『ためにならない』陸上自衛隊の職種解説
●普通科
陸戦骨幹部隊。軍隊で言う歩兵。小銃、機関銃、迫撃砲、対戦車・対舟艇火器、果ては装甲車等で武装し、敵の制圧・地域の占拠などを仕事とする。最も人員が多い職種である。
スキー、持続走、格闘などの競技会に熱狂的に取り組み、1位でなければ意味がないと思っている人種。特科と比べスマートさがない、と特科隊員は信じている。普通科は普通科で、野戦特科のことを何かしら言っているのだろう。ま、お互い様である。
●野戦特科
長大かつ強力な火力で敵を殲滅する。いわゆる砲兵。対地・対艦攻撃の要である。
前線で突撃する普通科の支援射撃を行ったりするが、実はこの突貫で味方普通科隊員をも吹き飛ばしたりする。誤爆などではなく、攻撃範囲が広いので肉薄しすぎると、巻き添えを食らうのだ。これはどの軍隊でも共通の、突撃支援射撃の定めだそうな。敵地に肉薄した歩兵は、支援射撃の間は伏せているのが通常であるが、これは味方の弾着で死傷しないようにするためらしい。
●高射特科
敵航空機の撃墜を任務とする。分類すれば、これも砲兵である。
機関砲系の装備であれば対地攻撃も可能であるが、ミサイル系の装備では対地攻撃ができない。敵戦車なぞに襲われたらどう戦うのだろう?まともに抵抗なぞできない。大戦略みたいなゲームをしてても、対空兵器は戦車か野砲でつぶしてしまうのが上策だ。自衛隊に限らず、他国の同一部隊もであるが。だからこそ、近接戦闘に弱い野戦・高射特科は、基本的にヒット・アンド・アウェイ戦法が基本なのであるが。
●機甲科
機甲とは、機械化装甲のことである。その名のとおり、戦車・装甲車などがイメージにあるが、バイクや『ジープ』を用いる偵察も行う。
機甲科の装備『90式戦車』は、海上自衛隊の『こんごう級イージス艦』や航空自衛隊の『F15Jイーグル』と共に、自衛隊の良き広告塔であり、ポスターにはしばしば登場する。また、イベントでは必ず戦車体験搭乗なぞ行っている。野戦特科の『FH70/155mm榴弾砲の体験搭乗!』とか、需品科の『野外炊飯車の体験炊飯!』とか見かけたことがない。
●施設科
いわゆる戦闘工兵。時には普通科よりも前に出て、障害除去などを行う。民生協力や災害・海外派遣でも出番の多い職種である。
やることは幅広く、壊れた道を直しもすれば、道を壊したりもする。地雷を除去したり、散布・埋設したりもする。穴を埋めたり掘ったりもする。橋をかけたり壊したりもする……云々。どこぞの自治体から防衛庁に20万羽の鶏を穴埋めするための協力が申請されたが、あれの穴を掘ったのはおそらく施設科であろう。
●航空科
空を飛ぶ連中である。対地戦闘、人員輸送、偵察、連絡などの任務を受け持つ。我等が野戦特科とは、空挺団などの空中機動の他、弾着の観測などで協働することもある。
対戦車ヘリは、対地戦闘能力や優れた機動力を発揮して地上での戦闘を支援するが、敵の対空攻撃や天候で満足に動けないこともある。すなわち『天気の都合で満足に配達できない航空科に比べ、我が野戦特科は天候昼夜を問わず、迅速かつ正確に、ご希望の配達先に砲弾をお届けいたします』ということ。ま、言うまでもなく、雨だからといって遊んでいるわけじゃないが。
●通信科
各部隊をつなぐ連絡網を構築・維持する。さらには電子攻撃・対電子攻撃なぞも通信科の役割である。
現代戦は電子戦である。レーダーが使えなくてはまともに戦えない。また、各部隊・各車両・各兵員をネットワークで結ぶことで、円滑な部隊運用ができるのだ。
これはすべての軍隊に共通の事である。敵のこれら電子戦を傍受・妨害するのも、主に通信科の仕事である。有線構築のため、でかい有線のドラムを背負って、山の道なき道を疾走する隊員もいたりする。
●化学科
オウム真理教の地下鉄サリン事件で有名になった、化学戦の集団。とは言え、実はあの事件で出動した部隊の主力は朝霞の第32普通科連隊だけどね。汚染地域の汚染除去や、焼夷・消火を行う。自衛隊の職種では最も人員が少ないとされているが、一方で戦争になった際には需要が高そうな部隊である。事実、規模の拡大が図られているのだ。
ちなみに、真夏の炎天下の中、化学防護衣を着て訓練をしたりするわけだが、通気性0のこの服、中はサウナ状態らしい。インテリ集団でありながら、そうとうなタフさを求められる奇妙な部隊である。
●輸送科
兵站は軍の要、というわけで。兵站線を担う重要な職種である。やたらでかいトレーラーなども装備しており、戦車のような車両の輸送も行う。 戦車のような車両は、一般的に足が遅く、燃費も悪い。このため、トレーラーなどで運ぶのだ。
