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食と観光が地域活性と日本復興の特効薬だ! 官民連携オールジャパン体制

 47都道府県、1727市町村と農協・漁協などの協同組合・団体・小さくとも文化を大切にする中小企業などにより、全国各地の「食」と「祭」を上海に集結させて情報発信し、日本文化を体感できる「上海リトル・ジャパン」プロジェクト。大きな反響と期待への実現を目指して、今回は「食」と「観光」をキーワードに地域の活性化を目的とした座談会を開催した。「地域活性化」と「グローバル化」、そして「夢の実現」をめざして熱く嵐を呼ぶ、地域維新の座談会となった。

 

 座の中心は、「緑の分権改革の推進」と「ICT(情報通信技術)維新ビジョン」を柱に新成長戦略「原口ビジョン」をひっさげ、「日本維新の会」を立ち上げた原口前総務大臣。

 

 今どの政治家よりも選挙民が注目している同氏は、橋本大阪知事が率いる地域政党「大阪維新の会」や河村名古屋市長、東国原前宮崎県知事と強くタッグを組み、地域主権の新しい日本の夜明けをめざす。

 

 まちづくりのベースにドイツ児童文学者ミハエル・エンデの遺言を重ね、原口流「船中八策」を示した。

 

 また、地方から世界をめざして、次々と人々を巻き込み、遮二無二現場の汚れ役を買ってで、わずか15年でナビスコカップ優勝までサッカーチーム「大分トリニータ」を牽引した溝畑観光庁長官。非常識を突破し、常識にする辣腕リーダーが「観光」と「食文化」産業こそ地域を活性化させ日本を復興させる特効薬と熱弁する。

 

 地域から、海外からと、それぞれの立場から上海「リトル・ジャパン」計画実現を模索した。

 


プロフィール

前総務大臣 原口一博氏

鳩山由紀夫内閣および菅内閣において総務大臣を務める。松下政経塾(4期生)。衆議院総務委員長

 

観光庁長官 溝畑宏氏

旧自治省(現・総務省)入省後、サッカークラブ「大分トリニータ」の創設に携わり、同チームの運営母体「株式会社大分フットボールクラブ」代表取締役を務める。2010年より現職。

 

農林水産省外食産業室長 増井国光氏

 

前滋賀県湖北町長 南部厚志氏

NHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」の浅井3姉妹、茶々姫、初姫、江姫が生まれた小谷城がある滋賀県湖北町の前町長。同町は2010年の合併により長浜市に編入。日本みらい研に参加。

 

上海ビジネス推進協議会代表 徳島政治氏

上海「リトル・ジャパン」構想の日本側推進者。上海には8年間のビジネス実績を持つ。

 

サンライズジャパン取締役 稲田成吾氏

社団法人民間活力開発機構の地域活性化事業「健康づくり大学」の企画・プロヂュース。世界初メジャーリーグベースボール(Major League Baseball, MLB)公認レストラン「MLB cafe TOKYO」一号店を経営等様々な事業を企画・開発し展開している。

 

新建新聞社主 伊澤和馬氏

 


 

「記号という貨幣から自由になれ」 原口

 

