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古舘伊知郎の正論 - 被災地からのTV3局の報道比較
震災発生から3か月の節目を契機に、テレビでは現地から報道番組を放送する特集企画が続いた。6/11は鎌田靖が南三陸から3時間のNHKスペシャル、6/12は関口宏が気仙沼からサンデーモーニング(TBS)、6/13は古舘伊知郎が気仙沼から報道ステーション(テレ朝)と、それぞれが被災地に立って生中継した。感想を言うと、最も放送分量が多く、取材内容も豊富だった鎌田靖の番組が最も印象が薄く、逆に、最も時間が短く、取材映像もコンパクトだった報ステが圧倒的な印象を刻んでいる。それは、被災者の胸中がストレートに代弁され、被災者の視線からの峻烈なプロテストが発信されていたからである。復興が進まない被災地の現状と被災者の苦境については、どの局も同じように表面を撫でるように報道する。しかし、それでは、何が問題なのか、どうすればいいのかという部分になると、特にNHKの場合は、途端に抽象的で曖昧な言葉になって行き、東京で政治家や評論家が浮薄に舌を回す言語と変わらない説明に化ける。国の行政や政治に対する批判にならない。瓦礫の撤去が進まないのは、浸水していて重機が入らないからだとか、被災地の事情の所為にされて片づけられる。国に頼らざるを得ない、立場の弱い被災自治体の首長などは、どれほどテレビに生出演しても、本音で露骨な政府批判など言えるはずがなく、表現を丸めた一般論での支援要請しか口に出せないのだ。 <転載禁止>


そうすると、自ずから政治家言葉(玉虫言語)の羅列になる。国と住民の間に立つ首長は、住民の嘆きや怒りや憤りをテレビ発言で無造作に表出できない。自らの責任にも跳ね返るからだ。TBSに出た柔和な気仙沼市長もそうだった。NHKの番組のサブタイトルは、「復興はなぜ進まないのか」だったが、国の行政の遅延や怠慢を暴露する視角から問題が浮き彫りにされることはなく、結局、何で復興が遅れているのかは杳として掴めない中身に終わっていた。単に政府の言い訳のためのアリバイ報道。一方、古舘伊知郎の方は、復興が進まぬ本当の理由を見抜いていて、正面から矛盾を糾弾する戦闘的な姿勢が際立っていた。昨夜(6/13)は雇用と二重ローンの問題を抉った。そして、東京のマスコミ界隈で流れている話と、実際に現地で聞いて確かめた事実がどれほど違うか、ギャップがあるかを視聴者に伝えた。特に、雇用についての直言は素晴らしかった。登場した気仙沼の水産加工会社の社長は、720人の社員を解雇せず雇用を守っていた。社員は家族と同じであり、解雇したらそこで関係が切れてしまうからと言い、政府の雇用助成金制度を使って雇用を維持していた。ところが、この制度が曲者で、支給を受ける代わりに、従業員は1日8時間の「マナー講習」を毎日受けなければいけないのである。社長も、従業員も、瓦礫を撤去する活動に全力を挙げたいのに、720人は無意味な座学の受講を強いられるのだ。

これは、まさに真相を衝いた本来の報道だった。古舘伊知郎は深追いの論及を避けたが、言うまでもなく、ここには厚労官僚と人材ビジネスの癒着の利権構図がある。三陸に「マナー講習」の講師を出張させているのは、厚労省お抱えの人材派遣会社だ。この震災の雇用助成制度で、人材派遣業界が大儲けしているのである。古舘伊知郎は、直ちに制度を特例にして、「マナー講習」ではなく瓦礫撤去のボランティアができるように適用を変えろと訴えた。一事が万事で、被災地に「復旧復興」の名目で措置されている予算と制度は、全てこんな具合に霞ヶ関の利権に都合よく仕組みが設計されていて、被災地を冷酷に見下ろして突き放し、現地で懸命に再生に動いている中小企業者の心を折るように運用されている。古舘伊知郎は、雇用助成金制度の不条理の断罪に続いて、失業給付についても政府は延長を緊急措置せよと迫った。雇用保険の失業給付は半年で切れる。被災地の中小企業で働いていた従業員は、多くが津波で家を流され、会社も被災したために解雇され、失業給付を受けて生活している。しかし、政府が復興構想を示さず、建築制限や二重ローンの問題が被さって、企業は事業再開に動き出せず、そのまま3か月が過ぎてしまった。残りの3か月で企業が元通りに立ち直るはずがなく、3か月後に彼らは生計を断たれてしまう。今、給付延長を国が決めないと、人々は三陸を離れて東京や仙台に仕事を求めて出ざるを得なくなる。

