きょうの社説 2011年6月18日

◎工程表見直し 国も被ばく管理に責任を
 福島第1原発事故の収束へ向けた工程表の見直しで、東京電力が新たに放射線管理の強 化や医療体制の整備を盛り込んだのは当然である。

 現場では、作業を阻んできた大量の高濃度汚染水を浄化するシステムがようやく本格稼 働にこぎ着けた。楽観は禁物ながら、これが軌道に乗れば、収束へ向けた一定の道筋が見えてくる。

 これからは汚染水処理、原子炉建屋を覆うカバー設置など重要な作業が待ち構えるが、 トラブルが生じれば被ばくの恐れが高まるだけに、その前線に立つ作業員の安全確保は急務である。夏になれば重い防護服での作業は過酷を極める。熱中症対策や精神的ケアも含め、万全の支援体制がいる。

 国が定めた上限250ミリシーベルトを超えて被ばくする作業員は東電の調査で計8人 に上った。事故前の被ばく上限である100ミリシーベルト超えは102人を数え、東電のずさんな線量管理の実態が次第に明らかになってきた。上限超えによる現場からの離脱者が増えれば、工程表の実現は一段と困難になる。

 作業員の健康管理は事業者責任とはいえ、東電だけに任せるのはもはや無理である。現 場に厚生労働省の労働安全担当者を常駐させるなり、国も被ばく管理の前面に立つ必要がある。原子炉の廃炉という長期的な事故の後始末まで視野に入れれば、復旧に必要な要員確保と人材の養成は国が担う重要な役割といえる。

 緊急時に限る被ばく線量の上限は、福島の事故で100ミリシーベルトから250ミリ シーベルトになったが、被ばく線量が高いほど発がんのリスクが高まるだけに、これ以上の引き上げは難しい。厳格な作業管理のもとで人をやり繰りするほかないだろう。

 作業員の被ばく調査は対象者約3700人のうち約2400人が終わった段階で、まだ 4割近くが残っている。調査が進めば、上限超えがさらに増えるのは確実である。東電は内部被ばくの線量を測る装置の増設を打ち出したが、対応はことごとく後手に回っている印象を受ける。

 政府も指導、監督の立場にとどまらず、国が一丸となって現場を支える体制を早く整え てほしい。

◎県中央病院建て替え 災害医療拠点のモデルに
 石川県立中央病院の建て替え構想が動き出し、基本構想策定の土台となる基本フレーム 案がまとめられた。県側が東日本大震災を教訓に、地震、津波、原発事故の複合災害に備えて機能整備を図る考えを示しているのはもっともである。ハード、ソフト両面で災害医療拠点の先進モデルといわれるような施設整備を望みたい。

 東日本大震災の被災地では、沿岸部にある医療機関の多くが壊滅的な被害を受けた。医 療設備の被害は免れても、停電や断水、通信不能などで機能停止に追い込まれた施設も多く、地域の災害拠点病院は機能低下の中、あふれる患者の対応に追われた。大震災を機に県内の医療機関、特に県立中央病院など災害拠点病院は防災対策と非常時の医療体制の強化に一層努めてもらいたい。

 新県立中央病院の基本フレーム案では、臨時病棟やトリアージの作業スペースを確保す るため、新病院の延べ床面積を現在の1・2倍に拡大することになっている。患者の症状に応じて治療の優先順位を決めるトリアージは、多くの患者が殺到する災害や事故時にとりわけ重要である。施設の拡充はむろん、そうした能力のある看護師(トリアージナース)の育成にも力を入れる必要がある。

 停電や断水などライフラインが途絶えた時でも、自家発電など自力で応急措置を取れる ことが災害拠点病院の重要な指定要件になっている。ただ、その具体的な基準を政府は示しておらず、どの程度の能力の発電施設を整えるかは各病院の判断に任されている。

 このため、病院によって発電能力にばらつきがあるが、災害拠点病院というからに、少 なくとも3日間程度は発電を継続できる能力が求められており、それに見合った燃料の備蓄施設も整備しなければならない。

 厚生労働省は大震災を受けて、災害時の医療供給体制の見直し作業に入っており、今年 中に報告書をまとめる予定という。それによって、新県立中央病院の災害医療体制の強化をさらに考える必要性も出てこよう。