「――ドクター、次の行動の指示を」
「・・・・・・ウーノか」
毒々しい紫の髪をした青年がゆっくりと目を開く。
「No.2の培養は順調。No.3の作成に取りかかるべきです」
青年に進言するのは薄い紫色の髪をした女性。
「・・・・・・わかったよ。やればいいんだろう、やれば」
「ドクターの素晴らしい頭脳があれば、最高評議会を出し抜き、ドクターの夢を実現することも可能です」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
女性は思考する。
自分は世辞などではなく、純然たる事実を述べただけだと。
青年は思考する。
そんな夢を実現するよりも微睡みの中で夢を見ていたかったのにと。
――最近はどうも働き過ぎた。
戦闘機人について革命的な技術革新を起こしたのはつい最近のこと。
最高評議会からは大した指令も来ず、この広くて暗いアジトに一人というのが悲しくて、自作機人No.1、ウーノを作成したのが発端だ。
・・・・・・戦闘機人としてつくった覚えはない、一緒に過ごしてくれる美人のおねいさんが欲しかっただけなのに、先天固有技能なんてものが発現してしまうし、ウーノは何を勘違いしたのか自分の体を戦闘用に作り替え(尤も制作者は戦闘など考慮していないので付け焼き刃にすぎないが)、生みの親の生みの親である最高評議会をぶっ潰そうと言い出した。
しかも理想のおねいさんの記憶を複写する為に考えていたプロジェクトFの用途を変更し、勝手に制作者である私の遺伝子を自分の体に埋め込んでしまった・・・・・・これは私が責任を取らねばならないのだろうか?
私も彼女に私自身の因子(制作時点なので、これはノーカウントだろう)を埋め込んだが、それは私に似た性格のおねいさんなら気兼ねしなくていい、という発想が元だ。
「No.3は肉体増強レベルを大幅に引き上げ、“ナンバーズ”の実戦部隊のリーダーとするのが得策です」
「ああ、じゃあそんな感じで」
「はい」
ナンバーズ。
プルシリーズでなければ時の番人でもなく、ましてや宝くじでもない。
No.1が、No.2以降の“戦闘機人”の作成を推奨。
1を表すウーノを自称し、自分たちをナンバーズと名乗ることを決めた。
・・・・・・ウーノやドゥーエはまだいい。
だが5番の娘などどうだろう。
名付け方の法則に従えば、チンク。
・・・・・・チン●。
学校に行かせてみろ、絶対にイジメられる。
次に8番、オットー。
オットットー・・・・・・これもどうかと思う。
問題なのはウーノが何番まで私につくらせるつもりなのか。
3番をリーダーに、というぐらいなのだから余裕で5番まではつくらせそうだ。
すまない、まだ見ぬ我が子よ。私にはウーノを止めることはできないだろう。
「私たちナンバーズはドクターの夢のために」
彼女の勘違いはマッハ。
ウーノの頭の中での私は世界征服を企む悪の科学者みたくなっている。
「――ところでウーノ」
「なにか?」
「そのスーツはどうにかならないのかい?」
ウーノの身を包むのはなんだかエロいスーツ。
「私たち戦闘機人は魔導師のように防護服を展開できないため、こうして常に防護服を着用しておかなければなりません」
「戦闘能力の低い君がそれを纏ったところで大した効果は期待できない。頼むから以前渡した服を着てくれ。私のサポートならアレの方がいい――主に私が」
仕事している横にそんな格好で居られたら集中などできやしない。
「・・・・・・ドクターの命令であればそのように」
「助かるよ」
男子の無限の欲望に勝つのはいくつになっても大変なのだ。
「それじゃあ、着替えたら仕事を始めようか」
「はい――ですがその前に」
白衣に袖を通す私の髪をウーノがどこからか取り出した櫛で梳いた。
「寝癖ができています。ドクターの髪には癖がありますから」
二、三度梳いて寝癖を直すと、着替えのためにそそくさと踵を返し出て行ったウーノ。
「・・・・・・これはこれでありかもしれないな」
献身的な女性は私の好みだ。
あとがき
勘違い系・・・なのかな?
ナンバーズがドクターのために奮闘するおはなしです。