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被災夫婦、無理心中か 80代、津波で自宅失う 気仙沼
東日本大震災の津波で自宅が損壊した気仙沼市の80代男性が、介護していた80代の妻を同市内の避難先で殺害した後、自殺したとみられることが16日、捜査関係者への取材で分かった。 気仙沼署は、男性が自宅などを失って絶望的になり、無理心中を図ったとみて、殺人容疑で男性を容疑者死亡のまま書類送検する方針。 関係者によると、男性と妻は4月上旬ごろ、避難していた気仙沼市内の親類宅で、死亡しているのが見つかった。夫は首をつった状態で、妻の首には手で絞められた痕があったという。 2人は気仙沼市中心部に住んでいた。自宅は3月11日、津波にのみ込まれ、住むことができなくなった。妻は寝たきりの状態で、男性が介護していたという。 親類宛ての遺書も見つかり、「今まで世話になった」という趣旨の内容だったという。同署は、ほかの人が現場に立ち入った形跡がないことなどから、男性が妻を絞殺した後、自殺したとみて調べている。
◎心のケア、充実急務/将来見えぬまま/復興への孤立感/痛み置き去りに
気仙沼市の80代男性が東日本大震災後、妻を殺害して無理心中したとみられる事件は、被災者の精神的なケアの重要性をあらためて浮き彫りにした。津波で生き残った命が今回のような事件や自殺によってこれ以上失われないよう、専門家は早急な対策を訴えている。 「津波で家族を全員亡くした。この先、どう生きていけばいいのか」 「テレビでは復興、復興と言うが、とてもそんな気にはなれない」 NPO法人「自殺対策支援センター・ライフリンク」(東京)などが開設した相談ダイヤル。電話が次々と鳴り、被災者から悲痛な声が届く。 ライフリンクの清水康之代表(39)は「復興への社会的な機運が高まるほど、家族を亡くした被災者の痛みが置き去りにされる」と指摘。「行政は、どのような状況の被災者が自殺する危険性が高いのかを把握し、心のケアを含めた包括的な支援に取り組むべきだ」と語る。 警察庁によると、5月の自殺者数は岩手県32人、宮城県50人、福島県68人。岩手は前年同月比3人減、宮城は同数だったが、福島第1原発事故が収束していない福島県では19人増えた。 自殺問題に詳しい秋田大大学院医学系研究科の佐々木久長准教授は「発生から3カ月以上たった今でも将来の見通しが立たない被災者のケアが重要。日常を取り戻した人や社会とのギャップを感じて孤立感を深め、自殺する恐れもある」と話す。 避難生活が続く被災者は、精神的な負担が長期化して抑うつ状態となる危険性もあるという。阪神大震災では地震発生後しばらくたってから、高齢者の自殺が相次いだ。多くが仮設住宅で1人暮らしだった。 佐々木准教授は「被災者を孤立させてはいけない。周囲が声を掛け続け、つながりを保たなければならない。被災体験の話に耳を傾け、気持ちに寄り添うことも重要」と強調する。
2011年06月17日金曜日
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