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[科学]ニュース トピック:主張
【主張】宇宙の古川さん 被災地の子供らに希望を
宇宙飛行士の古川聡さんが、ロシアのソユーズ宇宙船で飛び立ってから1週間が過ぎた。11月中旬までの約5カ月半、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する。
「宇宙と被災地を結んで、話ができたらいいと思います」。打ち上げ前の記者会見で、古川さんは、こう語った。東日本大震災の被災地の子供たちが夢や希望を語れる機会として、宇宙との交信を実現させてほしい。
外科医から飛行士に転身した古川さんは、12年の訓練期間を経て初めての宇宙飛行である。医師の宇宙飛行は、日本人では向井千秋さんに続いて2人目だ。
長期滞在のメリットを生かし、人体への無重力の影響調査など、自らが実験台となって本格的な医学実験に取り組む。その他、将来の火星旅行を想定した健康管理支援システムの検証など、実験テーマは多岐にわたる。
ISSの居住空間は普段着で生活できるとはいえ、過酷な環境にさらされる。たとえば宇宙放射線による被曝(ひばく)量は1日当たり0・5~1・0ミリシーベルトで、古川さんはISS滞在中に最大で170ミリシーベルトの放射線を浴びるという。リスクを承知のうえで、宇宙飛行という夢を選んだのだ。
原子力発電所の事故による周辺住民の被曝と、宇宙飛行士のそれを比較するのはもちろん適切ではない。住民は自らの意思とは関係なく、浴びなくてもいい放射線を浴びている。ただ、リスクを冷静に判断することは大切だ。
原発周辺の住民の中には、放射線への恐怖心で、希望を持てない心理状態に陥っている人もいると思う。古川さんが宇宙で活動している姿は、リスクに正しく向き合い、前向きな気持ちを取り戻すきっかけになるのではないか。
大震災から3カ月が過ぎた。原発事故は先行きが不透明で、復興の足取りは重い。国民は全体的に内向きになり、視野が狭まった感が否めない。
宇宙は視野を広げ、夢や希望を語るには最適の舞台でもある。これまでの日本人飛行士は、宇宙から子供たちと交信する機会が設けられた。今回はさらに多くの子供たちが会話に加われるよう、恒例の首相との交信は見送ったらどうだろうか。
子供たちが笑顔になれるようなメッセージを、宇宙から発信してもらいたい。
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