兵隊に必要なのは、必勝の信念でも弾でもなく、まず飯であると思う。動けない兵隊はいらないのだ。この飯を運んだりしてくれるのも、冷蔵トラックなどを装備している輸送科の仕事である(流通の骨幹として)。
ちなみに女性自衛官もけっこう多く、小柄な人が大型トレーラーを運転しているのなぞ見ると、むしろ彼女がトレーラーの一部のように見えて仕方ない。いや、小柄な男もだけど。
●武器科
装備品の回収・修理を行う。メカニックの専門集団、と言えば概要を理解してもらえるだろうか。不発弾処理を行う隊員も、武器科の中で特別に教育を受けた者たちである。この不発弾処理は、これまで1度も事故を起こしたことがないのが世界に誇れることである。
女性自衛官をモデルにした漫画『どいつもこいつも』というのがあるが、あれは武器科という設定であったし、同じく女性自衛官を主人公とした映画『守ってあげたい!』の冒頭シーンは、不発弾処理班の処理である。地味なようで、思わぬところに顔を出す連中である。
●需品科
衣食住を担当する。おなじ飯にしても、輸送科は飯を運ぶ仕事、需品科は飯を作る仕事、と考えれば単純に差がわかるだろうか。
炊事、洗濯、風呂、裁縫などなど、なんでもできる部隊である。昔の日本の『嫁』みたいな部隊だ。ある意味、軍の骨幹たる部隊である。つくづく、喧嘩したくない部隊だと思う。 野外炊飯車両や野外洗濯車両、業務用ミシンなど、個性的な装備をしている。ちなみにカンボジアにPKOで行っていたときは、需品科の野外入浴セットは『タケオ温泉(タケオは自衛隊キャンプの地名)』と呼ばれ親しまれていた。
ちなみに神戸の震災のときは、被災者にこの入浴セットに入っていただこうとしたのだが、自治体が『それは法律上、認められない(公衆浴場とみなされるため)』としゃしゃり出てきたんだそうな。自衛隊、これを説得して、入浴をしていただけるようになりましたが。
●衛生科
野外で活動する者から、病院や医務室で勤務する者など、場所は様々である。
戦場において、衛生兵は最後まで倒れてはならない。自分が限界でも、傷ついた仲間を助ける、それが衛生兵だ……と、前期教育の中隊長に言われた。実際、30キロ行軍をやった際、自分は休憩時間には仲間のマメや体調不良の手当てで動き回ったので、けっこう疲れてしまったものである。
衛生科ではないが、衛生兵つながりの話として、レンジャー教育に来ていた航空自衛隊のレスキュー隊員など、3日3晩も眠らずに治療し続けたという。恐ろしい連中である。
●警務科
自衛隊の警察である。司法警察業務を行うほか、国賓などを迎える際に出迎える保安中隊も、この警務科である。
保安中隊は見栄えが大事であり、採用基準には身長や骨格のほか、顔もあるという噂である。部隊の動きに乱れをなくすため、上半身裸で『不動の姿勢(気をつけ)』やら『整列休め』やら、いわゆる基本教練の訓練を2時間とりつづける訓練など、恐ろしい訓練をする部隊である。外国の同様の部隊の曰く『クレイジー』とのこと。しかしながら、その賜物たる錬度は世界トップクラスであるのだ。ちなみに彼らは、格闘においても優れた能力を持たねばならない。才色兼備である。
●会計科
陸上自衛隊で唯一、毎日のように実戦を経験する部隊。金勘定、それが会計科の実戦である。すなわち毎日が戦場であり、給料日前などは、修羅場であることだろう。
私の同期で、数学の教員免許を持ちながら入隊をし、会計科にいった者がいる。やたら運動のできるやつで、会計科に行くにはもったいない、と周りは言ったものである。会計レンジャーとかやってもらいたいが、何をするんだろう、実在するならば。使用した弾薬の値段の計算を、その場でするのだろうか。
●音楽科
よく音楽祭などで民間の目に触れる職種である。武道館で行われるイベントは、チケットが手に入りにくいことこの上ない。それだけ、市民に愛されている職種だと言えるし、音楽隊としての実力もトップクラスと言える。
ただし、いざ有事の際など、前線で演奏するわけにもいかない。ナポレオン時代の『勇敢な太鼓手』でもあるまいに(フランス軍が雪山を行軍中、演奏していた楽隊の太鼓手が、崖に転落してもなお演奏をしていたという逸話)。すぐに撃たれてしまうのが関の山だ(前線基地での慰問演奏はあるとしても)。捕虜の取り扱いや交通整備、警戒など主に後方ではあるが、彼らも戦場に身をおくことになる。