きょうのコラム「時鐘」 2011年6月18日

 梅雨時になると、お年寄りの記憶を刺激する歌がある。明治のころから歌い継がれた「うめぼしのうた」という。先日の「地鳴り」欄の投書にもあった

「春の2月、3月は花盛り。楽しい時も夢のうち」。実がなるころには「塩につかってからくなり」。7月、8月は土用干し。「思えばつらいことばかり」だが「世のため人のため」と気を取り直し「なくてはならぬこの私」と歌う

先ごろ官邸で和歌山からの梅娘の訪問があった。梅をほおばる首相の姿にウメの歌が重なった。「楽しい時も夢のうち、思えばつらいことばかり」。それでも「世のため人のため、なくてはならぬこの私」と自らを奮い立たせてきたに違いない

「うめぼしのうた」は日露戦争を背景に生まれた。「シワはよっても若い気で、小さな君らの仲間入り」と、子どもたちを勇気づけた。同じ戦意高揚の歌でも太平洋戦争時と違ってほのぼのしている。時代の差というものだろう

今、菅首相を「なくてはならない」と思う人もなく「世のため人のため」なら早く辞めろと言われている。うっとうしくて酸っぱい「菅さんの歌」である。