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キャリアアップを目指す「社会人のための大学院」ガイド 社会人のための大学院・専門職大学院特集

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社会人インタビュー Vol.27

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目標は女性ならではの理学療法の確立。
そのために大学院に入学し、学会にも積極的に参加。

 文京学院大学大学院保健医療科学研究科は、理学療法・作業療法・臨床検査という3分野を融合したユニークな大学院として2010年に開設された。医療現場ですぐに役立つ最新の医療技術が身につくだけでなく、解析学など研究者として通用する理論やスキルも修得できる。理学療法士の布施陽子さんも「大学院で研究方法と論文の書き方を学んでいるので、これを自分の専門分野に生かしていきたい」と意欲的に話す。

文京学院大学大学院
保健医療科学研究科
修士課程2年
布施陽子さん

(プロフィール)
1982年東京都生まれ。昭和大学保健医療学部理学療法学科卒業。理学療法士。東京北社会保険病院リハビリテーション室に勤務。2010年4月、文京学院大学大学院保健医療科学研究科に入学。

 
――そもそも、理学療法士を志した理由はなんでしょう?
小さい頃からスポーツが得意で中学・高校とバドミントンをやっていました。とはいえ、人並みよりも少しできる程度で最高成績は都大会3位。プロを目指すには実力も身長も足りませんでした。そこでスポーツに関連した職業に興味を持ち、いろいろと調べたのですが、女性ですから結婚や出産後も働き続けて行くには国家資格を持っていた方がいいだろうと考えたのです。そこで理学療法士という仕事があることを知り、その養成課程がある昭和大学を受験。競争率が高く難関でしたが、一浪の末、なんとか入学することができました。
――次に大学院に進もうと思ったのはなぜですか?
大学時代の恩師である福井勉先生が文京学院大学大学院で教鞭を執っていらっしゃるから、というのがきっかけの一つですが、同時に、個人的にも本気で研究活動に取り組んでみたいという思いも強くなっていました。
医師は内科や外科など分野が分かれていますが、理学療法士にはそれがありません。リハビリが必要になった患者さんが来院し、その方の疾患に合わせてリハビリを進めていくわけですが、そうなると、女性の私が経験を積んで腕を磨いても、新人の男性理学療法士には体力的にかなわない。患者さんも力強い男性のほうが安心することも少なくありません。そんな中でしだいに女性だからこそできるリハビリは何かを考えるようになり、産婦人科における産前・産後の腰痛や失禁に関するリハビリのスペシャリストになろうと思いました。実は父が泌尿器科の医師をしているので、日頃から排便・排尿は身近な話題であった事がきっかけでもあります。お産を経験した女性に多い腰痛や失禁は、女性に特有の疾患であり、その治療を行う際には女性ならではの視点を生かせるとも思いこの領域を考えるようになりました。
そこで、2009年秋にサンフランシスコで開催された国際失禁学会(ICS)に参加。医師だけでなく、看護師や理学療法士が発表している姿に刺激を受け、私もいずれは壇上で発表する側になりたい、自分の研究成果を論文にまとめたいと強く感じました。そのためには解析学などの理論や、研究のスキルを身に付ける必要があり、これらを学ぶには大学院が最適だと思ったのです。
――受験準備はどのようにしましたか?
この研究科は入学前に修士論文指導教員との面談があります。もちろん指導教員は福井先生にお願いして、「よし、分かった」と出願の承諾をいただきました。
入試科目は英語と専門科目。専門科目は理学療法に関することなので、日頃の仕事が勉強につながりました。問題は英語。学会で渡米したときにプライベートレッスンを受けていたのですが、それだけではなく問題集を購入し、長文読解を中心に勉強しました。
――基本的な1日のスケジュールを教えてください。
