が氏下すると,各種出血症がおこる。

2)月経出血過多・崩漏―脾虚のため,統血機能が低下し,衝任不固になったためにおこる。

3)食少・大便溏薄・息切れ・懶言など・舌脈所見一脾気虚の症候。

【治 療】

治 法:益気摂血

処方例:帰脾湯

【5】寒湿困脾証
【臨床所見】

完腹部のつかえ・脹痛感・食少・大便溏薄・悪心・口淡・口渇はない・頭や身体が重だ

るい・顔色晦黄・舌質淡胖・舌苔白膩・脈濡緩。肌膚や顔目が黄色い・浮腫・小便短少。

【証候分析】

1)完腹のつかえ・脹痛・食欲減退―寒湿が浸入したために,脾陽が傷害され運化

 能が失調する結果おこる。

2)大便溏薄・泄瀉一運化機能の失調と水湿のためにおこる。

3)悪心欲吐―胃失和降によりおこる。

4)口淡―寒湿が味覚を低下させると口淡となる。水湿が盛んなため口渇はない。

5)頭や身体が重だるい―湿には「重着」という特性があるため,湿が肌肉に影響すると身体が

 重だるくなる。また湿に阻まれて,清陽が頭部に充分昇れなくなると頭重となる。

6)顔色晦黄一湿により気滞がおこり,気血の運行が悪くなっでおこる。

7)浮腫―寒湿が肌膚に溢れておこる。

8)小便短少一膀胱の気化機能が失調しておこる。

9)舌質淡・舌苔白膩・脈濡緩一寒湿内盛の象。

【治療】

治 法:温中健脾利湿

処方例:参苓白朮散

【6】脾胃温熱証
【臨床所見】

完腹のつかえ・嘔悪厭食・身体や四肢か重だるい・下痢・尿黄。面目や肌膚が黄色く

なる(色は鮮明)・皮膚蚤痒。身熱があり,汗が出ても解熱しない。舌質紅・舌苔黄膩・

脈需数

【証候分析】

1)完腹のつかえ・嘔悪厭食―湿熱の邪が脾胃に蘊結して,受納と運化機能に影響し,

 そのため昇降機能が失調しておこる。

2)身体や四肢が重だるい一湿の「重着]という特性により,肌肉を主っている脾が影

 響を受けておこる。

3)下痢・小便短赤一脾胃に湿熱が蘊結したためにおこる。

4)蚤痒・黄疸―湿熱が脾胃に蘊結し,そのため胆汁が肌膚に外溢しておこる。

5)身熱・汗が出ても解熱しない一熱が湿中にあって,湿熱が鬱蒸するとおこる。

6)舌質紅・舌苔黄膩・脈濡数一舌質紅,舌苔黄は熱を反映し,苔膩は湿を反映する。

 また濡脈は湿,数脈は熱と関体がある。これらは内に湿熱がある象である。

【治 療】

治 法:清利脾胃湿

処方例:菌陳蒿湯,王氏連朴飲

胃病寒熱虚実鑑別表

証 候
疼痛の性質
心味と口渇
大 便
舌 象
胃  寒
冷 痛
清  水
口淡不渇
便 溏
舌淡苔白
胃  熱
灼 痛
呑  酸
渇喜冷飲
秘 結
舌紅苔黄
胃陰虚
隠 痛
日咽乾燥
乾 結
舌紅少苔
食滞胃光
脹 痛
酸腐物
口中腐臭
酸 臭
苔 厚 膩

