IAEA:原発事故の国際賠償体制、構築を宣言へ

2011年6月15日 15時0分

 【ウィーン樋口直樹】東京電力福島第1原発事故による近隣国への被害が懸念される中、国際的な原発賠償体制の必要性が国際原子力機関(IAEA)閣僚級会議の宣言に明記されることが14日、毎日新聞が入手した最終宣言案で明らかになった。世界的規模になった福島原発事故を契機に、既存の国際賠償条約への加盟国拡大などによって賠償体制の強化を目指す。

 20日からウィーンで始まるIAEA閣僚級会議の最終宣言案は25項目。うち1項目を割いて「原発事故の影響を受けるかもしれないすべての国々の懸念に対処する、国際的な原発賠償体制の必要性を認める」と明記した。草案段階では「国際的な法的枠組み強化」の項目で原発賠償に触れた程度だったが、最終的には単独項目に格上げし、より踏み込んだ内容になった。

 原発の損害賠償については現在、各国の国内法と、原発事業者の無過失責任や賠償責任限度額、裁判管轄権などを定めた国際条約がある。

 条約は大別すると、97年にIAEAで採択された「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」(未発効、米国やアルゼンチンなど4カ国加盟)▽改正パリ条約(04年採択、西欧中心に16カ国署名)▽改正ウィーン条約(97年採択、中東欧や中南米の5カ国加盟)の三つ。いずれも一定額を超える損害賠償に加盟国の拠出金を充てる仕組みだ。

 ところが、東アジアで商業用原発を保有する日本、中国、韓国、台湾はいずれもどの国際条約にも加盟しておらず、国境をまたぐような大規模事故が起きた場合、賠償限度額や裁判管轄権などを巡ってトラブルに発展する可能性が指摘されていた。

 このため、既存の国際条約の加盟国拡大が賠償体制の強化に向けた当面の課題になる。特に原発の拡大や新規導入に熱心な国の多いアジア地域の動向がカギになるとみられる。また、国際条約に基づく加盟国間での拠出金の割合なども今後の課題になりそうだ。

 日本は、近隣の原発保有国などが国際条約に加盟していないことや、これらの国などと陸続きで接していないことなどを理由に、国際条約への加盟を見送ってきた。

 また、日本では「原発安全神話」によって大規模な原発事故が想定されていなかったことも、条約加盟を見送ってきた理由の一つとみられている。今回の事故では近隣国で賠償裁判が起きた場合、その国の賠償基準が採用され、予想以上に賠償額が増加する可能性もある。このため、日本政府はこうした国際賠償条約への加入を検討し始めた。

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