岩見隆夫のコラム

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近聞遠見:「弁護士が幅を利かせてる」=岩見隆夫

 イライラが募っている。混乱は、菅直人首相が事実上の退陣表明をしながら、退陣時期を示さないことから起きているが、こんな異常なケースは過去にない。

 退陣を迫られながら、衆院解散で切り抜けようとした首相は、吉田茂、三木武夫、羽田孜ら何人かいたが、いずれも失敗した。しかし、最後まで退陣表明はしていない。

 吉田の場合は、側近の傑物、緒方竹虎らが引導を渡したが、今回はその役を果たせる人物もいない。締まりのない危なっかしい綱渡りだ。

 「こうなったら、(菅は)強いぞ」

 という声も漏れてくる。

 相互批判も党派を超えて激しくなってきた。与党の長老の一人は、

 「いまの政界は弁護士出身が幅を利かせている。理屈を言うだけで、仕掛ける能力もない。仙谷(由人・官房副長官)なんか、ただの悪徳弁護士だよ」

 と八つ当たり気味だ。悪徳というのは文字通りではなく、暴れ者といった意味だろう。ポスト菅に向け、隠密裏でもなく派手に立ち回る仙谷流が反発を買っている。

 長老の指摘で数えてみると、弁護士出身議員は案外多い。衆院に20人、参院に10人で計30人、全議員の4%だが、要職に就いている議員が目立つ。

 横路孝弘衆院議長を筆頭に、党関係では、谷垣禎一自民党総裁、山口那津男公明党代表、福島瑞穂社民党党首、漆原良夫公明党国対委員長、照屋寛徳社民党国対委員長ら。

 政府関係は、枝野幸男官房長官、細川律夫厚生労働相、仙谷、平岡秀夫副総務相、筒井信隆副農相ら。閣僚経験者では高村正彦元外相、山田正彦前農相と多彩だ。

 なるほど、弁護士が政界を牛耳っている印象もある。若いころ菅が務めた弁理士も似たような商売だ。

 共通性があると言えば、ある。よく言うと論客、悪く言うと理屈屋、従って行動は鈍くすごみや飛躍がない。落としどころをいつも探ろうとする。政治には、理屈を横に置いて飛ばなければならない時があるが、飛ばない。

 異色は仙谷だ。

 「ぼくが選挙に出たのは弁護士19年目だったかな。ある種の倦怠(けんたい)期だったこともあって、それじゃ、いっぺん遊んでみるかと。弁護士の仕事も、うっとうしいなと思っていた。だって、人の嫌なことばかり聞くわけだから」(早野透著「政治家の本棚」)

 と語っている。論客だが、はみだし弁護士か。幕末維新で好きなのは村田蔵六と河井継之助、菅は高杉晋作と児玉源太郎、まるきり好みが違う。

 菅が言っている。

 「高杉を一番好きな理由は、逃げ足が速いことなんだ。当時の長州は勤王派がとったり、佐幕派がとったりしたでしょ。代わるたびに腹を切らなきゃいけないんじゃね。潔く腹を切るのは、一見いいけれども、それはあきらめだ。やばいと思ったらサッと逃げて、次のチャンスがあれば、またドドッと」(同)

 いまの迷走政局を見ているようだ。十数年前の語りだが、人の性癖、そう変わるものではない。仙谷はそんな菅が面白くないのだろう。

 弁護士はもともと予定調和的と言われる。世界は神の意思によってあらかじめ定められている、というドイツの哲学者、ライプニッツの説だ。弁護士出身3党首の一人、福島は新著「迷走政権との闘い」(アスキー新書)のなかで、

 <多くの人は政治を予定調和的に考えがちだ。しかし、そんなことはない。物事は変えられる。それが政治の本質だ>

 と訴えている。そうあってほしいが、弁護士出身はあまり戦闘的でない。(敬称略)=毎週土曜日掲載

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 岩見隆夫ホームページ http://mainichi.jp/select/seiji/iwami/

毎日新聞 2011年6月18日 東京朝刊

岩見 隆夫(いわみ・たかお)
 毎日新聞客員編集委員。1935年旧満州大連に生まれる。58年京都大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。論説委員、サンデー毎日編集長、編集局次長を歴任。
 
 

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