原口 総務大臣時代には、地域の富を満たす力ということで「緑の分権改革」を進めさせていただいた。同改革の鍵となる考えは地域の文化、歴史および食文化です。各地域の豊かな自然環境や食文化はそれぞれ違って深いものがあります。
 私の地元佐賀県は、江戸時代、長崎の出島の管理を任されていたことから、佐賀鍋島藩は、希少な砂糖を使うことができる数少ない地域でした。砂糖は、唐船、オランダ船から輸入された当時の日本にはない大変貴重な貿易品。 
 砂糖文化を育んだ佐賀からは、日本を代表するお菓子メーカーの江崎グリコ㈱や森永製菓㈱等の創業者を輩出しています。
 長崎から小倉を結ぶ長崎街道は貴重な砂糖や珍しいお菓子を運ぶ別名「砂糖街道」とも呼ばれています。当時佐賀鍋島藩には13の宿場町があり、この「砂糖街道」を中心としたお菓子の名物が各地に生まれひろがったのです。
 小京都で知られる小城の羊羹や、江戸中期、中国から佐賀に伝わった銘菓「逸口香(いっこうこう)」やポルトガルから伝わった菓子「丸ぼうろ」など。
 佐賀の菓子の甘さは素朴で人を包み込む暖かさがあります。唐津焼、伊万里焼、有田焼といった佐賀の焼き物に砂糖銘菓をのせて茶をもてなす、「おもてなしの文化」が佐賀にはあります。
砂糖文化を育んできた佐賀県にように地域のアイデンティティーや地域資源をどのように発掘して地域活性や絆の再生のために活かすかが重要です。
 金太郎飴のようにどこにでもあるまちづくりをしてはいけません。そこにしかないものでなくては、多くの人は訪れてはくれない。地域で一番大切なことは、人間らしい生活です。
 私は人間らしさを考える時、いつもドイツ児童文学作家ミヒャエル・エンデの遺言を思い出します。同名の本も出版され、NHKでも特別番組が放映されました。
 そこで述べられているのですが、人口500人といった小さな村でも貨幣という記号から自由になれば、豊かな地域にすることができるということ。
 記号という貨幣は放っておくと、次々と記号という無意味だけを増やし、1929年の世界恐慌や2008年のリーマンショックを引き起こします。
 マーネーゲームとしての貨幣は、地域から人材や貴重な資源を流失させ、貧富の格差や紛争を拡大させます。そのようなお金は狸の葉っぱのように土に帰さなくてはならないというのがエンデの遺言です。
 基本は自らの生産するエネルギーや食料に責任をもつ仕組みづくりにあります。
 例えば20年間、クリーンエネルギーの買取価格を固定して、化石ネネルギーから太陽や風力等の自然エネルギーに変える。その金を地域通貨でまわすことで地域の富を創り生み出す力を高める。ドイツの都市アーヘンをモデルにして日本でも横浜市や佐賀県、あるいは滋賀県の東近江市で固定価格買取制度が進められています。
 「東近江モデル」といわれる東近江市(人口  11万6152人)では、市民から提供された廃食油を精製し軽油代替燃料として利用、転作田に菜種を植え、収穫し搾取した菜種油を料理や学校給食などに活用する「菜の花エコプロジェクト」に取り組み注目されました。住宅用太陽光発電システムは、市内約1400世帯で導入され、設置世帯数と発電量がともに県内第2位にまでになりました。
環境を破壊しエネルギーを浪費することをやめ、地域中心の社会ができると地域の暮らしの質が変わります。
 また、総務大臣時代に進めましたICT(情報通信技術)維新ビジョンですが、2020年までに「光の道」として、すべての世帯のブロードバンドサービスを利用できるようにし、情報通信技術によりCO2排出量の10%以上を削減することで、地域の富を生み出す力を高めることができる政策です。
「人間らしい生活」の中で地域の食文化や伝統文化をきちんと位置づけ、安全安心の信頼を前提とした海外発信をめざしていきたいと思っています。

 

「観光は地域活性化の総合産業」溝畑

 

溝畑 2005年を境にした日本の人口減、少子高齢化、国地方とも財政が厳しい中、日本を元気にし再生していくには、国の内需を活性化し外需を取り込むしかありません。
 再生の鍵は地域資源の有効活用。地域ブランド化して国内外の交流を図るために、観光が地域の重要産業になります。
 観光産業は、地域の農業、建設業、小売業からホテル業、レストラン業といったサービス業などを活性化させる総合産業といえます。地方経済への波及効果がなんといっても大きい。
観光産業の経済効果は23・6兆円でトヨタ1社分の規模。生産波及効果では48兆円ほどになります。
 その土台となるのはまちづくりです。経済産業省、農林水産省などすべての省庁を巻き込んで観光事業を進めますが、特に観光庁は総務省の地域づくりと連携を強めなくてはいかんと思っています。
 日本国民全員で参加する。地方からグローバルなチャレンジをして年間3000万人の海外観光客をおらが故里へ招くのです。オールジャパン体制で、みんな一つの輪になって目標を突破するんですよ。

 

原口 大分時代もそうしてナビスコカップ優勝までサッカーチームを牽引した(笑)。

 

溝畑 なにもない大分から日本一、世界一をめざし、非常識を常識に変えました。

 

原口 非常識なリーダーが非常識を貫いたわけですね。

 

