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[27121] 【ネタの】ロックマンX 憑依異伝 追加【墓場】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/06/12 01:40
私の思いついた一発ねたをダラダラと書く墓場です。

基本的に思いつきです。

先に謝っておく。


―――すまねぇ。



[27121] 【一発】IS×s.CRY.ed~最悪の●●【ネタ】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/04/11 21:26
最近スクライドのSSが増えて狂喜乱舞している私。
流行に乗ってみた。※ちょこっと修正。




「・・・だ、よろしくである。」

教室の中、一人の男子生徒が立ち自己紹介を終える。

彼に集まるものは視線、視線、視線。
たかが自己紹介、何も珍しくはない。
にも関わらず彼に集まる視線は尋常ならざるものであった。


それは、彼の存在が珍しいからだ。


ここはIS学園。

世界各国より、ISについて学ぶために様々な人が集まる『女子高』。
そう、ここは女子高。男子生徒など本来いるはずがない。

ならば、先ほど自己紹介をした人物は女生徒なのか?

断じて否。どこからどうみても男。

ならば何故ここにいるのか?
女子高に男がいて何故許されるのか?

それは、自己紹介をした彼と、その隣で机に伏した少年の『二人』が、世界でただ二人の『男性でありながらISを起動できる人間』であるからだ。

世界の共通認識である、『ISは女性のみが起動できる』を真向から否定した二人の少年。
常識の例外である彼らは、調査・研究・保護、様々な理由から女子高であるIS学園に通っている。


そんな、希少価値の塊である片割れが、机に伏しているもう一人の片割れに話しかける。

「どうしたのであるか、一夏?何を突っ伏しているのだ?」

「お前さ・・・よく平気だな・・・」

「うむ?」

「いや、こんな女の子だらけの所に連れてこられてさ。」

「中々にない経験であるな!」

「それだけかよ・・・」

「それだけではないぞ!私は今!猛烈にインスピレーションが高まっている!」

「なんでこの状況でそんなハイテンションになれるかな・・・」

「なるとも!よいか一夏よ。私には夢がある!その夢を叶えるためには様々な経験は必要不可欠なのである!」

「あぁ。そういえばいつも言ってたなぁ・・・」

「そうとも!私は夢を叶えるために一分一秒無駄にしないのである!
 そして、この女子高に通うということは通常経験できないことなのだ、興奮しないはずがない!」

「あぁ、そう。喜ぶのはいいけど興奮とかあんま言うなよ・・・見られてるぞ・・・」

そう言って、一夏と呼ばれた少年は顔を隠すように机に突っ伏した。
彼は、教室中から刺さる視線に耐え切れなかったのだ。


「ふむ。」

一夏のグッタリした様子を見たもう一人の男子生徒は彼を置いて窓際へと歩く。
そして窓際の席に座り、外を眺める女生徒へ声を掛けた。

「久しぶりである。」

「・・・」

無反応。まるで何事もなかったかのように外を睨む女生徒。

「む?・・・久しぶりである。」

「・・・」

「無視であるか?あまりの悲しみに箒の幼きころのツンデレ具合を叫びそうになるのである。」

「やめろ!・・・はぁ・・・久しぶりだな。」

あまりのしつこさに観念したのか箒と呼ばれた少女は、話しかけた少年に向き合い返事をする。


「うむ。ここで箒に会えるとは思わなかったぞ。」

「それは私のセリフだ。・・・よもやIS学園で男であるお前たちと再会しようとは・・・」

「人生とは不思議なものよな!はぁーはっはっはー!」

厭味に気づいているのかいないのか。
少年は快活に笑い、少女は眉間に皺をよせる。

「その煩い口を閉じろ。・・・まったく、貴様は変わらんな。」

「うむ!箒も息災で何よりである!」

「・・・はぁ・・・」

「何故溜息をつくか?」

「貴様には関係ない。」

一刀両断。少年の問いかけに答える義理などないとばかりに即答する。
だが、ここに居る少年はそれで折れるようなピュアハートではなかった。

「ふむ。一夏に最初に声を掛けて欲しかったのだな。」

「なぁっ!?」

「それは申し訳ないことをした。」

「き、き、貴様!」

わなわなと肩を震わせ、ゆっくりと立ち上がる箒。

「落ち着くのである。・・・時に箒よ?」

「・・・何だ。」

「一夏とは話さないのであるか?」

「な!?・・・き、貴様には関係なかろう。」

「ふむ。私はどちらでも良いが、このままでは・・・手遅れになるぞ?」

「・・・どういう意味だ。」

意味がわからないと、少女は少年へ先を促すように睨みつける。

「あそこに居るのは誰であるか?」

「・・・一夏だろう。」

「そう!一夏である!歩く女性吸引機!フラグ一級建築士!そして!ここはどこであるか!?」

「I、IS学園だ・・・」

「そう!IS学園である!女子高なのである!つまり!一夏独壇場!」

「・・・!?」

「箒がもたもたしている内に既にフラグは立っているのである・・・!」

「な・・・なん、だと・・・!?」

「挨拶の初動など些細なこと!そんなことに気を取られていれば一夏の貞操を取られるのである!」

「!?」

まさに青天の霹靂。少女の背中に電流が走る・・・!

「わ、私は、どうすれば・・・!」

突きつけられた現実に箒はふらふらと椅子へ座り込んだ。
その瞳は動揺に揺れ、ぐるぐると回る思考は答えをだせず焦りだけが積る。

「私に任せろ、箒よ。」

「・・・!」

暗い森へ置き去りにされた迷子のように震えていた箒を救い上げるように少年は優しく声を掛けた。

「箒も知っているだろう?私の夢を!私にはドラマティックな再開から恋人の誕生までの道筋など、既に見えているのである!」

「!?」

「さぁ!共に行こうではないか!あのフラグマイスターにフラグを立てるために!」

「あぁ!」

箒は勢いよく立ち上がり、覚悟を決めた顔で少年を見上げる。
そして少年もまた、自信を浮かべた笑みを箒を見せ、二人は駆けるように教室を出て行った。




「・・・はぁ・・・」

ちなみに一夏少年はずっと机に突っ伏していたので、二人の幼馴染の奇行に気づいていない。















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


学園の屋上。
二人の男女が向かい合う。


「・・・久しぶりだな・・・」

声を掛けた少女、箒。


「あ、あぁ。久しぶり。」

答える少年、一夏。


少女は屋上の手すりに身を持たれる様に背をゆだね、少年を見つめる。


「6年ぶり、か・・・」

少女は時の流れを反芻するように目を細める。

「そう、だな・・・」

少年もまた互いを隔てた時の流れを感じる。

「随分と会わなかったが、すぐにわかったぞ。」

少女はまっすぐに少年を見つめ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「そうか?俺、変わってないかなぁ?」

少女の言葉に微妙な表情で頬を書く少年。

「いや、変わったさ・・・」

少女は少年の言葉を否定する。

「え?」

少女の意外な言葉に驚く少年。

「・・・格好良く、なったよ、お前は・・・」

ざぁ・・・と一陣の風が二人の間に流れる。
少女は風に攫われた髪を救い上げ耳にかけるように手で梳く。

「・・・」

少年は少女呆然と見やる。


・・・彼女はこんなことを言うような少女だったであろうか?


・・・目の前にいる少女は、こんな仕草をするような人物であったか?


・・・こんなにも、可愛らしいと、俺は感じた事があるだろうか?



少年は、少女に感じた女に動揺し、女に感じた色気に動揺する。



あぁ・・・彼女はこんなにも美しい女だったのか。






「私は・・・」

「え?」

「私は、どうだろう?・・・変わったか・・・?」




少年は目の前に立つ少女に揺れ動く心を、確かに感じた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










「・・・くっくっく・・・はぁ~はっはっはっはぁ~~~!」





―――屋上で談笑する少年少女から見えない位置で高笑う影。





「シーン構成、ダイアローグ、演技付け、全て脚本どおり。一語一句変えることのない完璧なドラマ!」





―――彼の名は雲慶(ウンケイ)。





「一夏よ!私の偉大なる脚本の中で!」






―――190cmを越える長身に、ピンクのアフロヘアーを持つ、






「ときめいて死ね!(人生の墓場的な意味で)」






―――脚本家を夢見る少年だ。






















「いや、箒は全然変わってないな。」

「え?」

「いやぁ、だってすぐにわかったぜ?お前、髪型が前とぜんっぜん変わってないもんなぁ。もし髪型違ってたら気づけなかったって、絶対。」

「・・・貴様・・・!」

「ぬぁ!ストーリーから外れた!?そのような台詞は私の脚本にないぞ!」

夢は遠く、彼は未だ届かず。






うろ覚え雲慶でスマヌ。
絶対に続かない。



[27121] 【続き】IS × s.CRY.ed~刃と銃~【などない】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/04/12 19:51


IS学園。

世界最強の兵器『IS』について学ぶため、世界各国から人が集まる女性の園。

男子禁制の学園で、頭を突きつけ争うバカ、二人。

世界で最も貴重な『ISを起動できる男達』は己の意地をぶつけ合う。

女の園に男二人。



――友情を育んだ。



「お前がいて助かったよ。」

「はっ。なさけねぇ野郎だな一夏。」



――共に抗った。



「おい!大丈夫か!?」

「なめんじゃねぇ!テメェの心配をしてろぉ!」



――健闘を称えあった。



「やった・・・!」

「へっやるじゃねぇか一夏。」



――たった二人の同類は間違いなく仲間だった。

――だが・・・





「お前・・・!」

「あぁん?俺とやろうってか!?」


きっかけは些細な事。
だが譲れない。この二人バカは譲れない。


自分自身の誇りに賭けて、目の前の男だけには譲れない・・・!


例え仲間だとしても、自分の前に勃つならばそれはライバルでしかない。


あぁ、ならばやることなど決まっている。




―――テメェを見せ付けるだけだ・・・!












「俺は負けられない!」


――覚悟ならとうに決めた。


「お前にだけは負けられない!」


――己の持つ白刃に誇りを乗せて。


「俺の刃が上だってことを証明してやる!」


――織斑一夏、刃を磨き強さを証明する。











「硬いんだよ!」


――絶対的な自信。


「太いんだよ!」


――当然だ、これに自信を持たず何に持つ。


「暴れっぱなしなんだよ!」


――立浪ジョージ、ビッグマグナムで己を証明する。





「俺の太くて硬いビッグマグナムにお前のちっぽけな刃で勝てると思うか!?」

「なめるな!ジョージ!俺の刃はどんな壁でも突き崩す!」








織斑一夏、立浪ジョージ。


IS学園の風呂場で互いの『男』を競い合う―――





うん、下品な話ですまない。
ISの要素ゼロですまない。
次ぎのキャラはきっとISメインで書くから許して欲しい。
でもこれだけは書きたかったんだ。後悔はない。



[27121] 【戦闘って】IS × s.CRY.ed ~姉弟~【難しい】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/04/13 21:08


IS学園。

世界最強の兵器の扱いを学ぶべく、可憐な少女たちが舞い踊る場所。

その学園に設置されたトレーニングルームの一角。
荒地をイメージして作られた其処は、日夜、少女たちの訓練による汗と嬌声がやまぬ場所。

しかし、草木も眠る深夜では、暗く静かな場所になる。


そんな場所に立つ二人の男と、女。


訓練をするには遅すぎる時間だが、彼らは確かに其処に居る。


他者に見つからないよう秘めた逢瀬か?
否、違う。
二人を取り巻く空気は甘いものではなく、張り詰めた緊張。


男は女を獰猛に睨み、女は男を冷淡に見る。





男の名は、織斑一夏。世界で最初のISを使える男。

女の名は、織斑千冬。世界で最初にISを使った女。




血を分けた姉弟が、暗闇の中で相手を睨む。





「一夏、本当に私と闘うつもりか?」


――姉は弟に問いかけた。

――彼女らがここに居る理由を問いかけた。


「当然だ!そのためにアンタをここに呼びつけた!」


――弟は答えた。


――それ以外の理由などないと。


「・・・何故だ。」


――姉は再度問いかける。

――自分に闘う理由がないと。






だが、弟は、違う。

彼には闘う理由が――ある。



「俺はずっとアンタに守られてきた。」


・・・あぁ、そうさ。ずっと俺はアンタの後ろでウジウジしてた。
・・・それが嫌だったから、体を鍛えた、限界を超えても鍛えた。
・・・でも、アンタには届かなかった。アンタは俺のずっと前にいた。


「だがな!今の俺はアンタと同じ場所にいる!」


・・・そうだ、今の俺は、アンタと同じステージに立っている。
・・・鍛えて得たものでなくても、アンタと同じステージに立てるなら文句はない。
・・・だから!


「俺はアンタを越える!アンタを倒して越えてやる!」


・・・アンタを越えれば、俺は一人で立てると言える。
・・・アンタを越えれば、守らなくてもいいと証明できる。


「俺は!俺の強さを証明するためにここへ来た!」

あぁ!そうだ!そのために来た!
強さを証明するために!
そうすれば、アンタはもう必要ないんだ!





―――もう、俺を守る必要なんか、ないんだ・・・!


―――アンタは、アンタの人生を進めばいいんだよ、アネキ・・・!







「私を、倒すと言ったか、一夏。」


・・・なんて、愚かな。


「ISに触れて一ヶ月そこそこのお前がか?」


・・・私は、私の意志でお前を守ると決めた。


「馬鹿も極まると哀れだぞ、愚弟よ。」


・・・だれかに強制された訳ではない。
・・・私が、私の意志で、私の思いで、望んだ。
・・・故に・・・


「お前はまだ、この学園から卒業するには、早い。」






―――本当に愚かで、どこまでも優しい弟よ。


―――私は、私のために、闘おう。お前の傍で支えるために闘おう。








「あぁ!?上等だ!後で後悔してもしらねぇぞ!?」

「後悔は先に立たぬから後悔と言うのだ。もう少し国語を学べ、一夏。」



一触即発。
男は燃え上がるように高ぶり、女は静かに高める。



彼らの思いは交わることはない。

だが・・・







―――それだけじゃねぇ。
―――それだけではない。


―――目の前に『最強』がいるんだ。
―――目の前に猛る男がいるんだ。







「挑戦するのが男だろうがぁ!」

「お前の強さを見てみたい!」



「だから!」

「故に!」









「突き進むぜぇ!白式ぃぃぃぃ!!」

「切り開くぞ白騎士!」




――闘いが始まる――!







「まずはこいつだ!喰らいやがれぇぇぇぇぇぇ!」


先手を奪ったのは白式。

飛び上がり空中から加速して飛び掛る!

放った初手は・・・一撃必殺【零落白夜】!


「おぉぉぉりゃあぁぁぁあぁぁぁ!」

だが、白騎士は大振りな太刀など既に見切っている。
その威力が最大になるタイミングをはずすため、あえて飛び込み威力を殺す。


「初太刀からそのような大振りで・・・!」


互いの刃がぶつかり合う。
威力を殺された必殺技に精彩などなく容易く止められる。

だが・・・



「なめんじゃねぇぇぇぇぇえぇぇぇ!!!」

「何!?」


止められたなら押し返す。
進めないなら押し通る。
白式は必殺の気合で、白騎士の刃を押しつぶす・・・!


「吹っ飛べえぇえぇぇぇ!」

「ちっ!」


流石の白騎士もその気合に刃を放し離脱する。
壁を失い白式は、加速したまま大地へ刃を振り下ろす。

白式の必殺の太刀を受けた大地は蜘蛛の巣状のヒビをつくり、砂と土を舞い上げる。




「おぃおぃ・・・なに余裕ぶっこいてんだ?」


ゆっくりと、土煙から姿を現す白式。


「そんなんじゃ朝になっちまうぜぇ!?」


雄雄しく不敵に。
白騎士へ、敵へと檄を飛ばす。


「・・・いいだろう。」


もはや、躊躇などない。
白騎士は白式を認めた。


「見せてやろう。本物の【零落白夜】を・・・!」


目の前にいるのは、確かな牙を持った敵である。
ならば魅せるは必殺の奥義・・・!








「受けきって魅せろ!一夏!」


「上等!きやがれアネキィィィィィ!!」



―――刃と刃がぶつかり合い、大気と大地を揺るがす―――!





















~次回予告~

―――嗚呼、もはや何も言うまい。


「それで、終わりか?」


―――語るべき言葉、ここにあらず。


「それが、お前の限界か?」


―――話すべき相手、ここにおらず。


「もはや、立つ事もできんか。」


――男、ただ前を向き、ただ上を目指す。


「一夏、お前の負けだ。」


――ただ、前を向き、ただ上を目指す。





・・・約束しろ・・・一夏・・・必ず勝つと・・・

・・・当然のパーペキだ・・・なめんなよ・・・箒・・・




――最終話 刃 その切先の向こうは栄光か挫折か――







「意地があんだろ!男の子にはぁ!」












カズマ IN 一夏ってこうですか?わかりません。
カズマっぽい何かにしかできませんでしたorz
しかしギャルゲポジションでカズマの性格とか無茶振りすぎんだろ・・・
くやしい!でも書いちゃう(ry



[27121] 【穏やかな】IS × s.CRY.ed ~IS学園の日々~【日常を】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/04/14 20:31
「どう?一夏、私の酢豚は?」

「あぁ、うまい!本当に腕あげたよなぁ。」

「でしょでしょ!?ほら、おかわりなら沢山あるよ!」



「ふむ(カキカキ)」





「一夏さん、その、私とお茶でもいたしませんこと?」

「え?いいのか?やった、セシリアの入れた紅茶好きなんだ。」

「そ、そうですの!?さ、さっそく私の部屋へ・・・」



「なるほど(カキカキ)」





「なんだその腑抜けた太刀筋は!」

「って、言われてもなぁ・・・どうすればいいんだ?」

「し、しかたない、ほらこう、腕をだな・・・」(背中から抱きつくように腕を触る)



