菅政権の最大の懸案だった特例公債法案が15日、成立に向けて動き出したことで、菅直人首相の退陣時期の正式表明をめぐる与野党の駆け引きが一気に加速した。自民、公明両党は復興を置き去りにした政争との批判を懸念し、首相が退陣しなければ一切協議に応じないという姿勢を転換。一方、民主党は特例公債法案を次期政権に持ち越させないメドがついたことで、首相の花道として11年度2次補正予算案を容認する方向でまとまった。【岡崎大輔、横田愛】
「特例公債法案と首相の退陣をリンクさせ過ぎると、政局のために反対していると受け取られる」。15日、東京都内で行われた自民、公明両党の幹事長、国対委員長らの会談で、公明党の漆原良夫国対委員長が懸念を表明した。菅首相が退陣するまで特例公債法案の審議を拒む構えをみせていた自民党に、軟化を促すサインだった。
この会合をきっかけに、民主、自民、公明3党は「菅包囲網」で急速に接近する。続く3党幹事長会談では、首相の第2次補正予算案編成の指示を「唐突だ」と抗議した自民党の石原伸晃幹事長に、民主党の岡田克也幹事長が「申し訳なかった」と陳謝した。会談後、自民党の逢沢一郎国対委員長は3党合意の履行を条件に「菅さんだから特例公債法案はだめだと言っているわけではない」とあっさり軌道修正してみせた。
子ども手当の修正協議や被災地の「二重ローン問題」対策で実を取りたい公明党は、与党との妥協のタイミングを計っていた。山口那津男代表ら幹部が繰り返し首相に退陣を迫ってきた半面、内閣不信任決議案提出後、支持者から「政局に巻き込まれた」との批判が寄せられていた。
一方、自民党には参院での野党優位を維持するため、公明党との連携を重視せざるを得ない事情があった。だが、首相退陣を見越した妥協は、特例公債法案の成立後、首相がなお居座り続けた場合、谷垣禎一総裁らが党内から突き上げられるリスクと背中合わせ。自民党幹部は「退陣を決めるのは首相。約束できるのは首相だけだ」と不安を口にした。
首相は15日、民主党の石井一選対委員長に電話し「2次補正と自然エネルギーの固定価格買い取り制度を導入する法案はやりたい」と意欲を示した。ただ、14日に首相と会談した党幹部の一人は「もしずるずる辞めないようなら、その時は自分が説得する。でも、特例公債が通れば、もう『辞めない』とは言わないよ」と語った。
自民、公明両党が特例公債法案の成立に向け協力姿勢に転じたことで、民主党内では15日、首相の早期退陣に向けた環境整備が進んだ。党幹部は会期途中の首相退陣を前提に、本格的な復興予算となる11年度第3次補正予算案を「7月下旬から8月初旬にまとめ、お盆明けに(国会に)提出し9月初旬までに成立させる」と語った。
15日昼、国会内で開かれた民主、自民、公明の3党幹事長会談。自民党の石原伸晃幹事長が「2次補正は首相の花道か」と問うと、民主党の岡田克也幹事長は「その話は少ない人数でしましょう」と否定しなかった。
岡田氏と枝野幸男官房長官、輿石東参院議員会長が14日夕、首相官邸で首相と会談した際、さらなる続投に意欲を見せる首相に対し、出席者からは厳しい意見が相次いだ。
党執行部側は、2次補正提出と国会会期の大幅延長を容認する一方、特例公債法案の成立にめどがつけば、首相が退陣する段取りを主張したとみられる。出席者の一人は「会期は大幅延長するが、首相はいつでも交代できる」と語った。
民主党の安住淳国対委員長は15日、記者団に「2次補正はスピードを持ってやれば、今の体制で処理できる」と述べ、7月中旬の2次補正提出後に早期成立を図り、7月中にも首相が退陣すべきだとの考えを示した。
執行部内には、仙谷由人官房副長官が月内退陣に言及するなど早期退陣論もあった。しかし、自公両党が協力姿勢に転じ、2次補正と特例公債法案が成立する方向になったことから、首相の花道を「特例公債法と2次補正の成立」にすることで足並みはそろった。
毎日新聞 2011年6月16日 東京朝刊