溝畑 様々な調整をしていたらなにも進まない。だから突破するしかない。チーム「大分トリニータ」が試合に勝てば喜ばれるけれど、負ければめちゃくちゃ批判される。へこみます。
 叩かれてゾンビみたいに蘇っての繰り返し。なにがあってもあきらめない精神と体力が必要です。自分が正しいと思ったら真直ぐ突き進む。
 夢って元々非常識なもので、初めはほとんどの人が無茶だ、狂っている、と言うところから始まるものです。そこに共感する人の支援の輪が生まれて現実化して、常識をひっくり返すわけ。
 東アジアに来る観光客の数は約2億人。2020年には約4億人になります。この魅力的な市場でどれほどのお客を日本に引っ張ることができるか。アジアもバンコクやソウルなど魅力的な都市がありますから、地域も国際競争の中で勝たなくてはいけません。
 生きることは戦うことです。以前は国内線だけの羽田空港も海外の玄関口に変わりました。海に行きたい旅行客は沖縄に行きません。パラオです。
 その中で日本は世界に誇れるものが2つあります。一つは2000年間、海外からの侵略や略奪、征服がなかったほど、非常に治安がいい国であったこと。
 もう一つは清潔で秩序正しい国であることです。美しい自然、おいしい水、プラス30度からマイナス30度までの多様な気候。海外からの様々な宗教も受け入れる多様な文化を持つ日本人のきめ細やかさやこだわりによって生み出された食文化が、世界市場に打って出る貴重な観光資源です。
ただし、原口前総務大臣も指摘しましたように、個別化し差別化が必要です。韓国の海外プロモーション戦略は一点集中です。
 肝心なことは、自分達でよいと言って盛り上がっていてもだめ。きちんとマーケティングしてリサーチして、おらが故里へ訪れるストーリーをつくるようなマネージメント(経営)感覚が、地域に問われています。供給者側でなく消費者側の視点が必要です。
 もう一つ、観光産業に大切な地域資源に祭事があります。地域では祭というと、自分たちの町が守り伝えるといった文化保存的な意味が強かった。世界の祭のほとんどは一般客が参加できるりっぱな観光資源になっています。
 実は日本にもおもしろい祭が多くあるんですよ。(小声で)裸祭です。
 例えば宮崎県青島神社の裸詣りというのは、数百人の褌姿の男たちや白衣とさらし姿の女たちが神社前の海水に浸かって一年の安全を祈願します。成人の日に行われますが、(小声で)若い近郷近在の男女の間では、半裸状態での婚活もあるらしいです。

 

原口 聞かなかったことにしましょう(笑)。

 

溝畑 海外からの観光客も褌姿で参加しています。大変感激するんですね。この風習は大昔、彦火火出見命が海神国から帰国した時、村民が衣服をまとう暇なく裸姿で出迎えたという故事等から代々伝われているものです。
 こうしたすばらしい行事が日本には数多くあります。それをWEBを通じ、英語やハングル語、中国語で紹介していきたい。参加可能、神輿担ぎ系、裸祭系などのジャンル分けもします。
高知県のよさこい祭は2日間のトレーニングで祭の参加が可能です。参加したい方のためのきめ細やかな情報提供できる感性も必要です。

 

原口 祭事に関して踏まえていただきたいことは、すべての祭りが全員参加ができるとは限らない点です。祭りの参加者は地域の人々に選ばれるのです。
 祭は地域の人々のアイデンティティーを代々受け継ぎ、強化する部分があります。神輿の担ぎ手は地域の氏子であって、上から見下ろすことさえ禁じている地域もあります。祭事に対する文化やこだわりを大切にしたいですね。
 情報発信について大韓民国安全部の情報化村対策は興味深い例ですが、政府の認定を受けた「情報化村」において、インターネット利用環境、パソコン配布、村の情報センター建設などを行っています。
 2010年には約370が情報化村に認定されている。情報の発信先は村から出た都会の人たちです。必要な人たちに的確なメッセージを伝えています。
 ここでは地域住民の生き甲斐や活躍する仕組みをうまく創り上げ、インターネットにおける情報発信をすることで、村の体験観光や農産物販売などの観光産業に結びついた成功例です。

 