仕事は8時30分から17時まで。その後、大学院で18時20分から2コマを受講。帰宅するのは22時30分ぐらいで、お風呂に入ったり少し休んで、就寝。翌朝6時30分に起床。レポートや課題があるときなどは早く起きて机に向かうことも。大学と勤務先、自宅が至近距離にあり、時間的・体力的な負担が軽く済むので助かっています。
――苦労したことと、その解決法を教えてください。
大学院で新しい知識を得るのは楽しいですが、入学前はその時間は患者さんのリハビリのプランを考え、臨床での悩みを整理することに充てていました。同級生は皆、理学療法士であり、悩みを相談し臨床的アドバイスをもらう事で解決できる事も多く、またそのディスカッションは私にとってとても楽しい時間でした。それでも入学後は絶対的な時間が足りず、臨床も研究も中途半端な状況が続いてしまうことにフラストレーションを感じていました。
解決策としては、私はカタチに残すことを意識しています。たとえば英語力アップのためにTOEIC700点を目指して勉強してみたり、骨盤に関する英語の本を1冊全部訳してみたり。また、年1回開催される全国理学療法学会に参加し、発表することを課題にしていて、今のところ毎年参加しています。
そうした客観的に評価できるものを目標にして、達成すると気分が晴れますね。忙しくて疲れますけど、そのほうがストレスを感じないタイプのようです。今年は海外の学会にもエントリーしてみました。
――興味深い科目は何ですか?
この研究科は理学療法士、作業療法士、臨床検査技師を対象にしており、私は当然ですが理学療法に関する科目を中心に履修しています。その中でも印象深いと感じたのは福井先生の「スポーツ理学療法特論」。この授業は日々の臨床で、それぞれが持つ疑問点を抽出し、それを研究テーマにして科学的に掘り下げていくという授業です。たとえば骨盤帯に対する治療があるのですが、それがなぜ効くのかと聞かれると、そのメカニズムを明確には答えられないことが多くあります。この問いに答えられるようにバイオメカニクスを学んだり、実験機器の使用方法を学んだりするのですが、そうした中で研究への意欲が高められる授業です。
それから、「呼吸器系理学療法特論」も実践的な技術が学べ、とても有意義でした。担当の柿崎藤泰先生とは、大学時代の臨床実習で出会い、そこで痛みを訴えていた患者さんが先生の治療であっという間に治っていく様子を見て、まるで魔法のように感じたものです。この授業は2コマ連続でトータル3時間と長いのですが、その間中ずっと先生の一言一句も聞き漏らすまいと集中しました。
――これから大学院を目指す社会人へのメッセージやアドバイスをお願いします。
理学療法士は、ある意味で職人的な仕事であり、投薬ではなく手技によってリハビリを支援します。その理学療法に国や病院からコストをかけてもらえるようにするには、理学療法士自身が臨床経験を科学的に立証し、社会に発信していくことが大事だと考えています。その場所として大学院は適していると思いますし、特に文京学院大学大学院保健医療科学研究科は経験者を対象としていて、先生方も社会人の研究活動をバックアップしようというスタンスですので、とても恵まれた環境だと思いますね。
また私の場合は、病院の室長をはじめスタッフにとても恵まれているため臨床と大学院を両立できていると感じます。スタッフの協力など職場の理解は、両立には必要なことと考えますが、どうしても時間に追われる日々になってしまうため、日頃からタイムマネージメントを心がけておくが大切であると思います。
――今後の抱負を聞かせてください。
繰り返しになりますが、女性の理学療法士だからこそできる専門分野を作ることが最終目標です。具体的には、妊婦さんの腰痛や失禁に関するリハビリのプロを目指していますが、日本ではまだこの領域での理学療法は確立されていないので、積極的に他部門の学会や海外でのこの領域における学会等に出て情報収集し、それを元に自分で研究を続けていこうと思っています。大学院で得た知識が臨床場面でダイレクトに役立つことは少ないですが、今後もどんどんアグレッシブに活動して、目標を達成したいと思います。
布施陽子さんの1週間のスケジュール 2010年度前期の場合