【編集日記】(6月17日付)
平安時代の869年に起きた貞観地震による津波と東日本大震災での大津波との関連性が注目されている▼古文書に残されていた記述に注目した研究者たちは大津波が東京電力福島第1原発も襲う危険性を指摘していた。だが、研究成果が同原発の安全対策に生かされることはなかったという▼謙虚に歴史に向かい合いながら、過去からの警告を聞こうとするのも専門家の務めだろう。一方で、文学者や芸術家の研ぎ澄まされた感性と想像力が、まだその姿を現さない未来の危機を鋭く嗅ぎ取ることもある▼巨大文明が滅びた後の世界を描くアニメ「風の谷のナウシカ」もその一例だ。技術が生んだ放射能という汚染物質におびえる今と酷似する。封切りは1984(昭和59)年3月11日。震災の日と重なるのは偶然か▼原作のマンガは思索的な内容だ。アニメでは「人間が汚し、その結果、人間の生存さえ困難なものとなり果てた世界」(「ナウシカ解読・ユートピアの臨界」稲葉振一郎・窓社)を舞台に、再生と救済が描かれる▼作者の宮崎駿氏は家族や人間の成長に温かいまなざしを注ぐ一方「文明と人間との思想的難問と格闘する思想家」でもある。数々の作品の制作過程を展示したスタジオジブリ・レイアウト展が福島市の県立美術館で開催中だ。文明や戦争、地球の未来についても考えたい。
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