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ゲストの感動と安全両立

守りの要

■シンボル自転と逆回転

ミュージカルショーの会場で、スタッフに声をかける亀井さん。あらゆるリスクに備える仕事に「想定外」は許されない

 入り口にあるシンボルの地球儀「ユニバーサル・グローブ」(直径7.3メートル)は、北極星から見て時計回りに動いている。地球本来の自転とは逆回転だが、赤道付近にある「UNIVERSAL」のロゴを1文字目から読ませるため。ユニバーサル映画の冒頭で流れるシンボルは、コンピューターグラフィックスで地球は反時計回り、ロゴだけが時計回りだ。

 夢を与える場所で決してあってはならないこと。それを防ぐため備えを固める。

 米映画テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」(大阪市此花区)のゲスト(客)は、多い日で4万人以上。野外ショーや路上パフォーマンスが始まると、家族連れらがどっと押し寄せ、黒山の人だかりとなる。

 万が一、転倒事故が起きれば多数のけが人が出かねない。スタッフの誘導は適切か、通路の確保は十分か、集客は想定人数を超えていないか――。事故や火災、急病人の処置など、あらゆるトラブル対応を統括する亀井和夫(56)は、連日パーク内を巡回し、遠巻きにチェックする。

 次男は、巨人の亀井義行選手。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の大舞台も経験した息子と比較し、「私はずっと裏方一筋です」と笑う。

 長年、勤務した百貨店では、保安畑で店舗の防災や警備システムの運営にかかわった。道を極めようと取得した資格は、消防設備士、警備員指導教育責任者、危険物取扱者など10を超える。

 「防災、警備に精通した人材」。11年前、USJの求人を目にし、「知らない世界で経験を生かしてみたい」と飛び込んだ。

 感動と安全の両立。亀井が開業以来、苦心して取り組んできたテーマだ。ゲストを驚かせる派手な演出は、時に危険も伴う。だが、制服の警備員や立ち入り禁止場所を増やせば、雰囲気を台無しにしかねない。

 「ノー」と言わないゲスト誘導は、そんな中で生まれた工夫の一つだ。スタッフは「入らないで」「走らないで」とは言わず、「こちらへどうぞ」「ゆっくり歩いて」と声をかける。笑顔はもちろん、好印象を与えるよう声色や目線にも気を使うよう徹底している。

 開業10周年記念のミュージカルショー「ドリームズ・アー・ユニバーサル」の会場で、亀井はスタッフの動きに目を光らせる。

 目の前でゲストが歓声を上げた時、今シーズン、けがに苦しみながらも、レギュラー獲得を目指す息子の言葉を思い出す。「三振してもファンを沸かせるバッターになりたい」。野球選手も裏方も、人に感動してもらうという仕事の本質は同じだと感じる。

 ハロウィーン、クリスマス、カウントダウン……。ショーの警備計画は数か月前からシミュレーションを重ねるため、準備は今が佳境。〈守りの要〉がUSJの舞台裏を支え続ける。

(敬称略、おわり)

 (社会部・稲垣収一、中沢直紀、池尻太一が担当しました)

2011年6月11日  読売新聞)
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