ドイツ語好きの化学者のメモ

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「イルカ肝臓から2000ppmの総水銀を検出」の情報源について

翻訳の納期直前なので、この記事は簡単なメモとしておきたい。

最近一部の人たちの間で、ある映画の影響なのか、「イルカ肉・鯨肉の水銀汚染」 が話題となっている。
特に、「2000 ppm の水銀を検出」 というセンセーショナルな表現が独り歩きして、議論となっている。
「『イルカの内臓から得られた最大値・水銀濃度 2000 ppm』のソースが何処にも存在しない」とまで言う人もいた。


市販されているイルカやクジラの肉や脂身、そして内臓の重金属分析は、既に論文が多数出ているし、
北海道医療大学薬学部の遠藤哲也准教授の科研費報告書も2005年に発刊されている(当時は講師)。

科研費報告書、「市販鯨肉の水銀汚染と安全性(研究課題番号:14572112)」 の概要は次の通り。
http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/14572112

【和歌山県で販売されていた鯨内臓食品の水銀濃度は著しく高く、肝臓から最高で2000ppmの総水銀
検出された(Sci. Total Environ.,300,15-22,2002). 】

「鯨内臓食品」 を 「イルカ肉・鯨肉」 と、うっかり勘違いしたのか、意図的にすり替えたのか、
それは私にはわからないが、「総水銀2000ppm」 という最高値は、「イルカの肝臓製品」で検出されている。

ただ、これは最高値であり、統計的な平均値や標準偏差、それに肉については、以下の資料で確認してほしい。
また、DNA分析でもイルカの種名は特定できず、可能性のある3種類のイルカが併記されている。
調査時点では、まだ改正JAS法が間に合わず、加工品の原材料表示が義務ではなかったのだろう。

遠藤博士は、肝臓などの内臓製品の重金属汚染を指摘し、なるべく食べないように警告しているが、
誰かが宣伝している噂とは異なり、肉と脂身については月2回までという上限を提案しているのみだ。
(注:月2回までという上限は、成人男性の場合の推奨であり、女性や子どもではより少なくすべき。)


ここで研究成果を報告した論文が紹介されているが、それは次の論文である。
上記概要には 「肝臓から最高で2000ppmの総水銀」 とあるが、正確には 「最高で1980ppmだ。
ただ、数値を切り上げて 2000ppm としたのは遠藤博士であり、どこかの環境団体ではない。
http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6V78-45S49DS-6&_user=10&_rdoc=1&_fmt=high&_orig=mlkt&_sort=d&view=c&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=f11314579e68ae147d3bc5ee4c4861e6

【We surveyed mercury contamination in boiled liver, kidney and lung products marketed in Japan between 1999–2001. The average ±S.D. of total mercury (T–Hg) was 370±525 (range: 7.60〜1980, n=26) μg/g in liver, 40.5±48.5 (7.30〜95.1, n=15) μg/g in kidney and 42.8±43.8 (2.10〜79.6, n=23) μg/g in lung. 】

(注:ここでは重量比の意味で ppm を使っているが、体積比と勘違いする人もいる。
そのため、論文要旨のように、μg/g で重量比であることを明確にする方が望ましい表記である。)

論文のダウンロードは有料で $31.50 かかるが、ある環境NGOがPDFで提供している。
http://www.marineconnection.org/docs/Contamination2.pdf

続報となる次の論文でも、この最高値 1980ppm は引用されている。
http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6V74-4B2CG90-2&_user=10&_coverDate=03%2F31%2F2004&_alid=1259431661&_rdoc=1&_fmt=high&_orig=mlkt&_cdi=5832&_st=17&_docanchor=&_ct=24&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=f6db42810e9de7f59078f250220df9bf

この論文のPDFは次の通り。
http://www.marineconnection.org/docs/Contamination1.pdf


こういった資料を基に、既に誰かが説明していると思っていたので、私はあえて取り上げなかった。

この研究の発表当時、2003年頃には国内報道もあり、内臓の塩ゆで加工品は少なくなったようだ。
内臓を食べる人が減ったため、今では引用されず、代わりに肉の重金属汚染のみが注目されているようだ。

まあ、自分で調べたことをメモしておく意味でも、ここで記事にしておいてもいいだろう。
関係する文部科学省科研費の研究報告書(83ページ)を入手してから、追記する予定。

報告書を入手するために、まずは国立国会図書館の利用者登録をすることにした。
その後、報告書のコピーを申請することになるから、来月中旬になるだろうか。
ただ、コピー費用が高いだろうから、全文ではなく、概要の数ページだけになるかもしれない。

まあ、1か月も待っている間に、誰かが正確な情報の配信をしてくれることを期待している。

追記(4月2日):
1980 ppm という最高値を報告した論文は、SCOPUS の検索では、29件の論文で引用されていた。
遠藤博士自身の論文9件を除くと、他の研究グループが書いた20件の論文で引用されたことになる。

情報の検索の場合は、検索条件を考慮しないと、間違った結論を導いてしまう。
「日本語では○件と少ないが、英語では○件、学術論文は○件」など、前提条件を明確に意識すべきだ。

(最終チェック・修正日 2010年04月02日)

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「イルカ肝臓から2000ppmの総水銀を検出」の情報源について http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/63016695.html 2010/3/21(日) 午後 9:13 [ toripan1111 ] イルカ愛護団体BlueVoiceが2008年以降に出したPDFにも1980ppmなんて数字は出てません。 ↓の3ページ目には「彼が検出した最高濃度はハンドウイルカ肉から検出された100ppmである」とありますが、 http

2010/3/29(月) 午後 8:59 [ フリーランス英独翻訳者を目指す化学系元ポスドクのメモ ]

イルカの水銀汚染とセレンとの関係

先日、イルカ肝臓から検出された総水銀量について記事にした。 (コメント欄を閉鎖する前の投稿コメントは、念のため、トラックバック先に保管してある。) http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/63016695.html その記事で引用した遠藤博士の論文では、市販のイルカ肝臓塩ゆで加工品を分析して、 最高値 1980 μg/g の総水銀を検出している(最低値は 7.60 μg/g、平均値は 370±525 μg/g)。 標準偏差

2010/4/6(火) 午後 7:48 [ フリーランス英独翻訳者を目指す化学系元ポスドクのメモ ]

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