【7】胃陰虚証
【臨床所見】

胃完隠痛・空腹感はあるが食べたがらない・口燥・咽乾・大便乾結・あるいは胃完部が

つがえる・乾嘔・しやっくり・舌質紅少津,脈細数

【証候分析】

1)胃完部がシクシク痛む,空腹感はあるが食べたがらない―胃陰不足のため,胃陽が

 亢進して虚熱が内生し,熱が胃中に鬱して胃気不和となるためにおこる。

2)口燥・咽乾・大便乾結一胃陰が虚して咽喉部を潤すことができないと,口燥・咽乾

 が生じ,津液が不足するため大便が枯燥し乾結する。

3)胃完部がつかえる・乾嘔・しやっくり―胃が陰液の滋潤を受けられず,胃気不和となると

 胃完部のつがえがおこる。また虚熱のため胃気が上逆すると,乾嘔、しやっくりがおこる。

4)舌質紅少津・脈細数 陰虚内熱の象

【治 療】

治 法:滋補胃陰

処方例:沙参麦門冬場

【8】食滞胃完証
【臨床所見】

胃完脹悶,あるいは疼痛・曖気・呑酸あるいは腐敗物を嘔吐する・嘔吐後に脹痛は軽減

する・失気・泥状便あるいは下痢・舌苔厚膩・脈滑。

【証候分析】

1)胃完部の脹悶感、疼痛一食滞のために,胃気が鬱滞しておこる。

2)愛気・呑酸・嘔吐一胃失和降となり,胃気が上逆しておこる。

3)嘔吐後に脹痛は軽減する一嘔吐すると食滞が排出されるため,胃気が通じるように

 なり脹痛は軽減する。

4)失気・泥状便・下痢―食積気滞となり,食積が消化されないとおこる。

5)舌苔厚膩―食滞のため,胃中の濁気が舌に影響して現れる。

6)脈滑有力一正気と邪気が抗争し,気血が盛んになっているので,この脈が現れる。

【治 療】

治 法:消食導滞

処方例:保和丸

【9】胃寒証
【臨床所見】

 胃完部の疼痛,軽いものではジワジワ痛み,重いものでは拘急し激痛がおこる・寒冷刺

 激により増強し,温めると軽減する。四肢の冷え・食後に疼痛は軽減する・口から希い

 唾液が帯れる。舌質淡・舌苔白・脈遅あるいは弦緊。

【証候分析】

1)胃完部の疼痛―腹部を冷やしたり,なま物を過食したために,寒邪が胃腑に停滞し,

 絡脈が収縮して気機が鬱滞した結果おこる。

2)寒温の刺激により疼痛が変化する一冷たい刺激を受けると,寒が盛んになるため,

 症状は増強する。逆に温めると,胃寒が緩和するので疼痛は軽減する。

3)四肢の冷え一陽気の温煦を得られないとおこる。

4)食後、疼痛は軽減する一食をとると陽気が奪いたつので,疼痛は軽減する。

5)口がら希い唾液が流れる一胃寒のため水液を温化できず,口中に希いつば(清水)

 が溢れてくる。

6)舌質淡・舌苔白・脈遅あるいは弦緊一寒邪による象

【治 療】

治 法:温胃散寒

処方例:高良姜湯,小建中湯

【10】胃熱証
【臨床所見】

 胃完部の灼熱痛・呑酸曹雑・口渇があり冷飲する・消穀善飢。食をとると吐く・胃

 痛・口臭。歯齦腫痛歯衄・大便秘結。舌質紅舌苔黄・脈滑数。

【証候分析】

1)胃完部の灼熱痛一平素から辛い物や油っこい物を偏食していると,化熱化火しやす

 い。また情志が安定しないと,気鬱化火になりやすい。このようにして生じた熱が胃

 に作用し,胃腑絡脈の気血を阻滞すると灼熱痛がおこる。

2)呑酸曹雑・嘔吐・食をとると吐く一胃熱のために胃の受納機能か失調し,胃気が

 上逆しておこる。

3)口場があり冷飲する―胃熱が盛んになり,津液を損傷するためにおこる。

4)消穀善飢―胃熱が盛んなためにおこる。

5)歯齦腫脹・疼痛・化膿・出血一胃経は歯齦を絡っている。胃火が循経して上衝する

  と,これらの症状が現れる。

6)大便秘結一熱が盛んで律液を損傷し,大腸の潤いがなくなっでおこる。

7)舌質紅舌苔黄・脈滑一裏実熱の象

【治 療】

治法:清胃瀉火

処方例:清胃散

肝・胆病弁証
 肝の病証には,虚証と実証のものがある。虚証には肝陰不足,肝血不足が多くみられる。一方,実証には気鬱、火盛および寒邪や湿熱の侵犯によりおこるものが多い。