「なんと!?(カキカキ)」










~~~~~~~~~~~~~~~~~~





IS学園の寮の食堂。
そのテーブルの片隅で談笑する男女。

「本当にいいのか?こんなにご馳走になって。」

男の名は、織斑一夏。男でありながらISを起動できるため、IS学園に通っている。

「・・・うん、一夏のために作ったんだから、残したら許さないよ・・・」

女の名は、凰鈴音。中国の代表候補生としてIS学園に通っている。

「残さない!残さない!鈴の中華は絶品だからな!」

鈴は一夏のために厨房を借りて中華料理を作った。
彼は目の前にある料理を眺めどれから手をつけようかと迷っている。


「いただきま~す。」

「・・・」

料理を口に運ぶ一夏を鈴はじっと見つめる。
次にくる何かを待つように、決して見逃さないように見つめる。

「ングング。おぉ、うまい!」

「・・・」

料理の味に感嘆をもらす一夏。
その様子を見て、ニヤリと、浮かぶ笑みを無理やり抑えようとして歪んだ微笑になる鈴。


「・・・あ?」


呆けたような声をだした一夏は、バタリと目の前のテーブルに倒れ伏した。


「・・・Zzz・・・」

「おやすみ、あたしの一夏・・・」














「・・・一夏さん。」

「ん・・・」

「・・・一夏さん。」

「一夏さん!」

「うわっ!?な、なんだ!?」

一夏は叫ぶように呼ばれ、驚きのあまり飛び上がる。
しかし、上半身を起こそうとしたとき、ガシャンという音とともに、その勢いを殺される。

「いでっ!?・・・なんだ?」

痛みを感じた首に手をあてると、そこには首輪。
それも鎖つきで、自身の寝ているベッドの足とつながれている。

「なんだこれ!?」

「あぁ、良かった。目覚めまして?」

「あぁ・・・って、セシリア、何で俺の部屋に?」

問われた言葉に、目の前に居る女性、セシリアが何故ここにいるのか疑問に思う。
自分が寝ていた、つまりここは自分の部屋のはずだ、よってセシリアがいるのはおかしい。
そう思った一夏は、ここに居る理由を問いかける。


「いいえ、ここは鈴さんの部屋ですわ。」

「鈴の!?じゃあ、なんで俺、鈴の部屋で寝てるんだ?しかも首輪つきで・・・」

おかしい話だ。一夏は鈴の部屋に行った記憶がない。


「一夏さんは、鈴さんに無理やり連れてこられたんです。」

「む、無理やりってどういうことだ!?」

「覚えていませんの?一夏さんは鈴さんの料理を食べて、眠ってしまったことを。」

「・・・え?そ、そうだったっけ?」

セシリアの言葉に驚愕するものの、その記憶がない一夏は呆けることしかできない。

「ごめんなさい、鈴さんをこの部屋から追い出すことはできたのですけれど、鍵を見つけられなくて・・・」

「え、あぁ、そうか。困ったなぁ・・・」

セシリアの言葉に自身の首に鎖が付いていることを思いだす。

「ところで、喉は渇きませんか?」

「え?そ、そういえば、渇いた、かな?」

急な話題転換に、一夏は反射的に答えてしまう。

「あら、もしよければ、ここに紅茶があるのですけれど、いかがかしら?」

「あ、ありがとう・・・」

なにかおかしい。
急に態度を変えたセシリアに、疑問を抱く。
否、そのまえから疑問に思っていた。



――彼女の制服は、あんなにも『どす黒い』色だったか?



「さぁ、どうぞ。」

「あ、あぁ・・・」

疑問はつきない。
だが、目の前で紅茶を勧める女の、ゆらゆらと蠢く瞳に逆らうこともできない。

「・・・ゴクリ。」

「・・・」

差し出されたカップの紅茶を流し込むように飲む。
その様子を見るセシリアの顔が、深い笑みを浮かべる。


「あ、ありがとう。」

「どういたしまして、ですわ。」

感謝とともにカップを返す。
喉を潤すことで、多少落ち着いたのか、一夏は目の前のいる少女を観察する。


「・・・」

「ふふ、どうかなさいました?」








同年代の少女達の中でも、抜群のスタイルを持つセシリア。
その彼女から目が離せない。

「・・・っ。」

「一夏さん?」

おかしい。先ほど、喉を潤したばかりなのに、もう喉が渇いている。


「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「あら?熱いのかしら。」

あぁ、あつい、あつくてどうにか『したい』。

「一夏さんは『何』をしたいのかしら?」

こみ上げてくる熱さ。
魅力的な女。

なら、『やる』ことなんて決まっている。









「お、俺は・・・!」

「うふふ・・・!?」

瞬間、ガツンという鈍い音と共にセシリアが倒れる。

「セシリア!?」

一夏は突然のできごとに、先ほどまでの熱に浮かされたような思考はなくなり、驚愕に顔が染まる。


「一夏、無事か!?」

「箒!?」

セシリアを後ろから『木刀』で殴り倒したのは、幼馴染の箒だった。

「お前!何してんだよ!?」

「無事か、良かった。」

一夏は箒の凶行を責めるが、箒は叱責が聞こえないのか、一夏を見て安堵している。

「そうじゃなくて!なんでセシリアを殴ったんだ!?しかも木刀で!?」

「・・・?何か、おかしいか?」

箒は本当に訳がわからないとばかりに、キョトンと、一夏を見る。

「~~~っ!もういい!早くセシリアを医務室へ!」

「あぁ、そうだな、早く消毒しないと。」

なんだ、箒の奴わかってるじゃないか、と一夏が安堵したとき・・・




箒は思い切り倒れ伏したセシリアを蹴り上げた。



「箒!?なにやってんだ!?」

「あぁ、消毒しないと。虫共の穢れを消毒しないと・・・」

ぶつぶつと、箒は何かを考えるように口ごもる。

「なんで、こんな・・・!」

「あぁ、そうだ。私の一夏に近寄る虫共は、全部潰してやる。プチプチプチプチ・・・」
「箒・・・!?」

「大丈夫、全部私に任せてくれ。あぁ、大丈夫。一夏は何も心配しなくていいんだ。」

「な、何を!?」






「・・・だから、私と一つになろう・・・」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~








「・・・くっくっく・・・はぁ~はっはっは~!」


――寮の食堂、そのテーブルの一角で高笑う男、雲慶。


「ついにできたぞ!最高傑作!」


――彼は、手に持った『ノート』を掲げ、狂喜する。


「愛しさと切なさと、心強さの代わりに乙女心を織り交ぜた新作・・・」


――あまりの喜びにわなわなと全身を小刻みに震わせるアフロ男。


「その名も!自主的決定稿『IS学園の日々』!」


――その顔は一仕事を終え、晴れやかでかつ、喜びに満ち溢れている。


「私は、私の才能が怖いのである!」


――そんな彼は、脚本家を目指すどこにでもいる少年だ。



















「ほう?ちょっと見せてみろ。」

「げぇ!?織斑姉君(ラスボス)!?」

「織斑先生と呼べ!・・・雲慶よ、その脚本を見せろ。」

「い、嫌である!って、あぁ!?私の脚本を奪うな!」

「ほう・・・なるほど・・・ふんっ」(ビリビリ)

「ぬぁ!?私の脚本を破くなぁぁぁぁあぁ!?」

「ふんっ、なんだこの脚本は、練りこみが足りん。まるでつまらん。」

「私の脚本がつまらないだと!?」

「あぁ、故に処分した。」

「表現の自由の侵害である!」

「ほう、権利を叫ぶか。ならば、私の弟を使ったんだ。肖像権の使用料をいただこうか・・・お前の命でな。」

「ノォォォォォ!?暴・力・反・対であぁぁぁぁる!!!」


――彼の夢が叶うまで、未だ遠く。




















~次回予告~

――バカな男と吐き捨てて、

「ねぇ、一夏。約束・・・覚えてる?」
「あぁ、酢豚おごってくれるんだろ?」


――クズな男と揶揄される。

「一夏さん、わ、私の、お茶会に、さ、参加いたしませんこと!?」
「え?いいの?行こうぜ雲慶。」


――無宿な生き方否定され、道化は笑いに包まれた。

「お、お前が、どどど、どうしてもと、言うのなら、一緒の部屋で・・・」
「じゃ、俺、雲慶の所にやっかいなるわ。」


――しかし見ろ、あれを見ろ。あれが一夏、織斑一夏だ。

「一夏~!」「一夏さん・・・!」「一夏っ!」


――そのクズ、そのバカ、他にはいない。




最終話 『船旅』 ――悲しみの向こうへ、旅立ちの鐘がなる――



「俺がなにをしたぁぁぁぁぁ!?」









~あとがきのようなもの~


劉鳳 IN 鈴、だと・・・?無茶振りすぎるだろ・・・!

意地があんだろ!男の子にはぁぁ!

撃滅のセカンド・ブリットォォォォォ_φ(゜д゜#)カキカキカキ

デキター(゜∀゜)ノシ

(´∀`)つ『nice boat』

(・3・)あるぇ? ←今ここ


流石に劉鳳 IN 鈴は無理でした。
雲慶の書きやすさは異常。

~ここからお知らせ~
拙作をご覧いただきありがとうございます。
スパロ(ゲフンゲフン・・・
諸事象により、連日更新をここでストップいたします。

とはいえ、玉とか、崖っぷちのヒーローとか、ハンマーとか、
ネタのいくつかはすでに頭にありますので、暇なときを見つけて書こうと思います。
お楽しみを~。

ではでは、またいつか~。



PS.
IS×強殖装甲ガイバーとか・・・
IS×覚悟のススメとか・・・
IS×テッカマンブレードとか・・・
考えてるんですけど、どう思います?

―――疲れてるのか、私。



[27121] 【僕の】IS×s.CRY.ed ~○○○○○○○○~【玉々】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/05/03 14:41
IS学園。

世界最強の"兵器"を扱う乙女達が集う学園。
彼女たちは、よりISをうまく扱うために日夜、切磋琢磨する。

だが・・・

「ねぇねぇ。皆はどっち派?」

「う~ん・・・そうねぇ~。」

穏やかな日差しが注ぐテラスでは、戦乙女たちもその刃を納める。
無敵の兵装を脱いだ彼女らは、どこにでもいる普通の少女たちだ。

「私は・・・織斑君かな~こう時折見せるキリッとした表情がイイね!」

「わかるわかる!普段はぼんやりしてるけど、いざという時は頼りになるギャップがいいのよね!」

そんな年頃の少女達が楽しそうに語り合う内容は、恋の話。
兵器を扱おうが、国の代表に選ばれようが、乙女の第一の興味はそれである。

「私は・・・橘君かな。彼って、こう、守ってあげたくなるじゃない?」

「うんうん!橘君って可愛いよね~。この間さ、猫といっしょに中庭で寝てるとこ見たの!」

「「「「可愛い~!」」」」


ここIS学園はISの性質上、女生徒しかいない。
しかし、例外として学園に通う2人の男がいる。

世界でたった二人のISを使える『男』。
常識の例外である彼らは、女性のみが通う学園に通っている。
ただでさえ全寮制の学園で、さらに女子高であるため異性の出会い等皆無に等しいこの環境では、女生徒たちの興味が2人の男に集まるのも無理はないだろう。


『橘あすか』――世界初の『男性』IS適合者。

『織斑一夏』――世界で二番目の適合者にして、『世界最強の乙女』の弟。


少女達の話題出現率No1の彼らは今・・・





談笑する少女達から2つ離れたテーブルで食事をしている。





一人は少女達の話題に動じず食事を続け、一人は気恥ずかしさからテーブルに突っ伏している。


「大丈夫かい一夏?」

声を掛けたのは食事を続けていた少年、橘あすか。

「・・・あぁ、うん、無理。」

テーブルに突っ伏したまま答えた少年、織斑一夏。

たった二人の同じ境遇の少年たちは、出会って数日だが確かな友情を育んでいた。


「・・・なんでこんなに近くにいるのに、あんな話題になるかな・・・」

「はは・・・まぁ、女子高だから・・・」

「てか、あすかは平気なのか?」

「僕は君より半年早くこんな環境に入れられたからねぇ・・・」

「正直スマンカッタ。」

「何言ってるんだい?これから一夏も経験することだよ?」

「神は死んだ・・・」

「はは・・・僕からのアドバイスは一つ。」

「なんでしょう先輩!」

「あきらめが肝心。」

「救いがねぇ・・・」

あすかは静かに食事を楽しみ、一夏は現実に打ちのめされる。
どんよりとした雰囲気をかもし出す一夏を心配するように、あすかは声を掛けた。

「そんなことよりも大丈夫?」

「なにが?」

「次の実習。」

「うっ!?」

「織斑先生にマニュアル全部読めって言われてたよね?」

そう、一夏は自身の姉である織斑千冬にISに関するマニュアルを熟読するように言われていた。

「・・・あの厚さの本を2日で読めとか・・・」

「あぁ、つまり終わっていないと。」

「いや!理解しながらやるには時間がな!」

「はいはい。・・・でも実習明日だよ?」

「だよなぁ・・・」

「まぁ、僕でよければわかることは教えるから。」

「ありがとう!マジで助かるよ!」

一夏はあすかに拝むように手を合わせ、あすかは苦笑しながら一夏を見やる。
IS学園という特殊な環境においても、彼らは普通の学生としての日常を謳歌していた。














その日のHR。
一日の終わりの締めくくりにIS学園一年一組は混迷を極めていた。

教室の真ん中で睨みう男女。
橘あすかとセシリア・オルコット。
穏やかな彼が、その瞳を怒り染め女性を睨む。
その事態に友人である一夏も級友の女生徒たちも驚きを隠せない。

――きっかけは、クラス対抗戦の代表者を決めるHRでのことだった。






一年一組の担当教諭である織斑千冬と山田真耶。
山田女史は資料を学生たちに配り、織斑女史は壇上で議題を述べる。

「さて、HRを終える前にクラス対抗戦の代表を決めるぞ。」

クラス対抗戦の代表とは、再来週に行われるクラス対抗戦に出場する選手であり、同時にクラス長も兼任する。

「自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

(うわぁ・・・絶対にやりたくねぇ・・・)

一夏が姉の言葉に思ったことはそれにつきる。
だが・・・

「は~い!私は織斑君を推薦しま~す!」

(ちょっ!?)

一人の女生徒が元気良く一夏を推薦し、彼を絶望の淵へと落とした。
それをきっかけに次々と手を上げる女生徒たち。

「はいは~い!私は橘君がいいで~す!」

「あ、私も私も~!」

「私は織斑くんかな~。」

次々に上がる推薦の声。
だがその内容は織斑一夏と橘あすかの二択だ。

「ちょっ!待ってくれ!俺はやるなんて・・・」

「ふむ。では織斑と橘で多数決を採るか。」

「待ってくれよ千冬姉・・・いだっ!?」

姉の強行採決を止めようとすると、拳骨で殴られた。

「織斑先生だ。では多数決を・・・」

「お待ちになって!」

採決を採ろうとした織斑千冬を止める声。

「なんだ、オルコット?」

「納得できませんわ!」

そう声を荒げたのは、セシリア・オルコット。
金色に輝く髪と美しい碧眼を持つ美少女。
だがその表情は穏やかなものではなかった。

「そんな選出は認められませんっ!」

一夏とあすかの推薦に盛り上がっていた教室のなかで唯一彼女だけは納得していなかった。

「クラスの代表をIS初心者にまかせることなんてできませんわ!
 代表になるべきは、イギリス代表候補生であるこの私、セシリア・オルコットですわ!」

そう、彼女は代表候補生である自分を差し置いて、初心者が代表になることが許せなかった。

「オルコットさんの言うことも最もですね。僕は彼女で構いませんよ?」

「お、俺も、文句なしだ。」

あすかの言葉に元々嫌々だった一夏が乗る。
そして、その言葉にセシリア・オルコットも自尊心が乗った。

「当然の帰結ですわね。男風情がクラスの代表だなんていい恥さらしですもの。」

「なっ!?おま・・・」

「聞き捨てなりませんね。」

セシリアの言葉に反論しようとした一夏を押さえ、あすかが立ち上がる。
先ほどまでの穏やかな表情とは一転し、冷たい眼差しを彼女へ向ける。

「な、何か申し立てがありまして、橘さん?」

突如豹変したあすかの表情にセシリアも内心驚きを隠せない。

「確かに僕はISに触れて半年程度。初心者もいい所です。あなたの言葉道理でしょう。」

いつもの穏やかな口調とは違う。
あふれ出す感情を抑えようとした結果、早口の敬語となった彼の口調からは確かな怒りがにじみ出る。

「ですが!男性全員を貶すあなたの言葉は許せない!」

「なっ・・・」

「あぁそうだ、許せない。『ISに乗れる程度』の『あなた風情』が世の男性を見下すなんて許せない!」

「なんですって・・・!?」

その言葉はセシリア・オルコットにとって到底無視できるもものではなかった。

「ISに乗れる程度ですって!?」

そう、ISとは彼女にとって全てだった。
世界最強の力。そしてそのなかでも頂点に立つために厳しい訓練を越えここに居る。

「ISに乗れない男性になんの価値があって!?」

彼女にとってはそれが全て、ISが世界の中心だった。
だが・・・

「ISに乗れることにどんな価値がある!」

橘あすかにとっては『IS等どうでもいい』ことだ。
彼にとってISなんてまるで価値はない。
そのISに乗れる特異な才能も、生きる上で別になくていいとさえ思っている。
世界は色んな人が、男も女も関係なく、全ての人で成り立っているというのが彼の持論。そして、そこにISはない。
ISがなくても世界は動くと彼は考えている。

故に彼と彼女は分かり合えるはずも無く。


「その物言い、許せませんわ!」

「それで?」

「決闘です!ISで貴方を叩きのめします!」

「くだらない・・・ですが、いいでしょう!僕もIS程度で男性を見下す貴女を許せそうに無い!」

衝突は必然。そして力があるのならばそれを持って己の正しさを証明する。

男と女はその価値観をぶつけ合う・・・!












決闘当日。
数分後に始まる戦いに橘あすかは柔軟をして体を整える。

「大丈夫か?」

そんな彼に声を掛けたのは、友人である一夏。

「あぁ、大丈夫ですよ。今日この日までの一夏と篠ノ之さんとの訓練は無駄にはしません。」

決闘が決まったあの日から、一夏とその幼馴染である篠ノ之箒はあすかと訓練を行っていた。

「彼女の思い上がりをへし折ってみせましょう。」

そして決闘が決まったあの日から、橘あすかはその感情を昂ぶらせ丁寧に聞こえる口調にのせる怒りを隠さなかった。


「橘あすか!セシリア・オルコット!両者前へ!」

戦いの見届け人である織斑千冬の声が響き渡る。

「では、行ってきます。」

「あぁ・・・勝てよ。」

「当然。」






「よく逃げずに私の前へ来れましたわ。」

「・・・」

一触即発。互いに睨みあう男女。

「今なら、謝れば許してあげてもよくてよ?」

セシリアは余裕の表情を崩さない。
当然だ彼女は今日までに培ってきた経験が、その強さを証明しているのだから。

だが、橘あすかにも『戦う理由』がある。

「謝る?何を言ってるんですか貴女は。」

――橘あすか。

「諦める方向へは進めない。そう、ここは、抗う場面です!」

――彼は男の強さを証明するためにここにいる。




「両者、覚悟はいいな?」

「えぇ・・・」「当然ですわ。」

「ならば・・・戦闘開始!」



「ブルー・ティアーズ!」

「エタニティ・エイト!」

自身の鎧を叫ぶ二人。

セシリア・オルコットが纏うは蒼き砲台。
長い砲身と自立型砲台4基を持つ射撃特化型。

そして、橘あすかが纏うは・・・

「なんですのそれは!?打鉄ですって!?」

そう、彼が纏ったのは打鉄。IS学園に通う生徒の訓練用にオミットされた練習用IS。
「私を舐めているのかしら!?専用機ですらないなんて!」

彼女には許せない。このセシリア・オルコットに抗うための刃がその程度のものだとは。
だが、それは間違いだ。

「打鉄?そう見えるのならば貴女の目は節穴です!このエタニティ・エイトの真価は武器にある!」

あすかの叫びと共に、肩部の自立型盾から排出される何か。

「僕のエタニティ・エイトの武器はこの宝玉だ!」

現れたのは八つの玉。
碧色に輝く宝玉。

「玉!?そんなもので・・・!」

馬鹿にされたと思ったセシリアは、ブルー・ティアーズ最強の矛を構え、放つ。

「一撃で終わりにして差し上げます!」

光学兵器。圧倒的な熱量を持ってあすかへと襲い掛かるそれは・・・

「エタニティ・エイト!」

宝玉によって阻まれた。

「な・・・!?」

円の動きで回転する宝玉の間に薄らと見えるシールド。

「エタニティ・エイトは一つ一つが独立したシールドエネルギーを持つ!そして!」

あすかの叫びと共にセシリアめがけて八つの宝玉が襲い掛かる。

「きゃぁ!?」

「僕の玉は攻撃もできる!」

それぞれの玉が別々の動きで襲い掛かる。

「なんという操作性・・・!」

その事実にセシリアをもって驚かずにはいられない。

彼女の持つ自立砲台もある程度の独立した迎撃が可能だ。
しかし、4つの砲台を制御するには、彼女自身はその身を止めなければならない。
だが、彼はどうだ?

八つの玉を制御しながら、彼自身も動いている!
ブルー・ティアーズを遥かに越える操作性と自由度!
その一点では彼女は目の前の男に負けている。


「僕の玉は縦横無尽・変幻自在・絶対無敵です!」

「くっ・・・ですが!」

「僕の玉を弾いた!?」

セシリアは自身の鎧を大きく広げ、回転をもってあえて玉にぶつかり、弾いた。

「たしかに、その操作性は素晴らしいですわ!しかし、あまりに貧弱!」

セシリアは理解した。あの玉は操作性を得るために攻撃力を失っていると。

「その程度では私のブルー・ティアーズを貫けませんわ!」

「たしかにそうでしょう・・・しかし!」

まだだ。まだ橘あすかには奥の手がある。

「僕の玉はとても大きくなる!」

「な・・・!?」

八つの宝玉が一つに集い、大きな玉となる。
これぞエタニティ・エイトの奥の手。
玉同士のエネルギーを干渉させ、暴走させる。
結果として、溢れたシールドエネルギーが玉を覆い、巨大化したように見える。

そして、そのエネルギーは、彼女の鎧を貫くに足りる!


「エタニティ・エイトォォォォォ!」

「エネルギーの塊!?でも・・・遅いですわ!」

襲い掛かる巨大な玉を危なげなく回避する。

「先ほどまで貴方の玉を回避できなかったのは数があったからですわ!
 その数の有利を捨てるなんて、愚かですわよ橘さん!」

彼女の言う通りだ。
肥大化しても宝玉のスピードは代わらないが、その速さは大したものではない。
十分に回避可能である。

「ここまでですわね!」

砲身をあすかへと向け、勝利を確信する。

「まだだ!まだ終われない!」

奥の手が効かないのなら、切り札を。
戦いの次の手を隠すは勝利へ至る術。

橘あすかには戦う術がまだある!

「何を!?」

ならば、やるべきことは決まっている。
彼女に見せ付けろ!
自分の正義<強さ>を!










「僕の玉は二つある!」

――橘あすか。IS学園で己が正義を勃てる・・・!





















「そんな!?あの巨大な玉が二つ!?」

「言ったでしょう!僕の玉は絶対無敵だと!」

「くぅ・・・!イギリス代表候補生を甘くみないことですわ!」

「な!?ぼ、僕の玉に砲身を突き刺した!?」

「もう一つ!」

「そんな!?二つとも!?」

「はぁはぁ・・・これが私の実力ですわ!」

「ぼ、僕の玉に、砲身を突き勃てるなんて・・・あれじゃまるで・・・」























「「「「「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか。完成度たけーなオイ」」」」」










<あとがきのようななにか>

真面目な話と思ったかい?
最初はそのつもりだった。

しかし、あすかの口調が安定しませんね。
ごめんなさい。
箒がいない?そこは原作準拠です(*´∀`*)

しかし漫画版あすかってこんな感じでしたっけ?
漫画版は雑誌連載中のものを一回読んだだけなので、ほとんど記憶にないですね・・・

記憶にあるのは・・・

ビバノウレッジ!
熟れた女よ・・・!
お前は俺の弟だ!
蟹座のB型!・・・美形だ!
タイムマシンだ!・・・宇宙船じゃねーか!?

ぐらいですね。
いつか、書くかも。


現在異世界迷い込みファンタジーを妄想中なのでしばらくはありませんが。
またネタが思い浮かんだころに会いましょう。
ではでは~。



[27121] 【妄想の】オリジナル戦隊物【産物】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/05/06 23:26
異世界迷い込みファンタジーを妄想してたら戦隊物ができていた。
何をいっているのか私自身わからない(ry
超スピードとか(ry

せっかくなのでさらしてみました。










この世界にはヒーローと悪がいる。

具体的に言おう。
地球を狙う敵対的宇宙人<悪>と、
地球を守るために闘う国際的武闘派公務員<ヒーロー>がいる。

この常識が出来上がったのはそう昔のことではない。

10年前におきた事件が発端である。

ワールドクラッシュと呼ばれるその事件は、国3つを崩し、人口にして1億人を越える死傷者がでた世界的大事件であり、それまでの常識を吹き飛ばすものであった。

事件の概要はこう報道されている。

曰く、遥か遠くの宇宙からきた宇宙人が、地球を征服するために攻めてきた。
曰く、その宇宙人と敵対する宇宙人が地球を守るために5人の地球人に力を与えた。
曰く、5人の地球人は攻めてくる宇宙人の尖兵と人知れず戦っていた。
曰く、宇宙人は痺れを切らして巨大宇宙船で直接攻めてきた。
曰く、宇宙船の攻撃で国3つが吹っ飛んだ。
曰く、結果として全世界の地球人が宇宙人の存在を知り、5人の戦士を知った。
曰く、5人の戦士は地球の存亡を掛けて宇宙船に殴りこみ見事撃破。
だが、5人の戦士はその戦いで命をおとす・・・

これが全世界に知れ渡った英雄譚の概要だ。
10代以上の年齢は実際の恐怖を伴った経験として、幼子たちは憧れの初代ヒーローの物語として、この話を知らない者はいない。

そして、5人の戦士を生み出した宇宙人が全世界へ出した声明により、地球はいまだに脅威にさらされていることを知った。


『地球の人々よ、此度の危機は5人の戦士によって終結を迎えることとなった。
 だが、これで終わりではない。
 5人の戦士・・・私の大切な友人が最後のメッセージを託してくれた。

 "全宇宙に地球の存在を知られた"、と。
 
 地球の人々よ、脅威は去っていないのだ。
 地球という奇跡の星の存在を知った者達はきっと此度のように襲い掛かってくるだろう。
 地球の人々よ、貴方達は戦わなければならない。
 自身の星を大地を家族を守るために。
 5人の戦士達はもういないのだ。
 己が力で、皆の力で戦わなければならない。
 そして、約束しよう。私もまた貴方達と共に戦うと。
 ・・・それが、私と5人の友との約束だから・・・』

この声明が俗に言う【女神の誓契】と言うやつだ。
力を貸すといった宇宙人が、地球人と酷似し、絶世と言っても過言ではないほどの美女だったことになぞらえているのだろう。
それに、清く気高いその在り方に宇宙人は【女神】に相応しいということなのだろう。

そして、この声明は世界の在りようを大きく変えたのだ。
襲い来るであろう脅威に対し世界は一つとなり、戦うための刃を作った。
【女神】の知恵を借りて、5人の戦士の力を複製したのだ。
ワールドクラッシュの傷跡、宇宙船の残骸の中から回収された戦士の鎧を【女神】の協力により量産し、新たな戦士達に与え、軍を作り何れ来る脅威に備えたのだ。

新たな戦士達は、如何なる国にも属さない。
唯一地球のために戦う者。
国連という組織に所属はしているが、その指揮系統は【女神】の元に統一される。

そして、10年たった今、次々と襲い掛かってくる悪と戦う正義の戦隊<ヒーロー>という構図ができたわけだ。




・・・まぁ、ただのサラリーマンである俺には関係のないことだが。


「・・・聞いているのかね鷲崎君!」

「はい、申し訳ありません。」

地球が狙われていようが、宇宙人がリアルに街を壊していようが、戦隊がスーパーヒーロータイムを24時間365日行っていようが、俺には関係ない。

企業戦士である俺、『鷲崎 俊ワシザキ シュン』が戦うべきは、山のような書類と口うるさい上司である。

「まったく、最近の若いモンは・・・ぶつぶつ・・・」

結局のところ、日常の傍に戦いがあっても、生活ってものはそうそう変わらないということだろう。

明日、宇宙人に襲われて死ぬかもしれないが、働かなければ食っていけないのだから。
それに、宇宙人に襲われるってのも、まぁ、そうそうにない。
たしかに連中は昼夜を問わず襲い掛かってくるが、それは日本だけではなく世界規模。
たまたま自身の住まう町がピンポイントで襲われるってのはないだろう。

今のところ俺の住まう県は一度も襲われていない。
それに世界屈指のヒーロー大国である日本は、国の広さに対するヒーローの多さが世界一であるので、仮に襲われてもすぐにヒーローが対処してくれるしな。

なんでも、地球防衛軍、通称ヒーロー連隊の本部がここ日本にあるおかげで、屈指のヒーロー率を誇るのだとか。

まぁ、日本国民にとっては幸運なのだろう。

「鷲崎君、大丈夫?」

「えぇ、ようやく解放されましたよ・・・」

「課長、説教ながすぎだよねぇ・・・」

「まったくです。しかも終わったことを延々と・・・」

「ホントホント。鷲崎君は事態の収拾を手伝っただけなのに、いつのまにか原因にされてるし。」

「ま、そこは若いモンの宿命という奴ですかね?」

「む、鷲崎君だけが若いみたいな言い方。」

「や、事実でしょう。」

「確かに!じゃあ若い鷲崎君に仕事をプレゼントだ!」

「ヤブヘビだったか・・・」

悪と正義と仕事と上司だったら、間違いなく上司が一番やっかいだ。












「お先に失礼します。」

「あぁ、お疲れ様~。」


先輩方に挨拶をして会社をでる。
今日は定時で上がれたので時間的に余裕がある。

街で買い物をして帰るか。





午後7時を過ぎたころ。
街の中心地に位置する大通りでは多くの人が闊歩する。
この街は都会と言えるほどに発展はしていないが、様々なデパートや店が立ち並ぶ中心街で結構な人で溢れるものだ。

「さて、何食うかな・・・」

晩飯のことを考えながら街を歩く。

世界では侵略者とヒーローの戦いが日夜繰り広げられているが、ここは平穏そのものだ。

「平和、か・・・」

何となく呟く。
そして、親友、いや戦友の言葉を思い出す。




『お前が平和って言うとなんか起きるよなー?』

『うんうん。まさにフラグメイカーだよね~。』

『ほんと、あんたが平穏を実感するとロクなことがないぜ。』

『まったくもってその通り!僕がご飯食べてるときはやめてよね!』

『てめぇら・・・俺になんの恨みがある・・・』





「ぷっ・・・」

つい噴出してしまった。
信頼していた友の酷い言葉。
だが、この思い出もまた、あいつらとの大事な日々のひとつだ。

「・・・まだ昔を懐かしむ年でもないのにな・・・」

ちょっとしたことで【あいつら】を思い出してしまう。
そして、感情は沈む。

「はぁ・・・」

俺の、大事な、友。
二度と会えない、友。
10年前に失った、彼らの笑顔も、時とともに薄れていく。

「いかん。明日も仕事だ。気合いれなきゃな。」

言葉にだして自分を律する。
そうしなきゃ、涙が出そうになるからだ。
いつまでも亡くしたモノに引きずられるわけにはいかない。

がんばるぞー、と小さくガッツポーズ。
【リーダー】がよくやっていた。

・・・全然振り切れてないぞ俺。











食事を済ませ、買い物を終えた。

「さて、帰るか・・・」

時刻は午後8時過ぎ。
多少、人は減ったがまだまだ多くの人が歩いている。
外食をするのか、子供連れの家族の姿も見える。

「平和、だねぇ・・・」

そんな家族の姿を目に捉えながら、呟く。










瞬間、閃光。


そして、爆音。





「なんだ!?」

「爆発!?」

「きゃあぁぁぁああぁぁぁ!!」

何が起きた!?

ズドン、なんて重低音の爆発音なんざそうそう聞かないぞ!?


「「「「うわわぁぁああぁぁぁあぁああぁ!?」」」」

「っ!?」

叫び声に振り向くと、今だ燃え盛る炎と逃げ惑う人々が見える。
爆発したのは大通り沿いのビル、そしてその破片が落ちてきた。


「あぁぁぁぁぁああぁあぁあぁぁぁ!?」

ドン、という音と共に、人と声が消えていく。
落ちた破片に押しつぶされたのだ。


「冗談じゃ、ない・・・!」

さきほどまでの平穏が一瞬で地獄絵図。
こんなことになる原因なんざ、この世界では一つしかない。




「GYAAAAAAAAAAAAAA!!!」



悲鳴と違う叫び声を上げているのは、化け物。
テラテラとした赤黒い表皮。
3mほどの体躯。
昆虫を思わせる一対の触覚。
だが、人とはあまりに違う骨格。
首がなく、胸の上ぐらいから覗く顔に目が6つ。
そして、肩・横腹・背中から伸びる腕、3対6本。

「ば、化け物!」「宇宙人!?」「嘘だぁぁ!?」「何で!?」

この世界に住む人々は一瞬で理解した。
あぁ、嫌なことに理解してしまった!
地球の敵、宇宙人の尖兵であると!


「逃げるんだよおぉぉぉぉぉぉおぉお!!」

声を張り上げるが・・・だめだ!
どいつもこいつも恐慌状態になって動けてない!


「あぁ、くそ!ここにいたら死ぬぞ!」

具体的に言ってやらなければわからんか!と、声を荒げれば、ようやく逃げ出す人々。




「ALALALALAAAAAAAAA!!」

「ぎゃあぁあぁああああぁあああ!!!」

言ってる傍から一人殺された。
あまりにあっけなさ過ぎる。


「くそっ・・・!」

悪態しかつけない。
あの化け物に相対するには【ヒーロー】でなければならない。
サラリーマンである『俺』では何もできないのだ。
今は、ここから去ることが先決だ。
背を向け、一目散に逃げるしかない!





「ままぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「祥子!」

聞こえた声に振り向いて、しまった。


「ああぁあぁあぁぁん!うわぁあぁぁぁぁん!」

「あぁ・・・あぁあぁ・・・!」

泣き叫ぶ幼子と、子を抱き横たわる母。

そして・・・


「GRUAAAAAAAAA!!」

歩み寄る、化け物。













――見て、しまった。だが、何も、できない。

『違うだろ?』

――あの母子は、運がなかったのだ。

『ううん、違うよ?』

――あの化け物は、確実に近寄っている。数瞬後は、死、だ。

『違うぜ?』

――もはや彼女達に俺ができることは、冥福の祈りだけだろう。

『違うでしょ?』

――だから・・・!


















「おぉぉぉぉぉぉぉおぉ!!!」


思い切り、化け物を蹴り飛ばす・・・!

「GAaaaaaaa!?」


それなりに吹っ飛ばせたか!

「おいあんた!立てるか!?」

「あ、あぁ・・・」

ちっ!だめだ、完全に我を失っている!
子供も気を失っていて、運びようもない・・・!


「URAAAAAAAAA!」

「くそっ!復帰が早いんだよ!」

稼げた時間は一瞬。
『今』、アレを倒せるなんて思ってはいない。



「立て!立って逃げるんだよ!」

「む、む、むり、ですぅ・・・!」

「泣いている暇はないだろ!あんたの抱いているモノも死ぬぞ!?」

「ひっ!?・・・あぁぁああああぁぁ!」

女性は叫びを上げながら這いずり、ゆっくりと、だが確実に後ろへと下がる。
良し、動けるだけの気力は戻ったか。

だがその動きはあまりに遅く。


「GYAAAAAAA!」

到底、逃げ切れるものではない。


「やるしか、ないな・・・!」


義理も義務もない。
いや、むしろ俺はこの状況を大いに後悔している。
『二度と』関わらないと決めたのに。

だが・・・覚悟を決めろ。
逃げなかったのは自分なのだから。

それに・・・!





『『『『それでこそ!』』』』


「うるさいんだよお前ら!」

やってやるさ。
逃げなかったのならば戦うだけだ。

覚悟を決めて化け物に相対する。



「GAAAAAAAAA!」

「っ!?」


襲い来る6本の腕。

だが――







「そこまでだ化け物!」

飛び込んできた影に、化け物が吹き飛ばされる。
その人影は、赤い鎧のような物で全身を包んでいる。





