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2011年6月19日(日)付

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電力買い取り―今国会で成立させよう

太陽光に風力、水力、地熱、バイオマス(生物資源)……。これらの自然エネルギーを使って発電された電気を、国が定める価格で買い取るよう電力会社に義務づける。[記事全文]

TPP―まずは交渉に加わろう

米国や豪州、シンガポールなど9カ国が交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)に参加するかどうか。政府の検討作業が止まったままだ。もともとは6月中に参加の是非を判断するはず[記事全文]

電力買い取り―今国会で成立させよう

 太陽光に風力、水力、地熱、バイオマス(生物資源)……。

 これらの自然エネルギーを使って発電された電気を、国が定める価格で買い取るよう電力会社に義務づける。

 自然エネルギー普及の切り札とされる「全量固定価格買い取り制度」だ。

 これを導入する法案が、国会でたなざらしにされている。東日本大震災の日の朝に閣議決定され、すでに100日が過ぎたのに審議に入れない。

 理由のひとつは、買い取る費用が電気料金に上乗せされるため、経済界を中心に慎重論が根強いことだ。

 経済産業省の試算では、制度開始から10年後、標準的な家庭で月150円から200円ほど負担が増えそうだ。電力を大量に使う企業にとっては、大きな負担になりかねない。

 それでも、私たちは今国会で成立させるべきだと考える。

 原発事故を目の当たりにしたいま、地球温暖化を防ぎながら、原子力への依存度を下げていくには、自然エネルギーの普及を急がねばならない。

 それに地域経済の自立や災害に強い国づくりにも役立つ。小型の発電設備を家庭や集落に置けば、地域で電力を賄えるし、発電所や送電網の事故による停電の被害も小さくできる。

 そのうえ「純国産」だ。輸入に頼る石油やガスへの依存を減らせれば、安全保障上も、長い目でみれば経済的にも利点は大きいはずだ。

 各党も自然エネルギーの普及を公約している。2009年の衆院選では自民党も「太陽光発電の買取制度など」による自然エネルギー拡大を掲げていた。

 なのに谷垣禎一総裁は「法案が実効的か検討の余地がある」と述べ、審議入りに慎重だ。効果に疑問を抱くなら、高めるための提案をすべきだ。

 この制度が根づけば、電気は電力会社が巨大な発電所でつくるものという「常識」が覆る。国民が電気の利用者から、供給者になっていく。

 裏返せば、電力会社が地域の電力供給を独占してきた既存の体制は揺らぐだろう。それだけに強い抵抗は避けられない。電力業界は民主党にも自民党にも強い影響力を持つ。その意をくんで、法案に反対する政治家が多く出るに違いない。

 一方で、超党派の国会議員らが法成立を求め、議員200人余りが署名している。

 これは、新しい政治の対立軸になる。採決の際に、党議拘束をかけず、各議員の見識を問うてみるに値する。

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TPP―まずは交渉に加わろう

 米国や豪州、シンガポールなど9カ国が交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)に参加するかどうか。政府の検討作業が止まったままだ。

 もともとは6月中に参加の是非を判断するはずだったが、東日本大震災で先送りした。判断時期の多少のずれ込みはやむをえないだろう。

 ただ、9カ国は今秋の大枠合意をめざしている。TPPは成長を続けるアジア太平洋地域の新たな経済連携の礎となりそうだ。停滞する日本経済の突破口として、貿易や投資の重要さは大震災で一段と増している。

 最大の懸案は農業への影響だ。農業関係者のTPPへの反対姿勢は大震災後に強まった。「被災地の農家に配慮するべきだ」「国内対策の財源を確保できるのか」などが理由だ。

 津波や原発事故で作付けを断念したり禁止されたりした農家を支援し、がれきの撤去や農地の除塩、放射能除染を急ぐことは当然だ。一方で、高齢化と後継ぎ不足、コメに代表される小規模兼業農家の競争力の乏しさなど、日本の農業が抱える課題は待ったなしである。

 震災被害対策と中・長期の強化策を一体で考えたい。被災地の農家にも大規模化を唱える声はある。東北地方の農業を、国際的にも対抗できるモデルとして復興できないか。ばらまき色が濃い戸別所得補償制度を、規模拡大などに積極的な農家に手厚くすることが必要だろう。

 TPP問題をにらんで政府が立ち上げた「食と農林漁業の再生実現会議」は6月上旬、震災から3カ月たって再開した。会議のテーマを当面の復旧に限ろうとする動きもあるが、あまりに視野が狭い。

 TPPでは、日本がこれまで結んできた経済連携協定より踏み込んだ自由化を求められる。ただ、各国とも政治的に扱いが難しい品目を抱えてもいる。

 議論を引っ張る米国も例外ではない。2005年に発効した米豪自由貿易協定では、豪州からの輸入で砂糖を関税撤廃対象からはずし、牛肉の自由化も世界貿易機関(WTO)の原則である「10年以内」を超えて18年かける。米国はTPPでも同様の仕組みにしたいようだ。

 日本政府は交渉参加国から個別に情報収集しているが、おのずと限界がある。各国の本音をつかみ、日本の事情を訴えるためにも、まずは交渉に加わりたい。その結果、日本の国益にそぐわないとの結論に至ったら、引き返せばよい。

 入り口で立ちすくんでいる余裕はないはずだ。

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