 肝病の常見症状…胸脇・少腹部の脹痛・放散痛・煩躁・易怒・頭暈・
             四肢のふるえ・手足の痙攣・目疾・月経不順・睾丸脹痛など。

 胆病の常見症状…口苦・黄疸・驚悸・不眠など

【1】肝気鬱結証

【臨床所見】

胸脇あるいは少腹部の脹痛・放散痛・胸悶・よく溜め息をつく・精神抑鬱・易怒・脈弦。

梅核気・頸部の嬰瘤・徴塊。婦人では乳房の脹痛・痛経・月経不順・閉経などが現れるこ

とがある。

【証候分析】

1)胸脇,乳房,少腹部の脹痛・放散痛―肝は疏泄を主っており,条達を喜ぶ。精神抑

 鬱や精神的刺激により肝気が鬱結し,経気がスムーズに流れなくなると,肝経の流注

 している部位に脹痛と放散痛がおこりやすくなる。

2)精神抑鬱―肝の疏泄機能は情志を調節している。気機が鬱結して条達,疏泄が失調

 すると,精神抑鬱が生じる。

3)イライラ・易怒―情志抑鬱のため,肝の柔順でのびやがな性質が失調しておこる。

4)梅核気・嬰瘤―気が長期にわたって鬱しているために痰を生じ,痰が気に随って循

 綾上逆し,咽喉部に結すると梅核気となる。またこれが頸項部に積聚すると嬰瘤となる。

5)徴塊一気鬱の状態が長期にわたって解さず,気と血が結すると徴塊が生じる。

6)月経不順・経行時の腹痛・閉経―肝の疏泄機能が低下すると月経が遅れがちとなる。

 また気鬱が長びくと,気の病が血に波及し,気滞血淤衝任不調となり,これらの症

 状がおこる。

7)弦脈―肝病の現れである。

【治療】

治法:疏肝理気解鬱

処方例:柴胡疏肝散

【2】肝火上炎証

【臨床所見】

頭暈・頭部の脹痛・面紅・目赤・口苦・口乾・イライラ・易怒・不眠・悪夢を見る・胸

脇部の灼熱痛・便秘・尿黄・耳鳴り・舌質紅・舌苔黄・脈弦数

【証候分析】

1)頭暈・頭部の脹痛・面紅・目赤―情志の失調により肝鬱化火となり,肝火が頭部や

 目に上攻しておこる。

2)口苦―肝熱が表裏の関係にある胆に伝わると胆熱が口苦を生じる。

3)口乾―火熱により津が損傷しておこる。

4)イライラ・易怒―肝の条達,柔順の特性が失調しておこる。

5)不眠・悪夢―火熱か内擾し,心神に影響しておこる。

6)胸脇部の灼熱痛―肝火のために気血が肝絡に阻滞しておこる。

7)便秘・尿黄―熱が感んで津を損傷するためにおこる。

8)耳鳴り―足少陽胆経は耳中に入っているが,肝熱が胆に伝わり,胆熱が循経により

 耳に伝わると,耳鳴りがおこる。

9)舌質紅・舌苔黄・脈弦数―肝経の実火が盛んな現れである。

【治 療】

治 法:清瀉肝火

処方例:竜胆瀉肝湯

【3】肝陽上亢証

【臨床所見】

 眩暈・耳鳴り・頭部や目の脹痛・面紅・目赤・イライラ・易怒・不眠・多夢・腰や膝の

だるさ・頭が重く足がふらつく・舌質紅・脈弦有力あるいは弦細数。

【証候分析】

1)眩暈・耳鳴り・頭部や目の脹痛・面紅・目赤一肝腎の陰が不足し・肝陽が亢盛とな

 り,上衝するとおこる。

2)イライラ・易怒―肝の条達,柔順の性質が失調しておこる。

3)不眠・多夢―陰虚のため,心神不安となっておこる。

4)腰や膝のだるさ―腰は腎の府であり,膝は筋の府である。肝腎陰虚となって筋脈が

 栄養されないと,腰や膝がだるくなり無力となる。

5)頭部が重く足かふらつく一肝陽が上部で亢進し,陰液が下部で虚し,上盛下虚とな

 っておこる。

6)舌質紅・脈弦有力あるいは弦細数―肝腎陰虚,肝陽亢進の象。

【治療】

 治 法:滋陰平肝潜陽

 処方例:天麻鈎藤飲

【4】肝血虚証

【臨床所見】

眩暈・耳鳴り・顔色は白っぽく艶がない・爪甲の色も悪く,脆くなる・多夢・視力減退

あるいは夜盲症。四肢のしびれ・関節拘急不利・手足のふるえ・肌肉がピクピク柩車す

る。婦人では月経の量の減少,経色淡,あるいは閉経となる。舌質淡・舌苔白・脈弦細。

【証候分析】

1)眩暈・耳鳴り・顔色は白っぽく艶がない一肝血不足のため,頭顔面部が十分に滋養

 されないためにおこる。

2)爪甲の色が悪く,脆くなる―肝は筋を主り,爪は筋の余である。肝血不足になり,

 爪の栄養が悪くなるためにおこる。

3)多夢―血虚のため心神に影響しておこる。

4)視力減退・夜盲症一肝は目に関竅している。肝血が不足して目を滋養できないと,

 目の障害が現れる。

5)四肢のしびれ・関節拘急不利・手足のふるえ・肌肉の痙攣一肝血が筋脈を滋養でき

 ないと,これらの症状が現れる。

6)月経量の減少,経色淡,閉経一肝血が不足し,血が衝・任脈に充足しないためにおこる。

7)舌質淡・舌苔白・脈細―血虚の象。

【治 療】

治 法:益肝

処方例:補肝湯


肝気鬱結,肝火上炎,肝陽上亢、肝血虚,肝陰虚証の鑑別表

証 候
性 質
舌 象
脈 象
肝気鬱結
実 証
胸脇,少腹部の脹痛,
胸悶,よく溜め息をつく,
易怒,月経不順
舌苔 薄白
肝火上炎
熱 証
頭暈脹痛,耳鳴り,
面赤目赤 イライラ,
便秘尿黄,脇肋灼痛
舌紅 苔黄
弦 数
肝陽上亢
本虚

標実

眩暈,耳鳴り,頭目脹痛,面紅目赤,心悸健忘,
腰や膝がだるい,
頭重のふらつき
舌質紅
弦有力
または
弦細数
肝 血 虚
虚 証
眩暈,耳鳴り,経量少
顔が白く艶がない,
爪が悪い,四肢のシビレ,
舌淡 苔白
弦 細
肝陰虚証
虚 証
眩暈,耳鳴り,脇痛,
目が乾く,顔のほてり,
潮熱,盗汗,手足躍動
舌紅 少津
弦細数

