伝承方法

2011-04-22 23:59:59 Theme: 龍笛

4月に入り、あちこちの雅楽教室で新期のお稽古が始まりました。私の教室も多数の生徒さんに御入学頂き、お稽古を開始しました。雅楽の稽古は特殊で、特に笛の教室とはいえ歌ばかり歌う事が続きます。よく生徒さんにも質問を受けるので、「何故歌を歌うのか?」という理由を私なりにまとめてみたいと思います。

 雅楽の譜面、というのは不完全な状態です。それは過去に雅楽曲が一子相伝で伝えられてきた、という性格があるからだと思います。つまりは敢えて「伝承しにくい」状態に保たれていた、ということです。で、その不完全さ埋める手段として用いられたのが「唱歌」であると考えます。唱歌というのは雅楽曲の骨格を成すものであり、設計図とも言えるのかも知れません。他に良い手段があるのならばそちらに変更されていたのでしょうが、千年以上経った今でも他に良い方法が無いのでしょう、未だにこの伝承方法が採られています。何もこれは雅楽に限った事では無く尺八や三味線など、日本の伝統芸能における伝承法の特徴でもあります。さて、これを生徒さんに伝えるには一苦労であります。生徒さんは笛が吹きたくて教室に来るわけで、そこに訳のわからない歌詞の歌を歌わせる訳でありますから。私はここで、いつも「雅楽が上手くなる稽古ですよ」と割り切って指導する事にしています。

 そもそも龍笛を吹く、と言う事は雅楽を吹く、ということでもあります。横笛が吹きたい!というのであれば迷わず篠笛教室を勧めます。その方が楽しいからです。多分楽器の値段も安いし、耳馴染みのある曲を自由に吹けます。万人に受ける、と言いますか。でも、それでも龍笛を選ぶという人はやはり雅楽を吹いて頂かなければなりません。

 唱歌というのは本当に良く出来ています。私は頭ごなしに「唱歌を大事に」と言う指導者だけにはなりたくありませんでした。私の先生も一言も仰りません。事実、私のお稽古の時には唱歌を歌いません。最近、唱歌は稽古にすら入らないのでは無いか?とさえ思います。龍笛を奏する者の嗜み、のような気がします。身体中を連綿と流れ続ける血のようなものが唱歌であると思います。ふと気づけば鼻歌で唱歌が出てくる、お風呂に入って気持ち良くなって思わず歌ってしまうのが唱歌、子供を寝かしつける時に出てくるのが唱歌…。こうして考えれば、日常生活の中に歌と言うのは意外に多く登場してくるものです。敢えて意識する事無く唱歌を口ずさむ、こういう状態が普通になったら当然暗譜曲も多くなっている証拠です。考えてもみれば、龍笛と言うのは譜面を見て吹く楽器ではありません。自分の中にインストールした曲をアウトプットするに過ぎません。譜面を見て頭で考えて吹く音楽とは訳が違います。深いのです。

 私の知り合いにも「唱歌が嫌い」という演奏者がいます。笛はあくまで音色だ!…確かに良い音色かもしれません。そういう場合は大概細かい音程やリズムが悪かったりします。音色を追求するあまり、他の物を犠牲にせざるを得ないのです。こう言う笛では合奏に向きません。雅楽の最終目的はあくまで合奏であって、独奏では無いのです。雅楽にはスターは必要ありません。

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