溝畑 村人のアイデンティティーや先祖のメッセージを強める文化のこだわりは大切です。
 要は選択ですね。アイデンティティーを崩すのではなく、地域の人々の意向に任せたい。
 スペインの収穫祭「ラ・トマティーナ」は別名「トマト祭」とも呼ばれ、世界中からバレンシア州ブニュール人口の倍以上の人が集まり、熟したトマトをぶつけ合います。
 100トン以上のトマトを4万人もの人が投げ合う祭の興奮と感動は、人を惹きつけて止まないもの。単純におもしろい、楽しい、感動するという理屈でない感性も観光には大切です。

 

「文化は人を結びつける接着剤」南部

 

南部 人と人の繋がりで生まれる文化というのは地域の人々を結びつける接着剤の役割があります。その日本の良い面を情報発信できればいいですね。

 

原口 今回、地方への地方交付税配分について、文化や伝統、食文化を大切にしている地域への配分を厚くしています。
 例えば、岩手県遠野市は民俗学者柳田國男氏の伝説集「遠野物語」で有名でありますが、市内には河童や座敷わらし、天狗にまつわる100カ所ほどの歴史的遺産があります。
遠野地方の口承文化によって年間約150万人の観光客が訪れます。そこにいけば地域特産のどぶろく「どべっこ」や郷土菓子「きりせんしょ」などを味わうことができます。
 文化を支える地域の総合力は、地域住民の地域を知り伝える教育力にかかっているともいえます。過去において地方では明治、昭和、平成の大合併がありました。明治と昭和は教育が中心の合併でしたが、平成は財政が中心でした。1999年には3232あった市町村が、2011年には1727に減り、地方の教育力が弱くなってしまった。そこで放置され、埋もれようとする地域の文化や伝統を守り伝えようとする地域に地方交付税を傾斜配分したのです。

 

一同 それはいいことですね(頷く)。 

 

「地域は食文化を情報発信したい」 稲田

 

稲田 弊社は全国30カ所の地域の活性化支援をしてきました。その中で地域の方々は情報を発信したいという気持ちが強いことがわかりました。単に地域特産物を売りたいのではなく、その地域の文化伝統について食を通じて発信していきたいのです。
 地域には、すでに情報発信力を身に付けた北海道や沖縄や九州等と比較的発進力が弱い地域があります。弱い地域にも先ほど原口前総務大臣がおっしゃっていたように、数百年もの歴史や文化伝統があるところがあります。こうした地域に光を当てていきたい気持ちが前からありました。
 東京丸の内の旧東京中央郵便局である「JPタワー(仮)」プロジェクトで、全国各地域の情報発信ブースの出店とイベント広場の事業「ジャパニーズ・フルサト・レストラン郷便りニッポン」を、日本郵便グループでなければできない、いや、やるべき事業としてお願いしました。地域には発信したい「祭」や「食」、「伝統」、「風習」が山ほどあります。特に「食」は世界有数の食材の宝庫であり、料理法も多彩。そして地域で今でも人を惹きつけてやまないエンターティメントが「祭り」です。
 47都道府県、全国地域の「食」と「祭」を日本の中心である東京丸の内に集結させ、日本の文化を身近に体験し、再発見してもらいたい。この発信型エンターティメント・フードコートを東京に設け、ニッポン文化の新発信基地とし、世界へ伝えたかったのです。
 横浜の「新横浜ラーメン博物館」のように、一堂に各地の食文化を集結させると、日本のあらゆる地域とつながるコミュニティが生まれ、発見や感動もあり、地域への旅行情報も発信できます。
 「JPタワー(仮)」は、他のビル事業と同様なテナントリーシングの方法で行うことにより弊社の企画が遅々と進まない中、たまたま、上海ビジネス推進協議会の徳島代表と話をしていて、いっそこれを上海に持っていくのもおもしろいという話になったのです。

 

原口 中国上海にいる日本人は13万人。それに比べ、インドのデリーには5000人しかいません。
 日本食文化の情報発信には、中国やアメリカ、ヨーロッパといった大きな拠点が必要ですね。
たとえば、地上デジタルテレビ方式についてですが、アジアでは今のところ欧州方式を採用する傾向が強い。南米では4カ国が日本方式です。
 その理由としてペルーのガルシア大統領が大の松下幸之助ファンで、ペルーに松下政経塾ペルー版大学まで設立していたことがきっかけになっています。私が同塾生であることも知っていて意気投合し、次々とブラジル、アルゼンチン、チリの通信大臣とも会談をすることができ、日本方式への統合と普及いう話にまでなりました。それが2009年のリマ宣言です。
 バラバラでやっているとうまくいかない。戦略を練り拠点をつくることです。 

