2011年6月19日23時6分
福島県産の食材を使った料理をそろえた居酒屋が20日、東京都内に開店する。実家が被災した同県出身の男性が立ち上げた。原発事故による風評被害に負けず、県産品のおいしさや安全性を発信する場にしたいという。
杉並区の京王井の頭線高井戸駅から歩いて5分。雑居ビル1階にある、カウンターとテーブル計20席の小さな店内で、鈴木賢治さん(29)が仲間と開店準備を急いでいた。店先には「ヨンナナダイニング福島」と染めたのれんが下がる。
鈴木さんは地方自治体の観光宣伝や物産展などを手伝うイベント会社の社長だ。各都道府県の食材を紹介する飲食店や移動販売車を企画し、1号店を福島にしようと考えていた矢先、震災が故郷を襲った。
いわき市の実家が漁港のそばで営んでいた製氷会社は津波に丸ごとのまれた。自宅も浸水し、地元の漁業は原発事故の影響で休漁が続く。「何とかしたい」と4月、調理施設を備えた移動販売車「キッチンカー」で現地に向かい、被災者に500食を振るまった。
震災のため、開店は当初計画より1カ月以上遅れたものの、震災後だからこそメニューは福島産にこだわった。サンマのすり身にネギやショウガ、みそを混ぜて焼いた「ボウボウ焼き」はいわきの郷土料理だ。エゴマの種をえさにした「エゴマ豚」は串焼きに。会津若松の「白虎みそ」を使った焼きおにぎりもある。
ただ休漁中のため、サンマは震災前に福島で水揚げした冷凍もの。野菜類も極力、福島産にしたが、手に入らない野菜は宮城や岩手などほかの被災地の産品を優先したという。
放射線を警戒する消費者心理から、お客さんが来てくれるか不安もある。「市場に出ている品は安全が確認されたもの。安心して福島を味わってほしい」と鈴木さんは呼びかける。
店には福島の日本酒もそろえた。食器も地元の焼き物を使い、特産品のパンフレットも並べる。キッチンカーを使った販売も近く始める計画だ。問い合わせは同店(03・5941・6050)へ。(西本秀)