2011年05月23日 (月)視点・論点 「避難所暮らし 女性の状況改善を」
ヒューマンライツ・ナウ事務局長 伊藤和子
東日本大震災によって多くの尊い命が奪われ、地震・津波そして原発事故の影響でいまだに多くの方々が見通しの立たない避難生活を送っています。亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、被災された方々にお見舞いを申し上げます。
私たち人権NGOヒューマンライツ・ナウはこの間、被災地を訪ねて被災者の方々の実情、特に基本的な人権である衣食住の問題、災害弱者と言われる方々の実情についてお話をうかがってきました。また、私自身、弁護士として被災地における法律・生活相談をさせていただき、被災者の方々の切実な声に接しました。
震災から二か月が経過するなか、避難者の方々の疲労・ストレスは深刻化しています。子ども、女性、障がい者、外国人、高齢者など、災害の影響を深刻に受けやすい人々の状況が特に懸念されます。このなかでも今日は女性たちの置かれた状況についてお話ししたいと思います。
内閣府男女共同参画局は、3月16 日に、「女性や子育てのニーズを踏まえた災害対応について」と題する文書を取りまとめ、女性に配慮した避難所の運営として、
1.プライバシーを確保できる仕切りの工夫、2.男性の目線が気にならない更衣室・授乳室、入浴設備、3.安全な男女別トイレの設置、さらに、4.現場での女性のニーズの把握、5.避難所の運営体制への女性の参加、6.女性医師・女性相談員などによる悩み相談などを行うことが必要だと訴えました。いずれも女性にとって切実な問題で、阪神淡路大震災など過去の災害が残した重要な教訓であり、その実現は大切なことです。しかし、問題はこうした政府の呼びかけ文書の内容が各避難所で実施されているかどうかです。
避難所で女性が置かれた状況について、私たちヒューマンライツ・ナウがこの間、被災三県で調査を行った結果、内閣府などの出している文書と現実の間には深刻なギャップがあることがわかりました。
・多くの避難所では、未だに世帯ごとの「間仕切り」がなく、プライバシーが保障されない環境にあること、女性の更衣室や授乳室すらない避難所もあり、女性は困って布団のなかで着替えるしかないこと、
・トイレの環境も悪く、外に設置された仮設トイレには夜間照明もなく、女性や少女が安全に利用できる状況にないこと、
・洗濯機が不足しているため、下着もろくに洗濯できず、また女性の洗濯物を安全に干せるスペースもないため、下着を使い捨てにするしかない状況であること、にも関わらず、女性用の下着が十分に供給されず、女性が大変困っていること、
が明らかになりました。
・多くの避難所は男性主導で運営されていて、運営に参加する女性は少ないのが現状です。そうしたなか、
・避難所を運営する男性たちの判断によって、避難所に間仕切りを設けることはコミュニティの団結上好ましくないとか、女性特有の物資、例えば化粧水や下着がほしいという要望は贅沢だ、などと、女性の切実な願いが否定されてしまう場面がしばしばあるといいます。
・避難所の中には、自治体が食事の材料だけ提供し、避難者が自炊をしなければならないところもあります。そんななか、炊事当番が女性だけに強制的に割り当てられ、男性は当番をしなくてよいということがルール化し、被災した女性が仕事や子育てもあるのに、朝から晩まで調理に追われて疲れ果てている避難所もあります。
・こうした女性たちが悩みを相談できる場所も十分ではありません。女性のための相談場所が設置されている避難所は少なく、民間団体が女性相談をやりましょうと申し出ても避難所で「そんなことをやっている場合ではない」と言われて拒絶されたケースや、女性のための民間の電話相談を案内するチラシの配布すら拒絶される避難所も少なくありません。阪神淡路大震災や海外の自然災害の後、女性に対する暴力が増加した、と報告されています。しかし、今回の震災後、女性に対する暴力を防止したり被害者を保護するための対策は全く不十分です。
家や家族を失った女性たちは、避難所での人間関係が悪くなるのを怖れて、不満があっても沈黙を強いられています。しかし、当事者が言い出しにくい、言えずに我慢しているからと言って、そこに要望がないわけではありません。外から支援する側で女性たちの要望をくみ取り、声をあげて状況を改善していくことが必要です。
せっかく出した通知が、絵に描いた餅にならないよう、政府・自治体が現場の被災女性に密着して改善をしていくべきです。
内閣府も避難所の実態把握を行っており、最近では5月2日付のものが公表されています。その調査結果のなかでも、例えば、替えの下着がないか、あっても洗濯できず下着が不足している避難所は182か所、間仕切りなどが全くない避難所は108か所とされ、不十分さが明らかになっています。しかし、内閣府の調査で実態が把握された避難所は全体の55.5%、内訳は岩手県92.6%、宮城県35.2%、福島県28.6%に過ぎません。回答をしない避難所の実態は把握されていないのです。
例えば、この実態把握は、多くの避難所で食事が改善している、としていますが、現地で支援にあたるNPO・ボランティアは、栄養価の低い食事が続いて、妊婦や子ども、病弱な人達が危機的状態にある避難所がある、と切実に訴えています。政府の認識と現実にはギャップがあります。
政府・県は、すべての避難所での十分な実態把握とニーズの調査などを行い、被災者の保護に欠ける現場ではその場で改善する、自治体への公務員の応援派遣を増員して支援を強化するなど、迅速な対応をとる必要があります。特に、女性など、声を挙げられない立場に置かれている被災者については、ていねいに要望を聴き取り、現状を改善する取組みが求められています。
そして、根本的には、一刻も早く、仮設住宅や民間住宅の借り上げなど、安心して生活できる住居を提供することが必要です。避難所では、仮設住宅に申し込みたくても申し込めないという方々にたくさんあいました。多くは高齢な女性でしたが、仮設住宅に移れば、誰も食糧・物資を支援してくれなくなるので、生きていけないというのです。被害が甚大で、復興の目途がたたないことを考えれば、避難所から仮設住宅に移る人々にも、食糧供給などの基礎的支援を続けていくことが必要です。
阪神淡路大震災では、仮設住宅での高齢の被災者の孤独死など、災害関連死があとをたたず、人権の保障に大きな課題を残しました。そうしたことを二度と繰り返さない対応が求められています。
復興計画立案にあたっては、復興構想会議のような学識経験者や財界人の議論だけでは十分でありません。最も被害に苦しむ人々、声を上げにくい人々の声を聴く参加のプロセスを十分に保障する必要があります。そして、地域で生活者として重要な役割をこれからも担っていく女性たちが、復興プロセスに参加すること、その視点が十分に生かされることが必要です。
投稿者:管理人 | 投稿時間:09:16