 

「オールジャパンで実現を」徳島

 

徳島 私は、2002年から8年間、上海で活動をしていました。その経験からいうと、様々な分野で日本の中小企業が中国進出をして中国人にやられて帰ってきたケースが多い。
 それは日本文化の押し売りみたいな出店が多かったからです。前段がまるでなくいきなり日本の食文化を持っていく。日本では行列のできる店というだけでは、店に行ってみたくなるストーリーやプロセスもなく、中国人には到底受け入れられません。
 また、昨年の上海万博では、民間企業初の中国パビリオン館「中国船舶館」におけるフードコートの出店権利を取得し、(株)ホッコクの「どさん子ラーメン」や「豊唐揚」など22店舗の日本食レストランの誘致活動をしていました。
 上海万博の日本産業館や日本館、大阪館において、出展関係者や都道府県知事ともお会いして実感したことは、開催した各イベント運営をオールジャパンでできればもっと日本食文化をPRできるということでした。
 中国人客を集めるプロセスをオールジャパン体制でできないかと考えていた時、稲田さんの「ジャパニーズ・フルサト・レストラン郷便りニッポン」プランを上海浦東新区に持ってこないかという、浦東新区の書記から誘いがあった。
 上海浦東国際空港近くの広大な土地に、中国側はインフラ整備を行う。日本側は上海「リトル・ジャパン」の企画プロデュースからテナントリーシングおよび店舗出店にともなう内装工事等を行うという計画です。
 「リトル・ジャパン」は映画のロケとしても活用できるようにと、25万平方メートルの日本庭園計画も進んでいます。  
 新春において新建まちづくり新聞に記事掲載していただき、地域自治体や外食企業から大きな反響がありました。上海「リトル・ジャパン」のプランニング具体化のためにまた上海に行きますし、日本庭園設計の打ち合わせも進めてきます。
 全国47都道府県の食文化と伝統を一堂に集め、その背景を紹介し伝えるために、「祭」や「食」をキーワードに情報発信していく。そのために日本政府と各地方自治体の皆様、どうぞ上海へ来ませんかという話。
 せっかくのいい機会です。47都道府県が集まって、オールジャパン体制が組めるチャンスではありませんか。私はこのプロジェクトをオープンにして、多くの方々と進めていくつもりです。

 

溝畑 観光庁ではこれから中国人観光客を今後10年間で6倍に増やす計画も立てていますが、海外発信方法は外務省、観光庁、総務省等バラバラです。一元化して効果的なPRをしていきたいです。
 この期間は食文化月間や、次はファッション、続いてアニメだ、さあ来いと絵巻物みたいにバーッとオールジャパンで展開したい。そのために経済産業省に対して「クールジャパン」も「食文化」も「観光」もいっしょにやりませんかとお願いしています。
 上海「リトル・ジャパン」をやるなら、在外公館や関連省庁の広報予算などありますので、一回見直して予算一元化をすればいいのです。
 あとは受け入れビザの緩和や中国語通訳の確保、ホテル対応が問題になってきますが、いずれにしても上海「リトル・ジャパン」のような形で省庁の垣根を取り払って海外プロモーションを進めることは賛成です。

 

