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社説:欧州の脱原発 フクシマの衝撃は重い

 欧州で「脱原発」の流れが加速している。イタリアは12、13日の国民投票で原発再開に「ノー」を突き付けた。6日にはドイツが既存の原発17基を22年までに全廃することを閣議で決めている。いずれも福島第1原発の事故が背景にある。世界に波紋を広げるフクシマ・ショックの重さを改めてかみ締めたい。

 イタリアの国民投票は57%近い投票率で成立し、原発反対票が約95%を占めた。同国はチェルノブイリ原発事故(86年)後、国民投票で原発全廃を決めたが、他国からの電力輸入などでコストがかさみ、ベルルスコーニ首相は20年をめどに原発を再開したい考えだった。「原発再開法」を推進した同首相には最悪のタイミングで原発事故が起きたわけだ。

 ドイツの場合は、「フクシマが私の考えを変えた。(事故の)映像が脳裏に焼き付いて離れない」というメルケル首相の言葉がすべてを物語っていよう。福島の原発事故が世界の主要国の針路を変えた。ドイツなどで環境重視の緑の党などが発言力を増し、各種選挙で旋風を巻き起こしたことにも注目したい。

 他方、欧州には事故の恐ろしさが誇張されて伝わり、ある種の「過剰反応」を引き起こしたと主張する人もいる。独伊は「脱原発」と言いながら、原発大国フランスなどからの電力輸入をあてにしているではないかとの見方もある。脱原発の評価はそう簡単ではない。

 原発政策は、経済や政治の統合が進む欧州と、海に囲まれた日本とでは事情が違う。欧州は欧州、日本は日本である。その欧州も、仏英などの原発推進派と、独伊やスイス、ベルギーなどの「脱原発」派に分かれているのが実情だ。80年にいち早く脱原発へかじを切ったスウェーデンの議会は昨年、方針を転換する法案を小差で可決している。

 だが、脱原発に踏み切った独伊の決断はあくまで尊重されるべきである。脱原発を進めれば電力コストがかさんで国民負担は増えやすい。閣議にせよ国民投票にせよ、脱原発の決断はそう簡単ではない。両国はフクシマを反面教師とし、多少の負担増は覚悟の上で「安全」を選んだといえよう。

 ドイツは「脱核兵器」にも前向きで、国内に配備されている米軍の戦術核兵器の撤去を求めてきたことも忘れてはなるまい。

 一方、米国や中国、インドは原発推進の姿勢を変えていない。中東ではサウジアラビアが30年までに16基もの原発を建設するとの情報もある。世界の分かれ道に、どう対応すべきか。スリーマイル島(79年)やチェルノブイリに続く原発事故の震源地となった日本としては、将来の原発政策を腰を据えて考えたい。

毎日新聞 2011年6月15日 2時32分

 

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