【ポスドク問題】
- Education: The PhD factory - 20 April 2011, Nature 472, 276-279 (2011)
(Nature曰く「日本の博士課程制度は存亡の危機に瀕している」 - 当blogによる論説記事) - 特別研究員採用状況について(新規分) – 日本学術振興会
- 学振PD騒動雑感:なぜポスドクの人件費は「生活保護」扱いされるのか
ついに財務省の本音が表舞台に現れた:改革の成否に日本の基礎研究体制の存亡がかかる大一番? - 当blog記事 - 最先端研究開発支援プログラム、最先端・次世代研究開発支援プログラム – 内閣府
- ポスドクは今の半分以下でいい(フューチャーラボラトリ代表取締役 橋本昌隆) – WEDGE Infinity
博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス) – Amazon.co.jp
震災のゴタゴタに紛れて社会の中の様々な問題が忘れ去られつつある昨今ですが、どうやらポスドク問題も例外ではないようです。一方、国の予算動向を見ている限りではポスドク問題が徐々に「最終処分」に向かっている様子が何となく見て取れます。今回は、その点についてちょっと論じてみようと思います。
基本的に、僕個人としてはポスドク問題は好転していないと肌感覚では思ってます(就活記もご参照のこと)。一部のポスドクが何とか全国各地のテニュアに辛うじて滑り込んでいく中、残されたポスドク(特にいわゆる「高齢ポスドク」)たちはさらに厳しい過当競争に引きずり込まれていっている印象があります。
なぜ「さらに」と書いたのか?それは、ここ最近の学振特別研究員の予算動向を見る限りでは「(国or文科省としては)博士を増やすための支援をする意思はあってもポスドクを食わせる支援をする気がない」という様子がありありとわかるからです。端的にいえば、DCは拡充傾向にある一方でPDは年々縮小傾向にあり、これはどう見ても上記のような意図を感じずにはおれない状況です。
一方、最近になってポスドクから見れば大盤振る舞いとも言えるような予算措置があったのも事実です。即ち「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」と「最先端・次世代研究開発支援プログラム」の2つです。これらはどちらも巨額のグラントである上に、人件費として使われることも想定されているものです。実際にこの二者のプロジェクトがポスドクを募集している様子は今でも各地で見受けられます。
しかしながら、この2つの巨大プロジェクト以降の見通しは決して芳しくありません。折しも震災のあおりで税収不足&財政難が懸念される情勢下にあり、今後も同様の(ポスドクを大量に養えるほどの人件費を確保できるような)大型プロジェクトが国主導で実施されるかというと、かなり悲観的な状況だと僕の目には映ります。
この2つの異なる動きを見ていると、
- 学振DCが拡充されて博士がこれまで通り市場に送り込まれる一方で、学振PDが縮小して学振を当てにできないポスドクが続出する
- 学振を当てにできないポスドクが殺到していた2つの巨大プロジェクトが終了すると同時に、失業したポスドクが大量に市場に溢れる
という2つの帰結が容易に想像されます。・・・ここからは僕の予想ですが、実はこの夏に国公立大学の多くは財務省から大学再編も含めた改革案の提示を求められており、そこで財務省を納得させられなかった場合大学関係予算(場合によっては科研費を含む研究予算及びポスドクの人件費となり得る各種助成金を含む可能性がある)が大幅減額ということにある危険性が予測されています(当blogの以前の記事)。
もし、ここで大学関係予算&研究予算が大幅減額になった場合、その後数年はポスドクの人件費を賄えるような大型プロジェクトの予算などもつきづらくなることでしょう。そこに、2つの巨大プロジェクト終了で市場に失業したポスドクが放出されるタイミングがかぶるとしたら?・・・これこそが、ポスドク問題の「最終処分」=「ハードランディング(ポスドクの大量首切り&放置)」という最悪の構図です。
これは、特に余剰博士が極端な問題となっているバイオ系ではジョークでも何でもなくて実際に起こり得る話だと思われます。冒頭にリンクしたフューチャーラボラトリの橋本さん仰るところの「ポスドクは今の半分以下で良い」「政策的に強制してでもバイオ系を減らすべき」という主張もありますし、残念ながら僕もその論に同意せざるを得ません。実際に供給過剰である以上、「最終処分」に向かうのは止む無しというのが僕の予想です。処分というと「秩禄処分」で特権階級から転げ落ちた明治維新後の士族を想起させますが、まさに今のポスドクの状況を表すアナロジーだと思います。
いずれにせよ、状況は僕もインタビューの形で参加した榎木さんの『博士漂流時代』で予測されたような展望よりはずっと悪い方向に向かっている、と言って良いのではないかと思います。その中でもなお、どのようにして当事者のポスドクたちは生き残っていくべきか?という点については、次回以降論じてみるつもりです。
(追記0)
Twitter上で「学振PDは拡充しているのでは?」というご指摘をいただきました。確かに平成22年度採択分は拡充していますが、これが例の「総理による高度に政治的な判断」の賜物であるという点に注意が必要です。実際、それ以前のデータを見るとPDは(上下動はあるものの)減少傾向にあります。また、文科省内部でもPDは今後減らしていくべきという意見があるとも聞きます(個人的なツテによるものなのでニュースソースはここでは示せませんが)し、そもそも財務省が「総理の大英断」からの巻き返しを狙って(大学再編が成らなかった場合の)大幅減額をちらつかせてきているという事実もあります。いずれにせよあまり楽観できる状況でないことだけは確かだと考えております。