きょうの社説 2011年6月15日

◎イタリア「脱原発」 日本は長期的視野で対処を
 過去に全廃した原発の復活の是非を問うイタリアの国民投票で、圧倒的多数が「脱原発 」を支持したのは、福島原発事故が世界に及ぼした衝撃の大きさを物語る。スイスとドイツが将来の原発停止を決めたのに続き、イタリアまでとなれば、先進国での脱原発の流れは加速するだろう。

 ただ、イタリアやドイツなどは原発大国・フランスと陸続きで、足りなければフランス などから電力を「輸入」する選択肢がある。国内ですべての電力を賄う日本とは条件がまったく違う。今後、日本も自然エネルギー重視へとシフトしていくことになろうが、脱原発への転換は慌て過ぎず、20年から30年の長期的視野で対処していく必要がある。

 イタリアはチェルノブイリ事故を契機として、1990年までに国内にあった5基の原 発をすべて廃止し、電力需要の約1割をフランスなどからの輸入に頼ってきた。ベルルスコーニ首相は再開に意欲的だったが、国民投票で反対が94%に達したのでは断念するしかあるまい。

 日本では原発54基のうち、志賀原発1、2号機を含めて現在、35基が停止中で、再 稼働のメドが立っていない。原発は13カ月ごとの定期検査を義務付けられているため、稼働中の19基も来年夏までにすべて止まってしまうだろう。

 安全の確証が得られない以上、停止もやむなしとはいえ、国内の発電量の約3割を担う 原発を、いきなり廃止してしまうのは現実的ではない。現存施設が耐用年数を過ぎる時期をにらみながら、自然エネルギーや新たなエネルギー資源を利用した発電に徐々に切り替えていくしかない。

 自然エネルギーの活用は、コストの問題を含めて技術的な困難さを伴うが、目標がしっ かり定まったときの日本人は、大きな力を発揮する。大成功を収めた小惑星探査機「はやぶさ」計画のように、さまざまな分野の技術者が知恵を出し合い、困難を一つ一つクリアしていく粘り強さ、日本人の底力を私たちはもっと信じてもよいのではないか。これまで積み上げてきた科学技術の厚みを生かし、自然エネルギー開発で世界をリードしていく気概を持ちたい。

◎日銀が金融支援強化 歩調合わない政府に不安
 日銀が国内の景気判断を3カ月ぶりに引き上げる一方、経済の成長力強化を図る融資制 度に新たな貸付枠を設定することを決めた。政府、国会の震災対応が後手に回り、景気にも影を落とすなか、金融面から成長分野の企業を後押しする姿勢をより明確にし、貸出制度を拡充する日銀の政策対応は評価できる。

 もっとも、北陸財務局の4〜6月期の景気予測調査によると、企業の景況感は大震災の 影響で急速に冷え込んでいる。7〜9月には改善の見通しというが、電力不足や円高、欧米の景気減速、さらには日銀に歩調を合わすべき政府の機能低下という不安要因があり、先行きは楽観できない。

 政府も日銀の金融政策拡充に応じて、大震災の復興計画の策定、補正予算編成、当初予 算執行に不可欠の特例公債法案の成立など眼前の政策課題を迅速に処理しなければならない。そのためには、政治の安定がまず何より重要なことを再認識してほしい。

 日銀は昨年8月、成長基盤強化支援の融資制度を設けた。デフレの克服と成長率の引き 上げをめざし、環境、エネルギーなど成長分野の企業への融資を促すため、金融機関に低利で貸し出すものである。貸出額が当初の上限の3兆円に迫っており、新たに5千億円の貸付枠を設けた。

 その対象は、従来の不動産担保にばかり頼らず、商品や在庫などの動産を担保に積極的 に中小企業へ融資している金融機関である。動産担保融資は、優れた技術力など無形の経営資源を持つ中小企業を育てるため、政府がかねて普及を促している。今回の貸付枠拡大は、日銀も多少のリスクを取り、成長の見込める中小企業を間接的に後押しする狙いである。

 日銀の成長基盤強化の貸出制度は、金融機関の成長分野への融資を促す「呼び水」効果 があるとされるが、実際に資金がどれだけ回り、どれほど効果があったか、また副作用はなかったか、制度の後追い調査も大事であろう。

 さらに今後、被災地復興のため政府の施策と連携した金融政策を検討してもらいたい。