2011年6月18日17時13分
学内の放射線を計測して公式サイトで公表している東京大学が、測定結果に「健康にはなんら問題はない」と付記してきた一文を、全面的に削除して書き換えた。市民からの問い合わせが相次ぎ「より厳密な記述に改めた」という。学内教員有志からも「安易に断定するべきではない」と批判が寄せられていた。
測定値は東京・本郷と駒場、千葉県柏市の各キャンパスの、3月15日以降、毎日1時間ごとの値を掲載している。柏キャンパスは現在、毎時0.25マイクロシーベルト前後だが、平時は0.05〜0.10程度。サイトでは「(原発の)事故前より少々高めの線量率であることは事実ですが、人体に影響を与えるレベルではなく、健康にはなんら問題はないと考えています」とのコメントを載せていた。
これに対し、学内の教員有志45人が今月13日、断定的な表現を避けるべきだなどとして、記載を改めるよう浜田純一総長に要請書を提出した。ごく微量でも放射線量に比例して発がんリスクがあるというのが世界的に標準的な考え方だと指摘。「(安全だと)強い断定をするのなら、悲観的学説をなぜ排除したか説明が必要だ」と主張した。
大学側は翌14日、当該コメント部分を削除し、100ミリシーベルト(1回または年あたり)以下の被曝(ひばく)による人体へのリスクは明確ではない、との研究結果を紹介。自然界から浴びる放射線量が世界平均では年に2.4ミリシーベルトであることや、国際放射線防護委員会(ICRP)が「長期的には放射線レベルを年1ミリシーベルトに」「事故の収束後は年1〜20ミリシーベルトの範囲」と提言した事実などを列記した。
柏キャンパスの値は、一日中その場にいたと仮定して1年間で浴びる量は2ミリシーベルト強。有志世話人の島薗進教授(生命倫理)らは、「リスクを無視できるかどうかを国民が判断するためにも、正確な情報を提供する義務がある」と話す。
東大広報課は、「当初は一般からの問い合わせに答えるため端的な記述が求められていると判断したが、双方向のやりとりがないウェブサイトでは、リスク情報を発信する難しさを感じた」と話している。(吉田晋)
東日本大震災で原発の「安全神話」は崩れた。北海道にも、道内の約4割の電力を供給している泊原発がある。防災対策はどうなっているのか。対岸で建設が進む青森・大間原発と、どう向き合うのか。