原口 PRに関してですが、やはり人づくり、教育が大事で、全国で5万人ほどいる外国人留学生や研修生に対する民間大使などが、自国に帰って日本文化を自国の方々に宣伝しています。地域の人々との親交を通じた親日人づくりも大切です。
 ちなみに日本語の学習者が世界で一番多いのはオーストラリアです。同国の有名な観光地では日本語を話す人や、日本に留学したり住んだことがある人も多い。
 おもしろいことに日本商社の売上の3分の1はオーストラリア関連のビジネスです。
 日本語を学びたいという海外の方々が予想以上に多く、インターネットにおいて英語を除けば日本語を使うことが最高で、クールと評価されています。
 先般、内閣総理大臣賞を受賞した北海道テレビ番組で、台湾人が北海道の観光地や降り積もった雪に感動してレポートしていました。その感動を台湾に持って帰り広めているのです。
 海外の人々を通じた日本の食文化や伝統の紹介にはストーリーがあり、徳島代表がおっしゃったように、そこにいく動機が生まれます。人とストーリーが必要ですし、一人々が香りや味を伝える生の声が大切です。
 今年、「日本維新の会」を立ち上げ、全国に維新特派員を募集したところ、1000人以上の皆様が集まりました。ツィッターは20万人ほどの方が登録していただいています。そこには柔らかなネットワークができていて、個人が発信者となっています。
 ジャスミン革命において26年間続いたチュニジア政府が、フェイスブックを使うことで26日間で崩壊しました。この時代の変化をしっかり捉えましょう。
 日本国内の若い農業従事者は、もう従来の農協に農作物を出さなくなった。精魂かけて育てたものを、他のものと一緒にされたくないからです。自分の作物を評価しくれる人に向かって国内外に自由に届けたい、発信したいのです。

 

南部 その通りです。たとえば中国に米を輸出したい農家が多くいます。
 その時、各地域の食文化で培われた食べ方や提案ができたらよいと思います。

 

「ジャパンブランドの確立早く」 増井

 

増井 独立行政法人日本貿易振興機構(JTRO)に出向していたことがあるのですが、パリの有名な展示会「SIAL パリ国際食品見本市」の日本企業や自治体の出展サポートをした経験があります。
 約14万人が来場する世界で2番目に大きな食品展示会です。日本側の出展者の中には、いいものを作っているのだから売れないはずはないと思い込んでいる人や物見遊山の人もいます。
やはり現地ではなにが流行っているかリサーチをしていく必要があります。パリでは日本の古都京都の舞妓さんより、美少女戦士プリキュアといったアニメや寿司よりもラーメン、コロッケ、トンカツ等に人気があります。そのため、溝畑観光長官もおっしゃっていたようにプロモーション戦略が必要です。
国際見本市ですので、フランス国内だけでなく中東のバイヤーも来場しているので、ハラル認証なとも気をつけなくてはいけません。

 

稲田 海外出展でも上海「リトル・ジャパン」でも地域が運営に参加する場合、どうビジネスと結びつけるかが課題となります。たとえばアルコール飲料大手メーカーは地域各地や海外にも拠点があり、何が今そこで売れているか、商売になるか知っているのでパートナーにすると助かります。昼間は弁当などデリバリーをやるなどの工夫をすると売上が上がります。
 地域の情報発信をする場合、実際に客が来て、売上が上がると出展者も目の色が変わるんです。やれば来るじゃん、来てくれるじゃんって。成功を味わって感激するんです。地元の幹部の人たちにいかにいい意味でビジネスを感じさせるかが大切です。
 弊社は、「B級ご当地グルメの祭典!B―1グランプリ」の立ち上げから携わってきました。易くて旨くて地元に愛される地域の伝統料理や名物料理を通じて、地域を知っていただく。B級料理を食べに地域に来てもらいたかったのです。
 「B級ご当地グルメ」で地域おこしをしようとして、2006年に10団体が参加し、静岡県富士宮市の「富士宮やきそば」が優勝すると、全国で一気に知名度が上がりました。各地域から参加団体が集まり、今では20万人以上を集めるエンターテインメントイベントになりました。

 

原口 増井外食室長や稲田取締役の意見をまとめると、やればいいという目標達成度(アウトプット)が目的になっているのです。大切にしなくてはいけないのは、効果出すためにあれこれする直接的効果(アウトカム)だということですね。
 私は2009年に電子行政ネットワーク「霞が関・自治体クラウド」を立ち上げました。増井外食室長がおっしゃった問題を解決するために、1府12省庁における業務システムのハードウェアの統合・集約化や共通機能のプラットフォーム化を図り、都道府県単位の一元化(シェアード)をすることで情報を共有化ができます。課題に人の手が添えられ、人と人とが寄り添い、抱える問題に多くの手が添えられていく。片手より両手のほうがきめ細やかな対応ができます。そこにお金を投入しようというのが霞ヶ関・自治体クラウドの考えです。それをすれば、今までの人数もずっと少なく対応できます。