【5】肝陰虚証

【臨床所見】

頭暈・耳鳴り・両目が乾く・顔面部がほてる・脇肋部の灼熱痛・五心煩熱・潮熱盗汗,

口咽乾燥・手足のふるえ・舌質紅少津・脈弦細数

【証候分析】

1)頭暈・耳鳴り・両目の乾き一肝陰不足のため頭部や目を滋養できないためにおこる。

2)顔面部のほてり一虚火上炎の現れである。

3)脇肋部の灼熱感・疼痛一肝絡に虚火が作用しておこる。

4)五心煩熱・午後の潮熱・盗汗―虚熱の症候

5)ロ咽部の乾き一陰虚内熱による。

6)手足のふるえ―肝陰虚となり,筋脈を滋養できないとおこる。

7)舌質紅少津―陰虚内熱の象である。

8)脈弦細数一肝陰虚で虚熱があることを現している。

【治療】

治 法:滋補

処方例:一貫煎,杷菊地黄丸

【6】肝風内動証

 肝の失調により内風を生じ眩暈・痙攣・ふるえなどの「動揺」を特微とする症状が現れ

るものを,肝風内動という。これには肝陽化風・熱極生風・陰虚動風・血虚生風などがあ

る。このうち陰虚動風は肝陰虚を,血虚生風は肝血虚を基本病証として,動揺の症状が出

現したものである。肝陰虚・肝血虚の項を参照のこと。ここでは肝陽化風証と熱極生風証

を説明する。

1.肝陽化風証

【臨床所見】

眩暈・頭部が揺れる・頭痛・項部の強ばり・手足のふるえ・しびれ・ろれつがまわらな

い・まっすぐに歩けない・突然昏倒する・人事不省となる・顔面神経麻痺・片麻痺・舌

強・喉に痰鳴がする・舌質紅・舌苔白あるいは膩・脈弦有力。

【証候分析】

1)眩暈・頭部が揺れる―平素から肝腎の陰が不足している場合は,肝陽をうまく抑制

 できない。そのため肝陽が妄動して内風を生じ,肝風となって頭部や目に影響すると,

 これらの症状が現われる。

2)頭痛―気血が肝陽・内風とともに上逆し,頭部の絡脈に阻滞しておこる。

3)項部の強ばり,手足のふるえ一風動によりおこる。

4)ろれつがまわらない一足厥陰肝経は舌本を絡っているが,肝陽・内風が絡脈に影響

 することによりこの症状が現われる。

5)手足のしびれ―――肝腎陰虚のため,筋脈が滋養されないとおこる。

6)まっすぐに歩けない―上部で風動がおこり,下部で陰分が不足し,上盛下虚となる

 とおこる。

7)突然昏倒・人事不省一肝陽と内風が急激に昇って気血が逆乱し,肝風に痰がからん

 で清竅を蒙閉するためにおこる。

8)片麻痺・顔面神経麻痺―風痰が脈絡に影響し,患側の気血の運行が悪くなり筋が弛

 緩するためにおこる。

9)舌の強ばり―痰が舌根に阻滞しておこる。

10)喉の痰鳴一痰が風とともに昇っておこる。

11)舌象―舌質紅は陰虚,白苔は邪気がまだ化火していないことを表している。また膩

 苔は,痰によるものである。

12)脈弦有力一肝風と内風が擾動する現れである。

【治 療】

治 法:平肝熄風(そくふう)

処方例:鎮肝熄風湯

2.熱極生風証

【臨床所見】

高熱・意識不明・手足の痙攣・頸項部の強直。ひどい場合には角弓反張・両眼上視・牙

関緊急などがおこる。舌質紅あるいは絳、脈弦数

【証候分析】

1)高熱―熱邪が強いため。

2)意識障害―熱が心包に伝わり,心神に影響しておこる。

3)手足の痙攣・頸項部の強直・角弓反張・両眼上根・牙関緊急一熱の勢いが強く肝経

 に影響して肝風を誘発し,そのため筋脈が攣急しておこる。

4)舌質紅絳一熱が営血に入っている現れである。

5)脈弦数―肝経火熱の象。

【治 療】

治法:清熱熄風

処方例:紫雪丹,至宝丹

【7】寒滞肝脈証

【臨床所見】

 少腹部の冷痛(睾丸に放散)・陰嚢の収縮・疼痛。寒冷刺激により症状は増悪,温める

 と緩解する。舌苔白滑・脈沈弦あるいは遅。

【証候分析】

1)少腹部の冷痛が睾丸に放散―足厥陰肝経は外陰部,少腹部に流注している。寒邪が

 肝経に侵襲し,陽気が阻害され気盛の運行が悪くなると,この症状がおこる。

2)陰嚢の収縮・疼痛―寒には,収引させる特性があるので筋脈が拘急しておこる。

3)疼痛一寒は気血を滞らせ,熱は気血の流れを回復する。したがって寒冷刺激により

 疼痛は増悪し,温めれば緩解する。

4)舌苔白滑一陰寒内盛の象である。

5)脈象一沈脈は裏証を,弦脈は肝病を表している。また遅派は寒象を表している。

【治 療】

治 法:暖肝散寒

処方例:暖肝煎

【8】胆鬱痰擾証

【臨床所見】

 驚悸・不眠・煩躁・口苦・悪心・嘔吐・胸悶・脇脹・頭暈・目眩・耳鳴り・舌苔黄膩・

脈弦滑。

【証候分析】

1)驚悸・不眠・煩躁一情志の失調により胆の疏泄が失調して,気機が鬱滞し,痰と火

 を生ずれば、この痰火が内擾するため胆気が不安定となってこのような症状が現れる。

2)口苦―胆熱によりおこる。

3)悪心・嘔吐―胆熱が胃に影響し,胃気が上逆しでおこる。

4)胸悶・脇脹一胆気が鬱滞しておこる。

5)頭暈・目眩・耳鳴り一痰熱が循経上擾しておこる。

6)舌苔黄膩・脈弦滑一痰熱内蘊の象である。

【治 療】

治法:利胆化痰清熱

処方例:黄連温胆湯

【9】 肝胆湿熱証

【臨床所見】

イライラ、頭痛 胸脇部の脹つた痛み(とくに右側)および圧痛・口が苦い・口渇するが水分は欲しくない・

呑酸・悪心・嘔吐・腹部膨満感・飲欲不振・四肢がだるい・いらいらして怒りっぽい・尿が濃い・

便秘あるいは軟便ですっきり出ない・黄疸をともなうことが多い・同時に発熱がみられます。

起伏する持続性の発熱あるいは、往来寒熱を呈します。

女性では悪臭のある黄色帯下・外陰部の掻痒などもみられます。

舌質は紅・舌苔は黄肌・脈は弦数です。

【証候分析】

湿熱の邪によって肝胆の疏泄作用が障害されたものです。肝臓および胆道系の炎症が主で、

胆汁の排泄障害・自律神経系の失調・水分代謝障害などをともなったものと考えられます。

湿熱の邪の感受・刺激物の摂取過多や飲酒あるいは美食の習慣などによって発生します。

急性肝炎・胆のう炎・胆石症などでみられます。

【治 療】

治法:

清熱利湿・疏肝利胆です。菌蔭言・沢潟・木通・滑石・猪苓・赤小豆・金銭草などの清熱

利湿薬を主とし、竜胆草・山楯子・黄苓・黄柏などの情熱薬、柴胡・欝金・青皮・枳実などの

疏肝解欝薬、大黄・芒硝などの潟下薬を加えます。

処方例:

清熱去湿剤…菌陳嵩湯。

清臓腑熱剤…竜胆潟肝湯。

解表攻裏剤…大柴胡湯。

*胆石…胆道排石湯

腎・膀胱病弁証
 腎は元陰と元陽を蔵している。元陰と元陽は,人体の生長・発消の根源であり,臓腑機

能活動の根源とされている。そのため腎が損傷されると,諸臓はその影響を受けやすい。

また腎の病証には,虚証が多い。腎陽虚・腎陰虚・腎精不足・腎気不固・腎不納気などで

ある。一方,膀胱の病では,湿熱証が多くみられる。

 腎病の常見症状……腰や膝のだるさ,疼痛・耳鳴り・難聴・白髪・脱毛・陽萎・

遺精・男性不妊症・月経量の減少・閉経・浮腫・二便異常など

 膀胱の常見症状……頻尿・尿急・尿痛・尿閉・遺尿・小便便失禁など

【1】腎陽虚証

【臨床所見】

腰や膝のだるさ,疼痛・畏寒・四肢が冷える,特に下肢が冷える・精神不振・顔色がす

ぐれない・陽萎・不妊・浮腫,特に下肢に多い・舌質淡胖・舌苔白・脈沈弱。

【証候分析】

1)腰・膝のだるさ,疼痛―陽虚のため,腰および骨格を温煦できないとおこる。

2)畏寒・四肢の冷え―陽虚のため,肌膚を温煦できないとおこる。

3)精神不振・無力―陽気不足のためにおこる。

4)顔色がすぐれない一陽虚のため,気血を推動する力が衰えておこる。

5)陽萎・不妊一腎陽不足,命門火衰により生殖機能が減退するためにおこる。

6)浮腫一腎陽が不足して水液代謝が失調し,膀胱の気化機能に障害が生じると,水液

 が内停するためにおこる。

7)舌質淡胖・舌苔白・脈沈弱―腎陽虚の象。

【治 療】

治法:温補腎

処方例:八昧地黄丸,真武湯(陽虚水泛証)

【2】腎陰虚証

【臨床所見】

腰や膝のだるさ,疼痛・眩暈・耳鳴り・不眠・多夢。男性では遺精,女性では経少,

閉経あるいは崩漏がみられる。消痩・頭髪が枯燥し,艶がなくなる,潮熱・盗汗・五心

煩熱・咽乾・顴部が紅潮する。舌質紅・少津・脈細数

【証候分析】

1)腰や膝のだるさ,疼痛一腎陰不足のため,骨髄が弱くなっておこる。

2)頭暈・耳鳴り  腎陰不足のため,髄海(脳)が滋養されないとおこる。

3)不眠・多夢―心腎の水火は相互に助けあっている。そのため,腎水が虚すと水火の

 バランスが失調し,心火が亢進して心神に影響すると,これらの症状かおこる。

4)遺精―腎陰虚のため,相火が妄動しておこる。

5)月経量の減少,閉経―陰液が不足し,経血の来源が不足するためにおこる。

6)崩漏一陰虚陽亢のため虚熱が生じ,虚熱が血に影響しておこる。

7)頭髪が枯燥し,艶がなくなる―腎陰不足のため,毛髪が滋養されないことによっておこる。

8)消痩・潮熱・盗汗・五心煩熱・咽乾・顴紅一陰虚内熱の症候

9)舌質紅・少津・脈細数―陰虚内熱の象である。

【治療】

治 法:補腎

処方例:六昧地黄丸、知柏地黄丸(陰虚火旺証)

【3】腎精不足証

【臨床所見】

小児では発育が遅い・身体が小さい・知能の発達が悪い・動作がにぶい・泉門の閉鎖が

遅い・骨格が軟弱であるなど。

成人では男性不妊,女性では閉経・不妊。また。性機能の減退・早期に現れる老化現象・

脱毛・歯が抜けやずくなる・耳鳴り・難聴・健忘・足に力が入らないなど。

【証候分析】

1)発育が遅い・身体が小さい一腎は精を蔵し,生長・発育の根源である。腎精が不足

 していると,気血を化生し肌肉や骨を滋養することができなくなるため,成長の障害

 かおこる。

2)知能の発達が悪い,動作かにぶい―腎精不足のため,脳髄が充足されないとおこる。

3)泉門の閉鎖が遅い・骨格が軟弱・足に力が入らない―腎精が虚し髄を養えないと,

 骨格を滋養できなくなり,また筋骨に力が入らなくなるためにおこる。

4)不妊症,閉経・性機能減退―腎精の不足のために,生殖機能が哀えておこる。

5)脱毛―腎の華は髪に現れる。腎精が不足すると脱毛しやすくなる。

6)歯が動く,あるいは抜ける一歯は骨の余である。骨が腎精の滋養を十分に受けられ

 ないと歯も影響を受ける。

7)耳鳴り・難聴・健忘一耳は腎の竅であり,脳は髄海と称されている。精が少なくな

 り髄が虚すと,髄海が空虚となるために,これらの症状がおこる。

8)早期の老化一腎精が虚衰すると老化が早くなる。

【治 療】

治法:

処方例:大補元煎,河東大造丸

【4】腎気不固証

【臨床所見】

顔色が白い・精神疲労・聴力減退・腰や膝がだるい・頻尿・残尿・遺尿・小便失禁・夜

間頻尿・遺精・早漏・水様の帯下・流産しやすい・舌質淡・舌苔白・脈沈弱。

【証候分析】

1)顔色が白い・精神疲労・聴力減退―腎気虚のため,気血が顔や耳を養えないとおこる。

2)腰や膝かだるい一腎気が骨格を温養できないためにおこる。

3)排尿の異常一腎気虚のため,膀胱先約など排尿を十分にコントロールできなくなり,

 この症状がおこる。

4)遺精・早漏―腎精は,腎気の固摂機能により漏出せすに腎に蔵されている。腎気か

 不足し,精を固摂できなくなると遺精・早漏がおこりやすくなる。

5)帯下・滑胎〔習慣性流産〕一覧気不足のため,帯脈に対する固摂機能が低下したり,

 任脈を充分滋養できないとおこる。

6)舌質淡・舌苔白・脈沈弱―腎気虚の象。

【治 療】

治 法:補腎固摂

処方例:固精丸

【5】腎不納気証

【臨床所見】

 息切れ・喘息・呼多吸少,動くと増悪・自汗・四肢不温・腰膝がだるく痛む・咳をする

 と小便が漏れる・舌質淡・脈沈無力または浮大無力。

【証候分析】

1)息切れ・喘息・呼多吸少,動くと増悪―腎の納気作用が減退するためにおこる。ま

 た動くと気を消耗するので,これらの症状は増悪する。

2)自汗一腎虚で陽が衰え,衛表不固となるためにおこる。

3)四肢不温一陽虚のために,陽気が四肢に達しないためにおこる。

4)腰膝がだるく痛む―腎虚の現れである。

5)咳をすると小便が漏れる―腎虚により,膀胱の開合が失調するためにおこる。

6)舌質淡・脈沈無力・浮大無力―腎気虚の象

【治 療】

治 法:補腎納気

処方例:人参胡桃湯

【6】膀胱温熱証

【臨床所見】

頻尿・尿急・尿道の灼熱痛・尿は黄色で短少・小腹脹悶。発熱・腰痛をともなうことが

ある。血尿・尿に砂状の結石をともなう。舌質紅・舌苔黄膩・脈滑数。

【証候分析】

1)頻尿・尿道の灼熱痛―湿熱の邪が膀胱に侵襲し,熱が尿道に急迫するためにおこる。

2)尿は黄色で短少,小腹脹悶―湿熱が内にこもり,膀胱の気化機能が失調しておこる。

3)発熱―湿熱鬱蒸によりおこる。

4)腰痛―湿熱が腎に波及しておこる。

5)血尿一湿熱が血絡を損傷するとおこる。

6)尿に砂状の結石が混じる一湿熱が長期に鬱すると,砂状の結石を生じることがある。

7)舌質紅・舌苔黄膩・脈滑数一湿熱の象,

【治 療】

治 法:清利膀胱湿熱

処方例:八正散

臓腑相関弁証
 臓と臓あるいは臓と腑のあいだには,生理上,密接な関係があるため,病理においても

相互に影響しあうことが多い。臓病は,他の臓や腑に波及すること印あり,また腑病も他

の腑や臓に波及することがある。 2つ以上の臓器が相目次いで,あるいは同時に発病するも

のを臓腑兼病という。

 臓腑兼病には,臓と腑の表裏関体の病変があるか,これについては五臓弁証のところで,

すでに述べている。したがりてここでは,そのほがの臓腑兼病について紹介する。

【1】心腎不交証

 生理的には,心陽(火)は腎に下降して腎水を温めており,また腎陰(水)は上に作用

して心火が亢進しすぎないように,心火を養っている。水と火が助けあうこのような状態

を心腎相交という。

 久病・労倦・性生活の不摂生などにより,腎水が不足したために心火が亢進したり,あ

るいは思慮過多や情志失調により心火が上部で亢進したために,下にある腎と相交できな

くなって,心腎の陰陽水火の協調関係が失調しておこる病証を,心腎不交という。

【臨床所見】

心煩・不眠・心悸・健忘・頭暈・耳鳴り・腰がだるい・遺精・五心煩熱・咽乾・口燥・

舌質紅・脈拍数

【証候分析】

1)心煩・不眠―腎と心の相交状態が崩れて,心陽が亢進すると,心神に影響するため

 におこる。

2)頭暈・耳鳴り・健忘―腎精が虚して,脳髄を滋養できなくなっておこる。

3)腰のだるさ―腎虚の現れである。

4)遺精―虚火が精室に影響しておこる。

5)五心煩熱・咽乾・口燥―水虚火亢(陰虚火旺)の現れである。

6)舌質紅,脈斜数一陰虚内熱の象

【治療】

治 法:交通心腎,滋陰降火

処方例:交泰丸,黄連阿膠湯

【2】心脾両虚証

 心血の不足と脾気の虚弱が,ともに現れる病証である。病後の養生か悪かったり。慢性

出血,あるいは思慮過度,飲食の不摂生などにより,心血の損傷,脾気の損傷を引き起こ

して発病するものが多い。

【臨床所見】