・・・あれだけ待たせたんだ、文句の一つくらい言ってもいいだろう。









「遅いんだよ【ヒーロー】」





















////////////////////////////////////////////////



「ひでぇ・・・!」

要請を受け、現場へと辿り着いた俺の目に映ったものは、地獄。
燃え盛る炎に、血まみれの人々。
少なくとも20人は亡くなっている。

「ちくしょう・・・!」

原因を睨みつける。


「GARARARARARA!」

「絶対にゆるさねぇ!」

炎があるってことは、何らかの能力持ちってことだ。
だから、隙は与えない!

「おらぁぁぁぁあ!!」

殴る!殴る!殴る!

「GAGAGAGAGA!」

効いて・・・ねぇ!?

「かてぇ!?」

マジかよ!?分厚い鉄板をぶち抜く威力があるってのに!

「やべ!?」

「GAAAAAAAAA!」

迫り来る6本の腕を後ろに飛んでやり過ごす。
こいつは・・・ヘビィだ。
今まで戦ってきた宇宙人どもより数段強い。



「GIGI・・・オ、オマ、エガ、ヒヒヒヒローカカカァ?」

化け物が喋りかけてきやがった。
いつもなら問答無用でぶっ飛ばすんだが・・・

「あぁ?その通りだよバケモン。ヒーローって呼べ。」

この会話の数瞬ですら貴重な時間だ。
いまも周りには人がいる。
特に、一番近くの母子と男性がヤバイ。近すぎる。

敵が動かないなら、少しでも会話をのばして後ろの3人が逃げる時間を作らなくては。
幸い、男性はこの状況でも恐慌になっていない。きっと母子を逃がしてくれるはず。

「GAGA・・・シ、シシッテルゾォォ、ヨ、クモナカカ、カマヲォォォ!」

「はっ!ご丁寧にこっちにわかる言葉で恨み言かぁ?」

「ナンンニンモォ!GIGIGI!・・・オマオマオマエェェェ!」

「何言ってるかわかんねぇよバケモン!」

・・・良し!あの人達は逃げ切ったみたいだな。
ならやるべきことは一つ!


「寂しいんなら会わせてやるよ!あの世でなぁ!」

俺の持つ最大の必殺技で!

「燃えやがれ!バーニング・フィストォォォォォ!!!」

燃え盛る炎を右拳に纏い、奴の顔面へ!

「おぉぉぉぉるぁぁぁぁあああ!」

「GYaaaaaaaaa!」

ドン!という重低音と共に炎に包まれながら化け物が吹っ飛ぶ。

「やったか!?」

バイザー越しに見る化け物は俺の放った炎に包まれ燃え盛る。
この一撃で沈まなかった宇宙人はいなかったが・・・

「GRAAAAAAAAA!」

「ちっ!?やっぱりかよ!?」

叫びながら立ち上がった化け物は、その醜悪な虫の顔から炎をこっち吐いてきた。
迫り来る炎を横っ飛びで避ける。

「ちっ!」

予想はしていた。現場の様子から、炎関係の能力持ちだと。

「GIGIGIGIGI・・・!」

だが、多少のダメージはあったのか、化け物はこちらを伺うように見てくる。
この隙にバイザーに備え付けられた通信機で応援を・・・!


「<ピッ>聞こえるか武装班!?」

『・・・はい!』

「炎耐性持ちだ!武器は!?」

『・・・今すぐには無理です!同様のタイプが5件同時発生!』

「あぁ!?マジかよ!?」

『・・・そちらが最も遠い現場です!武装運搬中ですがあと20分はかかります!』

「くそっ!・・・了解!なるべく早く頼むぜ!<ブツッ>」


5件同時発生で炎耐性持ちだぁ?
あきらかにおかしい。
タイミングが重なりすぎている。
連中の作戦だとしても、炎耐性だけってのがピンポイントすぎる。

「GYAGYAGYA!・・・ウォレェェ、シシッテルゾゾォォ!」

「あぁん?」

「オォマェラ、ヒヒィィィロォォォ、ヒ、ヒ、ヒシカァツカエナイィ!」

「ちっ!」

思わず舌打ちが出ちまうほどに状況がやべぇ。
闘争が本格化して2年。連中も学んできたって事か。

俺達の纏う鎧、【レッドオウル】は奴の言う通り炎の力しかもたない。
この鎧が、【オリジナル】のコピーだからだ。







10年前、ワールドクラッシュで5人の英雄は死んだ。
彼らは【女神様】の故郷の神の姿が、この世界の鷲に似ていることから自分達のことを『ファイブイーグル』と名乗っていたそうだ。

レッドイーグル。
ブルーイーグル。
イエローイーグル。
グリーンイーグル。
そして、ブラックイーグル。

彼らは各々、異なる能力を持っていた。
それぞれが全く違う能力を持ち、それぞれが強力な能力だった。
故に無敵。

だが、英雄はもういない。


回収された鎧は『レッドイーグル』のみ。
他の鎧は損傷が深く女神様でさえ修復は不可能だった。
修復可能な『レッドイーグル』さえ、10年たった今でも使用可能になる目処はたっていない。

故に女神様の力を借りて作られた鎧がこの『レッドオウル』。
世界を守るための新たな力。
炎を自在に操る『レッドイーグル』の子供。

しかし、結局のところ、『レッドイーグル』のデッドコピーにしかならなかった。

英雄の鎧は元々、女神様の星でも神機とされるオーパーツだったらしい。
女神様の知識と尽力のおかげで量産までこれたが、【オリジナル】には到底届かなかったらしい。


だが腐っても英雄の鎧の複製。
その力は強力で、今日この日までの平和を守ってこれたのだ。











「・・・やべぇな!」

「GAGAGAGAGA!」

化け物の拳と炎を避け続ける。
余裕綽綽にこっちの弱点を述べた化け物は猛攻に打ってきやがった。
さすがの俺も、こう攻撃ばかりじゃ集中力が続かない。

武器が届くまでの残り10分といったところか。


・・・炎の力でだけじゃまずいってのは重々承知だった。
だから女神様はやつらに効く武器を開発してくれている。
だが、地球の技術力では女神様の知識に答えることはできず、開発は難航し、完成品の数も少ない。

今回のような事件同時発生では武器の数が間に合わない。



「おらぁ!」

「GI!」

こっちからも殴ってみるが・・・きかねぇ!

「GAAAAA!」

「がぁ!?」

奴の背中の腕が迫って・・・!?




・・・殴られたと意識した瞬間、瓦礫に埋もれていた。

くそっ、建物に、突っ込んだのか。

「GYAGYAGYA!」

「余裕・・・かまし、やがって・・・」

悪態をつくが、だめだ。
思うように、動かない。

「くそっ・・・」

こっちに悠然と近づいてきやがる。

「な、めん、なぁぁぁぁぁ!!」

ガラガラと無理やりに瓦礫をどかす。
気合で立ち上がるが、足がふらついて構えも取れない。





・・・ここが、俺の死に場所か。
こっちには打つ手無し。
あっちは元気。
どう頑張っても、勝機がない。

「はっ。」

自然と笑みがこぼれた。

なんだ、意外と、落ち着いてるな。
今日まで、全力で走ってきた結果が、これならしょうがない。

俺は後悔するような生き方はしていない。
全力で、本気で、生きてきた。



・・・英雄に救われて、英雄に憧れて、英雄を目指して生きてきた。

・・・あの人達のように、俺はなれたのだろうか?

・・・一緒にするなと怒られるかもしれないが、まぁ頑張ったご褒美ってことで褒めてほしいな。


死ぬことに恐れはない。
だが・・・




「GIGIGIGIGI!」

「死なばもろともぉぉぉぉ!」

お前も連れて逝く!




















化け物の拳を死力で迎え撃とうとしたとき、


―――その拳が、消えた。








「え?」

「Aaaaaaaaaaaaa!?」

化け物の叫びと共に、奴の右側の3つの腕があった根元から、血しぶきが舞う。

違う。消えたんじゃない。

引きちぎられたんだ!





「aaaaaaaaaa・・・」


あまりの痛みにうずくまる化け物の向こう側。

そこに、俺は。






英雄を見た。




「ブ、ブラック、イーグル・・・!?」


死んだはずの英雄の一人。
見間違えるはずがない、俺は、何度も修復中の『レッドイーグル』を見ていたからわかる。
あれが、本物だと。

こちらを静かに見る英雄。
バイザーに隠れた顔は見ることができないし、全身を覆う鎧は英雄の人物像すら隠している。



「GYAAAAAAAAA!」

化け物の叫び声に意識を戻された。

痛みに怒りを込めた化け物がブラックイーグルへと襲い掛かる。

「あぶっ・・・!?」

俺が叫び終わるより早く、

「GA?」

英雄は化け物の腕を引きちぎっていた。

・・・一瞬すらも見えなかった。
気づいたときには、残りの3本をその手に持っていた。
化け物も引きちぎられたことに気づいていないのだろう。
気の抜けたような声を出している。


そして、今度は声を上げさせることなく、化け物の体に大きな穴を穿っていた。
ゆっくりと倒れ伏す化け物。確認しなくても絶命していることがわかる。

「は?」

一瞬の、理解の外の出来事に、そんな声しかだせねぇ。
圧倒的、あまりに圧倒的過ぎる。
あれが、【オリジナル】
あれが、英雄。

「は、はは、すげぇ・・・」

本当にすげぇ。
あれが、俺の目指す場所。

いや、そんなことよりも!


「生きて・・・!あれ?」


声を掛けようとしたら、いなくなっていた。


「夢、じゃ、ないよな?」


自身のフルフェイスメットをはずし、頬をつねってみる・・・いてぇ。


「生きてた・・・」

あぁ、生きてたんだ。

「生きてた。」

英雄が生きていた。

「生きていた!」


感情がわきあがる。
嬉しい。あぁ・・・俺は嬉しいんだ!

「あぁ!くそ!なんだこれ!」

自分の感情なのに収集がつかねぇ!


皆に、女神様に伝えないと!











―――英雄の帰還を!
















「えっ?」

ガツンという衝撃。
先ほどまで立っていたはずなのに、今は瓦礫が頬に当たっている。


何が、起きた・・・?

薄れ行く意識の狭間に見えたのは。


夜の闇に溶ける漆黒の鎧と、

風に揺れる、赤・青・黄・緑の4本のボロボロなマフラーをその首に巻いた、





・・・英雄の姿。


俺を見下ろす黒きヒーローの姿を最後に、意識を手放した。






~あとがき~

んん?なんかできた。
いや、始めは異世界に召喚された少年が猫耳娘とにゃんにゃんしている話だったんだ。
いつのまにか戦隊物に(ry
なんだこのジョグレス進化(ry
疲れてるのか私(ry

まぁでも割とヒーロー(ダーク)ものは好きのなので
続くかもしれないし続かないかもしれない。



[27121] 【時系列は】ファイアーエムブレム 新・紋章の謎1【気にしないでね】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/05/08 00:12
この話は【ファイアーエムブレム 紋章の謎 光と影の英雄】のネタバレを含みます。
特に支援会話はガンガンにネタバレするので、お気をつけください。






~影の英雄と可憐なる弓兵~

『ね、憶えてる?子供の頃、あたしたち一度だけ一緒に遊んだことがあるの。』

『・・・いや、すまん。子供の頃は・・・祖父にしごかれた思い出ばかりだな。』

『そうなんだ、ちょっぴり残念かな・・・あたしが軍に志願したのは、あなたを見たからなのに。』

『え?そうなのか?』

『あなたはもう憶えてないかもしれなけど、あたしは憶えてる。
 あたしが森でね、迷子になって泣いてたとき・・・あなたが来てくれたの。』

『・・・』

『あなたは困った様子だったけど、でも一生懸命あたしをなぐさめてくれた。
 ――俺がついてるから大丈夫、帰り道はこっちだ・・・って。すごく頼もしかった。』

『そんなことを言ってたのか?・・・俺は方向音痴なんだが・・・』

『そうなの、ふふ。結局あなたも道に迷って、二人で途方にくれてたんだけどね。』

『やっぱり・・・』

『でも、大人たちが来てくれるまで、あなたはずっとあたしの傍にいてくれた・・・』

『あぁ、思い出した。あの女の子が、君か・・・』

『あなたはずっとアリティアの騎士になるって言ってたでしょ?』

『ああ。』

『あなたの話を聞いて、あたしもアリティアのためになにかしようと思ったの。
 ・・・だから、今のあたしは、あなたのおかげでもあるのよ。』

『そうか。人生、何があるかわからないものだな・・・』

『それに・・・アリティア軍に入れば、あなたにまた会えるかも・・・そう思ったから・・・』

『え?』

『あっ・・・そ、その・・・い、今のはなしね。つい口がすべったというか・・・えっと、気にしないでねっ。』

『あ、あぁ。わかった。』

『あはは・・・ね、戦いが終わったら、また村に遊びに来て。あたし、ご馳走するから。』

『あぁ、それは楽しみだ。』














////////////////////////////////


石造りの堅牢な砦。

外敵との闘争を前提に建築されたそのその造りは、守りを主とした質実剛健な建物である。

その砦の中をひた走る一人の青年。
いや、彼は今だ少年と言って差し支えないほどに年若く見える。

だがその身を包む蒼き鎧は、忠義と正義の体現者、聖騎士<パラディン>であることを示している。

彼の名は【マイト】。
この砦に攻め入ったアリティア軍に所属する聖騎士であり、アリティアの英雄王マルスの近衛騎士である。

近衛騎士とは主君の傍に常に控え、主君の敵を薙ぎ払う刃として、主君を敵の刃から守る盾として、昼夜を問わず主君への忠義に生きる精鋭中の精鋭である。
故に、近衛騎士になれる者は、歴戦の戦士であり、忠義に篤く、また他の臣下からも認められる傑物でなけらばならない。

その点からみると、砦を右へ左へ奔走する騎士マイトはあまりにも若すぎると言わざるをえないだろう。

しかし、アリティア軍において、マイトを近衛騎士にふさわしくないと言う人物はいない。

皆、彼こそが英雄王マルスに相応しい騎士であると称えている。

その評価は、堅物で有名なアリティアに古く使える歴戦の兵、聖騎士ジェイガンをしてこう言わしめた。


・・・その速さ、神速の如く。天馬にも劣らぬであろう。
・・・その技、達人の如く。剣を持っても槍を持っても無双。
・・・その力、絶大なり。ジェネラルの鎧ですら紙の如く破るであろう。
・・・その体力、まさに不死身。マグマの熱さを持ってしてもかの者に汗を流させず。
・・・そして経験。歴戦の強者である。もはや大陸随一と言っても過言ではないであろう。


祖国第一の古強者ですら彼をこのように評価している。

そんな列強の評価を背負う将来有望、いや現在有望な若い騎士は今・・・



「・・・ここは、どこだ?」


道に迷っていた。





////////////////////////////////


数刻前、砦の領主の間。
領主の間には数人の人間がいた。

「良し、これでこの砦は制圧完了だ。」

この部屋にいる者達の中心人物、英雄王マルス。

「はっ。ここの守りに就いていた大将首も獲り、守護兵は散り散りに逃げております。」
その近衛騎士である、聖騎士マイト。

「ふむ。なれば、マルス様。次手は追撃が最上ですな。」

マルスに次の手を進言したのは、聖騎士ジェイガン。
この部屋にはアリティア軍のトップと、それに連なる列強が一同に集まっている。

「・・・そうだね。逃げた兵士が野盗になる可能性もある、ここで彼らを終わらせる。」
そう判断したマルスは強い意志を持って、自身の仲間を眺める。

「「「「「「はっ!」」」」」」

その瞳に軍の精鋭たちは肯定を持って答えた。
だが、その傍に控える近衛騎士はマルスの隠れた感情を逃さなかった。

「マルス様、なにか懸念されていることでも?」

「え?・・・まいったな、マイトには隠せないか・・・」

「俺でよければお話ください。あなたの力になるべく、俺はいるのです。」

「うん、ありがとう。そう、だね。君には、否、皆にも聞いて欲しい。」

「はっ。」

主従のやり取りを聞いていた、臣下達はその話を遮らぬよう一歩下がり、言葉を待つ。

「この追撃戦、できれば逃げた兵士は捕虜にしたい。」

「マルス様、それは・・・」

マルスの吐露した言葉に異を唱えたのはジェイガンだった。

「わかっているよジェイガン。逃げ惑う兵士を捕らえることの難易度と危険性。そして捕虜を増やすことによる軍資金、費用の増大は・・・」

マルスとて捕虜を捕ることによるデメリットは承知していた。
だが、彼には譲れぬ思いがあったのだ。

「でも、ここでの戦いは終わったんだ。これ以上の血は流したくない。」

彼は必要以上の闘争を、否、そもそも戦いを望んでいないのだ。
彼は味方に対し誰一人その命を失って欲しくないと思っている。
そして、敵にさえ必要以上の血は流して欲しくないと思っている。

戦争をするには、あまりに甘い。
だが、彼は、英雄王マルスは、その優しさを持って戦ってきた。
故に譲れない部分でもある。
だが、自身の思いを味方に押し付け、味方が傷つくことも恐れているのだ。
そのため、先ほどは捕虜の話をださず、自身の感情を抑えていた。

「否、でもやっぱり皆を危険にさらすわけには・・・」

「ならば、お命じください。」

「え?」

味方を思うが故に自身の思いを封じようとしたマルスの言葉をマイトが遮る。

「この身はマルス様の願いを為すための剣です。マルス様は思うがままにお命じください。必ずや、為してみせましょう。」

「そのとおりです、マルス様。我らの剣は常に貴方と共に。」

マイトの言葉にジェイガンが同調し、部屋にいたアリティア軍の精鋭たちも一様に肯いた。

「皆・・・ありがとう。ならば、命ずる。逃げた兵士を追撃し捕虜とする。だが、皆の命は誰一人として落すことは許さない!」

「「「「「「はっ!!」」」」」

マルスの強い言葉に、アリティア軍の兵士達は先ほどよりも強い意志を持って応えた。


「・・・良し、じゃあ追撃隊とこの砦の掌握を行う隊に分けよう。」

「それが最良ですな。」

そう、彼らが為すべきことは敵兵の追撃だけではないのだ。
この砦の領主を討って全てが終わるわけではない。

この砦を完全に掌握する必要がある。

広い砦には多くの部屋があり、敵兵が隠れている可能性がある。
また、非戦闘員がいればその保護や、非戦闘員にまぎれている敵兵の発見などをしなければならない。
それに、切り伏せた敵兵の遺体の処分や、砦周辺の町々への通達などなどやるべきことは多岐に渡りあるのだ。

それは、逃げた敵兵を捕らえるよりも尚、難しいと言えよう。

そして、マルスはその大役を為しえる人物を見定め決めている。

「僕は追撃隊を指揮する。総大将である僕がいれば、敵兵の士気も下がるだろうしね。」
「はっ。」

「砦の掌握だけれども・・・マイト、君にまかせたい。」

そう、この大役を為しえる人物は自身の近衛騎士しかいないとマルスは確信を持っている。
マイトはマルスとそう年も変わらない騎士だ。
だが、戦においては無双、軍略においては天賦の閃き、軍においては尊敬と親しみを集めるマイトに、マルスもまた全幅の信頼をおいている。

そして、年若い騎士はその思いに応える器量を備えている。

「はっ!」

「うん。じゃあ、隊の編成と指揮はまかせ・・・」

「必ずやマルス様の期待に応えましょう!俺の身命を賭して!」

うぉぉぉぉぉぉぉ!忠義の嵐ぃぃぃぃ!・・・と叫びながら部屋を飛び出る近衛騎士マイト。

部屋にいた精鋭たちは呆気にとられて誰一人止められなかった。

「・・・隊の編成と指揮を任せるから、迷子にならないよう決して一人で行かないでねって言おうと思ったんだけどなぁ・・・」

「・・・なにをやっておるのだ、あやつは・・・」

近衛騎士の唯一の欠点を心配する主と、有望な騎士の突然の奇行にコメカミに手を当てやれやれと首を振る老騎士。



年若い騎士は時折暴走してしまうようだ。



////////////////////////////////


「うん?ここは、通ったか?」

そして現在。
一人飛び出たマイトは、砦を虱潰しに走り回り敵兵の確保、非戦闘員の保護など獅子奮迅の活躍を見せていた、が、案の定迷った。

一人で多くのことを為せるが故に、できることは自分の手で全てやろうとするのはお前の悪い癖だ、とは老騎士の言葉である。
現在の状況はまさにその通りだと言えよう。

「しかし、いくら方向音痴とはいえ砦の中で迷うとは・・・
 はっ!?なるほど、迷うほどに複雑な造りをしているのか。
 そして、それ故に砦の掌握に憂慮されていたのですねマルス様!
 なんという先見の明!一生付いていきます!」

そして、一人で思案し納得する騎士。カケラも主君の思いの的を射ていなかったが。

「このような複雑怪奇な砦の掌握を任せられたんだ・・・必ずや成功を持って応えるぞ!」

やるぞぉぉぉぉ!立てるべきは忠義の証ぃぃぃぃぃ!
・・・と叫びながら砦を走りまわる騎士の姿は、滑稽を通り越して恐怖を起こすほどであった。






「はぁはぁ・・・やっと見つけた・・・」

そうこうしていると、息を切らして、一人の少女がマイトへと近づいてきた。

「ん?ノルン?こんなところでどうした?」

彼女の名はノルン。赤い髪に青い瞳を持つ可憐な少女。
だがその可憐な容姿とは裏腹に、前大戦、マルスが英雄となった戦いのときからアリティア軍に参加していたという経歴を持つ、経験豊富な弓兵である。

「ふぅ・・・もう、あなたを探していたに決まってるじゃない。」

「俺を?」

「そう、あなたを。もぅ、急に飛び出て心配したんだから・・・」

「そ、そうか。それはすまなかった。」

あたし怒ってるんですよー、と人差し指を立てる少女に優秀な騎士も頭を垂れる。

「マルス様とジェイガン様から伝言よ。」

「はっ!」

伝言が主君からのものと聞き、姿勢を正し直立不動とする。

「えっと・・・『隊の指揮はまかせるよ。人員はこちらで選んで大広間に待機させてる。頼んだよマイト。』・・・これがマルス様からね。」

「マルス様・・・!」

マイトは主君からの援助に感動して震えている。

「(おおげさだなぁ)・・・それから、『マイトよ、此度の掌握は指揮を主体として行え。戦場で剣を振るうことのみが騎士の為すべきことではない。時には全体を見渡すことも必要なのだ。』・・・これがジェイガン様からね。」

「はっ!了解しましたジェイガン殿!」

「それからもうひとつ・・・『マイトよ、一人で行動するでないぞ。道に迷う騎士など笑い話でしかないからな。』・・・これで全部ね。」

「うっ。」

「・・・もしかして、手遅れだった?」

「・・・返す言葉もない。」

「もう・・・しょうがないわね、大広間まで一緒にいきましょう。」

「ああ、助かるよノルン。」

マイトとノルンは肩を並べて、仲間が待つ大昼間へと歩いていった。




////////////////////////////////

大広間への道中。

「それにしても、ふふ。」

「なんだ突然。」

「あなたは変わらないわね。」

「ん?」

「真っ直ぐなところ、一生懸命なところ、子供の頃から変わらないなぁって。」

「そうか?」

「あと、方向音痴なところもね。」

「う・・・面目ない。」

肩を落すマイトの横顔を見て、ノルンは微笑みながら言葉をかける。

「まぁまぁ、それも含めてあなたなんだから、落ち込まないで、ね?」

「とはいえ、方向音痴は直したいところだ・・・」

大広間へ歩みながらとりとめのない話を続ける二人。
マイトは自身の方向音痴に肩を落し、ノルンは彼を微笑みながらなだめる。

道中は明るい雰囲気だったが、ふとノルンが声を落して、話しかける。

「ね、もう少しでアカネイアだね。」

「ああ、この戦争も終結が近い。」

アカネイア王国、それはアリティア軍が目指す戦争の終焉地。
かつての大戦の英雄の一人、ハーディンが治めるその国は、周辺諸国でも最大の国力を持つ国だ。
ハーディンはかつてマルスと轡を並べた戦友であり、大戦後、アカネイアの姫君と婚姻を結び王となった。
しかし、近年は圧政を敷き民の血を流し、ついには諸外国へ攻めるようになったのだ。
そのため、マルスはかつての戦友を倒すため今、軍を率いている。

「マイトは、戦争が終わったらどうするの?」

「もちろん、マルス様の近衛騎士としてアリティアへ忠義を尽くす。」

「そっか・・・」

マイトはノルンの問いに迷うことなく答えた。
そして、ノルンはその応えに表情を暗くした。
先ほどまでの明るい雰囲気が嘘のようである。

「君は、村へ帰るのだったな。」

「うん。猟師にもどるつもり。」

「そうか。」

「・・・」

「・・・」

互いが口をつぐみ、静寂が流れる。
その静寂を破ったのは、マイトだった。

「あー、ノルン・・・えっと、いや、なんでもない。」

何かを伝えようとした彼は、やはりやめておくと、再び口を閉じた。
しかし、それをノルンが許さない。

「何?ちゃんと、言って。お願い。」

彼女は少し強い言葉で、その瞳に期待と不安を織り交ぜてマイトを見る。

「ん・・・できれば、戦争が終わってもアリティアに残って欲しいんだ。」

「どうして?」

残って欲しいといわれた言葉に少しの喜びを、そして次の答えに多大な期待を込めて再度問う。

「君ほどの優秀な弓兵がマルス様の傍に居てくれると嬉しい。」

「そっか・・・」

期待とは裏腹の応えに彼女の表情はまた暗くなった。

「それに・・・こうやって君と話せなくなるのは、寂しいからな。」

「え?」

「俺は、きみとこうして話しているのが好きなんだ。だから、残ってくれると嬉しい。」
「っ~~~~!」

期待していた、否、それ以上の言葉にノルンの顔が真っ赤に染まる。
あの鈍感迷子騎士は今、なんと言った?
さきほどの言葉がぐるぐると廻り、ノルンは我慢できなくなった。

「あ、おい!」

突然駆け出したノルンにマイトが驚いて声を掛ける。
少し離れたところでノルンは急停止し、勢い良く振り向いた。

「しょうがないなっ、考えといてあげる!」

振り向いた少女は真っ赤に染めた頬と輝く笑顔で答え、驚く少年を置いて走り出した。

「えっ・・・あ、おいノルン!」

少女の笑顔に見惚れて思わず動きを止めたマイト。
離れていく少女に慌てて声を掛けるが、ノルンは止まらず、曲がり角に姿を消した。














「大広間、どうやって行くんだ・・・?」


・・・彼が大広間に辿り着くのは一時間後・・・



~あとがきのようななにか~
ファイアーエムブレム 紋章の謎 光と影の英雄、支援会話コンプリート記念に書いてみました。

紋章の謎 光と影の英雄はファミコンのゲームのリメイク版です。
いろいろと独自要素が増えてるみたいですね。
まぁ、リメイク前を知らないので意識していませんが。
で、独自要素の一つ自分でキャラを作れる「マイユニット」。

「マイユニット」なるオリキャラに最初は期待してませんでした。
烈火の剣みたくどうせ空気だろって。
ところがどっこいやってみると、空気どころか全キャラと支援会話がある始末。
しかもフラグメイカー。
はてはマルス様が立てたフラグをかっさらうという離れ業まで!

結果として、面白かったですこのゲーム。
と、いうわけで「マイユニット」に焦点をあてて書いてみました。

ファイアーエムブレムの戦記物を期待している方にごめんなさい。
私はフラグ立てた女の子とにゃんにゃんすることしか考えていない・・・!


目指せフラグ立てた女の子の短編コンプリート!
とりあえず今回はノルン編ってことで、次も書きますよー!



[27121] 【たぶん】ファイアーエムブレム 新・紋章の謎2【8章くらい】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/06/01 19:32
~影の英雄と光の魔導師~

『ねぇ、マイト。』

『ん?』

『このお守り、あなたにあげる。』

『これは・・・?』

『パレスで流行ってた幸運のお守り。
 身に着けているとね、災いから身を守ってくれるんですって。』

『え?良いのか、こんな高そうなものを?』

『えぇ。』

『・・・イチゴの実なら、別にまたとってくるぞ。』

『あのね・・・イチゴの実をねだりたくてあげるんじゃないわよ。』

『そ、そうか。スマン。』

『そうじゃなくて、あなたは今までずっと、戦場でわたしを守ってくれたでしょう。』

『ああ・・・だがそれはお互い様だろう。
 君がいてくれるおかげで、俺も今まで戦えたんだ。』

『・・・ねえ。あなたは、どうして、わたしを守ってくれたの?』

『俺もリンダも、お互い家族がいない身・・・そう聞いていたからな。』

『・・・』

『戦いで見かける度に・・・うまく言えないが、守りたい気持ちになった。』

『そう。わたしもそう・・・だからあなたを守りたかった。』

『そうか。』

『時の流れって不思議ね。初めはなんとも思っていなかったのに・・・
 一緒に戦っているうちに、そんな気持ちになったの・・・』

『リンダ・・・』

『だ、だからね、これをあげるの。戦いではあなたの方が危険でしょ。
 遠慮しないで受け取りなさい。』

『そうか。それならありがたくもらっておこう。』

『大切にしてね、それ。』

『ああ、もちろんだ。』















///////////////////////



戦場。
兵士が駆け、矢が飛び、怒号が響き、血が舞う。

多くの兵士が互いの命を賭けて刃を振るい、自身の主のために散っていく。
今、戦場でにいる軍は3つの組織だ。

北に位置するは、暴虐王ハーディン率いる重厚なるアカネイア軍。
南に位置するは、勇者アストリア率いるアカネイア傭兵隊。
そして、その二つに軍に挟まれた場所に位置するは、英雄王マルス率いるアリティア軍だ。

「マルス様!このままでは持ちませんぞ!」

「くっ!」

聖騎士ジェイガンがマルスに進言する。このままではアリティア軍は壊滅すると。

「ハーディン!君は!」

マルスは、遠く北へいるアカネイア軍を睨む。
そして、そこにいるかつての仲間を睨む。

暴虐王ハーディン。
かつてマルスと共に戦った英雄の一人。
今は世界一の大国の王となり、民を虐げ、他の国へと攻め入る狂気の王。

「何故!?何故なんだ、ハーディン!」

マルスは信じられなかった。かつての仲間が、志ともにした戦友が、今の暴虐の限りをつくすその姿に。

「マルス様!」

「っ!」

自身に長く仕える老騎士の声に、マルスは意識を自身の軍へと戻す。

「マルス様、今は引くべきですぞ!」

「わかってる・・・!」

南北に挟撃される形。いかに精鋭揃いのアリティア軍といえど、この状況では壊滅は必死。

「・・・全軍、撤退だ!北西の森を抜け、アカネイア軍を振り切る!」

「「「「はっ!」」」」

南は兵力が厚すぎる。
いくつかの砦が立てられた其処は、常駐する兵がおり補給が確立している。
なれば、難関ではあるが、北を抜ければまだ逃げ切れる可能性がある。
北にはこれと言った拠点もなく、いかに重厚なハーディンの軍であっても補給がないその状況では、追撃も緩いと判断した。

「僕に続けぇぇぇぇぇぇ!」

決断したのであれば、自身の刃を持って血路を開くだけだ・・・!








///////////////////////



アリティア軍の消耗は激しい。
アカネイア軍を振り切り、森まであと少しというところで足止めを食っている。

「はぁはぁ・・・!」

さすがの常勝軍であってもその戦闘の激しさに息を切らすものが増えている。

(判断を誤った!?)

この土壇場でマルスは自身の判断を悔いていた。
幸いまだ、一人も死人はでていない。
が、それも時間の問題だ。

「このままじゃ・・・!」

「マルス様。」

焦るマルスに声を掛けたのは、彼の近衛騎士マイト。
彼はこの泥沼の戦場であっても、静かにマルスへと進言した。

「俺が殿を勤めます。」

「何を!?」

それは、自殺の自己申告だった。
この追われる状況での殿。
追撃してくるアカネイア軍を一人で相手にするなど、自殺と変わらない。

「だめだ!そんな危険な・・・!」

「ここで!貴方を失うわけにはいかない!」

普段の彼からは想像もできない激しい言葉。

「っ!?」

壮絶な覚悟にマルスは言葉を失う。

「このアリティア軍は貴方がいるからこそ成り立っているのです!」

「だからって!」

「俺は貴方の近衛騎士です!」

「・・・!」

「貴方を、アリティアを生かすために俺はいるのです!」

「それは・・・!」

近衛騎士。その言葉にマルスは返す言葉を失った。
近衛騎士の在り方として、マイトの言うことは正しい。
そして、近衛騎士に任命したのはマルス自身。
反論のしようがない。

「君を、マイトを失いたくない!」

「甘えです!」

「うぅ・・・!」

その通りだ。何もかもマイトの言う通りだとマルスはわかっている。

「それでも!」

「貴方は!誰も!失いたくないのでしょう!」

「!?」

その言葉は、かつてマイトが近衛騎士に任命されたときに語った、マルスの言葉。
誰も失いたくない。たとえ、それがありえない希望であっても、それを押し通したい。
そうマルスは自身の騎士へ伝え、マイトは自身の主に賛同した。

「それを!俺が為します!これが、俺の役目です!」

「・・・」

もはや言葉ではマイトを説得できない。

「「「「マルス様・・・」」」」

廻りの兵も主従のやりとりを聞いていた。
悲壮な覚悟をするマイトを、誰もが失いたくないと思っている。
だが、誰かが殿を務めなければ成らない。

そして、その役を務めるべきは老兵だと考えた者がいた。

「・・・マルス様。」

「この役目は、誰にも渡しません!」

老騎士の言葉を抑えるようにマイトは叫ぶ。

「っ!?」

「俺は、諦めたわけでも、自暴自棄になったわけでもない!」

マイトは叫ぶ。

「勝つために残る!」

アリティア全軍に響き渡る言葉。

「だから、御命じください。」

力の篭った言葉。

「ただ一言、勝て、と。」

力の篭った瞳。
マイトは自身の主をまっすぐに見つめ、ただその言葉を待つ。

「・・・我が騎士マイトよ。」

「はっ。」

「殿を務め、アリティア軍に勝利を!」

「はっ!お言葉のままに!」

もはや、マルス達がここに残る理由がない。

若き聖騎士を残し、森へと撤退するアリティア軍。

そして、その最後尾で最後まで自身の騎士を見ていた主は、

「すぐに首級を挙げて追いつきます。」

「待ってるよ、マイト。」

命令ではなく約束を友と交わした。




///////////////////////


「おぉぉぉぉぉおぉぉ!」

飛び掛ってくる剣士を、槍を持って貫く。

「ぜあっ!」

重厚な盾で押しつぶしてくるジェネラルのその鎧の隙間に槍を通す。

「はあぁぁぁぁ!」

遠くより迫り来る矢の群れを手に持った槍を回転させて弾き飛ばす。

「ふぅ・・・ふぅ・・・!」

その姿、まさに鬼神の如し。

若い騎士が槍を振るうたびに物言わぬ亡骸が増える。

(まだだ!まだ時間が足りない!)

彼の役目は時間稼ぎ。
アリティア軍が遠く森を抜ける時間を稼ぐこと。
アカネイア軍も殿を務める騎士の役目などわかっているが、押し通れない。
たった一人の騎士に数十人のアカネイア兵が亡き者とされ、いまだ追撃ができていない。
「はぁっ!」

「ちぃ!?」

斧でこちらの槍を折りにきた傭兵を、

「せあっ!」

腰に挿していた剣を投げつけ絶命させる。

(さすがに、数が多い!)

いかにマイトが一騎当千であっても、休む暇なく攻められれば、集中力は途切れる。

「ふんっ!」

「しまっ!?」

投げ槍を放ったジェネラルの一撃を避けようと自分の駆る馬の手綱を引いたとき、

「くそっ!?」

切れた集中力と失った握力のせいで、落馬した。

致命的な隙。

「獲ったぁぁぁぁぁ!」

「っ!?」

叫びと共に襲い来る傭兵。
落馬の衝撃で、今だ横たわるマイト。

襲い来る白刃に晒された騎士の命は、




「舞い踊れ光の白刃・・・オーラ!」




鈴のように響く女性の声と、光の刃によって救われた。

「な・・・リンダ!?」

「マイト!」

彼の命を救ったのは、美しき女魔導師だった。

「なんでここに!?」

だが、おかしい。
彼女は既に撤退していたはずだ。
ここにいるはずがない。

「あなたを置いて!」

今だ敵兵溢れる戦場で、話す暇などない。

「ファイアー!」

「せあっ!」

乙女は騎士の後ろのジェネラルを火で吹き飛ばし、
騎士は乙女を狙う弓兵へ、地面に転がる敵兵の槍を投げて絶命させる。

「あなたを置いて!行けるわけないでしょ!」

「・・・君は!」

さすがの騎士も彼女の言葉に納得できない。
騎士は彼女を、彼女達を生かすために残ったのに。

だが、今言うべき言葉は、

「・・・ありがとう、君が来てくれて嬉しい。」

感謝。

「どう、いたしまして!サンダー!」

「しっ!」

