2011年06月15日 10:20
経済

脱原発は生命を奪う

経済学の重要な(しかも多くの人が理解していない)概念に、機会費用がある。たとえば、あなたが大学に払う学費が年100万円だとしても、大学4年間に失う所得は400万円ではない。大学に進学しないで働いていれば年収300万円を得られるとすると、大学4年間で失われる機会費用は1200万円である。これと学費を合わせた1600万円が実質的な費用だから、それ以上のメリットがなければ進学することは純損失になる。

こうした間接費用は直観的にわかりにくいので無視されやすいが、直接費用より大きいことが多い。原発を停止する作業にかかるコストは無視できるが、日本エネルギー経済研究所によれば、すべての原発が停止して火力発電で電力需要を代替する場合、1年間で3兆5000億円のコスト増になり、1ヶ月あたりの標準家庭の電気料金が1049円増加する。これが原発停止の機会費用である。

この試算に対して「月1000円程度の電気代は命に代えられない」と反発する向きがあるが、逆である。脱原発は多くの生命を奪うのだOECDによれば、5人以上の死亡する原発事故はOECD諸国では1件も起こっていないが、石炭の採掘事故によって毎年、中国だけで3000人が死亡する。大気汚染による死者は、さらに多い。Max CarbonはNRDC(自然資源防衛協会)の次のような試算を紹介している:
Burning fossil fuels including coal, natural gas, oil, diesel fuel, gasoline, and wood is the largest single source of these small particles. Coal-fired power plants are the worst offenders by far. The NRDC estimated that approximately 64,000 people may have been dying prematurely each year in 239 U.S. metropolitan areas due to the particles. [...] Nuclear plants would reduce those premature deaths even more; nuclear plants do not emit such particles.
全米239の都市だけで、毎年64000人が化石燃料(特に石炭)による大気汚染で死亡すると推定されている。WHOの推定では、全世界で1年間に大気汚染によって死亡するのは300万人だから、火力発電による死者は全世界で数十万人と見込まれる。いま日本がすべての原発を止めて石炭火力の運転を1割増やすとすると、これによって1年に採掘事故と大気汚染で1500人以上が死亡すると推定される。これが原発停止によって失われる生命の機会費用である。

エネルギー消費は必ず環境を汚染するので、まったく無害なエネルギーは存在しない。相対的に害の少ないエネルギー源を選ぶしかないのだ。少なくとも死亡率でみるかぎり、Carbonもいうように原子力はリスク最小のエネルギーである。特に石炭はきわめて危険なkiller energyであり、その燃焼を増やすべきではない。「反原発」デモでその即時停止を求めている人々は、環境を汚染して数千人の生命を奪うテロリストに等しい。

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