「一国の首相ポストというのは、そんなに甘いもんじゃないよ」
後藤田正晴官房長官に一言の下に切り捨てられたことがある。中曽根康弘首相時代のこと。名女房役として時の首相をしのぐ存在感を発揮していた後藤田氏に「次」への色気をただした際の反応だ。唯一の最終決定権者として、日々国の安危を背負う責任と孤独。その座に上り詰めなければ見えない政治的真実の数々。一閣僚とは全く別次元の厳粛な地位、という解説だった。
さもありなん。人口1億2000万人、GDP500兆円を背に世界へ向けて日本の意思と能力を発信する、代替のきかない極めて重要な政治的権能である。憲法67条は、首相指名を「他のすべての案件に」先立つ国会の責務と規定する。国民の代表としての国会、またその代表としての首相、という民主主義の二重の代表性を付与している。
国民にとって最も大切なポストが、あまりにも軽んじられてないか。とっかえひっかえの1年ごとの首相交代劇。菅直人首相の退陣表明騒動を見るにつけそう思う。時の首相しかできない仕事を、よってたかっていびり倒し、その結果政治的に解決すべき問題が前に進まず、国会そのものの権威が失墜する悪循環。何とか止めてほしい。
さて、この退陣政局である。肝心なのは、これ以上首相ポストを辱めないことだ。そこで注文する。菅首相は、何をいつ、どう次の世代に引き継ぐか、明確なメッセージを出すべきだ。民主党全国会議員はその政局工程表に従って二つのことに全力を挙げてほしい。第一に、5年、10年務め上げることの可能な人材を次期代表とする。第二に菅政権の最後の1分1秒まで自分たちの選んだ責任を全うする。自公にも言う。特例公債法案の人質化は、借金財政製造者の恥の上塗りのごとし、と。
毎日新聞 2011年6月16日 0時06分
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