震災被災者に社宅の空き部屋を無償提供する企業が増える中、日本赤十字社が仮設住宅の入居者らに寄贈している「家電6点セット」が、社宅で暮らす被災者には届いていない。寄贈対象は「災害救助法上の応急仮設住宅で生活する被災者」となっているため、社宅は対象外だからだ。「家や家具を失ったという点では同じなのに……」。社宅の被災者から嘆きも聞かれる。
6点セットは洗濯機、冷蔵庫、テレビ、炊飯器、電子レンジ、電気ポット。日赤は仮設住宅や自治体が借り上げたアパートなど「応急仮設住宅」で暮らす被災者に贈っている。
岩手県釜石市で雑貨店を営んでいた前川水雄さん(76)は津波で家を流され、妻美智子さん(72)と中学校の体育館に避難。仮設住宅の抽選に当たらなかったため、長女の勧めで4月18日、長女の夫が勤務する企業の社宅アパートに入居した。同社は被災した社員の家族に、2年間無料で社宅を提供していた。
食料を買いだめすると、3日目に異臭がした。部屋は5階。足が不自由な夫妻は階段をゆっくり上り下りしてコインランドリーへ通った。釜石市を通じ6点セットの申し込みをしたが、1カ月待っても届かず、市の担当者に問い合わせて社宅が対象外と知った。冷蔵庫と洗濯機は長女に買ってもらったが、前川さんは「とても不便だった」と言う。
同じ社宅に住む堀切勇雄さん(71)と妻節子さん(63)は5月19日に入居。冷蔵庫は友人からの借り物。テレビも実家から借りたがアンテナをつないでも見られず、原因が分からないまま床に置いている。6点セットについて節子さんは「何もない避難者という点では、仮設の人と同じなのに」とこぼす。
日赤によると、家電セットは海外からの救援金で購入し、7万~8万世帯に寄贈予定。被災県と協議し、対象を仮設住宅の入居者と決めた。岩手県生活再建課は「社宅はこれまで仮設住宅として取り扱われていない」、宮城県保健福祉総務課は「住宅のない人に自治体が提供するのが仮設住宅」と説明。日赤東日本大震災復興支援推進本部の広報担当者は「全被災者に寄贈はできず、基準が必要。優先度が高い仮設住宅の入居者を対象とするのが明確だ」とコメントしている。【根本毅】
毎日新聞 2011年6月3日 9時57分(最終更新 6月3日 16時00分)