2011年4月24日 21時29分 更新:4月25日 3時4分
【モスクワ田中洋之】1986年に旧ソ連・ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所で起きた原発史上最悪の事故から26日で25年となる。原発から半径30キロ圏内は高濃度の放射性物質による汚染のため居住が禁止されたままで、立ち入り規制解除のめどは立っていない。完全な廃炉に「あと100年はかかる」(ウクライナ政府の担当機関幹部)とされ、最終的な原子炉解体方法の見通しはついていない。国際評価で同じ「レベル7」となった福島第1原発事故にも重い課題と教訓を突きつけている。
チェルノブイリ原発事故は、原子炉4号機の爆発と火災で大量の放射性物質を大気中に放出した。福島原発では原子炉を覆う格納容器から放射性物質が漏れたが、原子炉は破壊されていない。大気中の汚染レベルも10分の1以下とされる。だが現在も事故は収束せず、今後の事故処理も長期化は確実だ。
チェルノブイリ原発ではコンクリート製の「石棺」で4号機を覆った。事故から半年間の突貫工事だった。耐用年数は30年といわれ崩壊の危険性がある。このため石棺全体を金属製の新たなシェルターで覆う構想が浮上。キエフで19日に開かれたウクライナ支援国会合では欧米を中心に総額約5億5000万ユーロ(約660億円)の資金拠出が表明され、ヤヌコビッチ大統領は「目標とする15年には完成できる」との見通しを示した。
ただ新シェルターが完成しても、石棺内には放射能を持つ約200トンの核燃料が残る。放射性物質を含んだがれきも約30トンあり、チェルノブイリ原発のグラモトキン所長は「今も緊迫した状況が続いている」と指摘する。
石棺は新シェルター完成後に解体される予定だが、内部の放射線量が高いため人間が長時間作業するのは極めて困難だ。専門家の間では遠隔操作のロボットを使う案が出ているが、技術的に可能か見通しは立っていない。解体後のがれきなど大量の放射性廃棄物の処理方法も未定だ。
事故後、原発周辺30キロ圏内から約13万5000人の住民が強制移住させられたが、その後、高齢者ら約260人が自主的に戻った。また環境保護団体グリーンピースによると、30キロ圏外のウクライナ北西部では今も牛乳やジャガイモから高濃度の放射性セシウム137が検出され、住民の健康被害が懸念されている。
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原子力政策や科学史に詳しい吉岡斉・九州大副学長は「チェルノブイリの最大の教訓は、放射性物質の大量放出事故が起こり得るということだった。だが当時の日米欧の原子力関係者は事故を過小評価し、先進国ではありえない特殊事例と片付けた。福島の事故も時がたつと『特殊な事例』と過小評価されるかもしれない」と警告している。【阿部周一】