心悸・健忘・不眠・多夢・食欲減退・腹脹・泥状便・倦怠・脱力感・顔色は萎黄・皮下

出血。婦人では月経量が少なくなり,経色は淡となる,または出血量が多くなったり,

少しづつ出血し止まらなくなる。舌質淡嫩・脈細弱。

【証候分析】

1)心悸・健忘・不眠・多夢―心血虚のために,心神を養うことができなくなっておこる。

2)食少・腹脹・泥状便・倦怠・脱力感―脾の運化機能が失調しておこる。

3)顔色萎黄―気血の虚のためおこる。

4)月経量少,緑色淡一血虚により衝脈が充足しないためにおこる。

5)月経量多,なかなか止まらない―牌虚のため,純血機能が低下しておこる。

6)舌質淡嫩・脈細弱一気血がともに虚した現れである。

【治 療】

治法:補益心脾

処方例:帰脾湯

【3】心腎陽虚証

 心と腎の陽は相互に協調して,臓俯の温煦・血脈の運行・津液の気化を行っている。し

たがって心腎陽虚となると,陰寒内盛・血行障害・水気停留などの病変がおこりやすい。

【臨床所見】

寒がり・四肢が冷える・心悸・正中・尿不利・浮腫・唇や爪甲が青紫色・舌質青紫・暗

淡・舌苔白滑・脈沈微。

【証候分析】

1)寒がり・四肢の冷え一陽虚のため温煦機能が低下するとおこる。

2)心悸・正中一心腎陽虚のため推動機能が低下し,寒水が心に影響するとおこる。こ

 れを水気凌心という。

3)尿少一腎陽虚のため,膀胱の気化機能が低下しておこる。

4)浮腫―水液が内停し,肌膚に溢れておこる。

5)唇・爪甲・舌質の変化―陽虚のため,血行が低下しておこる。

6)舌苔白滑・脈沈微一水湿が運化されず,陰寒内盛となっておこる。

【治療】

治 法:温補心腎

処方例:真武湯,当帰四逆湯

【4】心肺気虚証

 肺気が虚弱となり宗気が不足すると,推動作用が低下し血行無力となる。また心気が不

足して血行が悪くなると,肺気の宣散・粛降機能にも悪影響をおよぼす。その結果として

呼吸異常および血行障害を引きおこす。

【臨床所見】

心悸・息切れ・咳喘・胸悶・息が詰まる・自汗・脱力感・動くと症状が増悪する・顔色

光白で冴えない・口唇が青紫になることがある・舌質暗淡,於斑・派細弱。

【証候分析】

1)心悸一心気不足によりおこる。

2)脱力感・息切れ―肺気虚のためおこる。

3)咳喘・胸悶・息が詰まる―肺の粛降機能が失調し。気逆しておこる。

4)自汗―肺気が虚して肌表不固となりおこる。

5)顔色光白で冴えない―気血が顔面部をうまく滋養できないためにおこる。

6)口唇青紫・舌質暗淡・於斑―心肺気虚により,血行障害となるためにおこる。

7)脈細弱―心肺気虚による血行不良の現れである。

【治 療】

治法:補益心肺,補気通陽

処方例:生脈散、四君子湯

【5】脾腎陽虚証

 脾は後天の本であり,腎は先天の本である。脾と腎の陽気は,相互に助けあって身体や

四肢の温煦・水穀の理化・水液の気化などを行っている。したがって,脾腎陽虚となると,

陰寒内盛・運化機能の失調・水液代謝障害などの病証がおこりやすい。

【臨床所見】

 寒がり・四肢の冷え・顔色光白・腰や膝あるいは少腹部の冷痛・末消化物を下痢する。

 五更泄瀉・浮腫・便不利をともなうことがある。舌質淡胖・舌苔白滑・脈沈細。

【証候分析】

1)寒がり・四肢の冷え・顔色光白一脾腎陽虚のため,身体を温養できなくなりておこる。

2)少腹・腰・膝の冷痛一陽虚のため内寒が生じ,経脈が阻滞しておこる。

3)下痢・五更泄瀉一五更すなわち寅卯の頃〔明けがた〕は陰気が極めで盛んとなり,

 陽気はいっそう衰えるので泄瀉する。脾腎陽虚のため,水穀を温化できないと,未消

 化物を下痢するようになる。

4)小便不利・浮腫―陽虚のため,気化不利となり水湿を温化できず,水湿が肌膚に溢

 れておこる。

5)舌質淡胖・舌苔白滑・脈沈細―陽虚,水寒内盛の現れである。

【治 療】

治 法:温補脾腎

処方例:四神丸

【6】肝腎陰虚証

 肝と腎は「肝腎同源」といわれている。肝陰と腎陰とは相互資生の関係にあり,同時に

衰退して腎陰と肝陰がともに虚しやすくなる。肝腎陰虚証の病変の特微は,陰液不足・陽

亢火動にある。

【臨床所見】

頭暈・目眩・健忘・不眠・耳鳴り・咽乾・口燥・脇痛・腰や膝がだるい・五心煩熱・顴

紅・盗汗・遺精・月経量が少ない・舌質紅少津・脈細数。

【証候分析】

1)頭暈・目眩・健忘・耳鳴り―肝腎陰虚のために生じた虚火が上擾しておこる。

2)口や喉の乾き―陰虚内熱の象。

3)脇痛―両脇部に流注している肝経が滋養されず,経気不利になるとおこる。

