虚妄の学園―仙台育英学園高校・その歪んだ実態
室井 助 著
JICC出版局(現:宝島社)
1989年3月28日発行(初版・絶版)
380円(税抜)
この本は、東北地方最大の私立高校・仙台育英学園に長年勤務していた教師が、学園に対する積年の恨み辛みと生徒に対する贖罪の気持ちをこめて書いた告発本である。
全校生徒4,000人を超えるマンモス校である仙台育英学園は、スポーツの盛んな学校として広く認知されている。平成以降は校舎の建て替えも進み、女子も受け入れ、進学率も上がるなど、イメージチェンジに成功したかに見える。
だがその実態は、校長一族による独裁的学校運営、でたらめな成績評価、校内に公然とはびこる差別主義、秘密主義、横行するワイロなど「これがまともな学校なのか?」という実態が、これでもかこれでもかとばかりに明かされていく。
著者は1965年から30年の長きにわたり、同校で教鞭をとってきた人物だが、彼の目から見たこの学校の実態は、およそ我慢できないことの連続だった。
立派な校舎は、来客者が目につくところだけで、膨大な数の生徒を収容するため、ただでさえ狭い校庭にはプレハブ式の校舎が建設された。空調設備はないから、夏暑い時期は授業にならないらしい。一般校舎の黒板はすすけて字が見にくいが、特進クラスなど一部のクラス・コースで使われる教室には、最新鋭の設備が惜しげもなく投入されてる。あまりの格差に、在校生から「見えるところだけ金をかけ、必要な設備はおざなりにされている」と訴える投書が新聞に載ったほどだ。
差別面は運動設備にも及ぶ。特進クラスの生徒がテニスやスケートなどの課外授業にいそしむ一方、在学中にプールに入れなかった生徒もいる。さらには、理科の実験室も使わせてもらえなかったケースもあるという。
この学校は国際交流を盛んに標榜しているが、その実態はお粗末なものだ。
在校中に留学したものの途中で帰国し、その後学校に戻ってこなかった生徒がいる。しかしなぜか学校側は彼の進級・卒業を認定した。留学中の学校から成績認定書が送られてきたというのがその理由だが、根拠になった書類を見た学園関係者は、校長と取り巻き以外は誰もいない。
留学生や外人教師も積極的に受け入れているが、彼らの多くは日本語も理解できず、ただ「遊んでいるだけ」。外国人「教師」の授業にいたっては、そのほとんどが高校レベルに達していないという。だが学園側はそれらの実態をひた隠し、学校案内等で大々的に国際教育を宣伝している。誇大広告も、ここまで来ると「詐欺」以外の何ものでもない。派遣された外国人たちも、これらの実態を目の当たりにし、所属団体に「自分たちは利用された」と不満をぶつけていたという。実際’85年には、教員免許を持たない外国人を教壇に立たせたという事実が発覚している。
この本には、先述されたこと以外にも、学校法人による財テクの実態、暴力事件等の不祥事を金で解決する学園の体質、資格試験や入試模試で横行するデタラメ、当時東北高校野球部だった人物の、学園との黒い交際の件も赤裸々に記載されている。
だがこれらの事実が世間に明かされることは、校長一族にとっては我慢ならなかったのだろう。裁判の結果、学校側の勝利になった。修正したら本の体裁にならなくなったため、出版元はこの本をやむなく絶版扱いとした。地元仙台では、学園上層部がこの本を買占め、目に触れないようにしたという。
これらのことを「一学校法人の不祥事告発本」とまとめるのは簡単。しかし、甲子園で名をとどろかせている学校法人の多くが、仙台育英学園と似たようなことをやっていると、個人的には思っている。私自身、高校時代を新興私学の底辺校ですごした経験があるが、似たようなことはたえず感じていた。ただ私の場合は、ここまでひどくはなかったが。
ちなみに私の親戚は仙台在住だが、その人に言わせれば、この学校は「宣伝ばかり熱心で、中身は空っぽでガラが悪い生徒のいく学校」という認知をされているそうだ。
見てくればかりで内容がない学校で、青春時代の貴重な3年間をすごさなくてはならなかった生徒の気持ちはいかばかりだろう。「いやしくもも高校と名乗る以上、一定水準以上の生徒に教育を施すべきだ」というOBの声を、学校上層部はなんと聞く?