オフィス向けの紙の主力であるコピー用紙(普通紙コピー機向けPPC用紙)に値上げの機運が高まっている。リーマン・ショック後値下がりが続いていたが、業界中位の大王製紙が5月下旬に値上げを表明した。原燃料高で各社の用紙事業は採算が悪化している。PPC用紙の国内最大手、日本製紙の野口文博専務取締役に市況の現状と今後の見通しを聞いた。
――PPC用紙の足元の需給動向は
「2010年の国内出荷量と輸入量を合わせると約127万8千トン。09年より1・9%増えた。印刷用紙に比べて需要は底堅い。個人が扱う情報量が多くなり、出力量が増えたことが影響している。ただ、オフィスでの節約志向は続いており、需要に力強さはない。総需要はリーマン・ショック前の水準を下回ったままだ」
「製紙各社はリーマン・ショック後の需要減に合わせた減産を続けている。輸入紙もほぼ一定量で推移しており、供給が急に増えることは考えにくい。一方、東日本大震災で操業が止まった三菱製紙の八戸工場ではPPC用紙を生産していたが、市場への影響は少なかった」
――PPC用紙の代理店卸価格はリーマン・ショック後、1キロ115~135円に値下がりした。
「国際的な価格に比べれば、安い水準だ。需要減と輸入紙との競争で、弊社も販売量を確保するために、安値販売に走ってしまった。官公庁向けの入札価格も09年ごろから値下がりしていた。定期契約なので、値下げして一定期間の販売数量を確保しようとした代理店があったようだ。一部のメーカーが10年に新規設備を稼働させ、供給量が増えたことも影響した」
――需給の見通しは。
「短期的には需要が落ち込むだろう。夏場の節電要請で、企業がサマータイム制度や長期休暇を導入して勤務時間が短くなると、オフィスでの使用量が減る。長期的には経済活動が元に戻り、PPC用紙はわずかながらも前年比プラスを維持していくだろう」
――原燃料費は値上がりしている。価格戦略をどう進めていくか。
「輸入紙など海外品の多くは、原料の製紙用パルプの価格上昇分を製品価格に転嫁し始めている。弊社でも古紙や原油など原燃料の価格が高止まりしているなか、値上げの検討を始めた。PPC用紙を含む情報用紙事業の採算は厳しい。値上げで需要は減るかもしれないが、いまの価格水準では利益を確保できない。値上げは不可避だ」
「以前は輸入紙メーカーが値下げをしてシェア拡大を狙う動きがあった。ただ、原料の値上がりで採算性が悪化しているのは輸入紙も同じ。今後値下げに合わせて輸入紙が価格を引き下げる動きは少ないだろう」
のぐち・ふみひろ 1972年(昭和47年)慶大経卒、十條製紙(現・日本製紙)入社。情報用紙営業本部や洋紙営業本部などを経て09年専務取締役。62歳。
(1)需要は短期的には減るものの、底堅い
(2)輸入紙の量は大幅には増えず
(3)価格の引き上げは不可避
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