君が代起立 最高裁判決そろったが(6月18日)
公立学校の卒業式などで君が代斉唱と起立を求める学校長の職務命令について、最高裁の三つの小法廷による判決が出そろった。
いずれも憲法19条の思想、良心の自由には、違反しないという合憲判断である。
内心の自由は、憲法が「侵してはならない」と定める、最大限保障されるべき権利だ。しかし、三つの判決は校長の職務命令により、この権利が「間接的に制約される」との判断を下した。
入学式や卒業式に限っては、教育上の行事にふさわしい秩序や式典の円滑な進行などが必要であり、教職員の権利の制約は「許容できる程度の必要性、合理性が認められる」というのが理由だ。
権利は侵害されるが、命令の内容、制約のあり方を総合的に比較すれば仕方がないとする見解である。
憲法が保障する内心の自由より、秩序や式典の厳粛さを重く見ることは、やはり納得できない。
この判決でお墨付きを得たとばかりに、各地で起立と斉唱の強制に拍車がかかることが懸念される。そのあたりは裁判官も気になるのだろう。合憲とはなったが、半数の裁判官が反対したり、憂慮を示した。
判決には合わせて14人の裁判官が加わり、12人が合憲の多数意見に賛成、弁護士出身の2人が反対意見を述べた。賛成の裁判官でも5人が次のような補足意見を付けた。
「命令に踏み切る前に、寛容の精神の下に可能な限りの工夫と配慮を」「不利益処分を科すことが裁量権の逸脱または乱用に該当する場合があり得る」
折しも大阪府議会は3日、公立学校の教職員に、君が代の起立斉唱を義務づけた全国初の条例を制定した。主導した橋下徹府知事は、懲戒免職を盛り込んだ処分基準を定める条例案を提出する構えでいる。
命令に従わなければ有無を言わせずクビ−という乱暴な動きが現実に進んでいる。各地の教育現場が萎縮する心配もある。
補足意見の指摘は、危うい流れを踏まえたものとも受け止めたい。
反対意見の一つは、君が代を軍国主義のシンボルと見なす人がおり、これを「多数者の観点からのみ考えることは相当ではない」とした。
もう一つは、命令による起立には合理性があるが、国歌を歌うことは「思想、信条にかかる内心の核心的部分を侵害する」と断じた。
最高裁判断が出ても、微妙な領域の問題であることに変わりはない。懲戒処分や退職後の継続雇用の可否などを盾に、命令に従わせるという強権的手法は厳に慎むべきだ。心の問題は力で解決するべきではない。