目次 > 2011年6月13日放送の特報アンカー/バックナンバー |

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アンカーズアイ 〜小さな村の女性和菓子職人が店を再開〜 |
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太平洋に面する岩手県北部の小さな村、野田村。人口5000人に満たないこの村では、震災で37人が犠牲となり、全世帯の4分の1以上にあたる500軒件近くの家屋が全半壊しました。
あれからおよそ3ヵ月…。
村では、避難所生活を送っていた村民たちが徐々に仮設住宅に入居し、復旧に向けての動きが進んでいます。
野田村の和菓子職人、大沢心さん(26)。実家の老舗和菓子屋の再開を決意したのは、5月のことでした。
大沢心さん「ちゃんとオープンできるのかな、と…。レジもないし、電話もつながっていないし、物も入っていないし。心配が強いのか分からないんですけど…、寝れない(笑)」
東京の専門学校を卒業後、神奈川県の和菓子屋で4年間修行していた心さん。2年前に、野田村で唯一の和菓子屋として、祖父の代から親しまれてきた店に戻ってきました。しかし、3月11日を境に、その生活は一変しました。
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心さん(3月17日)「津波が来て全部ぐちゃぐちゃになってしまいました。2009年3月に新規で工場をオープンしたばかりでした。全部借金が残っています」
両親と、4人のきょうだいは皆、無事だったものの、2m近い津波に店が飲み込まれました。新しく揃えた機械は全て使いものにならなくなり、総額3000万円のローンだけが残りました。 こうした状況にも関わらず心さんは当時、村民の安否が知りたい全国の人のために村を駆け回り、ブログを使って安否を伝える活動を行っていました。
心さん(3月17日)「誰かやらないと不安のままの方が多いので、出来ることは何かと考えた時に、安否確認が出来ない方にしてあげたいと思った」
あの日以降、泥だらけとなった店内の掃除を続ける毎日を送ってきました。
心さん(4月4日)「(砂が)どこからともなく出てくるんですよ。一回では流しきれなくて。どこに入っているのか分からないけど、洗っても洗っても絶対どこからか出てくるんですよ」
それでも、店を閉じることは全く考えませんでした。
心さん(4月4日)「私が被災して、お菓子を食べてないだろうと持ってきてくれた人がいたんです。『こんなに嬉しいのか』と思ったので、(被災者の方は)ケーキとか生菓子類は召し上がってないので、そういうものは食べさせてあげられればな、と思いました」
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震災から2ヵ月半が経ったころ…。当初、半年以上かかると思われていた営業再開の日を、5月28日に決めました。5月いっぱいで村を離れるボランティアの人たちに「少しでも恩返しがしたい…」。そんな思いからでした。
空っぽだった店内に、機械が運び込まれます。心さんは、再開を決めた日に間に合わせるため毎朝6時には目を覚まし、お菓子を作り続けます。準備は連日夜遅くまで…。それでもギリギリの日程です。
心さん「オープンまでになるべく前の商品は揃えたい。残念な顔を見たくないというか、せっかく来てくれたからにはないと言いたくない」
母・邦子さん「小さい時から負けず嫌い。弱音を吐かないというか負けず嫌いというか。本当、ガッツだけはたまげますよ」
心さん「それ褒めてるの?それなら良かった(笑)」
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再開の日が迫り、店内も元の姿を取り戻しつつあります。しかし、明るい先行きばかりではありません。店の改修に、新しくそろえた機械…、営業再開には多額の費用がかかり借金は4000万円以上に膨らんでいます。原材料の仕入れも、以前とは違う様子です。
心さん「出来れば(材料は)残したくない。高いんですもん。支払が待っているから」
店の味を守りながらも経費は抑えなければならない…。厳しい現実です。
オープン前日、思わぬ来客がありました。
小学生たち「ケーキ焼いてる?」
様子を見にきたのでしょうか。地元の子供たちが店の再開を楽しみにしているようです。
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(営業再開当日)
心さん「ケーキは当日に作らないと。来てくれればいいな〜、と。あまりお天気が良くないので、心配ですけど…」
母・邦子さん「ギリギリです。まだ何忘れているか知れません(笑)」
震災前の商品はほとんど全て作ることが出来ました。和菓子とともに2年前から作り始めた洋菓子もショーケースに並びました。
開店時間の午前9時。
店の前には、オープンを心待ちにしていた人たちが、大勢集まりました。
心さん「皆さんが笑顔になれるようなお店づくりをしていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします」
父・欽弥さん「まるきん、オープン!!」
店の手伝いをする心さんの妹たちも、大忙しです。
女性客「いっぱい買ったからまた来るね」
行列は午前中いっぱい続きました。懸命に準備した商品は、ほとんど売り切れました。震災を機に、野田村を歩く人の姿が減っていると心さんは感じていました。「これからも、自分にできることを少しずつやっていきたい…」。今の思いです。
心さん「大勢来ていただいて嬉しかったです。みんなが集まれる場、気軽に来て、和める場になればいいなと思います。今は公園もなくなったし、皆が集まって遊ぶ場所がない。こういうところでも使って和んでもらえればな、と思います」
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2011年6月13日放送 |
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