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[政治]ニュース トピック:正論
【正論】拓殖大学大学院教授・森本敏 トモダチ作戦生かせ同盟協力に
≪共同訓練の成果を実地で確認≫
東日本大震災当日の3月11日、米空母ロナルド・レーガンは北太平洋上にいた。救援のため急行を命じられた空母が米韓合同軍事演習を中止して三陸沖に着いたのは13日である。一方、マレーシア沖にいた揚陸艦エセックスなど3隻は命令を受けて全速力で日本に向かい、18日に秋田沖に着いた。
結局、米軍は沖縄の海兵隊など艦艇15隻、航空機140機、兵員16000人を被災地に投入し、5月31日までの2か月半、仙台空港再開、気仙沼市大島、石巻の小・中学校の復旧、福島第1原発の冷却支援を含めて輸送・補給・捜索救助・遺体捜索・復旧活動を行い、被災民多数から「米軍ありがとう」と言われる活躍をした。
自衛隊も東北方面総監(仙台)を統合任務部隊指揮官にして、統一指揮の下に全ての活動を統轄する仕組みを作った。米軍も、ウォルッシュ太平洋艦隊司令官(海軍大将)がハワイから400人以上のスタッフを引き連れて、在日米軍司令部(横須賀)で統一指揮を執り、統合支援部隊(JSF)による「トモダチ作戦」という形を取って、自衛隊支援に回った。
今回の日米共同活動が多くの被災者を救援し高く評価された理由は、日米とも、指揮系統を統一したこと、自己完結型の能力・機能を有していたこと、普段から共同訓練を重ねてきたことにある。
その特色は第1に、日米間で実施した初めての大規模作戦活動となったため、演習・訓練ではなく実際の事態(紛争ではなく災害ではあったが)に即した実戦的な共同作戦によって共同訓練の成果を実地で確認できたことである。
≪有事の日米協力示し抑止効果≫
次に、災害救援ゆえに、日米双方とも、地方自治体や被災民との連携の下で協力活動をした点である。その結果、日本人は米兵の真摯(しんし)で真剣な救援活動に感激し、一方、米兵は日本人の誠実で節度ある人柄に触れることができた。
特色その3は、地震・津波・原子力事故という複合災害に対し、複雑な作戦活動を余儀なくされたことである。自衛隊も10万6000人という戦後最大規模の要員を派遣し、米軍も災害派遣としてはかつてなかったほどの大規模兵力を投入、紛争事態を想定してつくられていた日米調整メカニズムを災害救援に適用して、双方の総力をあげて救援活動に従事した。
いざという時の、緊密な日米協力関係を周辺諸国に示したことは抑止効果上も小さくなかったと考える。沖縄のメディアは、現地の海兵隊の災害派遣を、その必要性を強調するための「政治利用」と批判したが、これは、同じ日本人として恥ずべき行為であった。
自衛隊には今後、検討すべき問題も残った。本来任務である国家防衛と副次的任務である災害派遣をトータルで捉え、自衛隊の任務遂行と要員規模がいかにあるべきかを改めて検討すべきである。自衛隊は今回、遺体の捜索・収容・搬送や危険物処理など、本来の災害派遣業務を超える作業に従事しており、その災害派遣業務の範囲と内容も再検討すべきだろう。
≪中国への共同対処が長期課題≫
地域に展開する部隊と駐屯地施設も今回、極めて重要な役割を果たした。通常は必ずしも重要といえない駐屯地、装備、資材などが危機に際し、大切な役割を果たすこともはっきりした。効率性だけで防衛力を規定することに疑念が生じたわけで、その意味で防衛大綱・中期防に見直しの余地があるか否かを検討する必要もある。
この間、ロシアは3回にわたり日本海に偵察機を飛行させ、5月にはイワノフ副首相らが北方領土を訪問した。韓国は、関係閣僚が竹島を訪問し、野党議員が北方領土を訪れた。中国は、尖閣諸島周辺に艦艇、航空機を接近させ、6月になって、昨年と同じく沖縄本島と宮古島の間を海軍艦艇10隻以上が通過し、日本の南西海域に入ってきた。日本が震災で身動きできないのを見越して、領有権を誇示しようとしたのであろう。現実の国際情勢は情け容赦がない。
日米両国は近く、外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を行う。主要議題は、普天間基地問題、ミサイル防衛のSM-3ブロックIIの第三国移転問題、共通戦略目標の優先課題などであり、そこでの合意を経て、今秋の日米首脳会談へつなげる段取りである。ただ、長期的にには、西太平洋に進出しようとする中国に同盟協力を軸にどう対処するかが、日米の最重要テーマであることは明白であり、今回の震災で構築された日米共同活動の実績と成果を拡大し、同盟協力の将来の方向を確立すべきである。
しかし、災害対応とは性格を異にする紛争事態対応では、今回の日米協力のようには行かない。武力行使・武器使用の面で日本側の対応に、法的・政治的制約がかかるからである。日米協力を真の同盟協力まで持って行くには、われわれは、今回の成果を最大限に活用しつつも、日本として安全保障基本法制定や憲法改正を含めて、多くの政治・安全保障課題に取り組んでいかなければならない。(もりもと さとし)
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