東日本大震災で被災した岩手、宮城両県の漁港周辺の避難所が、ハエの大量発生に悩まされている。津波で散乱した魚類などが原因で、専門家は感染症の広がりなどを心配する。
約40人が避難する岩手県陸前高田市気仙町の漁村センター。調理場の女性は、ハエを手で払いのけながら夕食を用意する。つり下げられた4本のハエ取り紙には、50匹ほどが絡め捕られていた。
「ハエが食材に付かないように、一人は追い払う係なの。大きいのは小指の先ぐらい」。佐藤妙子さん(71)は、顔の辺りを飛び回るハエをのけぞってよけながら苦笑した。
ハエが目立ち始めたのは5月上旬。漁村センター横の仮設住宅では全戸にハエ取り紙が配布された。支援物資を管理するスタッフは「殺虫剤が足りない」。
約210人が暮らす宮城県石巻市の湊小学校でも、5月末からハエが目に付くようになった。避難所リーダーの庄司慈明(よしあき)さん(60)は「覚悟はしていたが、早めに手を打たないと病気のもとになる」と心配する。
どちらの避難所も漁港近くにあり、周辺には水産加工場が点在していた。津波で冷凍庫から大量の魚類が流れ出し、がれきの中で腐敗。ハエが大量発生した。
今月7〜9日に石巻市などを視察した財団法人「日本環境衛生センター」の武藤敦彦・環境生物部長は、避難所では病原性大腸菌O(オー)157を媒介することもあるイエバエがみられたとし、「これから多くなるだろう」と心配する。
被災地では、ハエの駆除作業が始まっている。
陸前高田市気仙町の長部漁港では、防護服に身を包んだ作業員が、がれきの山に向けて殺虫剤をまいていた。両県の被災地で駆除活動を進める公益社団法人「日本国際民間協力会」は「ウジがハエになる前に処置し、拡散を防ぐことが必要」という。
石巻市は今月2日、市内の避難所96カ所にハエ捕りポット1200個などを配った。石巻薬剤師会とも協力して殺虫剤と散布器も配り、使い方を説明した。薬剤師会の丹野佳郎専務理事は「住民自らがハエ対策に取り組まないと、追いつかなくなる」と指摘する。
しかし、ハエの大量発生の温床となっている排水溝の詰まりやがれきの撤去にはまだまだ時間がかかりそうだ。
日本環境衛生センターの武藤部長は「避難所だけに殺虫剤をまいても効果は限定的。予算や専門知識の面でも、国や県の援助が必要になる」と話す。ある市職員は「今夏はハエの大群を覚悟しないと」と嘆いた。(相原亮、金川雄策、菊池文隆)