二人は話す暇なく戦い続ける。









「はぁ・・・はぁ・・・もう、ちょっと・・・」

「リンダァァァァァ!!!」

「えっ!?」

マイトの叫び声に後ろを振り向くリンダ。

「ハーディン!?」

そこにいたのは、暴虐王ハーディン。

「・・・虫けらが小ざかしい。」

禍々しき闇の衣を纏う絶対者。

(あぁ・・・あぁ・・・!)

喉から空気が抜けるように、リンダは息をすることもできず、呆然と見上げる。

「疾く去ね。」

振り下ろされる魔人の一撃。

(マイト!)

リンダは訪れる死に思わず目をつぶり、ガギンという重い音に、もう一度目を開いた。

「づあぁっ!」

「マイト!?」

ギシギシと音を立て、火花を散らすマイトの槍とハーディンの剣。
間一髪のところで、マイトは間に合ったのだ。

「我に反抗するか、虫。」

「なめ、るな!」

渾身の力を持って、ハーディンの一撃をせき止めるマイト。
だが、均衡は脆くも崩れる。

「思い上がりだ。」

ハーディンの力が膨れ上がる。
そして、

「なっ・・・銀の槍が!?」

この戦場でマイトを生かしていた業物の槍にヒビが入る。

「ふん。」

「ぐあっ!」

「きゃあ!?」

そして、王の力は、槍をへし折り、騎士と女魔導師を吹き飛ばした。

だが、いまだに、その命の灯火は消えていない。

「逃げ、るぞ!」

「え?・・・きゃっ!」

マイトは片腕にリンダを抱き、高らかに指笛を鳴らす。
すると、戦場を駆け抜けて彼に一頭の馬が走り寄る。

「はっ!」

「ちょ、マイト!?」

マイトはリンダを抱いたまま馬へと飛び乗り、森めがけて走らせた。
戦場に残されたのは、アカネイアの王と軍のみ。

そして、王は下す。

「追え。」

「「「「はっ!」」」」

死の宣告を。








///////////////////////


「マイト!」

「黙ってろ!」

マイトはリンダを自身の体で隠すように抱きしめている。
森の中で馬を走らせるのはとても難しいものだ。
しかし、マイトは人一人を抱えた状態で、さらに馬を全速力で走らせている。
彼の乗馬技術と人馬の信頼感がなければできない芸当だ。
彼らは一陣の風となって森を突き抜けていた。

そんな中、ヒュン、ヒュンと時折、彼らを掠める音。
その正体は矢。

「マイト、矢が!」

「わかってる!」

馬で逃げる彼らに追いすがりながら、矢を放つ存在など、一つしかいない。

ホースメン。戦場を駆け抜ける馬に乗りながら弓矢を扱う精鋭中の精鋭。
アカネイア軍の虎の子とも言うべき恐ろしい存在だ。

だが、いかに精鋭といえど、森の中で馬を走らせ矢を放つというのは至難の業だ。

結果として、軍配は、

「はいやっ!」

「きゃ!」

「舌を噛む!口を閉じろ!」

マイトに上がった。








///////////////////////


ホースメンを振り切ったマイト達は、ゆっくりと馬を歩かせていた。

「マイト?」

リンダは、マイトに声を掛けた。
振り切ったとはいえ、いまだ追っ手はいるはず。
この速さでは危ういのではないか、と。

「・・・マイト?」

だが、掛けた声に反応がなく、もう一度名を呼んだ。

そのときだった。
ずるりと、すり抜けるようにマイトが馬から落ちた。

「え?マ、マイ・・・きゃあ!?」

落ちたマイトに驚いたリンダもまた、急に倒れた馬に地面に投げ出される。

「いたっ・・・マイト・・・マイト!」

打ち捨てられた地面から立ち上がり、マイトへと走り寄るリンダ。
その瞳に映ったものは、背に幾本もの矢を突き立てたマイトの姿。

「そんな!?」

追っ手のホースメンの矢は的確にこちらを射抜いていたのだ。
リンダがそれに気づかなかったのは、マイトが身を挺して彼女を守っていたから。

「マイト!お願い、返事をして!」

必死にマイトに縋り付く。

「・・・ああ。」

「マイト!」

か細い声。だが、確かに返事をした。

「・・・リンダ、手を貸して欲しい。」

「え?」

「・・・馬のところへ連れて行ってくれ。」

「え?う、うん、わかったわ。」

ゆっくりと立ち上がり、リンダに支えてもらいながら、馬へと近づく。

「あ・・・そんな。」

近づいて、リンダは気づいた。
馬の下半身に矢が何本も刺さっていることを。
馬もまた、マイトと同じように射抜かれていたのだ。

「・・・スマン。」

マイトは小さく、謝った。

「・・・リンダ、もう一つ、頼んでいいか。」

「え?えぇ。」

「こいつを楽にして欲しい。」

「え!?」

「・・・本当は俺がやりたいが、剣も槍も失ってな・・・魔法で止めを刺してくれ。」

「そんな!?」

リンダはいつか聞いたことがある。
この馬は、彼が近衛騎士になったときにマルスから賜った馬であると。
とても大事であると、マイトから聞いたことがある。

「でも!」

「・・・もう、手遅れだ。せめて、楽に逝かせてやりたい。」

「・・・っ!」

「・・・頼む。俺の相棒を休ませてやってくれ。」

「わ、わかった。」

リンダの目には涙。ポロポロと大粒の涙を流し、火を放った。
轟々と燃え上がる馬を見ながら、二人は寄り添い佇む。

「・・・泣いて、いるのか。」

「あなたが、泣かないからよ・・・」

リンダはマイトの代わりに涙した。
自分に厳しい、厳しすぎる少年の代わりに、その思いを代行しているのだ。







///////////////////////


「はぁ・・・はぁ・・・」

「・・・」

それから二人は、森を彷徨っていた。
リンダはマイトの脇から支えるように、マイトはリンダに負担を掛けまいと足に力を込めて。

だが、限界が来た。

「マイト!」

「・・・」

リンダからフラリと離れるように倒れるマイト。

「マイト!お願い!マイト、立ち上がって!」

彼女は必死で声を掛けるが、仰向けに倒れた彼は、目を閉じて、静かに横たわっている。
「お願い!目を、目を開けて!」

必死に何度も何度も声を掛ける。

「・・・ああ。」

「マイト!」

その願いが通じたのか、マイトが返事をした。

「・・・リンダ。」

「・・・ん?」

涙を貯めて、声を詰まらせてリンダが答える。

「・・・ありがとう。」

「なに、言ってるのよ。」

「・・・君のお守りが、守ってくれた。」

「え?」

マイトは自身の胸、砕けた鎧の後ろから何かを取り出した。

「そ、れ・・・」

「・・・君がくれた、お守りだ。」

かつてリンダが手渡したお守り。
緑の鉱石をはめた首飾りは、今は粉々に砕け散っている。
暴虐王の一撃を受けてそのお守りは砕け散ったのだ。









「・・・これが、なければ、胴が吹き飛んでいたな・・・」

「・・・ふふっ。言ったでしょう災いから身を守ってくれるって。」

「・・・ああ、効果、抜群、だった。」

「・・・でしょう?また、あげるわ。」

「・・・そう、か。」

「・・・今度は、お揃いのやつにしましょうか。」

「・・・そうだな。」

「・・・うん。あなたとわたしの。」

「・・・そう、だな。」

「・・・うん。二人で、買いに行くの。」

「・・・そう、だ、な。」

「・・・ね?だから、立って。ここじゃ、買えないわ。」

「・・・ああ。」

「・・・お願い。立って。」

「・・・ああ、すぐにいくよ。」

「・・・うん。マルス様、待ってるよ。」

「・・・近衛騎士、失格かな。」

「・・・ジェイガン様に、怒られるよ。」

「・・・それは、怖いな。」

「・・・でしょう?だから、ね?」

「・・・リンダ・・・」

「・・・ん?」

「・・・逃げ、ろ。」

「何を!?」

「・・・蹄の音・・・誰か、来る。」

「嫌よ!」

「・・・頼む。」

「嫌!絶対に嫌!」

「・・・リンダ。」

「わたしは!」











「いたぞ!」

「っ!」











「マイト殿とリンダ殿だ!」

「アリ、ティア軍?」
















///////////////////////


ガタガタと揺れる馬車の中にマイトとリンダはいた。

あのとき、見つけてくれたのはアリティア軍。
すぐにマイトとリンダを本隊へと連れて行った。

マイトの姿を見たときのマルスのうろたえ様は今まで見たこともないとジェイガンはその後語っている。


「マイト!?酷い傷だ!リフ殿、彼に治療を!」

「はい、おまかせをマルス殿。」

「え?その人選で大丈夫ですかマルス様ぁぁぁぁ!?」









包帯で全身を覆われたマイトの傍には、リンダがいる。

「・・・」

「・・・」

じっと彼の姿を見つめる。

「・・・そろそろ起きて。一人じゃ寂しいわ。」

「・・・」

本気の言葉ではない。
安心を得たから、いたずら心が芽生えたようなものだ。

(ふふ・・・)

じっと見つめる。
森の中では余裕はなかったが、ここでは安心を持って見つめていれる。

「早く起きて。お話、しましょ?」

少女は、騎士が起きるまで、ずっと傍にいた。



















「マイト、傷はいいかい?」

「はっ!もう治りました!」


「・・・なんでわたしじゃなくて、マルス様の声で起きるかな・・・ばか・・・」








~あとがきのようななにか~

リンダリンダァ!リンダリンダリンダァァァァ!
冗談はさておき、お読みいただきありがとうございます。

あれ、マルス様のほうがヒロインぽくね?
とか、途中でちょっと思った私。
リンダのヒロイン力を必死で高めました。

次ぎは誰にしようか。
悩むね。


PS.
FEと異世界迷込日常ですが、5話越えたら独立させようかと思ってます。
それだけ続けば連載と言ってもいいかな?と思ったり。
感想ありがとうございます!



[27121] 【ヒャッ】世紀末荒野物語【ハー】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/05/27 22:34
20XX年。

世界は核の炎に焼かれた。

全ての文明は崩れ去り、人智の栄誉は消え去った。

その悪夢の日から100年。
それでも人は生きている。

わずかな資源を頼りに、不毛な大地の上で、困窮しながらも生きていた。

だが、厳しい環境でも、否、厳しい環境だからこそ人は己の欲におぼれた。

暴力の時代が訪れたのだ。

人はわずかな資源を独占するため、力によって世界を生きようとしたのである。


そして、この暴力渦巻く不毛の荒野に生きる男がまた一人。

本懐を果たすため、今日も鉄の馬を駆る。






















「いいか、おまえら。よーく聞け。」

「「「「うす。」」」」

ここは酒場。
荒野にポツンと存在する小さな町の小さな酒場。

その酒場には昼間から10数人の男達がたむろっていた。

彼らはこの町に巣食うチンピラの集まり。
町の人々から煙たがられる、いかにも粗暴な輩が集まった、いかつい連中だ。

だが、今、彼らが大声で話し会う内容は、彼らの見かけとはかけ離れている。

「暴力は駄目。はい!」

「「「「暴力は駄目!」」」」

男達の中心のリーダーが叫ぶと、周りの部下が復唱する。

「町の住人には優しく。はい!」

「「「「町の住人には優しく!」」」」

まるで、見た目とあわない。

「ただし旅人てめぇはだめだ。はい!」

「「「「ただし旅人てめぇはだめだ!」」」」

「その身包みを置いていけ。はい!」

「「「「その身包みを置いていけ!」」」」

「「「「「イェーーイ!」」」」」

見た目どおりだった。


歓喜の声をあげる部下の中心で、リーダー、ゴッチは満足そうにうなずいていた。

ゴッチはこの暴力の時代に、それだけでは生きていけないと思っている。
なぜならば、略奪が続かないことに気づいたからだ。

かつてはゴッチも荒野を股にかけたゴロツキの一人だった。
赤く染めたモヒカンでヒャッハーと叫んでは町々を襲ったものだ。

だが、あるとき気づいた。
略奪の果てに待つものは、何もないのだと。

町を見つける度に襲っていては、いつまでも荒野を彷徨うことになるのだと。
荒野を旅するのは酷く辛いのだ。

水も食料も限りあり、町を見つけるのに下手したら3週間はかかるこもある。
この荒野には100年前の大崩壊のせいで崩れた生態系により、人間では立ち向かうこともできないような化け物がそこらじゅうにいる。

どこかで安定して生きる場所を見つけなければならない。
そうゴッチは考えたのだ。

そして、ある町を見つけた。
今、ゴッチがいる町だ。

彼は、今まで率いていたゴロツキと、町で燻っていた荒くれを纏め上げ自称自警団を作ったのだ。

町の外の化け物を駆逐する代わりに、寝床と飯と弾薬をよこせ。そう町長になかば脅しのように伝えた。

実際に脅しだったのだが、町の周辺の化け物を彼らは実際に討伐し始めたことに、町の住人も一定の理解をしめした。

ゴッチ達は元々荒くれ者であり、化け物相手に弾幕をぶち込むことはお手の物だった。
そういった日々が続けば、ゴッチ達は嫌われ者だが頼りになるといった評価を得ることになる。

そして、ゴッチはさらに手を打った。

町に訪れる、町から出発する、荒野を移動する商人の護衛を買ってでたのだ。
流通をつかさどる商人は荒野ではとても貴重なやつらだ。
同時に荒くれ共の格好の標的でもある。

ゴッチもかつては商人を見つけてはヒャッハーしたものだ。

商人を守れば、町へ物資が届く。
結果、金が動く。
そして、ゴッチ達への報酬も増える。

その理論をもって、ゴッチは商人達への護衛を始めた。

最初は、いかにもヒャッハーなゴッチたちに商人もビビッていたが、実績が増えれば信頼も増す。

今では、ゴッチ達に気軽に話しかける商人たちもいるほどに浸透した。

ここまでやれば、ゴッチ達は町の人気者にだってなれるであろう。
しかし、彼らは嫌われている。

なぜならば、旅人を襲うからだ。

いかに安定していても、それに満足しているのはゴッチのみだ。
部下のゴロツキどもは、その価値を理解していない。
たしかに報酬は得られるが、所詮はゴロツキ。
人のために、なんて続けていると不満が溜まってくるのだ。
たまにはヒャッハーしてぇぜ兄貴!とゴッチに詰め寄るのだ。

その部下達に、ゴッチは提案した。


町に訪れる旅人を襲え、と。


商人たちは、必ず集団で移動するが、旅人は少人数だ。
そして、一人で旅するものを襲ってもいいとゴッチは判断した。

この荒野を一人で旅するものなんざ、だいたいがスネに傷持ちだ。
犯罪者か、略奪者か、ともかくまともな奴はいない。

それに、どこからか流れ着いた者に対し、町の住人も無関心だ。
襲っても彼らはいい顔はしないが、どうせ日和見を決め込むだろうとゴッチは考えた。


その結果、安定して商人が訪れる、旅人に危険な町という歪な存在が誕生した。





「いいか、テメェ等、選択は大事だ!」

「「「「センタクは大事だ!」」」」

「可能性を準備しない奴は馬鹿だ!」

「「「「カノウセイをジュンビしないやつは馬鹿だ!」」」」

「俺の言う通りにしてりゃ好きなだけヒャッハーさせてやる。付いて来やがれ野郎共!」
「「「「ヒャッハー!」」」」

選択と準備、それはゴッチの荒野で生きるための考え方だ。

ゴッチはこう考えている。

たいがいの出来事にはパターンがある。
それぞれのパターンに対し、それぞれに適応した準備があれば、大体は生きていける、と。

ゴッチはその考えの元、厳しい荒野で生き残ってきた。
こうして、安定して生きていけるのも、選択と準備を怠らなかったからだ。


「兄貴!旅人だ!旅人が来たぜ!」

「野郎共!獲物だ!心しろ!」

「「「「ヒャッハー!」」」」

そして、今日も哀れな獲物が町に来る。











ギィ・・・と音を立てて木製の扉が開く。

入ってきたのは男。

黒い無地のシャツに、赤いレザージャケットを着ている。
色あせたジーンズと、茶色いレザーベルト。
そして、ベルトにぶら下がった、2丁の拳銃。
茶色い髪と無精髭。
同じく茶色い瞳は眠そうに垂れているが、なかなかに整った顔立ちだと言える。
あらいい男じゃない。と思ったのは、ゴッチの部下のおねぇ系と2人の看板娘。

一瞬で獲物を見据え、何事もないように酒場で騒ぐ客になるゴッチとその部下。
ここで下手な雰囲気をだすと逃げられてしまう。
そう考えて普通の客を装う姿は、歴戦のゴロツキだった。

男はゴッチ達には目もくれず、カウンターへと歩き、座る。


ここでゴッチは考えた。
ここでのパターンは二つだと。



【1】男は水を頼む。

【2】男は酒を頼む。



【1】の場合はこうだ。

「マスター水をくれ。最高に冷やしたやつをな。」

「おい、兄ちゃん、ここは酒場だぜ?アルコールが飲めねぇなら井戸に顔でもつっこみな。」

と、いちゃもんをつけて、喧嘩へなだれ込みヒャッハーする。

【2】の場合はこうだ。

「マスター酒をくれ。最高にハイになれるやつをな。」

「おい、兄ちゃん、昼間から酒とは剛毅だな。俺もまぜろよへっへっへ。」

と、いちゃもんをつけて、喧嘩へなだれ込みヒャッハーする。




ゴッチがとってきた略奪の黄金パターンだ。
部下もそれを熟知している。

店のマスターと看板娘達は可哀想だとは思っているが、注意もできないので、黙っている。
なんかいいものあったらあたしにもチョウダーイ☆と看板娘1はちょっと思っている。

「マスター、水をくれ。」

(来た!パターン1だ野郎共!)

((((ヒャッハー!))))





「おい、兄ちゃん、ここは酒場だ「それと、これとあれとそれとそっちとあっちとこっちと・・・」つっこみ・・え?」


「「「「「は?」」」」」









男は水と酒場の料理を全て頼んだ。








(おぃぃぃぃ!頼みすぎだろ!このパターンはねぇぞ!?)

百戦錬磨のゴッチでさえも、声を掛けるタイミングを失った。
部下もゴッチへ、どうするんだ兄貴?と視線をよこしてくる。
マスターは黙々と料理を作っている。
看板娘2はあたしも食べたいです、と思っている。


次々と運ばれてくる料理をガツガツと勢い良く食べる男。

そんな男にマスターが声を掛けた。


「兄さん、こんなに食べて、あー、懐は大丈夫か?」

「心配すんなマスター。俺は払いがいいことに定評がある。」

ひらひらと手を振る男に、マスターも一応信用したようだ。

ここでゴッチに天啓が降りる。

(いいか野郎共よーく聞け!)

((((うす!))))

(ここでのパターンはこうだ!)



【1】男は金持ち。

【2】男は食い逃げ常習犯。



【1】の場合はこうなる。

「マスター、払いはこいつで頼む。釣りはいらねぇぜ。」

「兄ちゃん、豪勢だねぇ。俺達にも振舞ってくれよへっへっへ。」

と、いちゃもんをつけて、喧嘩へなだれ込みヒャッハーする。


【2】の場合はこうなる。

「悪いな、金はねぇんだ。グッバイ、マスター。うまかったぜ。」

「待ちな兄ちゃん。俺達の酒場で食い逃げとはいい度胸じゃねぇか!」

と、いちゃもんをつけて、喧嘩へなだれ込みヒャッハーする。
【2】はいちゃもんじゃない気がするが、ヒャッハーできるならなんだっていい。

とりあえず、あの男は貴重な銃を二丁も持っているのだ。金はなくてもそれだけで十分である。


(・・・ということだ!わかったな野郎共!)

((((さすがだぜ兄貴!))))







「ガツガツガツ・・・ング・・・プッハァ~・・・ごっそさん。」

「あ、あぁ。」

「会計頼む。」

「お、おぉ・・・あー、5万6千イェンだ。」

「OK、ちょっと待ちな。」

男はジャケットの懐へと手を伸ばす。


(パターン1だ野郎共!)

((((ヒャッハー!))))





「払いはこいつで頼む。」

「兄ちゃん、豪勢だ「いやー危なかった。5万6千2イェンしかないこと忘れてたぜ。」振舞って・・・え?」

「「「「ブフー!!」」」」

ゴロツキは噴出しマスターは満足し看板娘達はまたきてねー☆と営業スマイルで微笑んだ。







(ギリじゃねぇか!?もっと考えて金使えよ!)

さすがのゴッチも声を掛けるタイミングを失った。

男は絶句するゴッチ達の脇をすり抜け外へ行く。

「「「「あ、兄貴ぃ・・・」」」」

「ば、馬鹿野郎!追いかけるんだよ!」

部下の声にハッと我に返ったゴッチ。
そのとき、彼らの耳に珍しい音が聞こえる。

ドッドッドッド、と響き渡る重低音だ。

「こいつぁ・・・バイクだ!」

バイク。
かつて文明が栄えていた頃、人々の移動手段の一つとしてあった。
今では、荒野を縦横無尽に駆け回る鉄の馬と呼ばれる。
ただのバイクなら、そこそこ珍しい置物だ。
だが、動くバイクとなると話が変わる。
もはや製造する術を失った今では、100年前から存在するバイクしか残っていない。
100年たっても動く、さらに、今では超貴重な燃料付きなんてものになったら、一攫千金、億万長者にだってすぐなれる。

そして、外から聞こえる音は、かつで荒野でヒャッハーしてたころに一度だけ耳にした動くバイクの音だとゴッチは理解した。


ここでの選択肢はこうだ。



【1】ヒャッハーしない。

【2】ヒャッハーする。



【1】はただのチキン野郎だ。
ゴロツキの風上にも置けない。
なら選ぶべきは決まっている。

「行くぞ野郎共!準備なんてクソ喰らえだ!バイクを奪うぜ!」

「「「「ヒャッハー!」」」」



バンッ、と勢い良く扉を押し開け飛び出すゴッチ。










「あっ。」

「ヒデブっ!?」

「「「「兄貴ぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」」

バイクに轢かれた。










「てててて、てめぇ、よくもややややりやがったなぁ・・・」

「あー、大丈夫か?生まれたばかりの小鹿のように膝が震えているが。」

ゴッチは部下に支えられて立っているが、既に満身創痍だった。

だが、まだ終わっちゃいねぇ、とばかりに、鋭い瞳で男を観察する。

男が跨る鉄の馬は、荒野を行くタフガイが乗り回す、ハーレー・・・ではなく、
化け物どもを置き去りにして風になるモンスターマシン・・・ではなく、





ギリギリまで車高を下げた座席。

無駄に高くして頭の位置にあるハンドル。

不必要なまでに長い背もたれ。

絶対に邪魔になるであろうトゲトゲした輪郭。

桃色の車体に刻まれた『』の文字。


ブッコミ仕様だった。


「「「「「なんか違ぇ!!」」」」」

「美人だろ?『愛しのエリー』だ。」

「「「「「聞いてねぇよ!」」」」」


思わず突っ込んでしまうほどにミスマッチだった。
だが、あのバイクを見ると、ゴッチ達に不思議な感覚が生まれる。
星の輝く夜に風になって騒音を撒き散らしたい。行き先もわからないまま。
そんな35歳の夜を過したい、と。


「そのバイクを置いていきな!命だけは助けてやるぜ!」

「「「「ヒャッハー!」」」」

「あー。OK。そういう輩っぽいとは思っていた。」


ここでゴッチが想定したパターンは2つだ。



【1】男は無謀にも戦いを挑んでくる。

【2】男は恐れをなして逃げ出す。



【1】の場合はこうだ。

「悪いな。俺の女は情が深くてね。俺以外になびかないんだよ。」

男は唯一の武器である腰の2丁拳銃へ手を伸ばす。
ところがどっこい、こっちは全部で5丁の銃を持っている。
結果、男は蜂の巣だヒャッハー。

【2】の場合はこうだ。

「悪いな。俺の女は淑女でね。お前らみたいな残念な顔は見たくないとさ。」

男は、バイクを反転させ明後日の方向へ走り出す。
ところがどっこい、こちらは銃を5丁そろえている。
その背中に弾幕をぶち込むぜヒャッハー。



(完璧だ!きやがれナルシス野郎!)

((((さすがだぜ兄貴!))))


「悪いな。」

男はハンドルへと手を伸ばした。

(パターン2だ野郎共!)

((((ヒャッハー!))))







「馬鹿め!その背中にヒャッ・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」

「「「「兄貴ぃぃぃぃぃぃ!?」」」」

男はハンドルに力を込め、真正面、ゴッチに向かってバイクを突っ込ませた。
ズドンッ、と重い音を立て、ゴッチを巻き込みながら酒場の壁へと突っ込んだバイクは、
バゴンッ、と重い音を立てて、酒場の違う箇所壁を突き破って出てきた。



ゴッチを引きずって。

「「「「兄貴ぃぃぃぃ!?」」」」

「俺の女はじゃじゃ馬でね。お前らみたいなモヒカン野郎を見るとぶっこみたくなるのさ。」

「「「「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!」」」」

Leレッt'spartyパーリー!」

「「「「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」









あとに残ったものは、ボロボロのモヒカンと赤く染まったぶっこみ単車。

「葬式代はいらないみたいだな。」


男が言うようにゴロツキ達は満身創痍だが、誰一人として死んでいなかった・・・まだ。



「さっきから何よ!?」

「あ、危ないですって・・・」

外の喧騒に飛び出てきたのは看板娘1。
そして、飛び出た少女を止めようと腕を引っ張っているのは看板娘2。

男はここでこう想定した。



【1】看板娘1が突っかかってくる。

【2】看板娘2が声を掛けてくる。



【1】の場合はこうだ。
みたところ、彼女は気が強い。目の前に広がる光景に恐怖しながらもこちらを興味深く見ている。

「あ、あんた、いったい何者なのよ!?」

と、こちらの正体を知りたがるであろう。


【2】の場合はこうだ。
みたところ、彼女は店の中でゴロツキ達に怯えていた。

「あ、あの。怖い人達をやっつけてくれてありがとうございます。お、お名前を教えてくれませんか?」

と、お礼とともに、ヒーローの正体を知りたがるはずだ。


【1】と【2】の場合、どちらを想定すべきか。
ゴッチなら考えるだろう。

しかし、男は違う。
いちいちパターンごとに考えを巡らすなんざ、軟弱者が行う行為だ、と思っている。

「俺ならこうだ、選択肢が2つ、パターンが2つ。
 なら、両方かっさらうような答えをだすさ。」

それがこの男の生き方。

つまり、【1】と【2】、どちらが来てもこう答える。


「名乗るほどのモンじゃないさ。食後の運動で騒がしくしちまって悪いな。料理、うまかったぜ。じゃあな。」

するとこうなるはずだ。

「「素敵!抱いて!」」

「ヒューッ!まいったねどうも。俺の胸は一つしかないんだがな。」

・・・と男は訪れる未来に心躍らせた。



(さぁ、カモン子猫ちゃん。今夜のパートナーは君達で予約済みだぜ。)



飛んできたものは、疑惑と興味の視線・・・ではなく、
感謝の言葉・・・ではなく、
愛の抱擁・・・でもなく、






「アベシッ!?」

中身の入った酒瓶だった。






「Oh・・・さすがに脳天酒瓶クラッシュは無理だって・・・」

ふらふらと頭を揺らし、今にもバイクごと倒れそうなほどに、男の足はガクガクと震えていた。


「なんなのよあんた!酒場をこんなにグチャグチャにして!」

「酷いです。あたし達の職場なのに・・・」

ジーザス、どうやら俺はやりすぎたようだ、と今の状況を瞬時に理解した男。


この場合のパターンはこうだ。



【1】正当防衛を主張する。

【2】誠心誠意謝る。



【1】の場合はこうなる。

「OK、君達の言い分は最もだが、俺は降りかかる火の粉を払っただけだ。請求はそっちのモヒカンに言ってくれ。」

荒野を一人旅するタフガイは、理不尽に立ち向かうガッツを持っているのだ。

【2】の場合はこうなる。

「OK、俺が悪かった。酒場の修理でもウェイターでも、君の今夜の子守唄でもなんでもしよう。」

あまねく女性には優しく。それが紳士なのだ。


【1】も【2】も正解だ。どちらを選んでも男の行動は正しい。

だが男はこんな男だった。


「選択肢が2つ?OK、なら俺は3つめを選ぼう。」










「あっ!?待ちやがれ!」

「あ~!待ってください!」

「グッバイ。いずれまた会う日が来るさ。」

フルスロットル。『愛しのエリー』の最大加速を持って戦線離脱。



男はヘタレだった。




















真っ赤な夕日に赤く染まる荒野。
砂塵舞う広大な大地を砂煙を上げて走る一台の鉄の馬。



男は走る。次の町へ。










「やれやれ。今回は乗り切れたか・・・
 次があれば、腰の『覇王』と『ハウリング』を使わざるを得ないな。」





その本懐を遂げるために。




~あとがきのような荒野~

目指したものは世紀末スタイリッシュガンアクション。
無理だと理解した。
最初はゴッチが主人公だったのは秘密です。



[27121] 異世界迷込日常系1
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/05/15 18:24

ここはノウム王国。
十字の形をしたクロス大陸に存在する4つの大国の一つ。
北に位置するこの国は大地の精霊を奉り、肥沃な大地と恵まれた自然に覆われ、豊穣の国と呼ばれている。

この国の首都ノウムは、王の暮らす白亜の城を象徴とした活気溢れる大都市だ。
太陽も沈み、街の明かりが光明石(※1)のぼんやりとした輝きのみになっても、そこかしこの建物からはにぎやかな笑い声が聞こえてくる。


その建物の中でも最もにぎやかな店。
筋骨隆々な冒険者達が、今日も生き残れたことに笑いあい、自身の武勇伝を肴に酔い、絶品の料理に舌鼓を打っている。

ここは首都一番の食事ができると、最近評判になってきた『バラガスの酒場』だ。













//////////////////////////


「はいよ!ガッツデューン(※2)とエイル酒(※3)だ!」

「おぉ!待ってたぜ姐さん!」

冒険者の前に料理を置く。
するとどうだ、傷だらけのいかつい男がその顔を幸せそうに緩め、目の前の料理に取り掛かる。

「がっつきすぎだよ、ほれ水だ。」

「あふぃがてぇ!」

「食べながら喋るんじゃないよ、全く。」

口では文句をいっているが、あたしの顔は間違いなく緩んでいるだろう。
つい数ヶ月前では見れなかった光景に、どうしようもなく嬉しさがこみ上げてくる。

あたしと夫の営む酒場、『バラガスの酒場』が目の前に広がるような、満員の状態になるようになってまだ幾月もたっていない。

「姐さーん!注文いいかー!?」

「あいよーまってな!すぐ行く!」

客からかかった声に客達の間を縫うように移動する。
客達、なんて単語を使うようになったのもここ最近だ。

「あ~これと、これと・・・」

「はいはい、ちょっと待ってな。」

客からの注文をとり、厨房へと歩く。
その途中で夫、バラガスと鉢合わせをした。

「6ブロンドだ。」

「おう。・・・ほらよ。」

「うむ。確かに。」

「うまかったぜ、またくるよ旦那!」

「ああ。いつでも来い。」

夫は食事を終えた冒険者から代金を受け取っていたようだ。
そして、金を受け取った夫は、その手に金を握り締め、小さく震えている。
服をはちきらんばかりに鍛え上げられた肉体を持つ夫が、小さく震える様子は、はたから見ると恐怖を感じさせるものなのだろう。
事実、近くのテーブルの冒険者はびびってる。

だが、あたしには夫の状態が手に取るようにわかる。
この愛すべき大男は「いつでも来い。」という自分の台詞に感動しているのだ。
つい最近まで使ったことのない言葉に、酒場の店長として感じ入ることがあったのだろう。

「いつまで震えてんだい、あんた。邪魔だよ邪魔。」

「む。すまんレベッカ。」

「たくっ。そんなんで一々喜んでいたら、明日にでも死んじまうよ?」

「ふん。そういうお前こそ、いつもより笑顔が綺麗だぞ。」

「あぁん!?嬉しいこと言ってくれるじゃないか!?大好きだよこの野郎!」

「俺もだこの野郎。」

がっはっは!と、二人して笑いあう。
こうして心の底から笑い会えるようになったのもここ最近で、久しぶりのことだ。

「しっかし見てみなよ、あんた。この絶景をさ。」

「・・・あぁ。まさか、俺の店で満員どころか長蛇の列なんて光景を見る日がこようとはな。」

「まったくだね。つい先日の店をたたもうかって悩んでたのが嘘みたいだよ。」

そう、この店はつい数ヶ月前は客など一人も来ない寂れた酒場だったのだ。
いまでこそ、多くの客が昼夜に訪れ活気もあるが、ついこの間まであたしら夫婦は店をたたむことを考えていたのだ。

「それもこれもあの子のおかげだねぇ。」

「あぁ。俺達の倅のおかげだな。」

二人で厨房の方を振り向く。
酒場からのカウンターの向こうに位置する厨房は、ここからでも中にいる人間をみることができる。

そこにいたのは、一人の男。
あたしにも夫にも似ても似つかない、ひょろっとした男だ。
あたしの赤髪にも夫の茶髪でもない黒髪をもった若い青年。

右へ左へと忙しく動き回り料理を作る、この店の料理人にして、あたし達の愛すべき息子だ。

「あたしの夢を叶えてくれたのはあの子のおかげだよ、本当に。」

「ああ。自慢の倅だ。」

「何言ってんだか。あの子を拾うのに最初は反対していたくせに。」

「む。過去は振り返らない、明日を求めるのが冒険者だ。」

「あん?ここにいるのは冒険者を引退したロートルで、現酒場の主人と可愛い給仕だけだよ。」

「・・・可愛い?」

「あぁん!?」

「俺の目には美しい給仕しか映らないな。」

「大好きだよこの野郎!」

「俺もだこの野郎。」

「「がっはっは!」」

「おーーい、姐さーーん!乳繰り合ってないで俺の注文を兄ちゃんへ伝えてくれよー!」
「わかってるよ!黙って待ってな!」

理不尽だぁ、と冒険者が嘆く姿を夫と二人で笑い飛ばす。
客を待たせるほど忙しいというのは、今までにない経験だ。

「・・・ホント、あの子を拾ってから毎日が忙しいね。」

「全くだ。嬉しい限りだな。」

「あの子を拾った、あたしの選択は間違っちゃいないだろ?」

「ああ。いつだってお前は正しいよ。」

あの日、あの子を拾ったあの日から、あたし達夫婦の日常は大きく変わった。

厨房で動き回る黒髪を眺めると、つい昨日のように思い出す。






















//////////////////////////



「・・・買出しをするのも今日で最後だね。」

「・・・ああ。」

夫と二人で買い物を終え、食材を持って酒場兼家への道を歩く。

「長いようで短かったねぇ。」

「そう、だな・・・」

あたしの言葉に夫は言いづらそうに同意した。

「・・・悪かったね、あたしのわがままにつき合わせてさ。」

「今まで俺のわがままに付き合ってもらっていたからな。」

「それでも、だよ。あんたほどの冒険者は引退させたのに、この体たらくじゃね。」

「それでも、だ。俺は愛する女のためなら冒険者なんぞいつでもやめたさ。」

「そうかい。大好きだよこの野郎。」

「俺もだこの野郎。」

夫婦愛を確かめた後は、互いに口を閉じてただ歩く。
手に持った食材は結構な重さだが、きっとこれらを使うことはないのだろう。

10年、酒場を始めてから10年たった。
それは長かったのだろうか。
流れていく時間は一瞬のようで、店を持った時のことをまだ覚えている。

10年前、あたしらは冒険者だった。
剛腕のバラガスと双剣のレベッカといやぁ、そこそこに名の売れた冒険者だ。

王族の依頼だって受けたことがある。
10年前で30代半ばのあたしらは、冒険者としてはピークを過ぎていたが、豊富な経験と鍛えぬいた肉体からまだまだ現役だった。

だが、引退した。
冒険者仲間やギルドの連中には引き止められたが、引退した。

あたしの夢に夫が賛成してくれたからだ。

あたしの夢、それは自分の店を、食堂を持つことだ。
小さい頃からの夢だった。
汚い店に客がひしめき合って、料理を食って笑顔になる。
そんな夢をあたしはずっと持っていた。

冒険者もそこそこに楽しかったから夢は半ば諦めていたが、夫の進めで夢へ挑戦することになったのだ。

まぁ、この時代に食堂だけじゃやれないだろうと話し合った結果、食堂ではなく酒場になったわけだが。

幸い蓄えは結構持っていた。
夫婦で駆け抜けた冒険者時代の蓄えは何もしなくても40年は食っていける程度に溜まっている。

そのおかげで、ここ首都に小さいながらも立派な店を持つことができたのだ。
30人ほどが入れる食堂、2階は住居になっている。

店が立ったときは不覚にも泣いちまったよ。

それからは試行錯誤の連続だった。
酒も料理も素人のあたし達は必死で勉強して毎日が挑戦だったのさ。

初めて来た客に喜んだ。
この酒場で笑ってもらえるように努力した。
