'11/6/18
松井広島市長の所信表明 変革の全体像が見えぬ
広島市の松井一実市長が就任後初の市議会定例会で市政運営の所信を明らかにした。初登庁の際、秋葉忠利前市長時代の12年間を「変革する」と宣言したが、全面展開とまでは至らなかったようだ。
広く対話し、明確なビジョンを打ち立て、果敢に実行する。この三つを基本姿勢として掲げた。官僚出身らしく地に足の着いた行政を目指す意欲は伝わる。
この間、鮮明にしてきたのが「脱・秋葉」色だ。2020年夏季五輪の広島招致の断念、国内外から届く折り鶴の長期保存の中止、子ども条例の制定見送り…。
前市政の看板ともいえる政策を次々に白紙に戻す。逆説的にいえば、それが「松井カラー」になっている。依然厳しい財政事情を考えれば、そう簡単に新規事業をぶち上げられない事情はあろう。
しかし、従来の施策をばっさり切るだけでいいのだろうか。あらためて吟味し再構築する道を探ってもいいのではないか。
所信表明では繰り返し「対話」の必要を説き、その相手として真っ先に市民を挙げている。それなら制定を求める声も根強い子ども条例についても、対話を通じて合意を得る努力をしていいはずだ。
対話の相手として次に重視しているのが市議会という。少数与党で議会とのぎくしゃくが絶えなかった前市政のことが念頭にあることは間違いあるまい。
その点、松井市長は市長選で議会多数派の自民系市議から支援を受けている。仕切り直しはスムーズにいきそうだ。
むしろ、もたれ合いとなるのをどう防ぐかが課題といえる。従来の市政のどこを、なぜ変えるのか。議会はもとより市民に対し、政策を決めた過程の透明化や説明が一層求められよう。
12年度当初予算の編成作業を正念場と見据えていると聞く。今回は大まかな施策テーマとして3本柱を挙げた。
中小の地場企業や観光産業を育む「活力にあふれ、にぎわいのあるまち」、仕事と暮らしのほどよい調和を図る「ワーク・ライフ・バランスのまち」そして「平和への思いを共有するまち」である。
世界のどこよりも平和の心が育ち、平和が薫る。松井市長が描く「国際平和のまち」の都市ビジョンだという。
一方で、加盟都市が4700を超えた平和市長会議の位置付けや核兵器廃絶へのプロセスについては、具体的に示されなかった。市長の意気込みを聞きたかった市民も多いのではないか。
自分の色を打ち出すための財源づくりには、行政自らが身を削る覚悟と実行力を求められる。事業仕分け委員会の廃止によって行政のスリム化が逆戻りするようなら、批判は免れまい。
所信表明では市長退職金の削減に加え、市職員の定数や給与にも切り込むとした。ぜひともリーダーシップを発揮してほしい。
まだくっきりとは見えない変革の全体像。どのように肉付けしていくか。市民は注目している。