雇用助成金の特例措置と失業給付の特例延長、この二つを「すぐにやって下さい」と古舘伊知郎は求めた。この報道は評価できる。こうした議論をマスコミ報道で聞くことはなかったし、国会でも、NHKの日曜討論でも見ていない。二重ローンの問題も、昨夜(6/15)の報道の中で真相の一端が垣間見えた。古舘伊知郎は、東京で側聞するところでは、それなりに国から地元の金融機関に融資を促す配慮がされていると想像していたが、現場で話を聞くと全く違うと言った。私も、古舘伊知郎と同じで、金融相は国民新党の自見庄三郎だし、亀井静香のモラトリアム法案の過去の実績と思想から類推して、何らか救済政策の手が施されているのではないかと安易に期待していた。4月頃のNHKの報道では、地元の中小企業を助けるべく奔走している地銀や信金の姿が報告されていて、何となく安心感を持たされていた。どうやら、われわれはマスコミ報道(特にNHK)に騙されていたらしい。その水産加工会社の社長は、金融機関に相談に行っても事業計画書を提出させられ、以前よりも厳しい査定に変わっていると証言していた。この2か月ほど、宮城や岩手の地銀や信金がテレビ報道に登場しない。何が起きていたのか。要するに、七十七銀行や地域の信金信組は、村井嘉浩の特区政策と集約方針を見ているのであり、政府が三陸の水産業を潰す思惑だと踏んで、右へ倣えしているのである。古舘伊知郎はそれに気づき、それとなく放送で視聴者に真相を暗示したのだ。

国(官僚)と県(村井嘉浩)は、震災を契機に三陸の漁業権を大資本に売り飛ばし、大規模経営に移行させる気であり、沿岸過疎の小さな漁村集落から住民を一掃して抹殺する算段なのだ。そうすれば、学校も病院も建てなくて済む。行政コストを削減できる。そして、政府はこの政策事例を雛形にして、全国に展開し、日本中の小さな漁港と漁協を全滅させることができる。マルクス「資本論」の第1巻24章「いわゆる本源的蓄積」、それの三陸版の残酷な強行を準備しているのである。原発の問題に隠されて、津波被害の宮城・岩手についての報道と関心が薄く、状況をよく整理できないが、思いつくところを並べると、以下のような問題がある。(1)雇用問題 - 失業給付の延長と雇用助成制度、(2)生活支援 - 仮設に入っても生活できない人々への対策、(3義援金配分の遅れ、(4)二重ローン問題 - 中小企業経営支援、(5)瓦礫撤去の遅れ、(6)漁業・農業の再起、(7)避難所の衛生と医療機関、等々。これらについて、マスコミ報道は問題を紹介してはいるが、解決が遅滞している真の原因には踏み込まない。被災地の目線で問題を掘り下げず、恰も対策が善処されているように説明する。特にNHKはそうだ。しかし、実際は違う。これらは、まさに進行中の人災であり、官僚と政治によって解決を阻害され頓挫させられている事件であり、不作為と無責任によって被災者の不利益と苦痛が甚大になっているのが実情なのだ。不幸は拡大させられている。この構図は、原発事故後の「対策」とよく似ている。

誤断と失敗続きの事故対策を、マスコミは御用学者を総動員して「収束」に動いていると言い、実際には放射能汚染の被害が深刻化しているにもかかわらず、「安心安全」のプロパガンダを捲いて国民を騙し続けていた。われわれは、マスコミと政治の言う「復興」という言葉の連呼に攪乱されている。そして原発報道に関心を集中させる中で、自己欺瞞と逃避心理に陥るのである。宮城と岩手の方は、ひとまず復興に向かっているだろうと、NHKが意図的に抽出して映す被災地の子供たちの元気な姿などを見ながら、そう仮想し、観念づけ、注意を向けないように止めるのだ。(1)-(7)の問題について、NHKの日曜討論で本格的な論戦の応酬を見たことがない。「復興」の言葉だけが踊り、財源の問題になるか、政局の与太話になって終わりで、刺身のツマのように軽く扱われている。国会で議論があったのかどうか、夜のテレビ報道で腑に落ちる解説がされたことはない。先週(6/12)の日曜討論では、公明党の漆原良夫が、2次補正はじっくり時間をかけてやればいいなどと暴論を吐いていたが、それに対して司会も含めて誰も反論しなかった。永田町の常識では、(1)-(7)の問題は緊急ではないのだ。三陸などの被災地の人々が、「復興」という言葉に感覚的な拒否反応を示すのは、東京で使われている「復興」の言葉の嘘を本能的に察知しているからだろう。国がやるべきは復興ではないのだ。救済なのである。地域の復興は、被災地の人々が主体でやることで、国は(1)-(7)の救済と支援を急がなければならないのである。そして、それは、特別交付金であれ何であれ、カネを積んで渡すことだ。