また来てもらえるように試行錯誤した。

店を始めてからは、客の数は少ないがそれなりにやっていけていた。
だが、それも長続きしなかった。
客の目当ては剛腕と双剣の冒険譚であって、酒でも料理でもなかったからだ。
引退した冒険者の名声など、数年もすればなくなっていく。
それに会わせるように客もこなくなった。

結局のところあたし等の酒も料理も普通なのだ。
うまくもなくまずくもなく。
せいぜいそこいらの家庭で楽しめるレベルのもの。
この大都市で、その程度のレベルじゃ廃れていくのも当然だ。

そして、時折訪れる数人の客を待つ日々が続く。
10年もすれば、かつてあった蓄えもほとんど使い切ってしまう。

だから、今日が、最後の、営業なのだ。




「この道を歩くのも、最後かねぇ。」

「散歩道にでもすればいいさ。」

「そりゃ粋なことだ。」

毎日のように歩いた、買出しの道。

二人で思い出を踏むように歩いていた。

そんなときだ、ふと、道の脇にある暗い路地に目が行く。

「あれは・・・」

そこにいたのは男。
壁にもたれるように座り込み、足を抱くように座っている。
ただじっとそこに、誰にも気づかれないように静かに座っている。

「・・・おい、兄ちゃん、どうしたんだい?」

普段なら無視した。
でも、今日という日においては、あたしの胸に寂しさと優しさがあったのだろう。
この活気溢れる大都市において、この男のような浮浪者を見るというのが珍しかったというのもあって声を掛けてしまった。

「兄ちゃん?この街でそんな暗いなんてどうしちまったんだい。ん?仕事がないなら斡旋してやろうか?」

あたしは、この男が仕事にあぶれた若者だと思った。
夫もそう思ったのだろう。
あたしの言葉にうなずいている。

ノウム王国首都ノウムは、仕事に溢れている。
それに、あたしら夫婦は伊達に二つ名持ちじゃない。
引退して10年だがギルドにもまだ顔が利く。
だから、この暗い雰囲気の若者に仕事ぐらい見積もってやろうかと思った。

そして、あたしの言葉にうつむいていた顔をあげる若者。

「っ!?」

「おまえ・・・」

その顔を見たとき、あたしも夫も息を呑んでしまった。

その目に映るものは、絶望。
全てを諦めきった瞳。
何度も見た。
冒険者が無念のまま死に際に見せる瞳だ。

決して、こんな、街中で見るもんじゃない。
まして、若者がする顔じゃない。

「おい、兄ちゃん・・・」

「にゃる・しゅたん!」

「あ?」

声を掛けると、その若者は訳のわからない奇声を発した。

「にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!」

「お、おい、兄ちゃん、どうした?」

あきらかに様子がおかしい。
怯えきった顔。
この世界に自分しかいないという絶望した顔。
その言葉にも狂気しか感じない。

「○×△!○×△!」

もはや何を言っているのかもわからない。
いや、もしかしてこいつは、あたしらの言葉を喋れないのか・・・?

「レベッカ。」

「待ちな、あんた。」

夫が声を掛けてくる。
関わるべきじゃないとその顔はいっている。

「○×△!○×△!」

奇声を上げ続ける男。
その顔をじっと見つめる。
そこに、絶望以外の感情を見つけた。

こいつは、助けを求めている。
必死に、あたし達に助けを求めているんだ。
言葉の通じないこいつにとって、声を掛けてくれたあたし達が唯一の繋がりなんだろう。
よくよく見ると、こいつの顔は疲れに満ち、やつれきっている。
仕事溢れるこの街では、若者というだけで仕事がある。
決して食いっぱぐれることなんてないはずなのに、この若者は何日も食事をしていないかのようなやつれ具合だ。

「・・・兄ちゃん、あたし等と来るかい?」

「おい、レベッカ。」

「黙ってな。・・・ん?どうする?」

あたしの言葉はきっとこの若者は理解できていないのだろう。
できるだけ優しく言ったあたしの言葉にも、泣きそうな顔で首を傾げるだけだった。

「おし、決まりだ、お前は連れて行くよ。」

若者の手を握って、引っ張り上げる。
こいつは驚いたような顔を見せたが、抵抗することなく立ち上がった。

「おい、レベッカ・・・!」

「いいじゃないか、あたし等の最後の客さ。」

「・・・」

「ま、あたしのわがままで始めた店だ、あたしのわがままで終えてもいいじゃないか。」
「・・・わかった。お前の優しさに惚れ直しちまったよこの野郎。」

「やだねぇ!あたしもだよこの野郎!」

「「がっはっは!」」

夫も腹をくくったのだろう。
さっきまでの否定的な感情がなくなったようだ。
笑いあうあたし等に、手を握っている若者はわけもわからず首をかしげている。











「おーし、待ってな。今に最高の料理を振舞ってやるよ!」

店に帰ってきて、若者をテーブルへと座らせる。
道中もこの若者は怯えた表情しか見せなかった。
そしてわかったことは、こいつはあたし等の言葉を喋れないし、理解もできないってことだ。

このクロス大陸は共通言語が成り立っている。
が、特殊言語と呼ばれるものもある。
特殊な一族が使うそれは、まぁ表立って出るものじゃない。
きっとこの若者はそこの出身なのだろう。

しかし、共通言語を喋れないってのは絶対にありえないことなんだけどね。
共通言語は精霊があたし等、人に与えた言葉だ。
この大地に生まれたものは、自然と憶えるんだが・・・

まぁ、いいさ。今やるべきことは、若者の出自を考えることじゃなくて、料理を作ることなんだから。




「はいお待ち!がっつり食べな!」

若者の前に料理を置く。
ついでに夫と自分の前にも置き、早い晩御飯を食べることにする。

「どうした兄ちゃん。遠慮せずにがっつりいきな!」

「ああ。こいつの料理は普通だが、食べれるぞ。」

「食べれるってなんだい!あんたは晩御飯がいらないみたいだね!」

「ああ。俺の妻の料理は最高さ。味わって食べな。」

「畜生!大好きだよこの野郎!」

「俺もだこの野郎。」

「「がっはっは!」」

「・・・?」

若者はあたしの料理を前にして、首をかしげていた。

「・・・もしかして、これを見るの初めてかい?」

「○×△。」

「ああ、ごめん。全くわかんねぇや。」

「○×△?」

「いいよ、いいよ。気にしなくていいから食べな。」

あたしの出した料理は、普通の家庭料理だ。
この国に住むものなら必ず食ったことがある。
それを知らないとなると、こいつの出身はどこだろうね。


「・・・」

おそるおそる、といった感じで料理を口に運ぶ若者。

「・・・!」

「おいおい、慌てるなよ。」

夫がそう声を掛けるほどに、若者は料理を次々と運んでいった。
そして、その顔には涙。

「あっはっは。あたしの料理がそんなにうまかったかねぇ!」

涙を流しながら、必死に料理を食べ続けている。

「○×△!」

食べながら、こちらに声を発する若者。
何を言ってるのかわかないが、きっと「ありがとう」とか言ってるんだろう。









「ごちそうさん。」

「あいよ。」

「○×△。」

結局、大量にあった料理は綺麗に食べられてしまった。

「こんだけ綺麗に食われたってのは気持ちがいいねぇ。」

「・・・」

食事が終わったってのに、まだ涙を流し続ける若者。

「おいおい兄ちゃん。あたしの料理がうまかったからって、泣きすぎだよ。」

「うむ。男がそう泣くもんじゃない。」

まだ出合って短い時間しかたっていないが、あたしも夫もこの若者に気を許していた。
警戒していた夫でさえ、いまでは本気で心配してる。
不思議なやつだよ。
手入れの行き届いた黒髪。
小奇麗で見たこともない服に身を包むその姿。
だが、顔はやつれきったように疲れている。
なんともアンバランスだねぇ。


「○×△。」

「ん、なんだい?」

若者は長い袖に隠れた左腕をこちらに差し出した。
そして、袖をまくると・・・

「こ、こいつは!?」

「・・・!?」

あたしも、バラガスも本気で言葉を失う。
その腕にあったのは、【鉄の輪】だった。

それは、奴隷を示すものだ。

「なんて、こった・・・」

「・・・!」

あたしは言葉を失い、夫は怒りでギシリと歯軋りを立てる。

奴隷、この大陸において最も忌むべき行為。
クロス大陸において、全ての人間は精霊の子とされる。
身分の違いはあれど、人は皆自由で己の人生に責任を持つというのがこの世界の常識だ。
そして、奴隷という人を隷属させるその行為は最も嫌われており、もし、奴隷になることを強要したらその場で首を落されても文句はいえない。

老若男女、全ての人にとっての常識で、今、目の前にいることが信じられなかった。


あたし等夫婦は、かつて、一度だけ奴隷を見たことがある。
ある王族の依頼で、貴族の屋敷へと侵入した時だ。

その屋敷の地下には、幾人かの奴隷がいた。
【鉄の輪】をはめられた彼らは、日の光も届かぬそこで、強制労働をさせられていた。
満足な食事もないのだろう。やつれた彼らは今にも死にそうだった。

当然、そんな光景を見たあたし等は我慢できなかったのさ。

その日の内に屋敷を強襲で貴族を捕らえた。
普通なら貴族を捕らえるなんてやっちまったら、死刑なんだが、奴隷という忌むべき行為を行っていたそいつは、拷問の上死刑となり、あたしらは賞賛されたのさ。





目の前にいる若者が奴隷。
それは、到底許せるものじゃない。

「あんた・・・」

「ああ、わかっている。まかせろ。」

夫はそう言うと、差し出された左腕にはめられた【鉄の輪】を握った。

「少し、痛いぞ。」

「○×△!?」

「ぬぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

「!?!?」

さすが剛腕のバラガス。
バキンという甲高い音を立てて、【鉄の輪】が割れた。
これで、この若者は自由の身だ。

自身の腕にあったものが壊れたことが信じられないように呆然とする若者。

そして、急に椅子から立ち上がると、床に座り込み、額を床へとこすりつけた。

「おい!」

「お前・・・!」

それは、礼頭の儀。
自身の人生を捧げてでも、恩を返すという儀式の型。
普通はこの儀式をする者はいない。
人生を捧げるってことは、自由じゃなくなるってことだ。
なのにこいつは躊躇せずそうした。
言葉もわからない、この哀れな若者はきっとそうすることでしか、恩を返せないと思っているのかい・・・!
そうするほどに、こいつは壮絶な人生を送ってきたってことかい・・・!


「もういい!もういいんだよ!」

いまだに、頭をあげない若者を無理やりにでも起こし、抱く。

「もう、あんたは、そんなことはしなくていいんだ!」

ちくしょう、涙が止まらないよ。
こんな若い奴が人生を捧げるなんてことをするほどに、歩んできた人生が酷いことが我慢できない。

「○×△。」

「ああ、あんたはもう自由なんだ。これからあんたは、あんたの人生を歩めるんだよ!」
ボロボロと大粒の涙を流すあたし達。
もう、こいつを放っておくことなんてできやしない。














「今日はこの部屋で寝な。多少埃っぽいけど、ベッドはいつでも使えるようにしてたから大丈夫だよ。」

「○×△!」

「ああ、いいからいいから。そんな何度も頭さげなくても。」

「うむ。ゆっくりと休め。」

「ん、じゃお休み。」

「○×△!」


若者を客間の一室へと連れて行き、あたし達も寝室へと入る。

「なぁ、あんた。」

「ああ。」

「あの子、さ・・・」

「うむ。俺も考えていた。」

「いいのかい?」

「もちろんだ。」

言葉足らずだが、あたしらにはそれで十分だった。
あの若者を引き取る。

正直いって、あの子に対する感情は同情しかない。
でも、あの可哀想な子をほっぽりだすことなんてできそうにない。

「この年になって息子ができるとはな。」

「おいおい。気が早いよ。まだ伝えてもいないのに。」

「いいじゃないか。なんだかんだいって、俺はあいつのことを気に入っているようだ。」
「あたしもだよ。」

あたし達に何度も何度も頭を下げ、礼を尽くす若者。
あんなにも誠実な奴はそうそうに居ない。
そんな所をあたしら夫婦は気に入ってしまったのだ。

「そういえば、あいつの名も知らないな俺達は。」

「そういやそうだね。あの子もあたし等の名を知らないよ!」

「「がっはっは!」」

名も知らぬ若者を引き取る。
だけど、微塵も躊躇はなかった。

「何歳ぐらいかな、あの子。」

「10代後半だな。俺達が20代後半の時の子供だ。」

「おぉ、ちょうど結婚したときぐらいだね。」

「うむ。」

「なにかの、縁だね・・・」

「レベッカ・・・」

「ごめんよ・・・」

「謝るな。あれは俺のせいだ。」

あたしは、子が生めない。
冒険者時代に浴びた魔獣の毒のせいだ。

「でもさ、子の生めないあたしなんかと・・・」

「それ以上言うな。俺は後悔なんぞ微塵もしていない。」

ずっと後悔してた。
将来有望なバラガスの結婚相手として、相応しくないんじゃないかと。

「俺は、お前とこうしていられて幸せだ。」

「・・・あんた。」

「それに、遅くなったが息子もできる。そうだろ?」

「ああ、そうだ、そうだね・・・」

「店は終わっちまうが、家族が増えるんだ。俺達の人生もこれからさ。」

「うん。これからだよ・・・」

畜生、さっきも散々泣いたのに、また涙が出てきやがった。
でも嫌じゃない。嬉し涙は歓迎するさ。
夫の言葉と、明日からの新しい家族との生活に心躍らせてベッドへと入る。









「ああ、あの子へはあんたが伝えてよ?」

「何!?」

「当然だろ、お父さん?」

「む、むう。お前に結婚を申し込んだ時並に緊張してきた。」

「はっはっは!ならやれるさ、成功したんだから!」

「・・・善処する。」









そして、次の日、家族が増えた。














//////////////////////////



言葉の伝わらないこの子に家族にならないか?と伝えるのは苦労したもんさ。
身振り手振りを交えて、いっしょに暮らさないか、と。

結局、どういうふうに伝わったのかわからないが、あの子は笑顔であたし等と生活している。

でも言葉が伝わらないってのはやっぱり厳しいねぇ。
自己紹介にも苦労したもんさ。


「いいかい、あたしはレベッカ。レベッカだよ?」

「るぇびゅかー。」

「レベッカ。」

「れびーかぁ。」

「レベッカ!」

「レベカ!」

「ああ、うん、それでいいよ・・・」

「がっはっは!」

「笑うんじゃないよ!次はあんただ!」

「おう。いいか、俺は、バラガスだ。」

「ぶぁかすん。」

「バラガス。」

「バカス。」

「バ・ラ・ガ・ス。」

「ヴァ・ラ・ラ・ス!」

「あははははは!」

「むぅ・・・」

「ひーっくく・・・次はお前だよ、名前を教えておくれ。」

「?」

「名前だよ。レベッカ。バラガス。あんたは?」

「○○××△△!」

「んー?」

「○○××△△!」

「んん~?」

「ないあ○○ーテツ!」

「もう一回!」

「ナイアルラ・トーテッツ!」

「おっ。」

「トーテッツ、ナイアルラ・トーテッツ!」

「おぉ!トーテッツ、それがあんたの名前だね。」

「○×△!」

「そんなに何度も頷かなくても大丈夫さ。これからよろしく、トーテッツ。」

「ああ、トーテッツ。今日からここがお前の家だ。」

「○×△!」








//////////////////////////


店を閉めてから、特にやることもなくなったので、その分、トーテッツと日々を過した。
この子は本当に何も知らないようだ。
10代後半に見える年齢からして、それは異常だった。
きっと外界から遮断された、場所で生きてきたんだろう。
・・・畜生。

でも、これからは、あたし達がいる。
きっとこれからの人生は幸せにしてあげる。

あたしの夢は終わっちまったが、新しい夢ができた。
この子に言葉を教えて、立派に生きていけるようにすると。



その、トーテッツは店の裏で夫と共にいるようだ。

「いいか、トーテッツ。斧はこう使う。」

「○×△。」

「そうじゃない。そんなへっぴり腰では薪割りはできんぞ。」

「○×△。」

「こうだ・・・ふんっ!」

「!」

「ふ、ふふん。どうだ。すごいだろう。」

「○×△!」

夫もトーテッツにモノを教えるのが楽しいようだ。
一々目を輝かしてみてくるその姿に、夫も年甲斐もなく照れているようだ。

今、あたし達夫婦は間違いなく幸せの中にいる。
子供はできないと思っていた。
そんなところに現れた大きな息子。

子供、というには大きいが、何も知らないあの子には伝えること、教えることが山ほどある。

壮絶な人生を歩んできたあの子には言えないが、あたしはこの出会いに感謝している。
きっとこの出会いがなければ、あたしも夫も残りの人生に色がなかったのだから。
トーテッツを奴隷にした奴は到底許せないが、あたし達が出会う機会を作ったことには感謝してやろう。


「よーし、そうだ、振り下ろせ!」

「○×△!」

「うーむ、惜しい。」

「なにやってんだい、あたしもまぜな!」

この幸福に感謝しよう。











//////////////////////////



トーテッツと過す日々。
いろんなことを教える日々は、店をやっていたころより忙しい気がする。
それはそれで泣けてくるけどねぇ。

そんな日々を過していた今日、トーテッツが厨房に立って料理をしている。
厨房の使い方はあたしが教えてやった。

うん、あれは楽しかった。
息子と一緒に厨房にたつ日が来るとは思っていなかったから。

「しかし、大丈夫か?」

「うーん、どうだろうね。使い方は教えたけど、料理させたことないし。」

朝起きると、トーテッツが厨房にて、こちらに何かを伝えてきた。
身振り手振りで料理をする格好を。
おそらく、朝飯をトーテッツが作ると言っているのだろうと解釈した。

で、とりあえず肯いてやると、笑顔で調理を開始したのだ。

「・・・」

「なんだいあんた、そわそわして。」

「い、いや、なんでもない。」

「はは~ん。大方、息子の手料理が食えることに感動してるのかい?」

「そういうお前こそ、笑顔がいつもより素敵だぞ。」

「なんだって!?大好きだよこの野郎!」

「俺もだよこの野郎。」

「「がっはっは!」」


そうこうしていると、トーテッツが手に皿を持ってきた。

目の前に置かれたそれは、黄色のなにか。

「なんだ、これは?」

「なんだろうね、これは。」

夫もあたしも見たことがない料理。
卵を使っているのは見えたが、こんなものがでるとは予想していなかった。
あたしがつくる、どこにでもある真っ黒な家庭料理とは全く違う鮮やかな黄色。
どうやったら同じ材料でこれができるんだか。

「と、とりあえず、食うか。」

「あんた、よだれ、よだれ。」

見たことがない料理なのに、すごくうまそうに見える。
というか、うまそうな匂いがする。

「・・・!?」

「こ、これは!?」

あたしも夫も絶句する。
それは食べた瞬間にとろけるように消えた。
やや甘いほのかな味が口全体に広がる。

何が言いたいかって、うまいんだよ!

「うまい!」

「こんな、うまいの食ったことないよ!」

それからはもう止まらない。
夫と二人で、貪る様に目の前の料理に飛び掛った。







「あぁ、うまかった・・・」

「うん・・・うまかった・・・」

「○×△。」

満足した。ここまでうまいものは、冒険者時代に食った高級料理屋でもなかった。

「トーテッツ、お前は・・・」

「やめろ、レベッカ。」

思わず、トーテッツになぜこんなことができるのか問おうとした。
すぐに夫に止められたが。
夫の瞳が語っている。
これが、理由だと。

ああ、あたしも気づいたさ。
こんなうまいものが作れるから、奴隷にされてしまったのだと。
この腕前なら、きっと王宮の料理人、いや、世界一の料理人になれる。
そして、その腕があったがために、奴隷にされちまったのか・・・

「○×△?」

トーテッツはいきなり暗くなったあたし達を心配するように声を掛けてきた。

「いや、なんでもないよ!うまかったよトーテッツ!」

「あぁ、最高だった、ありがとうトーテッツ。」

笑顔で礼を述べると、トーテッツも笑顔で返してくれた。

畜生、この子は笑顔で料理を作ってくれた。
きっと嫌な思い出しかないはずなのに。
あたし等のために作ってくれたのだ。

「目が潤んでるぞレベッカ。」

「そういうあんたも目が赤いよ!」

夫もあたしも嬉しくて泣きそうだよ。

「・・・で、これはなんて料理だい?」

「?」

「料理の名前。まあ、わからないならそれでいいけど。」

「○○×。」

「ん?」

「タマグンヤキン(※4)。」

「へぇ、タマグンヤキンか。聞いたことないけどうまかったよ。」

今日ほど、気持ちのいい朝はないだろうさ。






//////////////////////////


その日の夜。
晩御飯もトーテッツが作ってくれている。

あたしも夫も今か今かと待ち望んでいた。

そのときだった、表の扉が開いたのは。

「邪魔するぜ旦那。」

「ん?おぉ、ランドじゃないか。久しぶりだな。」

「お久しぶりでさぁ、姐さんもお元気そうで。」

「まぁまぁだね。」

入ってきたのは、夫のかつての弟子、ランドだった。
ここ数年は姿を見なかったが急にどうしたのだろうか。

「で、どうしたんだい?」

「いやぁ、久しぶりに首都によったんで顔みせにでさぁ。今、俺が率いているクラン(※5)をここで仕事させようと思いやして。」

「そうか、ゆっくりしていけ。」

「ありがてぇぜ旦那。これは土産だ。」

そういって渡されたのは酒。
こいつは無類の酒好きだったね。

「それにしても、店、やめちまったんで?」

「まぁ、な。さすがにああも閑古鳥が続くとな。」

「そうですかい。首都で酒場を続けるのは厳しいでしょうしねぇ。」

「まったくだよ。廻りにゃライバルが多すぎてね。でも、いいさ。今は店より楽しいことがある。」

「そいつは良かった。で、今厨房にいるのは誰で?」

「あたし等の自慢の息子さ。」

「・・・そうですかぃ。楽しそうでなによりでさぁ。」

こいつもあたしの体のことは知っている。
それで、息子って言葉を察してくれたんだろう。
気遣いができるところはさすが夫の弟子だといえるね。

「お前も食っていくか?俺の倅の料理は絶品だぞ。」

「おぉ!いいんですかい!?さっきからいい匂いで、たまらなくってよぉ!」

「あぁ。あと、内の倅は訳あって言葉が通じない。脅かすなよ。」

「あ、あぁ。了解。マジモンの殺気こめるはよしてくれよ旦那。」


そうこうと、昔話に花を咲かせていると、トーテッツが皿を持ってやってきた。

「○×△?」

見知らぬ男、ランドにちょっと驚いたようだが、あたし等が笑いあってるのを見て安心したのだろう。
こっちへとやってきて配膳をしてくれる。

「初めまして、だ。俺はランドってもんだ。よろしくな兄ちゃん。」

「○×△。ナイアルラ・トーテッツ。」

「おお。よろしくトーテッツ。」

挨拶をすませ、いよいよ晩御飯だ。
目の前にあるのは・・・なんだろう?

「あ~旦那。これはなんで?」

「・・・わからん。」

「姐さん?」

「さぁ?とりあえず食いな。味は保障するよ。」

まずは、一番上の茶色いもの。
これは、肉かい?
周りを覆う茶色いものはわからなかったが、その中身は肉のようだ。
でも普段食べてるようなカスッカスの肉とはまるで違う。
噛めば噛むほど味が染み出てくるようだ。
厨房にあった肉は普段あたしが使ってるものなのに、初めて食べる味だ。

「おぉ!おぉぉぉぉ!」

ランドはその味に驚いたように声をだし、料理を口へかきこむ。

次は、茶色の下にある、白い何か。
これは、なんだろうね。
こんな材料はなかったはずだけど。

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

ランドは発狂したように笑いながら料理を食べている。
おい、トーテッツがびびってるだろ。やめろ。

白い何かを口に含み噛む。
すると、どうだ。
口に広がるこの甘さは。
果物のような甘さとはまるで違う。
なんていうか、うまみという名の甘さだ。
あぁ、こういうとき学のない自分の頭が嫌になる。
なんてこの感動を伝えたらいいんだい!

あたしも夫もランドも、夢中になって食事を続けた。










「あぁ・・・うまかったぜ・・・」

「あぁ・・・うまかったな・・・」

「うん・・・うまかったねぇ・・・」

あたし等3人は食事を終えて呆けたように椅子に座り込んでいた。
トーテッツは皿を洗っているようだ。
本当にできた子だよ、まったく。

「なんだよ、旦那。店を閉めたのはこのためかい?」

「ん?」

「あの兄ちゃんに店を継がせるためだろ?その準備期間ってことじゃねぇんですか?」

「・・・いや。」

その言葉は思いもしないものだった。
店を継がせる。
確かに、トーテッツの料理があれば、この店はやっていけるだろう。

だが・・・

「あたし等はトーテッツを料理人にするつもりはないよ。」

「ああ。」

「それは、なんでまた?」

当然だ。あの子はその料理で人生を棒に振ったんだ。
今でこそ、あたし等のために料理をしてくれているが、それを表にだすつもりはない。
別に、独り占めにするとかじゃない。
表に出して、かつてあの子を奴隷にした奴に知られる可能性があるからだ。

もちろん、そんなことになったら、あたし等夫婦は命をかけてあの子を守るさ。
だが、あたしも夫も年をとりすぎちまった。
きっと守りきれない。

「なんでも、さ。この店が再開することはないよ。」

「そうですかぃ・・・もったいないねぇ・・・」

「何とでも言え。」

店はあたしの夢だった。
だけど、今となってはトーテッツのほうが大切だ。

「な、ちょいと頼みがあるんだが。」

「なんだ?」

「明日の夜に、クランの連中を連れてきてもいいですかい?内のやつらにも食べさせたくってよぉ。」

「むぅ・・・それは・・・」

「頼むぜ旦那!金は払うからさ!」

「むぅ・・・」

ランドとしては絶品の料理を身内であるクランに食べさせたいのだろう。
さて、どうするか。断りたいが恨みは買いたくない。

「なぁ、頼むよ!兄ちゃんもいいだろ?」

気づけば、トーテッツが傍にいた。
ランドはトーテッツに直接頼んでいるようだ。

「?」

幸か不幸か、言葉のわからないトーテッツは首をかしげている。

「あぁそっか、わかんねぇんだったか・・・えっとこうだよ。俺、仲間、食べさせたい。」

身振り手振りでなんとか伝えようとするランド。
それに対し、トーテッツは笑顔で肯いた。

「おぉ!感謝するぜ、じゃあまた明日くるからよ!」

「おい!まてランド!」

「待ちな!」

勝手に良いほうにとりやがって!
トーテッツは絶対にわかってないよ!

「あぁ、あの馬鹿・・・勝手なことを・・・」

「まったくだ。ランドにはもう一度俺の恐ろしさを教えるべきだな。」

夫と顔を見合わせて、やれやれと首を振る。
トーテッツはわけもわからずこちらを見るだけだ。
はぁ・・・この子は・・・













//////////////////////////

次の日の夜。

トーテッツは厨房でたくさんの料理を作っていた。
昨日食べたやつと同じ料理、トーテッツ曰く「ガッツデューン」と言うらしい。
昨日のランドの身振りを奇跡的に理解したのかねぇ?

まぁ、楽しそうに料理するこの子を止めることはあたしにはできなかった。


「邪魔するぜ!旦那!」

「帰れ。」

「ひでぇ!」

夫はやはり大勢の目に息子を晒したくないようだ。
あたしも同意見だね。

13人の男女を引き連れたランドを夫が店先で止めている。
あたしも当然夫を援護している。

「えぇ~息子さんは良いって言ったじゃねぇですか。」

「言ってない。」

「ほらほら、料理、作ってくれてるみたいだし。」

「あれは俺達の晩飯だ。」

「またまたぁ、テーブルいっぱいに並べてやすぜ?」

「トーテッツ・・・」

後ろを振り向くあたしと夫。
そこには昨日と同じ料理が人数分、つまりあたし等を含めた17人分の料理があった。

「○×△!」

トーテッツは笑顔でこちらを手招きする。
全く、あんな嬉しそうな顔されたら怒ることもできやしない。

「いいか、ランド。」

「へ、へい!」

夫が声を落してランドへと言う。

「トーテッツに何かしてみろ・・・そのときは・・・」

「い、いやだなぁ!旦那!俺が坊ちゃんに何かするわけないでしょ!?」

年をとっても剛腕は健在だね。
夫の殺気に後ろの連中もびびってる。
若い冒険者もビビらす胆力はさすがあたしの夫だよ。







そこからは和やか、いや騒がしいもんだった。
ランドのクランはトーテッツの料理に驚き、なんどもおかわりをして、ランドが持ってきた大量の酒をかっくらっている。
かく言うあたしと夫もランドの酒をがっつり飲んでるわけだが。

まるで、酒場のようだ。
嬉しくないといえば、嘘になる。この光景は間違いなくあたしが夢見たものだから。


宴を楽しんでいると、表の扉が開いた。


「おぉーにぎやかだねぇ。5人、入れるかい?」

見知らぬ冒険者が5人。
外まで響く喧騒に、ここが酒場だと思ったのだろう。

「ちょっと待ちな。」

ランドのクランだけでもやっかいごとなのに、これ以上の人間はだめだ。

「ん?」

「悪いけど、ここは酒場じゃ・・・」

「○×△!」

入ってきた冒険者を追い出そうとすると、トーテッツがこちらに声を掛けてきた。

「○×△!」

「おぉーそっちが空いてるのか。悪いな兄ちゃん。」

笑顔で手招きするトーテッツ。
あの子は、こいつらも客だと思っているのだろうか?

「トーテッツ待ちな・・・!」

「レベッカ。」

このままじゃまずい、と声を荒げようとした矢先、夫に止められる。

「なんだいあんた!早く追い出さないと!」

「・・・もう遅い。それに、トーテッツを見ろ。」

夫の言葉に息子の顔を見る。
そこには、嬉しそうな笑顔。

「・・・なんで、料理は、あの子にとって・・・」

「いや、トーテッツはきっと料理がすることが好きなんだろう。」

「でも!」

「あの子にとって憎むべきは奴隷にしたやつってことだ。料理じゃない。」

「このまま、あの子のことが知れ渡ったら・・・!」

「それに、きっとお前のためだ。」

「え?」

今、なんと言った?
あたしのため?

「トーテッツは、ずっとお前をみていた。この酒場で悲しそうな顔をするお前をな。」

「・・・」

「今日、あの子が最も笑顔を輝かせたのは、客が入った瞬間だ。」

「!」

「きっと、あの子はこの酒場に客が来たことを喜んだんだ。そして、そのことに喜んだお前の笑顔を見て、な。」

「何を!」

あたしは、別に喜んじゃいない。あの子が危険になるようなことを・・・!

「嘘だな。お前はランド達が騒ぐの見て、笑っていた。そして5人が入ってきたとき、確かに喜んでいた。」

「・・・」

「そして、トーテッツはそれをみて、喜んだのさ。」

「・・・!」

あの子は、あたしの・・・!

「見ろよ、レベッカ。トーテッツは嬉しそうに料理をしてるじゃないか。」

「そう、だね。」

「きっと、酒場をやることはあの子のためにもなる。」

「そう、かね。」

「ああ。もう一度夢を見てもいいんじゃないか?」

「そう、だろうか。」

「親子でやる酒場ってのも悪くないさ。」

「そりゃ、嬉しいよ、でも・・・」

「あの子は俺達が守る!」

「!」

「だろ?何も、問題はないさ。」

「・・・畜生・・・そんなこと言われたら、反対なんかできないじゃないか!」

嬉しい、ああ嬉しいよ!また酒場が開けるってことが!

「あの子は絶対にあたし等で守るんだ!」

「当然だ。バラガスの酒場、新装開店ってやつだ。気合入れろよこの野郎。」

「それはあたしの台詞だよこの野郎!」

















//////////////////////////


あれから、数ヶ月。
噂が噂を呼び、いまじゃ満員が当たり前になった。

あたしの息子が料理つくってんだ。当然だけどね。

「トーテッツ!注文だよ!」

トーテッツはあたしの張り上げた声にこちらを向く。

「ガッツデューン、ガッツデューン、ゴンゾンスプー(※6)、サラダンヨグトソース(※7)だ!」

トーテッツは言葉がわからない。
当然数字も伝えようがない。
だから、料理名を一つずつ、必要な分だけ言う。

「○×△!」

そうすれば、笑顔で肯いてくれる。
あたし達の絆があればこれぐらいでしっかり伝わるのさ。

「頼んだよ!」

「○×△!」

トーテッツの笑顔に笑顔で頼む。
幸せに浸りそうになるが、そんな暇はないよ。


さぁ、『バラガスの酒場』、今日もがっつり働くよ!
















※1 光明石:夜になると光る苔をつけた石。街中に設置してあるので、夜でもそこそこ明るい。


※2 ガッツデューン:バラガスの酒場のメイン料理。茶色い何かで覆われた肉を白い何かの上に乗せている。


※3 エイル酒:安酒の代表。仕事の終わりにこれを飲むのは様式美。

※4 タマグンヤキン:黄色い何か。卵から作られるらしいが、黄色い固形の料理は通常みかけない。酒場のメニューの一つ。

※5 クラン:冒険者の団体。ギルド(組合)に認められた集団。

※6 ゴルゾンスプー:色の付いたお湯。お湯なのにうまい。酒場のメニューの一つ。

※7 サラダンヨグトソース:白い液体がかかった野菜。若干すっぱい白い液体が野菜の味を引き立てる。酒場のメニューの一つ。




~あとがきのような何か~
お読みいただきありがとうございます。
異世界迷込の練習です。

剣も魔法もあるけれど、何それおいしいの?
をモットーにひたすら料理する地球人。
そんなノリ。
言葉は一切わからないけど、うまい料理があれば友達になれるよ。
そんなノリ。

今回は導入ってことで、異世界側の視点のみです。
次回は主人公側の視点です。

ではでは~



[27121] 異世界迷込日常系2
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/05/18 01:09


「やぁ。」

女の声が聞こえる。

「見てご覧。あの輝きを。」

ドロドロとして。

「いつか僕達が見たト■■■ヘ■■■のようじゃないか?」

甘く漂い。

「泣いているのかい?」

右から左から前から後ろから。

「あのときも君は泣いてたっけ?」

ぐちゃぐちゃとまとわり憑き。

「君はいつだって泣き虫だね?」

脳髄に直接響く。

「あのときのように、慰めてあげようか?ん?」

それはとても不快で。

「ヒドイな、君は。」

いつまでも聞いていたい。

「あはっ。素直だね君は。」

だけど。

「可愛いね、食べちゃいたいよ。」

怖い。

「本当に可愛い。」

とても怖い。

「そんに怯えなくてもいいだろう?」

だって、怖いんだ。

「本当にヒドイな。僕達はこんなにも近くに居るのに。」

知らない。

「ふふ、36万、いや、1万4千年だっけ?」

知らない。

「まぁいいや。とにかく、長いこと連れ添ったじゃないか。」

知らない。

「あぁ。そうか。君にとっては明日のできごとだったね。」

知らない。

「うん。まだ知らないね。」

そうだ、知らないんだ。

「それじゃあ、仕方がないね。」

うん。仕方ない。仕方ないから放っておいてくれ。

「うん。わかったよ。」

わかってくれて、ありがとう。












「僕が、迎えに、逝くね?」










【SAN値が減る】















/////////////////////////

「~~~~~~~っ!?」

とてつもない怖気と共に目が覚めた。

「うぅぅおえ゙ぇぇぇ・・・」

何度目の嘔吐だろうか。
もはや胃になにも残っていないのに、いまだに嘔吐という行為ができることに驚く。

「はぁ・・・はぁ・・・」

ドクドクと心臓が跳ね回り、何時間も運動をしたような疲れが襲い掛かってきた。

「はぁ・・・」

呼吸を整えて、近くの建物を背にずるずると座り込んだ。

「・・・変わってない。」

座り込んで、辺りを見渡し、呟く。
何度見ても変わっていない。
俺が隠れている路地の向こう、おそらく町の大通り。

俺の目に映りこむ風景は、石造りの町並み。
ガチャガチャと音を立てて歩く甲冑。
フラフラと腰に下げられた刀剣。
カッポカッポと歩く、角の生えた馬。
猫耳の生えた人。角の生えた人。翼の生えた人。
生まれてこの方、漫画かアニメかゲームでしか見たことのない風景だ。


「う・・・うぅ・・・」

再認識した現状に、嫌でも嗚咽が漏れる。

