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2011年6月16日(木)付

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震災復興特区―1国2制度の意気で

東日本大震災から3カ月余り。被災した自治体は復旧作業に追われつつ、復興への構想をまとめ始めた。宮城、岩手両県は、それぞれ復興特区構想を政府の復興構想会議に示した。高台へ[記事全文]

迎撃ミサイル―輸出には厳格な管理を

北朝鮮の弾道ミサイル発射をきっかけに、日米が5年前から共同開発してきた新型の迎撃ミサイルについて、北沢俊美防衛相は先ごろ、ゲーツ米国防長官に第三国への移転、輸出を容認する方針を伝えた。[記事全文]

震災復興特区―1国2制度の意気で

 東日本大震災から3カ月余り。被災した自治体は復旧作業に追われつつ、復興への構想をまとめ始めた。

 宮城、岩手両県は、それぞれ復興特区構想を政府の復興構想会議に示した。高台への移住を核とするまちづくりや産業再興、交通網や医療・福祉、教育の整備などで、国からの補助金を手厚くしたり、省庁の縦割りに伴う様々な手続きを一本化・簡素化したりすることを求めている。要望に応えていくことは国の責任だろう。

 両県の特区構想で注目したいのは、日本全体が抱える課題への突破口になりうる案が含まれていることだ。

 宮城県は水産業復興特区として、漁協がほぼ独占している沿岸漁業への民間企業の参入を打ち出した。後継者がいないまま高齢化が進む地元漁業に、民間の資金や知恵を呼び込むのが狙いだ。漁協は反発しているが、村井嘉浩知事は強い意欲を示している。

 農業・農村モデル創出特区では、漁業とは逆に規制強化を訴える。農地の所有者や借地人の土地利用を制限し、市町村などが一定期間管理して基盤整備し、土地を配分するという案だ。大規模で効率的な農業を目指す考えが土台にある。

 岩手県は「TOHOKU国際科学技術研究特区」を掲げる。海洋、防災、エネルギーの3分野で先端研究ゾーンを造ろうと、海外の研究者を呼び込むために住まいや教育、在留資格などで規制緩和を求めている。

 構想を実現するには、自治体に権限と財源をセットで確保することが欠かせない。

 特区では、小泉内閣が始めた構造改革特区が知られる。特区の認定は今も続いており、1100を超えた。しかし、「どぶろく特区」に象徴される通り、規制緩和の効果は個別の分野・事業に限られる。いかにも小粒だ。権限を持つ省庁と交渉してから認定する仕組みになっていることと、財政・税制の優遇措置を欠いたことが原因だ。

 宮城、岩手両県の特区構想は複数の省庁にまたがる。財政・税制上の後押しも必要だろう。構想を出発点に、一括して規制や法律を見直すことだ。省庁縦割りの補助金から、使い道を自由に決められ、数年度にわたって支出できる一括交付金に切り替える。特区内の企業は法人税を一定期間免除するなど、投資優遇を超えた「1国2制度」的な措置に踏み込めないか。

 地方が主導権を握りつつ、あすの日本を切り開く。現場発の構想を大切にしたい。

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迎撃ミサイル―輸出には厳格な管理を

 北朝鮮の弾道ミサイル発射をきっかけに、日米が5年前から共同開発してきた新型の迎撃ミサイルについて、北沢俊美防衛相は先ごろ、ゲーツ米国防長官に第三国への移転、輸出を容認する方針を伝えた。

 同意の条件として、北沢氏は(1)日本の安全や国際の平和に資する(2)第三国側に再移転を防ぐ十分な政策がある、の二つをあげた。今月21日に開かれる日米外務・防衛担当閣僚会合での合意をめざすという。

 しかし、こんな条件ではあいまいすぎる。ミサイル配備がもたらす「国際の平和」とは何なのか。第三国とはどんな国々なのか。米国の要請を拒否できるのか。いずれも不明だ。

 これで政府が言う「厳格な輸出管理」などできるのか。

 そもそも開発の目的は、北朝鮮の脅威から日本を防衛することにあった。このミサイルに関して2度出された官房長官談話には「我が国国民の生命・財産を守る唯一の手段」とあった。開発理由は明確だったのだ。

 ところが、オバマ政権が2009年にイランの弾道ミサイルに対処するための欧州配備を決めたことで、にわかに海外で使われる計画が現実化した。

 確かに弾道ミサイルの脅威は急速に世界に広がっており、弾道ミサイル防衛(BMD)は有効な対抗手段と考えられている。この分野で、日本の技術が役立つ意味合いは小さくない。

 だが国際社会にもたらす影響も慎重に考えなくてはならぬ。欧州ではロシアとの、アジアでは中国との摩擦の恐れが指摘されている。第三国移転を認めるのならば、細心の外交配慮や日本の主体性の確保が必須だ。

 それだけではない。この共同開発は04年に日米間の事業として、武器輸出三原則の例外扱いとされた。それが第三国にも渡るとなれば、新たな武器輸出に限りなく近い。

 このままでは、長年、国是として厳しい輸出管理政策を貫いてきた日本の大きな転換点になる。三原則にからめた議論は避けて通れないはずだ。

 ところが昨年末の防衛大綱の策定の際、三原則の緩和をめざした菅直人首相は社民党との連携を優先するあまり、三原則の議論を中断させたままだ。

 第三国への移転にかじを切った経緯に関する政府の説明も不十分だし、米国との協議にどんな方針で臨むのか、国会での議論もほとんどない。

 こんな、なし崩しは認められない。米国との拙速な合意を避け、もっと厳格な輸出管理の基準をつくらねばならない。

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