 

増井 地域自治体の海外進出で気になるのは、ジャパン・ブランドを至急に確立しなくてはいけない点です。中国、韓国あたりならいいですが、インド、パキスタン、ヨーロッパでは日本がそもそもどこにあるかさえ知りません。
 極端にいえば、海外では日本と中国はくっついていると思っている人々もいます。その中で地域自治体が先にいっても効果が出ません。
 また、世界にある日本食レストランの約9割は非日系地元店が経営しているので、日本の文化も知らずに日本食をお客に出しているのが現状。日本料理を提供する側が、日本食はアジアエスニック料理の一種程度の理解であることも忘れてはいけません。
 フランスにはフランスブランドがきちんと確立されていて、その上でシャンパーニュ地方のワインがあり、ノルマンディー地方のカマンベールチーズがあるのです。

 

稲田 ジャパン・ブランドというパッケージをつくることは大切です。上海「リトル・ジャパン」を実現するにも、地域自治体が、大企業だけでなく、多くの優良な中小企業にも目を配って、進出の支援をして欲しいですね。その場合、企画力が必要で、展示物ばかりだと人が集まりません。

 

溝口 それにはまず、海外展示会出展状況の検証が必要です。
 地域自治体はここ20年間、なんらかの海外展示会に出展していると思います。たとえば、旅行博「上海世界旅游資源博覧会」などには多くの自治体が参加しています。地域の「食」を中心に展示しているのですが、特色もなく終わっています。
 今回の上海「リトル・ジャパン」の話を地域自治体が聞いた時、海外商談会と同じものかと思われないようにしなくてはいけません。海外出展の失敗例を検証し、なにが問題だったのかを明らかにする必要があります。
 また、民間ベースで開催するイベントと違って、自治体が運営に参加する上海「リトル・ジャパン」の場合、採算だけでない人材育成や国際交流などの公益性の高いものを目的にする必要があります。
なぜ、自治体がやるのかという先行投資的な部分をきちんと整理しなくてはなりません。

 

原口 自治体のマネージメントについてですが、各地域は中国のどこかの都市と交流関係を持っています。私の地元佐賀市も中国江蘇省連雲港市と友好都市です。
 交流のきっかけは徐福伝説。秦時代の徐福の故郷であるといわれる連雲港市と、渡来、定住伝説がある佐賀市は市民交流があり、1998年には友好都市の締結もしています。
 たとえば、佐賀市と連雲港市とが投資相談をしたり、「食」を通じた商談をする運動をすることで、広がりを持つことができます。

 

徳島 上海浦東新区には38の行政区があります。その様々な地域特色を持つ各行政区と日本の47都道府県がうまくコラボできないかという話を上海浦東新区の書記からいただいています。 
 それも永久なものとして固定せず、溝畑長官がおっしゃったように今年1年間は佐賀県とどこの行政区、来年はどことどこがタッグを組んでPRするというのはどうか。中国側も日本側どちらもウインウインになる関係を築ければと思います。

 

一同 それはいいですね。

 

「和の文化こそが救う鍵」伊澤

 

伊澤 日本国の最初の憲法十七条の第一項「和を以って貴しと為す」こそが日本の文化の原点ではないでしょうか。当時日本列島には言葉の異なる色々な民族がいたこともありますが、神=天皇の子である聖徳太子が仏教を受け入れたのですから。仏教受け入れをめぐって曽我氏と物部氏の戦いがあったにせよ、その後、数百年に渡って、海外出兵も無く、平和でした。そして日本の殆どの家に神棚と仏壇があるわけですから。日本の食べ物だって半分以上は海外から入ってきて、日本でより美味しく改良され、色々が和して日本流の美味しい料理が生まれてくる。ステーキだって、ラーメンだって、カレーだって。
 「和の文化」こそが21世紀の世界が生きていくための鍵だと思います。互いの違いは争うのではなく理解し合い受け入れ、良いものはドンドン取り入れ新しいよりよいものを生み出す。宗教対立・宇宙と地球・自然とまちづくり・建築との調和。料理・科学、すべてが「和」を大切により良いものを生み出していくことではないでしょうか。

 

(轟晃爾)

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