4)五心煩熱・盗汗・顴紅一陰虚陽亢,虚火内生の現れである。

5)不眠―虚火が心神に影響しておこる。

6)遺精―虚火が精室に影響しておこる。

7)月経量が少ない一衝・任脈は肝腎に隷属しているが,肝腎陰虚のために衝任が空虚

 になると,出血量は少なくなる。

8)舌質紅少津・脈細数―陰虚内熱の現れである。

【治 療】

治 法:滋補肝腎

処方例:杞菊地黄丸

【7】肺腎陰虚証

 腎陰は全身の陰の根本であリ,肺陰のはたらきも腎陰の滋養に補助されている。また肺

は「水の上厠」と称され津液代謝に重要な役割を果たしている。腎陰が充足しているた

めには,肺の津液が潤沢でなければならない。このような肺と腎の密接です目互補完的な関

係は「金水相生」と呼ばれる。腎陰が不足すると肺を滋養できなくなり肺陰も虚損しやす

い。一方,肺陰が虚損すると,津液が枯渇し腎陰を潤せなくなるため腎陰虚に陥りやすい。

こうして肺・腎両臓の陰が不足する肺腎陰虚証となる。

【臨床所見】

咳嗽して痰が少ない,痰の中に血がまじる,声がかすれる,口燥咽乾、顴紅,五心煩熱,

骨蒸潮熱、盗汗,心煩不眠、舌質紅苔少,脈細数。

【証候分析】

1)咳嗽痰少―肺陰虚のため肺の宣散・粛降機能が失調し咳嗽する。肺の津液不足のた

 め痰は少ないが無痰である。

2)痰中帯血・声がかすれる―気道の潤いを欠くと声かかすれ気道の血絡から出血し

 やすい。

3)口燥咽乾―肺の津液不足による。

4)顴紅・五心煩熱・骨蒸潮熱・盗汗―陰虚陽亢,虚火内生の現れである。

5)心煩不眠―虚火が心神に影響しておこる。

6)舌質紅苔少,脈細数一陰虚内熱の現れである。

【治 療】

治 法:滋補腎陰,潤肺止咳

処方例:百合固金湯,麦昧地黄丸

【8】肝脾不和証

 肝は疏泄を主り,脾は運化を主っている。両者の機能が協調していれば,気機はスムー

ズに行われ運化も正常に行われる。両者の関体は密接であり病理上も相互に影響しやす

く,肝の疏泄機能と脾の運化機能が同時に失調しやすい。このようにして肝脾不和証がお

こる。

【臨床所見】

胸肋部の脹満・疼痛・よく溜め息をつく・精神抑鬱,あるいはイライラする・食少・腹

脹・便泄・あるいは大便不調・腸鳴・失気・腹痛・泄寫・舌苔白・脈弦

【証候分析】

1)胸肋部の脹満,疼痛―肝の疏泄機能が失調して肝経の経気が不利となっでおこる。

2)精神抑鬱―肝気鬱結のため気機不調となると,精神抑鬱の状態になりやすい。溜め

 息をつくと気機が働き症状が緩解するので,よく溜め息をつくようになる。

3)イライラする―気鬱のため肝気が条達できなくなっておこる。

4)食少・腹脹・泥状便・大便が硬くなったり水様になる・腹鳴・失気・腹痛・泄瀉

 ―脾の運化機能の失調と気滞によりおこる。

5)舌苔白・脈弦―肝鬱・脾失健運の象である。

【治療】

治法:疏肝健脾

処方例:痛瀉要方

【9】肝胃不和証

 肝は疏泄を主っており,胃は受納と和降を主っている。肝気が順調に疏泄されれば,胃

気も順調に降りることができる。逆に,肝鬱気滞により疏泄不利となると,胃に影響して

胃失和降となり,肝胃不和証を形成するようになる。

【臨床所見】

胸脇や胃完部の脹満・疼痛・厄逆・曖気・呑酸・噌雑・煩躁・易怒・舌苔薄質・脈弦


【証候分析】

1)胸脇部の脹痛一肝鬱気滞のため経気不利になるとおこる。

2)胃完部の脹痛一肝気が横逆し胃を犯すとおこる。

3)厄逆・曖気一胃気上逆の現れである。

4)呑酸・曹雑一胃中に気が鬱して熱が生じると,気火内鬱の状態となるためにおこる。

5)煩躁・易怒一一気鬱により肝気が條達しなくなるためにおこる。

6)舌苔薄黄・脈弦数―肝鬱化火の象である。

【治療】

治法:疏肝和胃

処方例:左金丸,柴胡舒肝散

【10】肝火犯肺証

 肝気の昇発が亢進しすぎて,気火が上逆すると肺に影響しやすくなる。肺に影響して肺

の清粛機能が失調すると,肝火犯肺証を形成する。

【臨床所見】

 胸脇灼痛・イライラする・易怒・頭暈・目赤・煩熱・口苦・咳嗽・咳血・舌質紅・舌苔

 薄黄・脈弦数。

【証候分析】

1)胸脇灼痛・イライラする・易怒―肝経の気鬱化火によりおこる。

2)煩熱・口苦・頭暈・目赤―肝火が上炎しておこる。

3)咳嗽・咳血―火熱が肺を犯し肺絡を損傷するとおこる。

4)舌質紅・舌苔薄黄・脈弦数―肝火の象。

【治 療】

治 法:清肝瀉肺

処方例:黛蛤散,瀉白散

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