ここは俺のいた世界じゃ、ない。

これは、決して、コスプレとか、撮影とかじゃ、ない。





だって、言葉が狂って、いるから。





路地の向こうから聞こえる喧騒。
聞こえる言葉が理解できない。
いや、理解できないだけならば、ここは外国のコスプレ会場だと思ったかもしれない。
違う、違うんだ。
聞こえてくる言葉は。

「■■■!」

錆びた鎖がこすれあうような。

「■■■?」

ガラスを思いっきり引っかいたような。

「■■■。」

ギチギチとした、不快な音。

「■■■・・・」

頭に響く曲がった音。

人の形をしたモノの口から出るのに。
人の音じゃない。

「・・・うぅ!」

路地の向こうから聞こえる捻じれた喧騒に、ガシガシと頭を掻き毟る。
どうにかなってしまいそうだ。





何度も夢だと思った。

でも、ここは暗い路地だった。

寝て起きれば、そこは自分の部屋だと思った。

―でも、ここは暗い路地だった。

耳を塞ぎ、目を塞ぎ、やがて訪れる夜に身をゆだね朝を迎えた。

――でも、ここは暗い路地だった。――ムカ■ニ■■ヨ

自分が何で、ここがどこだったかわからなくなる。

「だ・・・め、だ・・・」

ドロドロと路地の暗闇に溶けそうな感覚になる。

「だめ、だ・・・」

それは、きっととっても気持ちのいいことなのだろう――ムカエニキタヨ








【SAN値が試される】




「だめだ!」

――どうして?

「違うんだ!」

――なにが?

「ここは違う!」

――違わないさ。

「違う!ここは俺のいたところじゃない!」

――『俺』って誰だい?

「俺は俺だ!」

――ふふ、誰だっけ?

「俺は・・・おもい、だせ・・・」

――ん~?誰だっけ?

「思いだせ・・・」

――ふふ。ダレダッケ?

「思いだせぇぇぇぇぇぇ!」








/////////////////////////


「お疲れ様でした~!」

お疲れ~、と俺の挨拶に返事をしてくれるバイト仲間と店長。

ここは、大手チェーンの弁当屋、モットモット。
なにを催促しているのかは永遠の謎だ。

バイトを終えて腕時計を見れば、午後9時。

「やべっ。」

予定以上に働いてしまった。
それもこれも、ドタキャンしたバイトの後輩のせいだ。
あの女子高生は、

「ごみーん。遊びに行くから出れなくなっちゃった☆」

などというメールを店長に寄越してくれたせいで、俺にしわ寄せがきた。
もはやあの後輩をバイトで見ることはないだろう。南無。

確かに俺は他の学生に比べれば時間はあるが、便利屋扱いしないで欲しいです、
店長。

こっちにだって、勉強とか勉強とか勉強とかあるんだから。

「はぁ・・・」

自分で勉強なんて単語を思い出して、落ち込んでしまった。
そんな大学浪人中の俺。

高校生最後にして最大の難所で躓いてしまった俺は、現在浪人の真っ最中。
自宅で勉強しつつ、バイトをしている。
本来ならバイト等に精を出さず勉強一辺倒で行くべきなんだが、そこには深い理由がある。

それは、世の不条理。世知辛い世の中の事情ってやつだ。

・・・ぶっちゃけ親父がリストラされた。

まぁ、理不尽な首切りじゃなくて、再就職先の斡旋付きかつ退職金有りのまともな終わりだったみたいだが。

とはいえ、親父が次の仕事に就くための準備かつ引越しで親父の給料無しで半年過さなければいけないわけだが。

で、俺は少しの足しになればと思ってバイト中なわけだ。
親父もお袋も気にせず勉強しろ、金なら退職金がある、とは言ってくれるがその退職金が引越し前の家のローンに全て吹っ飛んだのは知っているのだ。

それに、バイトも週2とそれほど負担にはなっていないし、毎日の料理に一品増える程度の恩返しぐらいしたいのである。


「飯、残ってるかな。」

さっさと帰ろう。
腹も減ってるし、今夜のメニューは俺の好物カツ丼だ。

受験に勝つ!という験を担ぐ意味をこめて、週に一度でるカツメニュー。
正直、胃が重いです。プレッシャー的な意味で。

「腹減ったなぁ・・・」

信号を渡って、橋を渡って、あの角を曲がれば、俺の家・・・







「は?」


ではなく、石造りの町並みだった。











/////////////////////////


「そう、そうだよ、そうだ!」

――うん。

「俺は、モットモットでバイトする、浪人生だ!」

――そうだね。

「そうだ、家に帰る途中で、気がついたら、こんなところにいて!」

――そうだったね。

「だから!俺の居場所はここじゃない!」


























――名前はなんだっけ?

「えっ?」








【SAN値が減る】















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「~~~~~~~っ!?」

とてつもない怖気と共に目が覚めた。

「うぅぅおえ゙ぇぇぇ・・・」

何度目の嘔吐だろうか。
もはや胃になにも残っていないのに、いまだに嘔吐という行為ができることに驚く。

「はぁ・・・はぁ・・・」

ドクドクと心臓が跳ね回り、何時間も運動をしたような疲れが襲い掛かってきた。

「はぁ・・・」

呼吸を整えて、近くの建物を背にずるずると座り込んだ。

「・・・変わってない。」

座り込んで、辺りを見渡し、呟く。
何度見ても変わっていない。
俺が隠れている路地の向こう、おそらく町の大通り。

俺の目に映りこむ風景は、石造りの町並み。
ガチャガチャと音を立てて歩く甲冑。
フラフラと腰に下げられた刀剣。
カッポカッポと歩く、角の生えた馬。
猫耳の生えた人。角の生えた人。翼の生えた人。
生まれてこの方、漫画かアニメかゲームでしか見たことのない風景だ。

「もう・・・嫌だ・・・」

自分が何度目の目覚めなのか、幾度の夜を越えたのかもわからない。
いや、もしかしたらこの『世界』へ来てまだ数時間なのかもしれない。

時間の感覚がない。

耳に入る捻じれた音も、目に入る綺麗な石畳も、なにもかもが嫌になる。

「・・・」

石の建物を背に、体育座りでぎゅっと体を縮こまらす。
『音』も『世界』も自身から遮断する。

こうすれば、暗く静かな世界のできあがりだ。
あとは夜を待って、朝を迎えれば、俺の部屋だ。

そうさ、俺の部屋だ。
何もしなくていい。俺の、部屋だ。


















何かが、近くに来た気がする。

「■■■■?■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■?■■■■■■■■■■■■■■■?」

捻じれた音が聞こえた気がする。

「■!?」

うるさい。ここは俺の部屋なんだ。

「■■■・・・」

俺の、部屋なんだ。

「■■、■■■■・・・」

「俺の部屋なんだ!」

「■?」

「俺の、俺の部屋!俺の部屋ぁ!俺の俺の俺のぉぉぉぉぉぉ!」

「■、■■、■■■■、■■■■?」

「俺のぉぉぉぉ部屋ぁあぁぁぁなんだよぉぉぉぉ!」

「・・・?」

頼むから、どうか頼むから。


















ここ部屋から連れ出してください。








/////////////////////////


俺は今、テーブルに座っている。
俺、男性、女性の3人で座っている。
石造りの建物の中。
たぶん、バー、なのだろう。
バーになんか入ったことないから絶対とは言わないが、西部劇にでてきそうな酒場って感じがする。

「■■■。」

相変わらず何を言っているのかわからない。

茶色い毛がもみ上げから顎に繋がっている髭男。筋肉だるま。
赤く長い髪をポニーテールで縛っている女。釣り目美人。

どちらも40代後半くらい。
俺の両親と同じくらいだ。

「「■■■!」」

その二人は大口あげて笑っている。
なにか笑う要素があったのだろうか。

「■■■?」

女性が俺に目を向け何かを言ってくる。
が、まったく理解できない。

「■■■。」

男も何か言ってきた。

「「■■■!」」

また笑っている。
なにか笑う要素があったのだろうか。

そうこうしていると、男が目の前のテーブルにおかれた『黒い何か』を口にいれた。
・・・これ、食べ物なのか?
どう見ても、消し炭にしか見えない。匂いも消し炭。
山のようにどっさりと置かれたそれは、何かの罰ゲームでも始めるのかと思っていたが。
「■■■!」

男はそれを口にして笑っている。うまい、とか言ったのだろうか。

「■■■?」

女が声を掛けてきた。
ニコニコと微笑みながら俺を見ている。
・・・食え、と?


「・・・ゴクリ。」

思わず唾を飲んだ。
『黒い何か』を渡されたスプーンのような石でできた物ですくい、口へ運ぶ。

「・・・っ!?」

噛んだ瞬間広がる苦味。
後頭部から突き抜けるようなエグ味。
ジャリジャリとした食感。

とても、人の食べ物じゃない。

「う・・・うぅ・・・」

だけど。

「はぐ・・・はぐ・・・ゴクン。」

暖かくて。

「ジャリジャリ・・・ゴクン。」

口に含んだそれも、

「■■■?」

こちらをニコニコと見つめる瞳も、

「うぅ・・・うぅぅ・・・あり・・・」

なにもかもが暖かくて、

「あり・・・ありが・・・どぅ・・・」

今まで食べたなによりも、

「しょっぱい・・・なぁ・・・うぅ・・・ゴクン。」













最高にうまかったんだ。













/////////////////////////




食事を終えた。

「■■■。」

「■■■。」

「ごちぞうぅ、ざまでじだ・・・」

男性と女性の声に続くように述べる。
うまく、言えただろうか。
伝わっただろうか。

俺を連れ出してくれた、貴方達に、

「ありがどぅございまずぅ・・・!」

最大の感謝を。









「あの、お礼、お礼を!」

「■■■?」

そうだ、お礼をしなきゃ。
言葉だけじゃ足りない。
何かのお礼をしなきゃ。

お金?・・・だめだ、この世界にあの紙切れが役に立つはずがない。
それに、財布の入っていた、いや、俺の唯一の荷物であるリュックサックはいつのまにかなくなっていた。

今の俺の持ち物は、身に着けた衣服だけ。
ならばこの服を渡すか?

いや、結局のところ、布だ。
Tシャツにパーカーとジーンズというのはこの世界に一つしかないだろうが、その希少価値に気づいているのは俺だけ。
意味がない。


「あっ!」

そうだ、あったじゃないか。
左腕にはめている腕時計。
これ自体の価値はこの世界じゃどうなのかわからないけど、少なくても金属でできている。
なら、きっと俺の持つ物の中で、最高の価値をもつはずだ。

「あの!これ、これをお礼に!」

そう言いながら左腕を彼らに差し出すと、男性に腕時計ごと掴まれた。

「え?」

「■■■。」

「痛い!痛い痛いぃぃぃ!」

ぎりぎりと締め上げられる。
とんでもない激痛が腕に走り、引きちぎられそうな感覚になる。

すると、バキンと音を立てて腕時計が割れた。

「え?」

ゴトン、と音をたててテーブルに転がる残骸。
男性は瞳に怒りを、女性は哀れみを込めて残骸を見ている。

「あ・・・あぁ・・・!」

俺は間違いを起こしたのだ。

「ごめんなさい!」

急いで立ち上がり、床で土下座。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

きっと彼らにとってのタブーに触れたのだ。

「ごめんなさい!」

謝る。謝らなきゃ。

「ごめんなざぃぃぃぃぃ!」

ここで、彼らに見捨てられたら、俺はまた、『部屋』に連れて逝かれる・・・!











ふわり、と赤い髪が目の前で踊り、抱きしめられた。

「え?」

「■■■■!」

女性の言葉はわからない。

「■■■■!」

「うぅ・・・!」

だけど、女性の暖かさに、

「■■■■!」

「ああぁぁぁぁぁ!」

感じた優しさに、

全てを許された気がした。










/////////////////////////






「ありがとうございます!」

「■■■。」

「■■■。」

「ありがとうございます!」

あのあと、二階へ案内された。
連れて行かれた先は寝所。
6畳ほどの部屋に小さな木の棚とベッドがあった。

男性と女性は既に去っている。
彼らは笑顔でこのベッドを指差してくれた。
きっと、ここで眠ってもいいのだろう。

何日かぶり。いや、時間はわからないが、きっと久しぶりにベッドで寝る。
暗い路地でも石畳の上でも『部屋』でもない普通のベッド。


「・・・ふぅ。」

ドサリ、と身を投げ出すようにベッドへと身を投げる。

「・・・Zzz。」











『夢』は見なかった。



/////////////////////////

次の日の朝。

ついにここを出て行く日だ。

いつまでも彼らの世話になることなんてできるわけがない。

それが、嫌でも、辛くても、俺は出て行かなければいけない。

でも。


「■■■。」

「■■■。」

「■■■。」

「■■■。」

身振り手振りで、必死に何かを伝えようとする彼ら。

「■■■。」

「■■■。」

俺の希望的観測かもしれない。

「■■■。」

「■■■。」

俺の願望かもしれない。

「■■■。」

「■■■。」

男性は必死に汗をかきながら、女性はニコニコと微笑みながら。

「■■■。」

「■■■。」

俺は、ここにいても、いいのだろうか?

「■■■。」

「■■■。」

「ありがどう・・・ございまず・・・!」

「「■■■!」」

笑いあう二人に、精一杯の笑顔でお礼を。








/////////////////////////

結局、彼らの伝えたいことはわからなかった。

でも、2日たっても、3日たっても彼らは笑顔で接してくれる。

そして、この世界について、いろんなことを教えてくれる。
まぁ、世界というほどでもないが、斧の使い方、井戸の使い方、厨房の使い方、様々だ。
何をとっても無駄など一つもない。俺は、全てに感謝し学ぶのだ。

そしてなによりも、嬉しいことがあった。


名を、交換したのだ。





「■■■■。」

自身を指差しながら、何かを言う女性。

「■■■■。」

相変わらずその声は歪んで聞こえる。

「レ■■■。」

だが、聞き逃すわけにはいかない。

「■ベ■■!」

彼女はきっと名前を伝えようとしてくれているのだから・・・!

「レ■ベカ!」

聞こえた!

「レベカ!」

俺がそう言うと、女性は若干疲れたように、だが微笑んでくれた。
・・・聞こえた。
聞こえたんだ!

次の男性だって、絶対に聞いてみせる!






「■ラ■ス。」

「ヴァララス!」















レベカさんとヴァララスさん。
さんをつけて呼ぶと、彼らには違う言葉に聞こえるようなので恐れ多くも呼び捨てで呼んでいる。
もちろん、心の中ではさんをつけているが。


そして、今度は俺の番。

「■■川十■!」

「■■■?」

彼らに、レベカさんとヴァララスさんに俺の名を呼んで欲しい。

「成瀬■■■!」

「■■■?」

彼らに呼んでもらえれば。

「■■■■鉄!」

「■■■?」

俺は、俺の名を。

「トウテツ!成瀬川十鉄<ナルセガワトウテツ>!」

「■■!トーテッツ!」

思い出せるから!






/////////////////////////

あれからいろんなことがあった。

ヴァララスさんとレベカさんから様々なことを教わる日々。
お二人の客人。
そして、酒場の営業。

今、俺は料理人として、酒場の厨房に立っている。

弁当屋のバイト風情の俺が料理人とは片腹痛いだろう。

でも、こうして俺が厨房で料理を作るのは、俺の願い、夢だからだ。

理由は様々あるが、それはいつか語るとしよう。



それに、






「トーテッツ!」

「トーテッツ。」

レベカさんとヴァララスさんに呼んでもらえる。

それだけで俺は、







「はい!」








笑顔でいられるから。




















~あとがきのような深淵~
イインダヨーと言われればグリーンダヨーと返すのが紳士の嗜み。

やっちまった系エルシャダイ。
まぁ鉄は熱いうちにと言いますので、使ってみました。

はい、今回は主人公視点ですね。
異世界人が、主人公は奴隷と思っていますが、そんなことはありません。
彼は一般人。いっぱんぴーぽーです。別に壮絶な人生は送ってませんよ。ね?
ただし耳だけ沙耶の唄状態ですが。気になる方はようつべでどうぞ。きっとトラウマ(ry

この物語の構成は、
異世界人視点、主人公へ対する勘違い。
主人公視点、ほのぼの、料理、あとSAN値チェック。
です。

もちろん恋愛要素も入れてみようかと。
言葉の伝わらない世界で芽生える恋。あとSAN値チェック。
勘違いから生まれる愛。あとSAN値チェック。
料理の餌付けから始まるラブ。あとSAN値チェック。

そんな感じ。

今回は導入ということで主人公の立位置メインです。
最初は料理周りもいれてたのですが、あまりに長くなったので次回の話ということで。

では次回は。
1.タマグンヤキンの黄色い秘密。
2.ガッツデューンができるまで。
3.サラダンヨグトソースの危険な香り。

の3本だてです。お楽しみに。

あ、ちなみにメインヒロインの名前はニャ・・・おっとだれか来た様だ。



[27121] 異世界迷込日常系3
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/05/29 19:38
暗い空間。

真っ黒い空間。

何も見えない。

何も聞こえない。

ここがどこなのか理解できない。

浮いているのか沈んでいるのか。

進んでいるのか止まっているのか。

自分は何処にいるのか。

何もわからない。





「やぁ。」

女の声が聞こえる。
どこから聞こえるのかはわからない。

「ふふっ・・・こっち、こっちだよ。」

誘われたほうに意識を向ける。
黒い空間に黒い何かがいる。

「黒い何かって、ヒドイな。」

全てが黒いのに、何かいる。
輪郭だけが理解できる。

「そう。まだ、そのくらいなんだね。」

なにがどれくらいなのだろうか。
どれがそれくらいなのだろうか。

「うん。だけど、前よりは近づいたね。」

何に近づいたのだろうか。
何処に近づいたのだろうか。

「ふふ・・・まだ、まだ知らなくていいよ。」

知らなくていいのなら、知らないでいい。
女の声は、酷く安心できるから。

「ありがとう。君にそう言ってもらえると嬉しいよ。」

酷く、安心できる。
だから、近づかないで欲しい。

「ヒドイな。上げて落すなんて。」

だって、怖いんだ。
とても、とても恐いんだ。

「どうして?」

どうしても。
ただ、恐い。

「ふ~ん。そうか、近づいたけど、変わってないんだね。」

何が変わってないのか。
どう変わってないのか。

「何か、君の傍にいるのかな?」

何がいるのか。
『誰』がいるのか。

「ああ、うん。わかった。『誰か』、いや『誰か達』が君を変えない楔になっているんだね。」

誰もいない。
誰も彼もいない。

「ふふ・・・なるほど。よほど、大事なんだ・・・僕に知られないように心の奥にしまっている。」

誰も彼も何方もいない。
いない、いない、いない。

「そう、そんなに大事なんだ。」

いない、いない、いない。
いない、いない、いない、いない、いない、いない。

「羨ましいね。君にそこまで思ってもらえるなんて。」









「・・・少し邪魔かな。」

あぁぁぁぁあああぁぁぁあぁ!









「ああ、ごめん。君を恐がらせる心算はないんだ。」

あ・・・ぁ・・・あ・・・ぁぁぁ・・・

「ごめん。謝るよ。だから、そんなに泣かないで。」

あ・・・あ・・・ぁ・・・

「ごめん。今の君には少し辛かったね。意識が溶け出しているよ。」

あ・・・・・・・・・

「そうだ、名前。名前を教えてくれないか?」

な・・・ま・・・え・・・

「そう、名前。君の名前。」

名前。
俺の、名前。

「うん。君の名前を教えて欲しいんだ。」

俺の名前。
俺の名前は。

「君の名前は?」

俺の名前は、
ナイアルラ成■川トーテッツ■鉄

「ナイアルラ・トーテッツ。うん、素敵な名前だ。」

違う。
違う違う。

「うん?」

違う違う違う。
違う違う違う違う。

「何が違うのかな?」

俺の、名前は、それじゃない。
俺の、名前は、そんなものじゃない。

「そうかい?君にピッタリの素敵な名前じゃないか。」

違う。
俺の名前はナイアルラ■瀬■トーテッツ十■だ。

「うん。ナイアルラ・トーテッツ。君の、名前だ。」

違う。
違うと、思う。

「いいや。君の名前だよ。」

ちが、う?
違う、よな?

「だって、君の大切な人達が、君をそう呼ぶじゃないか。」

そうだ。
そうだった。

「そうだろう?」

うん。
あの人達が呼んでくれる。
そうだ、呼んでくれる。
俺を呼んでくれる。
俺の居場所はあそこだ。
ここじゃない。
あの人達の居るところ。
ここじゃない。

「ちょっと嫉妬しちゃうな。『あの人達』で、そこまで意識を固めるなんて。」

ここじゃない。
あそこだ。
ここじゃない。
あの場所だ。
ここじゃない。

「まぁ、でも君がそこまで喜んでくれるなら、いいかな。」

喜ぶ?
ああ、喜ぶ。
あの人達が呼んでくれるなら、俺の名前はそれでいい。
聞き間違いでも、発音が違っても、音が捻じれてても、本当の名前じゃなくても。
俺を呼んでくれるなら、それでいい。

「そう、僕も嬉しいよ。プレゼントを気に入ってもらえたようで。」

どうでもいい。
プレゼントなんてもらってない。
ただ、あの人達に名前を呼んで欲しい。
そうすれば、俺は俺のままでいられるから。






















「その名前は僕からの誕生日プレゼントだよ。ハッピーバースデー『ナイアルラ・トーテッツ』。」






【SAN値が減る】















/////////////////////////




「ん~~~~!」

背を伸ばし思いっきり空気を吸う。
今日も気持ちのいい天気だねぇ。
朝起きるのが、こんなに楽しいなんて何時以来だろうか。

「・・・む。」

「おはよう、あんた。」

「・・・むぅ。」

「なんだい、まだ寝てるのかい?」

「・・・おはよう。」

「おはよう。ほら、ちゃっちゃと起きる。いい朝だよ。」

「・・・むぅ。」

ああ、もう。
あいかわらず朝に弱い大男だね。
おはようの後がイビキになってるじゃないか。

「ほらほら。そんなんじゃ、トーテッツに笑われるよ。」

「む。」

「あれであの子は、朝しっかり起きるからね。あんただけだよネボスケは。」

「ならば、見せてやろう。親父の威厳を。」

「そこは本気出すところじゃないよ。」

まったく。なにやってんだか。
あっはっは、と夫を笑い飛ばす。

朝を迎えるだけで、嬉しくて。
今日は、あの子に何を教えてやろうか。
どんな一日を過そうかと、考えるだけで楽しくてたまらない。
もちろん、今夜の店の準備も怠らないよ。


「さぁ~起きた起きた。朝飯作るからね。あんたは水をトーテッツと汲んできてよ。」

「あぁ、わかった。」

「最近はトーテッツから料理習って、あたしも腕を上げたからね。今朝はあたしのタマグンヤキンだ!」

「そいつは楽しみ・・・」

『○○××△△!!!!』

「「っ!?」」

響き渡る叫び声。
恐怖、絶望、孤独。
負の感情を固めたおぞましい声。

「「トーテッツ!!!」」

それをわが子が出している。
意識せずとも鍛え上げた肉体は、一瞬の時間も惜しいと駆け出している。






/////////////////////////


「トーテッツ!」

「どうしたんだい!?」

夫が開ける時間ももったいないと、扉を体当たりで吹き飛ばし、トーテッツの部屋へと入る。

いつも笑顔で迎えてくれる息子が、



「くとぅるふ・ふたぐん!」




恐怖と絶望に歪んだ顔で、涙を流し震えていた。





「「トーテッツ!」」

「にゃるらとてっぷ・つがー!」

だめだ、こっちの声が聞こえていない。
いつにもまして、わけのわからない言葉を叫んでいる。

「落ち着くんだよ!」

「どうした、何を怯えている。」

ベッドの上で、ただひたすらに、自分を守るように体を抱いて震えている。

「しゃめっしゅ!」

瞳は助けを求めるように揺れ、あたし達を認識していない。

「落ち着け、トーテッツ。ここには、何もいない。」

夫が優しく声を掛けるが、聞こえているのかもわからない。

「いいか、何もいないんだ。ここには恐いものはいない、そうだな?」

「そうだよ。恐いものなんていないんだ。」

「○×△。」

ようやく落ち着いてきたのだろうか。
叫び声がいつものように落ち着いてきて、歪んだ顔も少しずつだが収まっていく。

「○×△。」

「よしよし。恐い夢でもみたのかい?ん?」

そっと近づいて頭を撫でる。
先ほどまでの錯乱した状態もなくなったようだ。

もう少年と呼ぶには大きすぎ、大人というにはまだ足りない息子。
だが、怯えきった今のトーテッツはあまりに幼く見える。
まるで、見知らぬ場所へ迷込んだ幼子のようだ。
世界に自分一人しかいないような、そんな怯えた顔。

こんな顔をさせてしまっている、自分に腹が立つ。

「ほら、恐いものなんてないんだ。まだ、眠ってな。」

ゆっくりと、ベッドへ寝かせ、毛布を被せる。

「○×△。」

すると、目を閉じ、すぐに寝息が聞こえてきた。










トーテッツを起こさないように椅子をベッドの近くへ持ってきて座る。
夫は壁にもたれるように静かに佇む。

そっと、トーテッツの手を握れば、確かな体温が伝わってきた。

「・・・さっきのどう思う?」

「・・・」

答えは返ってこなかった。
あたし達は既に答えを持っているからだ。
夫もあたしも、似たような状態の人間を見たことがあるのだ。

「心の傷、だな。」

「・・・そうかい。」

心の傷。
それは、初めて戦場を体験した初心者冒険者によくある現象だ。
初めて命の危険を感じた、年若いやつらは、心に傷を負うことがよくある。
そうなると、自分の武器をみただけで気分が悪くなるなんてことになる。
酷い奴だと、錯乱状態になり、人に危害を加えるなんてことになる。

「だが、あそこまで錯乱するのは・・・」

「とびきり酷い、トンでもない経験ってこと、だね。」

トーテッツの状態は特に酷いものだ。
どんな経験をすればあそこまで錯乱できるのか。

・・・原因は一つしかないが。

「トーテッツの過去は・・・」

「言うな、レベッカ。」

夫に止められなくても、その先を言葉にすることはできない。
過去、過去か。
そりゃそうだ。
『奴隷』なんて扱いをされれば、まともな精神なんて保っていられないだろう。

「・・・ちくしょう。」

「過去は過去だ。どうしようもない。」

「どうしようもない!?それですませるってのかい!?」

「どうしようもないだろう!ここで憤ったところで何もできん!」

互いに声を落として怒りをぶつけ合う。
あたし達夫婦の気持ちは同じだが、考え方は違う。

あたしは過去が悔しい。
夫は過去を諦めている。

「あたしは嫌だ!どうしようもないなんて言いたくない!」

「だったらどうする!?過去を変えるか!?どうやってだ!」

「・・・っ!」

夫の言うことは正しい。
わかっちゃいる。わかっちゃいるさ。

「でも・・・!」

「言うな。頼むから・・・」

「・・・っ。」

夫の、勢いのない言葉に口を閉じる。
やっぱり、あたし達夫婦の気持ちは同じだった。
夫も我慢なんてできていなかったのだ。

「背負った過去はなくせない。」

「・・・」

「冒険者が負った心の傷の治し方はしっているだろう?」

「・・・あぁ。」

「戦場で負った傷は、新たな戦場を乗り越えることで傷を治すのさ。」

「・・・うん。」

「トーテッツが、今までの生活で傷を負ったのなら・・・」

「これからの生活で治せばいい・・・だろ?」

「あぁ。俺達の生活は始まったばかりだ。これからさ、な?」

「うん・・・頼りにしてるよお父さん。」

「あぁ、頼りにしてるぞお母さん。」

そうだ、これから、これからさ。
今まで悪かったんだ。
これからは幸せにしてあげればいい。





そうだろ?トーテッツ。














/////////////////////////




「~~~~~~~っ!?」

とてつもない怖気と共に目が覚めた。

だが、手に感じる暖かさに恐怖はすぐに消えていく。

「■■■?トーテッツ。」

「・・・あ、おはよう、ございます。」

傍にはレベカさんがいた。
扉の近くにはヴァララスさんが。

「■■■。」

どうしたのだろうか、いつもの笑顔が少し曇っているように見える。
なにか悲しいことでもあったのだろうか。

こういうとき、言葉が伝わらないのが辛い。
言葉がわからなければ、心配を伝えることもできない。

何が悲しいんですか?
どうすれば元気になれますか?

それすらも伝えることができない。

だから。


「あの、よくわかないけど、きっといいことありますよ!」


精一杯の笑顔を貴方達に。


















今俺は厨房に立って、今夜の店の料理の下ごしらえをしている。
基本的に料理を作るのは俺しかいないから、こういった準備をしておかなければ、後が辛い。

ヴァララスさん達は酒や料理の材料の買出しに行っている。多分。
いつも昼過ぎにいなくなって大量の食材を持って帰るので多分買出しだと思う。

料理、か。
別に俺は料理人を目指したわけでも、料理が得意なわけでもない。
でも今では酒場の料理を一手に担う一端の料理人になっている。

きっかけはなんだったか。

いろんな理由があったとは思うが、多分一番の理由はレベカさんだったと思う。

料理人になるきっかけは、数ヶ月前だ。







/////////////////////////




数週間前からの生活。
ヴァララスさんとレベカさんにいろんなことを教わる毎日の中、あることに気づいた。

酒場が営業をしていないことだ。
最初は俺がいるからやらないのか、もしかして迷惑をかけているのではないか、と思ったが、どうやらもともと営業自体をしていないようだった。

酒場の木のテーブルの上には椅子を乗せて使えない様にしているし、ずらりと並んだ棚には一本の酒瓶もなかった。
何日たっても準備らしい準備もしなかったあの人達の様子から営業をしていないことを悟ったのだ。


そして、もう一つ。
少し埃を被ったテーブル達をみて寂しそうな顔をしたレベカさん。

きっと望んで営業停止にしたのではなく、せざるを得なかったのだろう。
レベカさんはいつも日が沈む頃になると、酒場の入り口を見ては寂しそうな顔をしていた。

多分、訪れるかもしれない客を待っていたのだろう。


俺は、その顔を見て、何かをしたいと思ったのだ。
最初は『何か』ってのを思いつかなかった。
酒場を繁盛させるのが一番だとは考え付いたが、『どうやって』が思いつかなかった。

所詮は只の学生・・・いや浪人生。
酒場の切り盛りなんてわからない。

でも、なにかしたい。
多大なものをもらっている身としては、何か一つでも恩返しがしたい。


だが、この世界において自分の持つ技術で役立つものなど一つもない。
数学の知識、物理の知識、英語の知識、地理の知識。
受験に合格するために得た知識は、異世界ではまるで役に立たなかった。
そもそも言葉の通じないこの世界で、どうやってそれを伝えればいいのかすらわからないのだが。






――その日の夜。

何かしたい、何かしたい、と考えていたら日が沈んだ。

なにか、できないだろうか。
レベカさんの作った真っ黒な晩御飯を食べながらひたすらに考える。

「■■■!」

「あっ、はい、いただきます。」

笑顔で渡された黒い物を口へ運ぶ。

「ジャリ・・・ジャリ・・・ング。」

あいかわらず、すごい食感だ。
味も凄い。いや、なにが凄いって、うん。凄いんだ。

「ご、ちそう、さまです。・・・うっ。」

凄い味を飲み込めば、後味も凄い。こう、こみ上げてくる感じ。

だが決して、出さないぞ。
当然だ。これはレベカさんが用意してくれた晩御飯なんだ。
イロイロ凄くても晩御飯なんだ・・・!

いいか、俺。こう思え。
地球にだって色んな料理があっただろう?
そうだ、虫を食べる国だってあるんだ。
所変わればその国の料理がある。

つまり、この黒いものはこの世界の一般の料理でなにもおかしくない。
そうだろ?
そうだ。
そう思え。

そうすれば、うん、おいしくなるだろ?




・・・はっ!?

おいしくなるだと!?
なに上から目線で言ってるんだ!
ちくしょう、なんて不義理な奴なんだ、俺は。

こんなにも暖かな食事を振舞ってくれるレベカさんに失礼だろうが!

「■■■!」

「え?あ、はい、いただきます・・・」

笑顔でもう一品渡された。
もちろん食べる。出されたものは全部食う。
それが俺のポリシー。





だれか、『ごちそうさま』を教えてくれ。














部屋に戻り、一息つく。
ベッドへと身を投げ、仰向けで天井をぼ~っと見る。

「何が、できるかなぁ・・・」

一日考えても答えは出なかった。

「うっ・・・相変わらず・・・後味残る料理だな・・・」

口の中がまだジャリジャリしている。

「料理・・・料理か。」

料理、そうだ、俺のスキルの中に料理があるじゃないか。
弁当屋のアルバイトは数ヶ月程度だったが、それなりにレシピも憶えている。

「でも・・・口に合うのか?」

そう、それが問題だ。
ヴァララスさんもレベカさんも、先ほどの晩御飯をおいしそうに食べていた。
きっとあれが普通なのだろう。
俺がおいしいと思うものが、彼らにとっておいしいかわからない。

それに、食材が違う。
ときおりレベカさんの料理姿を覗き見するんだが、食材がまったくみたことないものばかりだ。
野菜一つとっても、青い野菜があったり、肉を見ても、黄色い肉があったり。


・・・まぁ、最後には真っ黒こげで出て来るんだが。


この世界の料理法は、レベカさんの姿をみて学んだ。

例えば、俺の世界ではこうだ。

弱火でじっくり。
中火でカラッと。
強火でさっと。
・・・こんな感じ。

この世界ではこうだ。

業火で炭に。
猛火で炭に。
絶火で炭に。
・・・こんな感じ。

この世界では、火とは調整するものではなく、燃え上がらせるもののようだ。



「う~ん・・・とりあえず、やってみるかな・・・」

いつまでも悩んでいては進まない。
物は試しと、やってみよう。
もし、彼らがまずいと思ったら、誠心誠意謝ろう。
絶対に謝ろう。すぐに謝ろう。

「ごめんなさい・・・ごめん、なさい・・・ごめん・・・」



ゆっくりと、意識が遠のく。
訪れる眠気に身をゆだねる。









『夢』は見なかった。














朝、身振り手振りで朝食を作ることをレベカさんに伝えた。
多分、伝わったと思う。


厨房に立つ前に『火』はレベカさんに付けてもらった。・・・魔法で。

魔法。多分魔法。
何も持ってない手から、いきなり火の玉がでたから魔法。
この世界で、なんて言うのかわからないけど、俺にとっては魔法だ。

今、重要なのはそこではないので、先ほどの光景を頭の隅に追いやって厨房に立つ。

そして、調理台におかれた食材を眺める。

・・・何を作ろうか。

とりあえず、肉と野菜をいきなり使うのは、難しい。
いや、だって、色が変だから。
どんな味なのか想像がつかない。

ここは、卵を使おう。
見た目は、真円と少々形は異なるが、まごうことなき卵だからだ。
マダラ模様がついているが、でっかいウズラの卵と思えば、紫の肉よりも断然普通に見える。

「よし、卵焼きを作ろう!」

朝ごはんの定番にして、王道。
作るの簡単だし、形が悪ければスクランブルエッグにしてもいい。

トントンと台に卵を叩き、ひびを入れてご開帳。

「・・・おぉぅ・・・このパターンは予想してなかった・・・」

白身じゃなくて黒身だった。

黄身は黄身だが、周りが黒い。

「・・・食えるのか、これ・・・」

黒と黄色が織り成すファンタジー。
食欲がガクッと下がった。
とりあえず、試しに石でできたフライパンのような調理器具に乗せてみる。
そのフライパンのようなもの・・・もうフライパンでいいや。
フライパンを火に掛けて熱を加える。
ジューと音がする。
油を引いていなかった、というか油があるのかわからなかったので、石に引っ付かないように何度も何度も木のヘラで調整する。


卵焼きを作る前に目玉焼きを作ってみた。

「・・・うわぁ・・・まずそう・・・」