例えば、NHKの番組では、三陸の漁業被害は6700億円と言っていた。正直に言わせてもらえば、私がそれを聞いて思ったのは、何だその程度かという感想である。6700億円を三陸の水産関連業者の前にポンと出せば済むのだ。田中角栄が天国から生き返って来れば、私と同じことを言うだろう。わずか2年から3年前、麻生内閣がリーマンショック後に積んだ経済対策の費用は、4次にわたって総額91.2兆円だった。07年度の第1次補正で11.5兆円、07年度の第2次補正で27兆円、08年度当初予算で37兆円、08年度補正予算で15.7兆円。中身をつぶさに見れば、重複もあるだろうし、真水はこれより少なくなるだろうが、それにしても91.2兆円の対策費を1年間で組んで拠出している。三陸の水産業再生のために、国債を刷って1兆円をポンと出すことが、どうして同じ国の政府にできないのだろうか。同じく、瓦礫撤去についても、最初から3500億円では少なすぎると思っていたが、なぜ、もっと大型の事業と予算を組み、全国から重機と人出を集中しようとしないのだろう。そもそも、復興構想というのは、瓦礫撤去の土木プロジェクトから始まるはずのもので、復興構想のデザインやアイディアなしに、末端自治体の事務に任せて、あの大量の瓦礫が処分できるのかと不思議に思う。100年分のゴミの量である瓦礫をどこに集積し、どう処理するかという出発点から、都市計画(まちづくり)の設計思想が投射されなくてはいけないはずで、その意味では、震災から3か月も復興構想が立っていないのが異常と言うほかない。政府(官僚)はやる気がないのだ。消費税増税しか頭になく、被災地の復興など真面目に考えてはいないのである。

思えば、原発事故対策の方の政府トップは細野豪志だったが、宮城・岩手の津波被害の方、つまり被災者生活支援対策特別本部の方のトップは仙谷由人だった。官僚による3か月間の不作為(放置)は、仙谷由人が仕切ってやらせていたのである。昨夜(6/13)の報ステで、被災地の方に目を向けず、政局騒動ばかり続けている永田町に対して、古舘伊知郎は、「まず第一に永田町の復旧復興が必要ですね」と言い切った。この言葉に膝を打った視聴者は多かっただろう。



by thessalonike5 | 2011-06-14 23:30 | 東日本大震災 | Trackback | Comments(2)
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Commented by ゆたか at 2011-06-15 02:42 x
経団連の会長がWSJのインタビューで「東日本大震災は、経済にどのような影響を与えるか?」という問いに、こう答えています。

「宮城、福島、岩手3県の域内総生産(GDP)は全体の約4.1%だ。北海道と東北6県、新潟県の合計は約11%になる。東北地方は漁業やコメなど農業が盛んだ。(経済全体に占める)比重はそれほど大きくないが、モノによっては大きな割合になる。」
http://jp.wsj.com/index.php/Japan/Companies/node_217459

要するに、明治維新で権力者に成り上がった薩長土肥の口さがない連中が言い放ったように「白河以北一山百文」と思っているわけです、21世紀の今でも、この国のイスタブリッシュメントは。
Commented by カプリコン at 2011-06-15 05:35 x
 『国(官僚)と県(村井嘉浩)は、震災を契機に三陸の漁業権を大資本に売り飛ばし、大規模経営に移行させる気であり、沿岸過疎の小さな漁村集落から住民を一掃して抹殺する算段なのだ。』以前、村井嘉浩宮城県知事、復興のための財源に充てるための増税が必要としつこく話をするなぁ、と思ってプロフィールを調べたら、松下政経塾に入っていたのですね。しかも大阪府出身、防衛大学卒で自衛隊にも入っています。昨日、報道ステーションをみました。原発事故により自殺したある酪農家のことが取り上げられていました。牛舎に書かれた遺書、残された家族の苦悩。古舘伊知郎の報道姿勢、被災者に寄り添っている事を私も感じました。
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