2011年6月17日 大阪市教育委員会 教育長 様 リブ・イン・ピース☆9+25 2012年度使用中学校教科書採択についての要請書 私たち「リブ・イン・ピース☆9+25」は、日本国憲法で保障された平和的生存権の実現をめざして、主に大阪で運動している市民団体です。特に沖縄の米軍基地の問題や日本軍「慰安婦」問題の解決にこだわって活動しています。1997年度には全ての教科書に記述されていた日本軍「慰安婦」問題が次第に少なくなり、現在は2社にまで減っていることに私たちは危機感を抱き、教科書会社に「慰安婦」被害の実態を記述するよう求めていました。それゆえ「慰安婦」についての記述が全くされなくなった今年の検定結果に、私たちは失望を禁じ得ません。 日本軍「慰安婦」被害者たちは、日本政府に対して謝罪と補償を求めると同時に、自分たちの体験を若い人たちに伝えるよう求めてきました。若い人に知ってもらい、自分たちの体験が二度と歴史に繰り返さないよう、再び戦争が起きないよう、強く訴えています。 日本政府も過去女性たちに与えた被害を反省し、1993年の河野官房長官談話では「歴史教育を通じてこのような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意」を表明しました。河野談話は現政権にも引き継がれています。にもかかわらず来年度教科書からは、「慰安婦」記述が消されてしまったのです。 そればかりではありません。朝鮮人・中国人らの「強制連行」という言葉が姿を消し、文科省の強い指導のもとで全ての出版社で竹島(韓国名独島)・尖閣諸島(中国名釣魚台列嶼)に関わる日本政府の見解が記述されました。 とりわけ許せないのは、これまで「慰安婦」記述を削除するよう政府・国会に働きかけ、教科書会社に脅迫めいた圧力をかけ続けてきた「新しい歴史教科書をつくる会」「教科書改善の会」がつくった自由社・育鵬社の教科書が検定を合格したことです。この2冊の教科書こそが、他の教科書と比べて極端なほど、偏狭なナショナリズムに満ちています。具体例にいとまがないので一点だけ指摘します。 自由社版教科書では「戦時国際法と戦争犯罪」というコラムで、戦争犯罪について記述しています。沖縄戦での住民「集団自決」も米軍の攻撃のためとし、米軍による空襲や原爆投下、ソ連によるシベリア抑留を戦争犯罪として紹介しています。ところが日本軍が行った世界史上類を見ない戦争犯罪である「慰安婦」被害は一切書かれていません。それどころか数多ある日本軍による戦争犯罪については絶対に取り上げようとはしません。 育鵬社版教科書でも「昭和20年,戦局の悪化と終戦」というコラムで沖縄戦を大きく取り上げ、ひめゆり部隊や大田実少将の電文、特攻隊のことなどを取り上げます。しかし、沖縄でのべ136カ所もあったことが判明している「慰安所」のこと、多くの朝鮮人「慰安婦」や強制連行された朝鮮人軍夫のことにふれられることはありません。日本軍による住民虐殺や「集団自決」も同様です。 沖縄戦では日本軍により壕に避難している住民が追い出され、あるいは「スパイ」「非国民」などとレッテルを貼られ日本軍により殺された住民も多くいました。「集団自決」に日本軍の強制的な関与が強くあったことは歴史事実として認められています。このことは大江岩波裁判でも争われ最高裁も日本軍の関与を認定しています。にもかかわらず自由社・育鵬社の教科書は、「米軍が上陸する中で」(自由社版)「米軍の猛攻で逃げ場を失い」(育鵬社版)「集団自決」に追い込まれたとその責任が米軍にあるような記述がされています。これは事実に反しています。 沖縄戦に限らず今も現実に日本政府に米軍基地を押しつけられ差別を受けている沖縄の人々は現に2社の教科書が検定合格したことに、4年前の教科書検定で「集団自決」が削除されたときの怒りを再燃させています。 新教育基本法では「愛国心」に繋がる目標がありそれに沿った記述が求められるようになりましたが、それによって「近隣諸国条項」をないがしろにすることは許されません。1982年の教科書問題を発端にして文科省(当時文部省)は、教科書検定基準の中に「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること」という近隣諸国条項を設けました。それは歴代政権に受け継がれています。 自由社と育鵬社の教科書は他国や他民族を蔑視し、日本と日本人こそが優位であるかのような、誤った考えを植え付ける危険があります。他国や、沖縄の人や在日コリアン等も含めた他民族を尊重する姿勢、国際理解と国際協調を進める視点を全く欠落させています。 このような日本の教科書の現状は、国際的にも非難されています。国連子どもの権利委員会は2010年6月に「日本の歴史教科書が、歴史的事件に関して日本の解釈のみを反映しているため、地域の他国の児童との相互理解を強化していないとの情報を懸念する」と指摘しています。 東日本大震災が起こったとき、たくさんの「慰安婦」被害者が被災者の気持ちに共鳴し、街頭に出て募金活動を行いました。「慰安婦」被害者の吉元玉(キル・ウォノク)さんは「罪が憎いのであって、人間が憎いわけではないじゃないですか」といい、李容洙(イ・ヨンス)さんは「日本の人々が、自分の力ではどうすることもできない被害を受けているのを見て70年前の苦痛がよみがえった。彼らの苦しみは私たちの苦しみと同じだろう」といいました。日本軍に深い心の傷を負わされた被害者が震災被災者に心を寄せたことは、人間としての最も大切なことを教えてくれるようでした。そんな被害者が今回の検定教科書で自分たちの被害体験がなかったことのように扱われた事を知り、深く傷ついています。 特に自分たちの被害体験を否定する人たちのつくった、偏狭なナショナリズムに彩られた教科書が存在することそのものが、「慰安婦」被害者にとって耐え難いものとなっています。 私たちは、戦争と差別のない社会を求め、日本軍「慰安婦」問題と沖縄の基地問題の解決を求めるものとして、以下を要請します。 記 自由社版歴史・公民教科書、育鵬社版歴史・公民教科書を絶対に採択しないでください。 |
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