真ん中の黄色はいい。
だが、周りが黒い。
とりあえず、食してみるか・・・

「はぐ・・・はぐ・・・にがっ!」

すっごい苦い。
黒いところは苦味の塊だった。
幸い黄身の部分は俺の知っている卵と同じだったが。

とりあえず、方針は決まった。
割った卵の殻を使って、黄身だけ摘出。
白身がない卵焼きかぁ・・・作ったことないけど、この黒いのを入れるのよりかはいいかな。

木のボウルに摘出した黄身を投入して、木のスプーンで混ぜ混ぜ。
うん、形は整ってきた。

あとは味付けだ。

「・・・むぅ。」


目の前に4つの壷。
中身は粉だ。
茶色、黄色、黒、赤。

とりあえず黒い粉は元の棚へ戻した。
もう黒にはトラウマしかない。

きっと調味料だと思う。
レベカさんが時折、料理に掛けていたからだ。
結局真っ黒に炭化するのだが。

とりあえず、指にちょこっとつけて舐めてみる。
まずは茶色。

「ペロ・・・こ、これは!?・・・なんだろう?」

無味無臭。
なんの味もしない。
使用用途不明。
次、次に行こう。

次、黄色。

「ペロ・・・にがっ!?」

果てしなく苦い。
調味料じゃないね。

次、赤。
イメージ的には、一味唐辛子だから辛いのかな?

「ペロ・・・甘っ!?」

甘かった。
とりあえず、この赤い粉は赤砂糖と命名しよう。

「うん、砂糖があれば卵焼きはできるかな。」

できれば、塩も欲しいな。
塩と砂糖で味を調えたい。


「・・・むぅ・・・」

棚に戻した黒い粉が気になる。
すごく気になる。
恐る恐る、手にとって・・・

「・・・ペロ・・・しょっぱっ!?」

・・・多分、塩?
塩、だよな。
多分。

黒塩、と命名しておこう。

いや、しょっぱすぎる。
・・・黒塩(仮)と命名しよう!


さきほどのとき卵に黒塩(仮)と赤砂糖を投入して、フライパン(石)でジュー。
木のヘラで焦げないよう、調整調整。

「うまくまとまるかな。」

ヘラでひっくり返し。
・・・破れた。

「・・・ま、いいか。」


そして、完成。

レベカさん達の前に皿を持っていく。

ど、どうだろうか?
お二人は、卵焼きを見て、なにやら迷っているようだ。

・・・やはり、黒くない食べ物は珍しいのだろうか。

「あ、あの・・・」

いたたまれなくなって、声をかけたら、


「「■■■!」」


二人はすごい勢いで食べ始めた。








「「■■■!」」

「・・・」

ドキドキと胸が早まっている。
二人は笑顔で次々と卵焼きを食べてくれている。

おいしかったのだろうか?
口にあったのだろうか?


・・・恩返しはできたのだろうか?








食事も終わり。
結局卵焼きしか作れなかったが、満足してくれたみたいで、俺も嬉しい。



「■■■?」


レベカさんが卵焼きを指差しながら話しかけてきた。
多分、名前を知りたいのだろう。




「卵焼きです!」









/////////////////////////



卵焼き、初めてこの世界で作った料理。
初めて、人を笑顔にできた料理。

あの笑顔も、間違いなく俺が料理を作るきっかけの一つだ。

恐る恐る作った料理だったが、レベカさんもヴァララスさんも、笑顔で食べてくれた。

これが俺が厨房へ立つ始まりの最初。

あの笑顔があったから、今もこうして料理を作っている。



「「■■■!」」


二人が買い出しから帰ってきたようだ。
あのときのように、俺の料理を食べてくれたときのように笑顔で声を掛けてくれる。

だから・・・








「おかえりなさい!」


最高の笑顔で出迎えを。












~あとがきのような深淵~

3本だてにできなかったorz
ちょっと長くなってきたので、タマグンヤキンの黄色い秘密で一旦ストップ。
次こそは、
2.ガッツデューンができるまで。
3.サラダンヨグトソースの危険な香り。

まで行きます。

ちょっと、時系列がわかりにくかったでしょうか?
自分で書いててわからなくなったりorz

書き直すかも。

ではでは、お読みいただきありがとうございました~



[27121] 異世界迷込日常系 意識の外伝1
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/06/02 20:32

暗い、昏い廊下。

木造の長い廊下。

薄暗い廊下は、古い木造の学校を思い出させる。

果てししなく続く廊下に、果てしなく続く扉。

錆びたドアノブとヒビの入った石の扉が無限に続く。

この寒い廊下に居たくないので近くの扉を開けて部屋に入る。

ガチャ。バタン。

暗い、昏い廊下。

石造りの長い廊下。

薄暗い廊下は、古い牢獄を思い出させる。

果てししなく続く廊下に、果てしなく続く扉。

錆びたドアノブとヒビの入った黒曜石の扉が無限に続く。

扉の向こうは廊下だった。

廊下の隣は廊下だった。

今入った扉を振り向けば石の壁。

この寒い廊下に居たくないので近くの扉を開けて部屋に入る。

ガチャ。バタン。

暗い、昏い廊下。

黒曜石の長い廊下。

薄暗い廊下は、古い神殿を思い出させる。

果てししなく続く廊下に、果てしなく続く扉。

錆びたドアノブとヒビの入った木の扉が無限に続く。

扉の向こうは廊下だった。

廊下の隣は廊下だった。

今入った扉を振り向けば黒曜石の壁。

この寒い廊下に居たくないので近くの扉を開けて部屋に入る。

ガチャ。バタン。

暗い、昏い廊下。

木造の長い廊下。

薄暗い廊下は、古い木造の学校を思い出させる。

果てししなく続く廊下に、果てしなく続く扉。

錆びたドアノブとヒビの入った石の扉が無限に続く。

扉の向こうは廊下だった。

廊下の隣は廊下だった。

進んできたのか、戻ってきたのかわからない。

右を見れば、暗い闇に続く廊下。

左を見れば、暗い闇に続く廊下。

右に行こうか。左に行こうか。扉を開けようか。

ガチャ。バタン。

扉の開いた音。

音のほうを振り向くと俺がいた。

「あ~ばよっ!俺!」

こちらを見た俺はあばよ!と言って近くの扉へ入る。

ガチャ。バタン。

俺がいなくなり俺が取り残された。

ガチャ。バタン。

扉の開いた音。

音のほうを振り向くと俺がいた。

「おい!今俺がこなかったか!?」

来た。

「バカヤロウ!そいつが俺だ!」

こちらを見た俺は待てぇ~い!と言って近くの扉へ入る。

ガチャ。バタン。

俺がいなくなり俺が取り残された。

この暗い廊下へ取り残されたくなかったので、同じ扉に入る。

ガチャ。バタン。

暗い、昏い廊下。

鉄の長い廊下。

薄暗い廊下は、鋼鉄の檻を思い出させる。

果てししなく続く廊下に、果てしなく続く扉。

錆びたドアノブとヒビの入った鏡の扉が無限に続く。

扉の向こうは廊下だった。

廊下の隣は廊下だった。

右を見れば緑のジャケットの俺がいて。

左を見れば茶色いコートの俺がいる。

「んふふふ。しつこいねぇ俺。」

「ようやく見つけたぞ俺ぇ!」

茶色い俺はロープをつけた手錠を手に緑の俺へにじり寄る。

緑の俺は近くの扉のドアノブを掴もうとして、茶色い俺の手錠につかまった。

「捕まえたぞ俺!」

「なぁ~に言ってんだか?良く見ろよ。俺は俺じゃないぞ?」

緑の俺を良く見たが俺だった。

「だぁ~はっはっは!先刻承知よ!お前は俺だ!」

茶色い俺が緑の俺の顔に手をやり、その皮膚を思い切り引っ張る。

「あっ!ちっくしょ~やるじゃねぇか俺。」

ズルリと俺の顔をしたマスクがはずれ、俺の顔が出てきた。

「だぁ~はっはっは!年貢の納め時だ俺!」

「甘いぜ俺。」

緑の俺が茶色い俺の顔に手を伸ばし、その皮膚を思い切り引っ張る。

ズルリと俺の顔をしたマスクがはずれ、俺の顔が出てきた。

「お前も俺じゃねぇか。」

「なんてこった!俺も俺だった!」

緑の俺も茶色い俺も俺だった。

なんとなくむかついたので、手に持つバールのようなもので緑と茶の俺を殴る。

ドゴン、グシャ、グシャ。

殴る殴る殴る。

グシャ、グチャ、グチャ。

殴る殴る殴る。

赤い俺が二つできた。

もう間違わない。俺は俺だ。

ここに用はないので近くにあった鏡の扉へ入る。

ガチャ。バタン。

暗い、昏い空間。

何もない。空もない。地面もない。闇だけが続く。

後ろを振り向けば闇。

何もないので、もう一度正面を向く。

扉。

骨の扉。

空間に扉だけが浮いている。

横から回り込んでみる。

何もない。

普通に扉の裏。

ただ、裏側にはドアノブがない。

扉の正面に戻り扉を開ける。

ガチャ。バタン。

扉。

骨の扉。

空間に扉だけが浮いている。

横から回り込んでみる。

何もない。

普通に扉の裏。

ただ、裏側にはドアノブがない。

扉の正面に戻り扉を開ける。

ガチャ。バタン。

扉。

骨の扉。

空間に扉だけが浮いている。

扉を開ける。

ガチャ。バタン。

扉。

骨の扉。

扉を開ける。

ガチャ。バタン。

扉。

扉を開ける。

ガチャ。バタン。

ガチャ。バタン。

ガチャ。バタン。

ガチャ。バタン。

ガチャ。バタン。

ガチャ。

ガチャ。

ガチャ。

バタン。

バタン。

バタン。

・・・

・・・

・・・









ガチャ。バタン。

扉。

肉の扉。

果てしなく続く肉の壁にドアノブがついた肉の扉がある。

ぶよぶよと蠢き、ドクドクと波打つ。

右を見ても肉の壁。

左を見ても肉の壁。

後ろを見ても肉の壁。

正面のドアノブを握る。

グチャと湿った感覚。温かい感覚。

グチャ。グチャン。
























とびらのむこうもくうかんだった。

でもいつものくうかんとちがう。

やみのむこうにまぶしいなにか。

にじいろのかがやきがおれをみてる。

まぶしい。まぶしい。

あのかがやきはなんだろう。

てをのばせばとどきそうだ。

よしいってみよう。

あのかがやきのむこうにいってみよう。

さぁいっぽをふみだすぞ。






「だめだよ。」





あれ?

いっぽがでないぞ。

「まだ、まだだめだよ。」

とおくにいわかん

くろいなにかがおれをみている。

「あの輝きの向こうに行くには早すぎる。」

りんかくしかわからない。

でもだれかいる。

だぁれ?

「まだ、誰でもないかな?」

だぁれ?

「今はまだ、ね。」

そうなの?

「うん。今はまだ。・・・でも、嬉しいよ。」

なにがうれしいの?

「君が、僕に問いかけができるほどに近くに来てくれたことが。」

よくわからないよ。

「いいよ。きっとすぐに君は僕を見れるようになる。」

そうなの?

「うん。きっとすぐに。きっと、ね。」

そうなのかー。

「さぁ、お帰り。今はまだここは君には早すぎる。」

そうなの?

「うん。今の君は溶けかかっている。」

そうなの?

「うん。このままじゃ闇になるよ。」

そうなのかー。

「うん。僕はそれは嫌だ。」

そうなの?

「うん。僕は君が君の存在のまま、欲しい。」

欲しいの?

「うん。欲しい、とても欲しい。」

どうして?

「溶けた君じゃ意味がない。なくなった君じゃ意味がない。」

そうなの?

「君は君のまま、僕に近づき、僕と同じ存在に変わって欲しい。」

どうして?

「そうすれば、君に触れることができる。」

触れたいの?

「触れたい。とても触れたい。」

どうして?

「それは・・・」

それは?














「僕が君を■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。」



あ・・・ぁ・・・ァ・・・・・・・・・





「あ・・・また、失敗しちゃった。」



・・・・・・・・・・・・



「ここまで来たことを憶えていれば、すぐに変われるのに・・・」



・・・・・・・・・



「我慢が足りないな、僕は。僕の言葉は、彼には早すぎるのに・・・」



・・・・・・



「記憶を消そう。何度でも。いつか、君に打ち明けるために。」



・・・



「さぁ、今日、君は『夢』を見なかった。」



・・・



「もう朝になる。起きるんだよ。」



・・・



「次は、語り合えるといいね。」



・・・









「またね、『僕の』トーテッツ。」






【意識を守られた。狂気から回復する】

















///////////////////////

「んぁ~~~~~」

大きく背伸び。

窓から注ぐ光が今日もいい天気だと教えてくれる。

「んっ・・・ふぁ・・・」

まだ目が覚めないようだ。

ごしごしと目をこするが、眠気が晴れない。

「井戸に行こう・・・」

顔を洗おう。

と、その前に、ヴァララスさんとレベカさんにおはようを言わなければ。















――『夢』は見なかった。








~あとがきのような深淵~

お読みいただきアザトーッス。
じゃなくて、ありがとうございます。
ちょっとした外伝です。
トーテッツが『夢』を見なかったときのイベント的な感じ。

・・・題名にグロ注意とか書いた方がいいでしょうか?

では、また次のお話にて。



[27121] ゴッドイーター憑依1
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/06/05 11:39
白い壁、白い床、白い天井。

清潔なそれらが、逆に気分を重くさせる。
ここは病院。
怪我をした人、病気の人が通うそこは、通常ならばお世話になりたくない場所だ。

で、俺はなぜか病院、いや、病院ぽいところのベッドで寝ている。

・・・おかしい。
俺は別に病気ではないし怪我もしていない。
そもそも、俺は自分の部屋で寝たはずだ。
起きるべきは俺の部屋であって病院(?)のはずがない。

ここはどこなのだろうか。


――プシュッ。


空気の抜ける音と共に、左側の壁の一部がスライド。
てか自動ドアだったのか。

で、誰かがこっちにくる。


「・・・フン、生きてたか。」

青いフード付きコートを着た少年。
褐色の肌。
白い髪。
青い瞳。

・・・どこかで見たことがあるような。


「・・・言っただろう。俺に関わるなと。」

いや、急にそんなこと言われても困るんですけど。

「・・・今回の件、報告はすませておいた。」

いや、何の件?

「・・・お前はこの部屋で大人しくしてるんだな。」

いや、そもそもここどこ?

「・・・じゃぁな、エリック。すぐに戦場に戻るだろうが・・・精々休んでおけ。」

ちょ、戦場とか、さすが少年。まだ青春真っ盛りだな。


――プシュッ。


空気の抜ける音と共に少年は出て行った。

「つか、エリックて誰よ。」

俺じゃないぞ。俺はそんな名前じゃなかったはずだ。

そう、俺の名前は。

「エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。」

んん?
待て、落ち着け。俺の名前、俺の名前だ。

「エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。」

OK、時に落ち着け。
いいか、俺。口に出すのは俺の名前だぞ。
スーはースーはー。深呼吸。

よし!

「エリック・デア=フォーゲルヴァイデ!」

・・・俺の名前、これだっけ。
いや、わかってる。
わかってるんだが、認めたくない。
そうだ、まだそうと決まったわけではない。

「・・・」

ベッドから起き上がり、部屋を見渡す。
白い壁、白い床、白い天井。
ぐるりと見渡せば簡素なベッドがいくつか設置されている。
医務室、か?
さっき少年が出て行った壁の反対側、右奥に鏡を発見。

「・・・ゴクリ。」

自然と喉が鳴る。
ドキドキと胸がはねる。
落ち着け、いいか、これは確認なんだ。
俺が、なんなのかという確認なのだ。

そろそろと鏡へ近づき、映る姿を目に入れる。

額に包帯。
腕に包帯。

・・・赤い髪。
・・・・・・胸にタトゥー。

OH MY GOD。










「エリック・上田ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」








~ゴッドイーター憑依 朝起きたらエリック・上田~


左顔もエリック。
右顔もエリック。
正面もエリック。
どこからどう見てもエリック。

なにが起こった!?
なんでエリック!?
俺は誰!?

IS THIS 俺?
NO! IT IS エリック!

ぎゃぁぁぁぁぁ!?
朝起きたらエリックだったとかどんな超魔術だよ!?

つかさっきのツンデレはソーマか!?
マジでここはゴッドイーター!?

何それ恐い!
世紀末もビックリの終末具合じゃねぇか!

どうしろってんだ!
ライフカード!人生という名のライフカードをくれ!
銀河鉄道カードでもいい!俺を夢の向こう側へ連れてってくれよ桃太郎!






「あ・・」

ガツン、と殴られたような痛み。
ふらふらとベッドへと倒れこむ。

「いっつ・・・」

痛い、痛い、痛い。

頭が、われ、る。


















「・・・う?」

目を開けると、白い天井。
瞳に入る蛍光灯の人口の光が瞳を焼く。

「・・・あぁ゛~」

欠伸を出すと喉が渇いてだみ声になっていた。

「いってぇ・・・」

ズキズキと痛む頭を手で押さえる。
この痛みは、夢のせいだ。
夢の中で俺はエリックだった。
いや、今もエリックなんだが。

なんというか、今までのエリックの経験、過去をエリック視点でやり直した感じ。
そのせいで、今の俺は、俺なのかエリックなのかよくわからない。

が、それはどうでもいい。
今優先すべきはいかに死亡フラグをへし折るかだ。
この死亡フラグ満載の世界の中でいかに死なないかということ。

特にエリックは頭上注意イベントが待っている。
いや、そのあと変態仮面として復活するんだが、今の俺はエリックであってエリックでない。

俺 IN エリック。
いや、むしろエリック俺プラス。
INするならばラブプラスがよかった。

このまま頭上注意イベントをなぞって無事ですむかわからない。

だから、俺は、未来を変えなければならない。
頭上注意を回避するために。


――俺が、このクソッタレな世界で生きるために。





















はい、まずはそれとなく周囲のエリック評価を確認しました。
いや、今の俺はエリックの経験も過去も持つが、俺プラスなので今までと変わっている。下手なことして、エリック変わったねぇーなんて思われたらやりずらいので、エリックの評価を確認して、周囲に変な印象を与えないようにする作戦なのだ。

で、収集した結果がこれ。

・・・腕はそこそこに立つ。
・・・なんかむかつく。
・・・ナルシスト。
・・・服が寒そう。
・・・第一部隊所属。
・・・第一部隊のリーダー、横乳、ムッツリ、ナルシーのナルシー担当。
・・・ブラスト使いの誤射が少ないほう。
・・・でもむかつき度は誤射の多いほうよりも高い。

うむ、見事にマイナスイメージが強いな。
ちなみに第一部隊とはリンドウさん率いる討伐専門部隊ね。
極東支部じゃ一番前線にでる腕利き部隊ってわけだ。
エリック、腕利きだったのな。

とりあえず、だいたいわかった。
が、この評価でどうやってコミュニケーションをとれと?


むぅ・・・いきなり皆と仲良くなって守ってもらう作戦が不可能になった。
仕方ない、シミュレータルームで訓練するか。
いや、いきなり実戦は無理だって。
アラガミ前にして動ける自信なんかかけらもないし。
今はただ、ひたすらに訓練訓練。

とりあえず恐怖を前にしても逃げれるように頑張るぞー!








「ねぇ、リンドウ。何見てるの?」

「ん?あぁ、エリックの訓練報告をちょっとな。」

「へぇ、あの訓練嫌いがねぇ。どれどれ・・・って何よこれ!?」

「すごいだろ?12時間ぶっとうしのオウガテイル無限沸き設定だ。」

「ちょ、ちょっとリンドウ。いくらなんでもこれは無茶よ。なんでこんな訓練をやらせたの?」

「いや、俺じゃないさ。自主的だ、あいつのな。」

「ウソ!だって、エリックよね?いっつも訓練サボってたじゃない。」

「あぁ。俺も病み上がりだから止めたんだが、あいつがやらせてくれって、な。」

「しかも、これ、2週間連続!?」

「あぁ。ここ2週間、一日も欠かさず。既に訓練時間がこの支部トップクラスだ。」

「・・・大丈夫なの?」

「ん~?大丈夫なんじゃないか?今はまだあいつの休養期間だし好きにすればいいさ。」
「もう・・・そんなのでいいの?リーダー。」

「ま、うちの部隊は自主性を大事にってことで。・・・冗談はさておき、化けるぞあいつは。」

「・・・?」

「元々あいつはセンスは良かったんだ。まぁ、あの性格のせいでロクに訓練はしないから目立たなかったが。」

「そうね。たしかに訓練無しで今まで生きてこれたんだもの。」

「よほど前回の任務が堪えたようだな。」

「たしか・・・ソーマの任務に無理やり付いていったとか?」

「あぁ。あれはソーマ単独の任務。逆に言うとソーマレベルじゃないと逃げて帰れるのも厳しい任務。」

「・・・ソーマに聞いたわ。オウガテイルに囲まれて遠距離神機のくせに接近戦挑んだって。」

「結果、エリックは大怪我。ソーマは任務失敗。内容を見ればエリックが足を引っ張った形だが・・・これはいい機会だったな。」

「失敗したことが?」

「生きて帰れたことが、だ。あいつは命の意味を知った。どうなるか楽しみだな。」














目標をセンターに入れてスイッチ。
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ブラストの破壊光がシミュレータで再現されたオウガテイルを吹き飛ばす。
・・・なにこれおもしろい。
ついついおもしろくて時間が立つのを忘れるね。
しかし、訓練ばっかしてるけど、任務とか大丈夫なんだろうか。
リンドウさんは好きにやってくれーって軽い感じだし。
サクヤさんは横乳最高だし。
ソーマはこっち見るたびに、フンッ、とか鼻で笑うし。
でも訓練終わったらいつも『たまたま』鉢合わせてジュースおごってくれるんだが。

うーんそろそろ、実戦を経験したいな。

でもいきなりソロってのはきついし。
誰かに同行頼もうかな。

うーん。
リンドウさんが一番安心なんだが、あの人忙しそうだし。
サクヤさんはダメダ。あの横乳が気になって戦えない。
ソーマは・・・頼んでも断られそう。
で、そのあとにたまたま任務がこっちのほうだったんだ!とかいって合流しそう。

さて、どうすっかね。
ここは・・・












「同じブラスト使いの君に決めた!」

「ふぇ!?な、なんですか?」












カノンちゃんと一緒に簡単な任務に行ってきました。
内容はオウガテイル狩り。
・・・オウガテイルに縁ありすぎだろ俺。
心配してた戦場の恐怖もなんとか克服。
と、いうより無我夢中。
一々恐怖している暇はなかった。
死にたくなければ動け動け!って感じ。
つつがなく終わったぜ!




「射線上に入るなって、私、言わなかったっけ?」

・・・誤射されたけどね!




「ごめんなさい!ごめんなさい!」

はいはい、いーっていーって。誰だって失敗はある。

「でも・・・」

次、気をつけてくれればいいって。

「つぎ、ですか?」

そそ。次も一緒にやろーぜ。ブラスト仲間。

「また、私と一緒に行ってくれるんですか?」

おー。むしろこっちから頼むわー。友達いなくってさぁ。


こんな感じでカノンちゃんと友誼を深めつつ実戦訓練実戦訓練。















ずっと一人だった。

同じ隊の人達も、任務中でさえ私から離れるほどに。

理由はわかってる。

戦闘中に興奮しすぎて味方を巻き込んでしまうからだ。

治そう治そうって思っても、なかなかうまくいかない。

実戦訓練で治そうとして、昔は隊の皆に協力してもらってけど、今では誰も手伝ってくれない。

いくら訓練しても治る兆候はなく、訓練中に仲間を巻き込む始末。

少しずつ、周りから人がいなくなって、今では私一人になった。

隊長は気にかけてくれるけど、やっぱり任務じゃ後方支援を言われる。

命を掛けて、町を守るって覚悟してゴッドイーターになったのに、何もできていない。

私は、私の価値がわからなくなって。

もう、やめようかなって思ってた。

でも、そんなとき声を掛けてくれた人がいた。


――エリックさん。


あんまりいい噂を聞く人じゃなかった。

全然話したことのない人だった。

でも、私に声を掛けてくれた。



「あーえっと、台場さん、だよね?」

「あ、え、えっと、ほーげるさん!」

「うん。フォーゲルヴァイデね。なんか山登りする部みたいになってるから。」



一緒に訓練しようって誘ってくれて、一緒に任務に行こうって誘ってくれて。



「次はこの任務に行こうか。」

「またオウガテイルですか?」

「いや、なんか、受けざるをえないんだよねぇ・・・」



私の誤射も笑って許してくれて。でも、次は気をつけろって注意してくれて。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

「・・・おぉー星がみえまスター・・・」

「はぅ!ご、ごめんなさぁい!」

「OK、俺はまだやれる。そうだろうエリック。あのオウガテイルの皮を被ればお前はヒーローになれるんだ。」

「帰ってきてぇ!エリックさーん!」



次、がんばれ。そんな言葉と共に今日も私に付き合ってくれる。

次。この言葉がどんなに嬉しかったか。

次。この言葉通りに隣にいるあなたが、どんなに嬉しかったか。



「カノンちゃーん。このバレットなんだけどさぁー。」

「あ、はい。これはですねー。」



こうしてテーブル越しに誰かと相談しあうことが嬉しくて。



「おぉ。腕、上げたんじゃないか?カノン。」

「そうかぁ?あんま変わってねぇじゃん・・・まぁ誤射は少なかったけどよ。」

「ま、多少はあったわけだが・・・」

「あなたも、撃つ喜びをわかってきたみたいね。」

「え、あ、ありがとうございます!」



自信を持てるようになって、隊の皆と仲良く慣れたのも、あなたのおかげです。



「おーい、カノンちゃーん!」

「あ、エリックさん!今行きます!」



ありがとうございます、エリックさん。











今日も今日とてオウガテイル狩り。
カノンちゃんと。
・・・当初の昔エリックのままいくよ作戦が、脆くも崩れ去っている。
まぁ、いいや。
取り繕うのもメンドイし。
死なないためには仲間を作ることが大切!ってことで。

よし、今日も行こうか、あのクソッタレな職場へ。




~あとがき的アナグラ~

エリック魔改造。
最近憑依物が好きになってきたかもです。
エリック上田!まで続きます。





[27121] ゴッドイーター憑依2
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/06/09 20:50
「ふんふーん♪」

「・・・さん!」

今日もいっぱいアラガミを狩ったぞー。

「ヘエーエ エーエエエー♪ エーエエー ウーウォーオオオォー♪ ララララ ラァーアーアーアー ♪」

「・・・クさん!」

そりゃ気分も良くなるさ。鼻歌を歌うぐらいにな。

「ナァォォォォ オォォォォ サウェェェアァァァァ アァァァァ アァァァァ アァァァァ ♪」

「・・・ックさん!」

素材がいっぱい。報酬もいっぱい。

「ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー♪ アノノアイノノォオオオォーヤ♪ ラロラロラロリィラロロー♪」

「・・・エリックさん!」

つまり夢いっぱいなわけだ。

「ラロラロラロリィラロロー♪ ラロラロラロリィラロ♪ ヒィーィジヤロラルリーロロロー♪」

わかる?カノンちゃん。

「きゃぁぁぁぁ!エリックさん!エリックさぁん!?」

どったのよ。俺は今、天にも昇れそうなんだ。

「だめです!昇っちゃだめです!そんな向こう側へいくための呪文を唱えないでくださいよ!」

呪文て。いいかい。これはヘェーラロローと言ってだね。

「きゃぁぁ!エ、エリックさん頭から血、血が!」

そう、血が吹き出るくらいにハイな歌なんだよ。

「ごめんなさい!ごめんなさい!ピンポイントヘッドショットでごめんなさい!」

素晴らしかったよカノンちゃん。今日から君はデュークカノンに改名だ。

「嫌ですよ!私そんなに眉濃くないですぅ!じゃなくて、衛生兵!えーせーへーい!」

あれ?君の兵種ってなんだっけ?

「はぅっ!?私でしたー!」

おぉう・・・この世に神がいるように天使もいるようだね。手を振ってるよ。

「ふぇぇぇ!?それお迎えですから!手を振り返しちゃだめですから!ってザイゴートキター!?」

Oh・・・天使って綺麗な歌声だね。俺も負けてられないよ。

「いいですから!負けていいですから!鎮魂歌ですから!ザイゴートの鳴き声ですからそれぇ!っきゃー!?ザイゴートはこっちこないで!」

OK、カノンちゃん。さぁ一緒に歌おうじゃないか。イェェェェェェェェェゥゥアッ・・・

「エリックさん?・・・エ、エリックさん?きゃぁぁぁ!?息、息してないです!」

俺の律動についてこれるか?

「エリックさぁぁぁぁん!」


















危うくパトラッシュに会いに逝くところでした。エリックです。
さすがカノンちゃん。
扱いの難しいブラストで的確に頭の結合破壊を狙いに来た。

俺のな。

「はぅ・・・」

新型バレットの試し撃ちに付き合ってと頼まれたら、見事なホーミング爆弾でした。

俺に追従してきたがな。

「ふぇ・・・」

威力も中々。爆発に連動して炎を上げる仕様だね。
見事に燃え上がったよ。

俺の服がな。

「ふみゅ・・・」

おかげで1週間はベッド生活だよ。
有意義な休暇だね。

報酬が全部医療費で吹っ飛んだけど。

「あぅぅ・・・」






「と、いうわけで、新型バレットを作り直すぞ!」

「ごめんなさぁい!・・・って、え?」

「え?」

「え?」

「いや、なんで驚いてるの?」

「ふぇ?だ、だって。エリックさん大怪我して・・・」

「確かに全治一週間だけど。驚くほど軽症だな。」

「け、軽症って・・・」

「や、だってヘッドショットだよ?下手したら死んでるって。」

「はぅっ!?・・・私、やっぱりダメな子ですね・・・」

「はい。そこ落ち込まない。俺は生きてる。OK?」

「は、はい。エリックさんは生きてる。OKです。」

「じゃ、次、死なないためにバレット改造ね。」

「それでいいんですか!?」

「いいの。OKなの。俺は死にたくないの。だから改造するの。Do you understand?」

「イ、イエース。」

「はい、じゃお終い。あのバレット結構なホーミング仕様だったけど、どういう構成?」

「あ、はいっ。あれはですねー・・・」








はい、そんなこんなで退院。
この世界は死亡フラグで溢れている。
まさか頭上注意する前に背後から爆破されるとは。
カノンちゃんまじカノンちゃん。

まぁ、誤射の後に的確に回復弾撃ってくれるからいいんだけど。
じゃなければ死んでる。
で、最近気づいたんだが、どうやら俺は遠距離撃ちが苦手らしい。
それって狙撃兵として致命傷じゃね?と思ったのは秘密。いや公然の秘密。
遠くからだと、アラガミの行動予測がヘタクソすぎてチョクチョクはずれてしまう。
結果、近距離とはいかないけど、中距離まで近づいて爆風をばらまいてるわけだ。

俺は基本的に高火力、広爆発の殲滅戦が得意なんだが、これって前衛いたら無理じゃね?前のエリックは大口レーザーの貫通ばっか使ってたぽいけど、それってブラスト向いてないし。

この考察の結果、俺は遠距離神機に向いていないと出ました!

Oh・・・なんて致命傷なんだ。
神機ってのはその適正上いっかい握ったらもう変えれないわけだし。
いまさら近距離に持ち替えはできない。

いままでは、ソロ、またはカノンちゃんとのコンビしか想定してなかったけど、このままじゃちょいとまずい。

今はまだリハビリ期間ってことで軽い任務か自主選択の任務ばっかりだけど、第一部隊としての任務で広範囲殲滅だとリンドウさんとソーマの命が風前の灯。

これは改善しなければ。

とはいえ、今までずっと中距離からの広範囲爆破かゼロ距離からのブラスト密着ロマン撃ちばっかだったので、いまさら遠距離の訓練方法がわからない。
誰かに師事するかぁ・・・

え?カノンちゃん?
ハハッ。

さぁ誰に師事しようかな。

ヒドイですーって声が聞こえた気がするが気のせいだ。
















「と、いうわけでお願いします!ジーナ姐さん!」

「私、あなたの姉じゃないんだけど。」










やってきました贖罪の街。
建物も結構残ってて高いところからの狙撃にピッタリだね。
今回の師匠はジーナ姐さん。
根っからのスナイパーでスナイピング大好き姉御。
遠距離からの訓練にピッタリの先生だね。

それにしても・・・とても絶壁です・・・

「狙い撃つわ。」

「何故にWHY!?」

「なんとなく。」

Oh・・・なんとなくで狙い撃たれそうになった。

「それにしても・・・私に狙撃を教えて欲しいってどういう風の吹き回しなのかしら?」

「そりゃもちろん極東支部のNo.1スナイパーに教えれもらえれば上達すると思ったからです!サー!」

「ふふ・・・そう。でもブラストで狙撃ってなかなかやらないわよ?」

「狙撃ってのは相手の意識外から攻撃できる唯一の手段だと思った次第であります!サー!」

「それで?」

「つまり!チームプレイではなくてはならない、重要なポジションを占めており、必要不可欠な技術だと思ったわけであります!サー!」

「あら、わかってるじゃない。・・・いいわ、狙撃を教えてあげる。」

「ありがとうございます!サー!」

「さーさーうるさいわ。黙ってついてきなさい。」

「サーイエッサー!」

ガチャリ。

「OK、やめるので狙い撃つのはやめてください。」

「わかればいいのよ。さぁ、狙撃ポイントへ行くわよ。」

「うぃっす。よろしくお願いします。」

ジーナさんて、ちょっと恐いと思ってたけど意外と話しやすいね。







「いい?狙撃は、相手に気づかれることなくその命を奪うことができるの。」

ふむふむ。

「地上蠢く虫共を、一瞬ではじき飛ばすことができるわけね。」

ふむ、ふむ?

「スコープの向こうでボーっとしてるアラガミに穴を穿つ瞬間なんか、最高だわ。」

ふ、ふむ・・・?

「そう、花が咲くのよ。ふふ・・・綺麗な花が・・・あぁ・・・いい気分だわ・・・」

O、Oh・・・

「ふ、ふふ・・・いい・・・いいわ・・・」

何このトリガーハッピー。狙撃講座が狙撃宗教に変わってるんですけど。

「さぁ・・・あなたも狙撃を好きになるのよ・・・」

ちょっ、別の扉が開きそうなんですけどー!







授業はまともでした。
アラガミを撃つ瞬間は何か食ってるときが最適とか。
アラガミごとの習性メモを神機に貼りつけとけば、迷わなくていいとか。
狙撃をする際の体勢とか、神機の構え方とか。
おかげで、そこそこに遠距離撃ちの心得を得てきた感じだ。

「えぇ・・・良くなってきたじゃない。」

体勢を教えてもらうために、ジーナさんが俺の後ろから抱きつくように手を触る。
他人の神機に触れることはできないから、手に手を重ねる感じ。
Oh・・・ちょっといい匂いにくらっときました。
でも、背に感じるのは悲しいほどの絶望感・・・

「えい。」

「痛い!なぜチョップ!?」

「なんとなく。それよりも、集中しなさい。あそこにオウガテイルが見えるわね?」

「いっつー・・・はい、見えます。」

狙撃の獲物はオウガテイル。
オウガテイルに縁ありすぎだろ俺。

「いい、絶対に焦らないこと。狙撃は外れて、気づかれたらお終い。焦らず確実に一撃で。いいわね?」

「・・・はいっ。」

集中集中。
意識を全てオウガテイルに注ぐ。
今必要なのは、オウガテイルの情報だけ。
耳も鼻も必要ない。
ただ、オウガテイルだけを見つめる。

あ、あくびした。アラガミってあくびするのな。

ゆっくりと歩いている。
まだ、まだだ。俺は動いている獲物を撃てるほど上手くない。

あ、曲がろうとして足を瓦礫にぶつけた。
おぉう・・・泣いてるのか?・・・アラガミも小指をぶつけた痛みには勝てないのか。

まだ、まだだ。ここからじゃ、遮蔽物にぶつかる可能性がある。もっと開けた場所じゃないと。

あ、オウガテイルが増えた。前方から2匹。
俺の獲物の一匹と前方からの2匹。
