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クローズアップ2011:福島第1、浄化装置稼働へ 出口なき汚染水処理

 ◇放射性汚泥、大量に

 東京電力福島第1原発で15日、仏原子力メーカー「アレバ」の汚染水処理システムの試運転が始まった。同原発では、原子炉冷却のため注水を続けているが、格納容器などが破損しているため、冷却水が放射性汚染水となって原子炉建屋外へ流出している。注水量を増やせばその分汚染水が増え、量を絞ると原子炉の温度や圧力が上がって事態が悪化する恐れがある。処理システムは悪循環を食い止める武器となるが、同時に大量の高レベル放射性廃棄物が発生し、収束作業に新たな「不確定要素」が加わることは確実。年明けまでに収束することを目指す東電の工程表にも影響を与えそうだ。【中西拓司、比嘉洋】

 「配管から汚染水がしみ出した部分もあったが、処理システムは予定通りに進んでいる」。経済産業省原子力安全・保安院の西山英彦審議官は15日の記者会見で、試運転が順調に進んでいると強調した。しかし、システムの稼働は、高レベルの放射性廃棄物の発生という新たな問題を生み出した。

 東電は、7月中旬までをめどとした工程表の「ステップ1」で「放射線量が着実に減少傾向になっている」こと、その3~6カ月後の「ステップ2」では「放射性物質の放出が管理され、線量が大幅に抑えられる」ことを目指す。

 しかし、汚染水処理に伴い、アレバ社製除染装置では、放射性の汚泥が年末までに約2000立方メートル(ドラム缶換算で1万本相当)発生。濃度は1立方センチ当たり1億ベクレルもの高レベルになるとみられる。他にセシウムを吸着し終えた容器(高さ2・3メートル)も1日2~4本程度発生する見込みだが、その処理は工程表に含まれない。

 経産省資源エネルギー庁幹部は「とんでもない高レベルの廃棄物が大量に発生し、第1原発の事故処理は未知の領域に入る。工程表に影響が出る可能性がある」と指摘する。同庁や原子力安全・保安院は、処理のための法改正や新法の制定も視野に処理策の検討をスタートさせた。

 膨大な高レベル放射性廃棄物の発生は、年明けまでに冷温停止することを目指した収束スケジュールの足かせになる恐れもある。

 5月の工程表改定で、東電は放射性物質を取り除いた処理済み汚染水を炉心の冷却水にリサイクルする「循環注水冷却」の実現を盛り込んだ。

 2号機では水素爆発によって圧力抑制プールが損傷を受けており、保安院のデータ解析では計300平方センチにわたって穴が開いているとみられている。そのため、冷却水を循環させるには損傷部分を補修するか、プール全体をコンクリートなどの巨大な構造物で覆う必要がある。だが、建屋内は高線量のため作業員の立ち入りは難航しており、破損箇所の確認すらできていない。

 状況は1、3号機も同様だ。ともに原子炉建屋自体が水素爆発で大きなダメージを受けており、水漏れなく「循環」させるには大規模な補修が必要になる可能性もある。「循環冷却」の目標がいつ実現できるかのめどは立っておらず、処理済みの汚染水は当面、施設内の仮設タンクに留め置かれる。

 いずれにしても、メルトダウン(炉心溶融)した核燃料を冷却する限り、処理システムを延々と稼働させなければならない。汚染水処理費には放射性廃棄物の管理費などは含まれず、巨額の処理費用が今後、のしかかってくる。

 放射性廃棄物の処理に詳しい東京都市大の本多照幸教授(原子力環境工学)は「世界的にも前例がない処理。最悪の事態を想定しながら、処理策の具体化を急ぐべきだ」と指摘する。

 ◇配管つなぎ目、懸念

 「本格運転に向けて予定通りに進んでいるが、一番の懸念材料は(参加企業各社の)配管のつなぎ目部分」。東電の松本純一原子力・立地本部長代理は15日の会見でこう述べた。

 汚染水処理システムは(1)油分離装置(東芝)(2)セシウム吸着装置(米キュリオン社)(3)除染装置(アレバ社)(4)淡水化装置(日立など)--の四つで構成される。運転中は周囲が高線量になるため、遠隔操作で稼働する。

 16日以降にシステム全体の試運転が実施されるが、国内外5社が参加する大規模プロジェクトが順調に進むかは不透明だ。

 もし汚染水処理システムが稼働できなければどうなるか。東電は、未使用となっている集中廃棄物処理施設の地下2階部分を活用すれば、少なくとも今月中は海洋流出を避けられるという。来月上旬には高レベル汚染水を貯蔵する仮設タンクを設置するなど対策を立てているが、綱渡りの状況は続く。

 現在1~3号機へは1日約520立方メートルの冷却水が注入されている。この水が原子炉建屋の地下や、隣接するタービン建屋に滞留。大雨が降ればタービン建屋と地下でつながるピット(コンクリート製の穴)から海へ流出する危険性がある。

 システムでは1日約1200立方メートルの汚染水を処理でき、放射性物質を1000分の1~1万分の1程度まで低減できる。費用は年末までで計531億円。汚染水は年末までに25万立方メートル出るとみられ、1リットル当たり210円になる計算だ。

毎日新聞 2011年6月16日 東京朝刊

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