焦るな。俺の狙いは最初のやつだ。

あ、なんか喧嘩してる?
2匹の片割れ、大きいほうが・・・なんだろう、どや顔?してる。
で、2匹の片割れ小さいほうが、気まずい感じで俺の獲物から顔をそらしている。
で、俺の獲物は信じられないと、大口開けて呆然としている。
・・・なにこの修羅場。おそらく俺の獲物と小さいやつは恋人関係で、小さいやつが大きい奴と浮気中に出くわした・・・みたいな。

まだ、まだだ。いや今だ。待て。落ち着け。
あれはアラガミ。不思議がいっぱい。修羅場だってあるさ。
だって生きてるんだもん。
そうだろう?神様だって恋してもいいじゃない。
アラガミだって恋をしたっていいじゃない。
生命の神秘って素敵やん?

あっ。俺の獲物が泣きながら走り出した。
絶好の狙撃タイミングを逃してしまった。
SHIT!
今だったろう俺。
いや、まだだ、まだチャンスはある。
俺の獲物は開けた場所まで走ってくると、止まった。
よし、射角もいい。遮蔽物もない。
あとは、タイミングで・・・!

っ!空に向かって吼えた!完全に動きが止まっている!今だ!


目標をセンターにいれてスイッチ!
























「やった!やりましたよジーナさん!」

ええ、そうね、やったわね。

「おっしゃー!狙撃成功だ!」

狙撃の獲物がいた眼下の広場を見ると、まだ土煙が轟々と上がり、パチパチと周りが燃えている。

「これが狙撃の醍醐味、成功の美酒なんすね!」

えぇ、そうね。
あなたのは狙撃じゃなくて爆撃だったけれども。
鋭い弾丸で華を咲かせるじゃなくて、絨毯爆撃でミンチより酷いや、だけれども。
とはいえ、やったーと子供のようにはしゃぐ弟子1号にそんなことはいえない。

・・・まったく、私はなにをしているのだろうか。
狙撃とは、孤独で孤高で至高のものであったはずなのに。
これじゃ、狙撃とは程遠いわ。

・・・でも悪くない。
こうして、誰かと成功の喜びを分かち合うのは・・・悪くない。

狙撃というスタイルはその性質上、いつも隠れている。
だから、臆病者だとなじってくる馬鹿もいて、少し辟易していた。
そんな愚か者共なんか気にする必要はないと壁をつくっていた。

でも、そんな私の教えを請いてきた男。

――エリック。

最初は冗談か、私を馬鹿にしているのかと疑ったが。
こいつは本気のようだ。
ひたすらに真面目に、ただただ、私から技術を得ようと努力する。
私を先生と呼び、教官と敬い、姉とよんで頼ってきた。

たった一日の訓練だったけど、私の世界が広がったような気がする。

「おっしゃー!これで遠距離もばっちりだ!」

どうやら私の弟子1号兼自称弟は調子に乗りやすいようだ。
狙撃の道は始まったばかり。
まだ、この長い狙撃坂を上がり始めたばかりなのだ。

「調子に乗らない。」

「いてっ。」

軽く背中を叩く。
こうして諌めて上げるのも先生兼姉の役目ね。

「さぁ、次、いくわよ。」

「うっす!」

うん、悪くないわね。
誰かにモノを教えるのも。
誰かとともに狙撃をするのも。

・・・誰かが隣にいることも。





「付いてきなさい、愚弟。姉が最高の狙撃を見せてあげるわ。」

「(アネ?)うっす!よろしくお願いします、ジーナ姐さん!」


















あれから、ジーナの姐さんとの訓練を続けた。
互いの任務に支障が出ない程度に何度も何度も。
おかげで、遠距離射撃の腕もそこそこ上がったし、狙撃用バレットの作り方もわかってきた。

しかし、ときどきジーナさんが愚弟愚弟となじってくるんだが、成長した俺でもいまだ愚かな弟子の域を超えないということなのだろう。

いつか、ジーナさんが自称する『アネ』なる名狙撃手になりたいものだ。

さぁ、今日も頑張って狩るか。オウガテイルを。










「あ、エリックさん見てください!改良型ホーミング爆裂バレットを!」

「エリック。今日も狙撃に行くわよ。」

ギシリ・・・そんな音が聞こえた。
なぜか、初めて狙撃したオウガテイルのことが頭に浮かんだ。






拝啓、私は今日も元気にクソッタレな世界で生きています。











~あとがき的アナグラ~
今回のヒロインは間違いなくオウガテイル。


感想ありがとうございます!
さすがエリック上田。知名度はばっちりですね。

妹ちゃんも出しますので、ご期待ください。
ではでは~。


PS.
妹ちゃん、エリナだっけ?の台詞確認のため、強くてニューゲームを始めたら、
装備が全部封印されていた。
何を言っているのか、私にもわからない。
ただ唯一わかっていることは、下級ヴァジュラにすら恐怖する新人時代が帰ってきたということだけだ。

・・・データ上書き保存しちゃったぁ・・・orz



[27121] 【一発】ロックマンX 憑依物【ネタ】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/05/23 21:37
「うぉ~懐かしい~!」

今は俺は、パソコンであるゲームのプレイ動画を見ている。
そのゲームとは『ロックマンX3』。
我が青春のバイブル。
一番やりこんだロックマンシリーズだ。

「ゴールドチップとか最初に気づいたの誰だよ。」

懐かしいなぁチートチップ。

「うぉぉぉぉビームサーベル強すぎんだろ!」

いつもゼロには犠牲なってもらった。
犠牲になったのだ・・・ゼロェ・・・

結局ぶっとうしで最後まで見てしまった暇人な俺。























///////////////////////////////////////


「起きよ。」

・・・うるせぇなぁ。

「起きるのじゃ。」

・・・うるせぇって、こちとら深夜3時寝なんだ。

「起きるのじゃ。」

・・・もうちょっと寝かせろって。





「起きんかぁ!」

「うぉ!?」

「ようやっと起きたか。」

怒鳴り声に目覚めれば、目の前には爺さんがいた。
アゴヒゲが素敵なお爺さんだこと。

「な、なんだぁ?」

「ふむ。周りの状況を理解しようとするか。中々の成熟度じゃの。」

周りを見渡せば、機械、機械、機械。
見たこともない機械に囲まれた、広い部屋。
俺はその中心の台座のようなところに寝ていた。

「何処だここ!?」

自分の寝ていた部屋とはまるで違う。
俺の部屋は8畳一間のボロアパートのはずだ。

「うむ。ここはワシの研究所じゃ。」

「あん?研究所?なんで俺はそんなところにいるんだ?」

「もちろん、ここで生まれたからじゃよ。」

「はっはっは。爺さん、そのギャグ最高だぜ。」

「うむ?・・・ちと、プログラムをいじりすぎたかの?」

「ところでさ、爺さんだれ?」

「むぅ・・・ワシのこともわからんか。柔軟性を重視しすぎて基礎知識が足りとらんか。」

「あん?」

「なんでもない。ワシは、おぬしの生みの親じゃ。」

「はっはっは。そのギャグ最高だぜ。で、誰?」

「だから、生みの親じゃて。」

「もうジョークはいいって。」

「だから、生みの親じゃ。」

「おいおい、天丼もそこまでいくとつらいぜ?」

「だから!生みの親で!機械工学博士のドップラーじゃ!」

「はっはっは機械工学博士とかその年になって厨二・・・ドップラー!?」

「うむ。ドップラーじゃ。」

ちょ、おま、ドップラーって。
どこかで聞いたことあるんですけどー!
よくみれば、肩になにか刺さってるし!
これは確定ですか!?

「HEY!爺さん!俺って誰だYO!」

「むぅ・・人格プログラムミスったかのぉ・・・おぬしはワシの最新作、レプリロイド『マック』じゃ。」

「マックぅぅぅぅぅ!?」

マック!よりにもよってマック!
エックスとかゼロとか贅沢は言わない。
せめてVAVAでよかった!
いやステージボスでよかったのに!
まさかのマーーーーーック!
OPで一瞬にして消えていったマックじゃないか!
行方不明になっていたマックじゃないか!

俺にどうしろって言うんだぁーーーー!


「おぬしは今日からイレギュラーハンターとして働くのじゃ。」

「なんですと?」












時代は初代Xだった。
まだシグマ反乱前。
ドップラーこと爺さんもまだ普通の科学者爺だった。
このころからマックっていたのか。
ちなみに、X3のステージボス、ドップラー軍団は一体もいません。
つまり、この時代の最新作ってことはX3では骨董品ってことですねわかります。

とりあえず、俺がマックであることは否定できない事実だ。
未来に待つ死亡フラグ回避のためには・・・




「おーい!マック!次の任務だよ!」

「おう!すぐにいくぜエックス!」

主人公と仲良くなることだ。

仲良くなればきっと見逃してもらえるはず。

おなじB級ハンターとしてゼロ先輩の下で切磋琢磨する日々だぜ!

エックスはまぶしい笑顔で迎えてくれるのに、ゼロ先輩は冷たい瞳でなじってきます。
もうちょっと優しくしてくれても良いじゃない。

まぁ、でもそこそこに仲良くなれたぞ。
これで未来は安泰だ!





と、思ったら、第一次シグマ反乱に巻き込まれたでござる。

なぜにWHY?

よくよく考えたら当然だった。
エックスと仲いいからシグマ討伐に誘われちゃったYO!

第一次シグマ反乱とかマックな俺には無理ゲーすぎる!

俺、B級ハンター。
相手、特Aだらけ。

OH MY GOD。

スペックが違いすぎるからぁぁぁぁ!?





と、思ったら、意外と戦えた。
エックスが7体倒してる間に1体、倒せたよ!
ごめんねペンギンさん!

よくよく考えたら、マックって結構高スペックだよね。
だってエックスを一撃で動けなくするんだぜ?
油断していたとはいえ、あのエックスは2回もシグマを倒したエックスだ。
つまり歴戦の戦士。漫画版まじカッケェ。つまりはそういうこと。

そのエックスを一撃で沈めるマックもすごいってことだ!
まぁ、実はエックスと共闘しただけなんだが!
ごめんねペンギンさん!君だけ2対1だったね!

で、今はそのペンギン戦が終わったところ。

「ぐっ・・・!」

「マック!?」

「すまねぇエックス・・・ドジふんじまったぜ・・・」

「まさか怪我を!?」

「あぁ・・・さすが、腐っても特A級だな・・・俺の右手のマグナムが凍りついてらぁ・・・」

「そんな!?」

「わりぃな・・・俺はちょいと休んでいくぜ・・・」

「マック・・・!」

「へへっ・・・なんて顔してやがる・・・こんなもん・・・すぐに治らぁ・・・」

「君は・・・」

「先に行ってな、エックス・・・すぐに追いつくからYO・・・」

「・・・わかった・・・」

「あぁそれと・・・俺の分も残しとけYO・・・?」

「ふふっ、それは約束できないよ。」

「はっ・・・言う、じゃ、ねぇか・・・」

「マック!」

「少し・・・眠く、なってきた、な・・・なに、してやがる・・・さっさと行け・・・」

「あぁ・・・待ってる、必ず、来てくれると、信じているから!」

「あぁ・・・当然だ・・・相棒・・・」

(ピュンッ!)



嘘ですが。
別に凍っていません。
だって前衛をエックスにまかせて、後ろでマックバスターをちょこちょこばら撒いてただけだから。

こうでもしないと、シグマのところまで連れて行かれそうだから。
すまんエックス!友情よりも命が大切なんだ!

グッドラック!





















///////////////////////////////////////

「この程度かぁぁぁぁぁエェェェェェックスゥゥゥゥゥゥ!!」

「VAVAぁぁぁぁぁ!」

「これでテメェはお終いだぁぁぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!?」

「スクラップになりなぁ!」








はい、その無防備な背中にマックバスター。

「ぐぁ!?・・・誰だ!?」

「遅れたやって来た正義の味方だこの野郎。」

「マック!?」

「おーうエックス。生きてるなぁ?」

「テメェ・・・B級風情が俺に不意打ちだとぉ?」

「B級風情に後ろ取られちゃって残念な特A級さん何か?」

「テメェぇぇぇぇぇぇぇ!」

「逃げるんだマック!」

「答えはノーだエックス!」

「死ねぇぇぇB級ぅぅぅぅぅ!」

「お前、俺とキャラ被りすぎなんだよ!色とか!ここで退場しろYO!」
















はい。終わり。マックバスターなめんなよ。
エックス倒せるんだからな。マジで。

「・・・たくっ・・・なにやってんだか・・・」

「マック・・・」

「・・・一人で・・・トンズラこく気だったんだがなぁ・・・」

いや、ホント。なんで俺ここにいるんだろう。

「もういい!喋るな!」

「・・・あーあ・・・相棒がショボイと・・・苦労・・・するぜ・・・」

カッコよく登場して、爽快にVAVA倒したら、ゼロのフラグまで奪ってしまった。
つまり上半身だけの俺。
下半身はお星様になりまスター。

「・・・エックスよぉ・・・勝て・・・YO・・・」

「あぁ!あぁ!勝つ、絶対に勝つから!だから!」

「・・・男の・・・涙は・・・みせる・・・もんじゃ、ねぇ・・・ZE・・・」

「マックぅぅぅぅぅぅぅ!」

「・・・ゼロ先輩・・・あと頼んま・・・ピーーーーーーー」

――ブツン。


































///////////////////////////////////////


――ブゥン。

「目覚めよ。我が兵士よ。」

「グッドモーニング。親父殿。」

目が覚めたら爺さんがいた。

「お前に使命を与える。」

「あいあい。了解でござるよ。」

あらまぁ、喋り方が随分とまぁカッコよくなったじゃない爺さん。

「イレギュラーハンターエックスを捕獲せよ。」

「――了解。」

これはもうX3ぽいね。

2の間ずっと眠ってたのか俺。
爺さん、完全にウイルスにやられちゃってるぽいし。
こっちに命令したらずっとなにか作ってるし。
シグマの体かな?

まぁこうなったら、やることは一つだね。


レッツ逃亡。
行方不明のマックにならねば。X3が終わるまで。

うん。だってマックのイベントなくてもストーリに変化なさそうだしいいんじゃね?
エックスへの義理も前回果たせたと思うし。

俺は名実ともに行方不明になる!

ギュイーン!ガガガガッ!って感じで何かしてる爺さんを最後に見る。


――HEY!爺さん!新しい武器頂戴YO!

――馬鹿モン!おぬしはそれが一番バランスがいいんじゃ!

――でもでもーバスターだけじゃ、こう、ほら、地味じゃん?

――馬鹿モーーン!バスターいいじゃないバスター!撃って良し溜めてよし連射よしじゃぞ!?

――マックバスター溜めれるのか。

――え?言ってなかったかの?




走馬灯のように爺さんとの日々が流れる。



――HEY!爺さん!肩たたきしてやんYO!

――それは嬉しいの。それじゃ頼むわい。

――任せろ!・・・トントントンバギン!・・・あっ。

――ぬあぁぁぁぁぁぁ!

――すまねぇ爺さん!なんか肩に刺さってるの割っちまったZE!

――それわしのエネルギータンクゥゥゥゥゥ・・・

――爺さん?・・・爺、さん?・・・爺さぁぁぁぁぁん!





いつか過した日々は間違いなく宝物だった。
が、俺の爺さんはもういないのだ。

グッバイ爺さん。

グッドラック。
























///////////////////////////////////////


「ぐ・・・よくやった・・・エックス君・・・」

「喋れるのか!?ドップラー!」

「ワタシは・・・シグマに洗脳されていた・・・」

「なんだって!?」

「やつは・・・悪性プログラムだ・・・わたしは・・・やつの体を作ってしまった・・・」

「それはどこに!?」

「それは・・・」

『そこまでだ。ドップラー博士。』

「シグマ!?」

「・・・まさか・・・ここまで来るとは・・・」

『ご苦労だった。ここで眠りに付くがいい。』

「シグマぁぁぁぁぁ!!」

「・・・いかん・・・逃げろ・・・エックス君・・・!」

『エックス共々、引導を渡してやろう。』

「ぐっ・・・さっきのダメージがまだ・・・」

「・・・すまんな、マック・・・」

『塵となれ!』

「くそぉぉぉぉ!」

「・・・おぬしの新装備・・・渡せぬままじゃった・・・」















はい、その無防備な背中にフルチャージバスター。


『ぐうあぁっ!?』

「えっ?」

「・・・!?」

ゆっくりと歩く。カシンカシンてなる足音に惚れそうだ。

『何者だ!?』

「き、君は!?」

「・・・おぉ・・・おおぉ・・・!」

泣くなよ爺さん見っともないぜ。





















「HEY!そんな枯れた爺さんでも俺の親父なんだYO!そこまでにしてもらおうかケツ・A・GO!」


「君は行方不明になっていたマックじゃないか!?」





投げっぱなしジャーマン。
時々こういうのを適当に書きたくなるのです。
これぞネタの墓場。続かない。
※ちょこっと加筆



[27121] 【病み】ロックマンX 憑依2【注意】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/06/11 08:40
『イレギュラー』


人のために働き、人のために活動し、人のために生きる『レプリロイド』が、
人に仇なす存在になったとき、『イレギュラー』と呼ばれる。

レプリロイドを傷つけ、人を傷つけ、暴虐の限りを尽くす危険な存在。

もちろん、そんな危険な彼らを、僕達レプリロイドは許さない。




『イレギュラーハンター』


レプリロイドのために、人のために、人を守るため、イレギュラーを狩る戦闘型レプリロイド。

圧倒的な戦力を持って、イレギュラーを喰らい尽くす人類の守人。

そして、僕もまた、その狩人の一人として、今日も戦う。








僕の名はエックス。

イレギュラーハンター、エックスだ。





・・・ずっと、ずっと戦ってきた。

イレギュラー達と、人に仇なす存在と・・・かつての仲間と。

共に戦った同じ部隊の仲間とも、信頼していた隊長とも戦ってきた。

僕は、いわゆる落ちこぼれで、人を裏切った仲間、いや元仲間は凄腕ばかりだった。

勝てるはずがない。

だけど、戦って、戦って、戦い抜いて、彼らを破壊した。

人を守るために。

人類のために。

それを一人でやったなんて絶対に言えない。

僕は、僕の親友のおかげで今、こうして立っていられるのだ。


一人は『ゼロ』。

特A級の凄腕の彼は、いつも先頭に立って僕を導いてくれた。


そして、もう一人。

いつも僕が戦えるようにサポートしてくれた彼。

そして、僕が、一人で戦えるように、『心』を教えてくれた彼。







――『マック』。



僕の2人目の親友。

そして、掛け替えのない『相棒』だ。







彼との出会いは、仲間達の反乱の前に遡る・・・


























「そこまでだ!その人を放して投降しろ、イレギュラー!」

「た、助けてくれぇ!」

「グルルルル!」

目の前にイレギュラーと、人質の市民。
落ち着け、エックス。
まずは、情報を整理しろ。
イレギュラーの情報から隙を見つけるんだ。


――ブゥン・・・ピッ・・・ピピッ・・・


目標は、二足歩行人型レプリロイドの獅子モデル。
元々は自然公園の環境維持用のレプリロイド。
ただし、放し飼いにされた貴重な動物を密猟者から守るために武装を持っている。
メイン武装は両腕のカギ爪。
サブ武装は尾のショートバスターか。
カタログスペックはスピードタイプ。
かく乱が戦術か?
いや、元々は広い公園を行き来するためのスピード。
獲物に追従するため、だね。

現在の状況は尾を人間の胴に巻きつけ、僕の前に盾としておいている。
人質は幸い目立った外傷はないが・・・この状況だと、下手な動きはできないじゃないか・・・!

最優先は人命だ、どうにかして隙を・・・


「その人を放し投降するんだ!その後、更正プログラムを受ければ、君は元に戻れるんだ!」

「ぐ、ぐぐぐぐぐ・・・ガアァァァァァ!!!」

「ひ、ひぃぃぃ!?」

意思疎通ができないのか!?
どうするエックス!
考えろ、考えるんだ。

ダッシュで、尾の内側に潜り込む?
・・・無理だ、僕よりもイレギュラーのほうが素早い。

三角蹴りで頭上の死角を狙うか?
・・・無理だ、時間がかかりすぎる。

バスターで、人質を捕らえる尾を狙い打つ。
・・・これが、最善か。


「警告する!その人を放せ!僕達ハンターはこの場で君を処断する権限を持つんだ!投降してくれ!」

「GAAAAAAAA!」

だめか・・・

なら!

「・・・」

左腕のバスターを構え、ロックオン。

「・・・・・・」

尾を、尾だけを撃つんだ。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

手が震える。

もし、もしこのバスターが、人質を撃ったら・・・

「・・・ぅ・・・」

どうなる。どうなる?どうなる!?

「・・・うぅ・・・!」

クソっ!狙いが、狙いが定まらない!





「ARARARARARARA!」

「しまっ!?」

イレギュラーが人質ごとこちらに突っ込んできた!?






「はぁっ!」

「GAAAAAAA!」

「っ!?」

後ろからの光弾がイレギュラーの動きをとめた!
これなら・・・!

「今だ、エックス!」

「喰らえぇぇぇぇ!!」

バスターでイレギュラーを撃ち貫く!
























【第17部隊イレギュラーハンター本部】



「報告は以上です。」

「ご苦労だった、ゼロ。」

ゼロがシグマ隊長へ報告をする。
僕はその後ろで、『処分』を待っている。

「さて、エックスよ。」

「・・・はい。」

シグマ隊長が僕の前まで歩いてきて、こちらを見下ろす。

「私の言いたいことがわかるか?」

「・・・はい。」

「何故、イレギュラーの頭を撃たなかった?」

「・・・」

僕は、イレギュラーを撃った。
イレギュラーの足を。
エネルギータンクのある心臓部ではなく、メインメモリがある頭でもなく。
ただ、機動力を奪うために足を撃った。

「状況を記録しているタイムレコードから確認したが、ゼロの援護射撃の後は絶好の機会だったはずだ。」

たしかに、そうだ。
確実にイレギュラーを破壊できるタイミングだった。
でも・・・

「僕は・・・僕は彼に更正プログラムを受けてもらいたくて・・・そうすれば、元のレプリロイドに・・・」

「そのために人間の命を危険にさらしたのか?」

「っ!?」

そうだ、足を撃ったあと、イレギュラーは地面に倒れ伏した。
そして、人質の人間にその爪を突き立てようとしたのだ。

「エックス、我々はなんだ?」

シグマ隊長の声が静かに響く。
僕は、僕達は・・・

「イレギュラー、ハンターです。」

「そう、我々はハンターだ。人を守るための存在だ。その我々が人を危険にさらしてどうする?」

「それは・・・」

その通りだ。
僕は、人を、守るべき人を、僕の我侭のために危険にさらしたのだ・・・!

「申し訳、ありません。」

「謝ってすむ問題ではない。エックスよ、お前はお前の生きる意味を否定するのか?」

「っ!」

「我々ハンターは人を守るために存在する。それを迷うことは、自身の存在を否定することと同じだ。」

「・・・は、い。」

「・・・処分を下す。」

・・・そうだ、僕はハンター。
その役目も果たせないのなら、存在価値なんて・・・







「待ってください。」

「む?」

ゼロ?

「エックスの判断はあの場では最良でした。」

「ふむ?」

「イレギュラーはエックスへ人質ごと突撃しました。慣性の働くあの状態でのヘッドショットは至難の技です。
 ・・・特A級でもないかぎりは、ね。」

「たしかに・・・だが。」

「それに、心臓部、エネルギータンクへの攻撃は危険すぎます。
 あの距離でタンクを破壊しては、爆発に人質が巻き込まれていたでしょう。」

「・・・ふむ。一理ある、か。」

「ですので、あの場ではイレギュラーの最大の特徴であるスピードを殺すことが最良かと。」

「・・・よかろう。エックスの持てる技量の中では最良の動きだったわけだな?」

「えぇ。」

「・・・処分は無しだ。だが、エックスよ人質を危険にさらしたのは事実。
 お前には半年の訓練を命ずる。その間、任務へは就かさない。よいな?」

「はい。」

「良し、行け。」

「「はっ!」」

「次はない。・・・励めよ。」



シグマ隊長の言葉を背に司令室を出た。














「ほらっ。」

「あ、ありがとう。」

ゼロが放ったE缶を受け取る。
そして二人並んで、通路のベンチに座った。

「・・・ごめん、ありがとう。」

「何がだ?」

「・・・庇ってくれて。」

「何が?俺は思ったことを言っただけだぜ?」

「それでも、ありがとう。」

「気にすんな。友達だろ。」

ゼロは、いつも僕を庇ってくれる。
そして、友達と言ってくれる。
僕は、そんな彼になにか返せているのだろうか。
このままじゃ、友と呼んでくれる彼の顔に泥を塗ってしまわないだろうか。

「じゃ、俺は次の任務があるから行くぜ。」

「あ、うん。ありがとうゼロ。」

ひらひらと手を振りながら去るゼロ。
その後ろ姿を、見えなくなるまで見送った。









「・・・はぁ。」

自然とため息がでてしまった。
僕は、僕は何をしているのだろう?
人を危険にさらしてまで意地を張る場面じゃなかっただろ・・・



(・・・聞いたか?・・・)

(・・・あぁ、またエックスがやらかしたらしいな・・・)



・・・遠くから声が聞こえる。



(・・・あいつ、またイレギュラー撃たなかったってよ・・・)

(・・・マジかよ・・・あいつ本当にハンターか?・・・)



・・・いつものことだ。



(・・・まったく、本当に役立たずだぜ・・・)

(・・・だな。なんであんなのが精鋭揃いの17部隊にいるんだ?・・・)



・・・本当のことだろうエックス。



(・・・だからあいつ、万年B級なんだよ・・・)

(・・・ハハッ!まったくだ!・・・)



・・・っ!



――その場から逃げ出して、言葉から逃げ出して、現実からも逃げ出した。















「・・・僕は・・・」

辿り着いたのは、トレーニングルーム。

誰もいないガランとした広い部屋。

「・・・僕は・・・」

何がしたいのだろう。

どうしたいのだろう。

わからない。

・・・わからない。












「・・・僕は・・・!」

「HEY!そこにいるのは誰だYO!」

「っ!?」



底抜けに明るい声。

突如かかった声に振り向くと、紫のボディに、顔を覆うバイザーをつけたレプリロイドがいた。


「おぉ?お前、もしかしてエックス?」

「そ、そうだけど君は?」



見たことのないレプリロイドだ。
誰なのだろうか。


「俺の名前は『マック』!今日からこの部隊に配属されたB級ハンターだ!ヨロシク!」

にこやかに握手を求められて、つい応じてしまった。

「ハッハー!ヨロシクなエックス!」

「あ、えと、よ、よろしく?」

激しく上下へ握手した手を振るマック。
あまりに明るい様子に、先ほどまでの暗い気持ちが吹き飛んでしまった。









――この日、僕は2人目の親友ができた。























二人で訓練をつんだ。

「HELP!助けてエックスーーーー!」

「ちょ、マック!メットールに囲まれた状態でこっちにこないでーーー!」



二人で色んなことを語り合った。

「で、俺は言ったやったのよ。『来たぜ、ヌルリとな・・・』ってな!ヒューッ!」

「どういう状況なのそれ!?」



二人で馬鹿にされたこともあったけど、笑い飛ばしてやった。

「なにがB級ダメダメコンビだYO!・・・本当のことですね。」

「冷静にへこまないでよマック!」



彼はいつも明るくて、

「HEY!エックス気にすんなYO!あんなやつらすぐにケチョンケチョンにできるさ!・・・いや、マジで。」

おっちょこちょいなところもあるけど、

「・・・財布落とした・・・エックス様!お金貸してください!」

その明るさに、優しさに、僕は励まされて、

「行こうぜ、エックス。」

君となら、もっと先へ『進める』。
そんな気がしたんだ。














トレーニングルームの一角。
今日もマックと訓練をつんでいる。

「・・・はぁ・・・」

「HEY!どったのよエックス?」

メットールのヘルメットにバスターを撃って、反射弾に当たってコンガリしたマックがコッチに来た。

「あ、マック・・・いや、なんでもないよ。」

「それはあれか?聞くな!絶対に聞くなよ!という振りだな。OK、お兄さんに話してみな?」

「誰がお兄さんだよ。・・・ねぇ、ちょっと聞いていい?」

「おう。何でも聞いてくれ。俺は巨乳派だ。」

「聞いてないから!・・・そろそろ任務を与えられるよね。」

「だな!遂に来たか・・・マック伝説の開幕が・・・!」

「一瞬で閉幕だね。・・・君は、怖くないのか?」

「意外と辛らつですね親友。何が?」

「・・・戦うことが。」

「はぁ?」

マックは心底信じられないといった顔でコッチを見る。
そんなに驚くことなのだろうか。

「僕は、僕は・・・怖い。」

「あー、OK。じっくりと話合おうか。・・・で、なにがあった。」

「・・・それは・・・」

マックと出会う前の事件、僕が迷ったことを、撃つ事を恐れたこと話した。





「・・・僕は!怖くて!・・・人を撃つかもしれないことが、レプリロイドを破壊することが!」

「・・・」

マックは、静かに僕の話を聴いてくれた。
彼は、どう思ったのだろうか。
呆れたのだろうか。

こうやって『迷い』続ける僕を・・・



「あーなるほど。だいたいわかった。」

「え?」

その声はまったくいつもと変わらなくて。
逆に、僕のほうが驚いてしまった。

「なぁ、エックス。お前さバスター撃つ時、どうやって撃ってる?」

「どうって・・・相手をロックして、タイミングを計って・・・」

「NO!それじゃダメ!ダーメダメ!」

「ダメって・・・じゃあ、どうやって撃てばいいんだよ!」

少し、彼の言動が許せなかった。
僕は、本気で悩んでたのに、彼はいつもと変わらなくて。
だから少し、激しい言い方になってしまった。
これじゃ、やつあたりだ・・・







「いいか、エックス。」

でも、マックはまったく気にしていないようで、僕に語りかける。

「サ・・・んんっ・・・バスターはな、『心』で撃つものなんだよ。」

「え?」

「サイ・・・ごほごほっ・・・バスターは『心』で引き金を引くのさ。」

「心・・・何を言ってるのさ、僕達はレプリロイドだよ?」

そうだ、僕達は機械。1と0で構成された思考。
心なんてものが、あるわけがない。

「おいおい、じゃ聞くがよ。俺が死にそうになったら、お前どう思う?」

「死ぬなんて冗談でも言わないでくれ!」

死ぬ!?マックが!?・・・冗談じゃない!

「おぉう・・・ちょっとビックリした。・・・今のは、あー、怒りだよな。」

「・・・」

「で、その怒りは俺を心配してくれたからだろ?」

「・・・!」

「もちろん、俺だってお前が死ぬなんてなったら、そりゃー悲しむぜ。」

「マック・・・」

「これは、『心』なんじゃないか?」

「これが、心?」

そう、なのだろうか。
わからない。

「おう、赤の他人のためにそこまで真剣になれるんだ。立派な『心』だぜ親友。」

「これが、心。」

「で、だ。サイコ・・・あー、バスターを撃つときに心を込めるんだよ。」

「意味が、わからないよ。」

君は、何が言いたいんだ、マック。
でも、彼が言う言葉は、とても、僕の『何か』に響く。
メモリに?思考回路に?

・・・心に、だろうか。

「さっきの話からだと、そうだな。人質を助けたいって思い。レプリロイドを助けたいって思い。そういったのを込めるのさ。」

「・・・」

「そうすりゃ、迷うことなんてない。なんたって、やりたいことがサイコガ・・・ゲフゲフ・・・バスターに詰まってるんだからな。」

「思い・・・やりたいこと・・・」

「おう。ま、騙されたと思ってやってみ?」

「・・・うん。君は騙すのがうまいから騙されてみるよ。」

「なにその人物評価!いいから信じろYO!『心』込めればサイコガンは曲がる弾丸だって撃てるんだZE!?」

「それは無理。」

というか、サイコガンってなんだよ。
まったく、君はいつも適当なんだから。

「・・・思い、か・・・僕にできるかな?」

「またウジウジと・・・よし、魔法の言葉を教えてやろう。」

「魔法の言葉?」

マックは僕の胸をコツンとかるく叩き、その手の親指を立てる。







「グッドラック。幸運を君に。今日がダメでも、明日はいいことがあるってな。」







「・・・ありがとう、マック。」

「どういたしましてー。E缶1個で手を打とう!」

「有料!?」

「ハッハー!地獄の沙汰も金次第!」

「君にはE缶7個の貸しがあったね。」

「もうちょっと待ってくださいお代官!」

まったく・・・君はいつもテキトーなんだから。






――ありがとう。




























「いったぞエックス!」

「まかせてくれゼロ!」

イレギュラーをロックオン・・・!

そして・・・







「思いをバスターにのせて狙い撃つ!」









――手は、震えなかった。





























「シグマ隊長が、反乱を起こした!?」

「・・・事実だ。」

イレギュラーハンター本部で、ゼロがシグマ隊長が裏切ったと言う。
とても、信じられない。

「・・・ほとんどのハンターがシグマに付いて行った。」

「そんな!?」

「あいつらは、優秀なレプリロイドが劣等な人間の下にいることが嫌だとさ。」

「・・・それが、反乱の理由・・・」

何故、そんなことを。
たしかに僕らは人のために生きているが、それは決して下にいるわけではない。
人間だって、僕らの存在がなくてはならないと知っている。
レプリロイドだって、人がいなければ生まれなかった。
互いが互いを支えているのに。

それに、信じられない。

「あの、シグマ隊長がそんなことを言うなんて・・・」

「どうやらマジのようだぜ?」

「「マック!」」

「YO!お集まりのようだな?」

「何処に行ってたんだ、このクソ忙しいときに。あぁん?」

「ちょ、ゼロ先輩。もうちょい優しくしてくれてもいいじゃないかYO!」

「あ?お前は何となく、俺を捨て駒にしそうでムカツクんだよ。」

「しないから!しませんから!・・・3までは。」

「あ゙ぁん!?」

「ゴメンナサイ!・・・と、漫才はさておきこれを見てくれ。」

まったく、マックはこんなときでも変わらないな。
彼が持ってきたのはデータチップ。
そのデータを司令部のスクリーンへ投影する。


「「これは!?」」

映ったのは、シグマについていったハンター達の居場所。
彼らが占領している施設の情報と、進入経路だ。

「発電施設に、工場、エネルギー管理塔・・・見事にライフラインを押さえてるな。」

「うん・・・本当に、人間達を裏切ったのか・・・」

「ちょいやばいぜ?特に電気ってのが奪われたのが一番いてぇ。」

マックの言う通りだ。
この社会において、電気がなければ生活すらも危うい。

「で、どうするよゼロ先輩。」

「・・・もちろん奪還する。」

「作戦は?」

「少数精鋭。占領してる元ハンターを直接叩く。そうすりゃあとは烏合の衆だ。」

「了解!じゃ、俺は情報収集にいってくるYO!」

マックはそう言うと、一目散に部屋を出て行こうとして、

「待ちやがれ、マック。」

ゼロに首を押さえられた。

「ゼロ?」

「げふっ!先輩!いきなり掴まないでYO!」

「お前とエックスは突入班だ。」

「ちょ!?」

「え?」

突入班?
僕が?

「少数精鋭って言っただろう。」

「僕が?」

「無理無理無理無理!」

マックの言う通りだ。
僕達はB級。
特A級に適うわけが・・・

「残ったハンターで俺を除けば、間違いなくお前らがトップガンだよ。」

「え?」

「ハハッ。ワロス。」

あ、殴られた。

「・・・俺は、唯一残った特Aだからな。人間側の司令部からここの指揮を執れと連絡があった。」

「なるほど。」

「俺は表立ってシグマ軍と対立する。」

「・・・陽動?」

「正解だエックス。やつらの目をこっちに釘付けにする。お前らは、後ろから奴等を食いちぎれ。得意だろマック?」

「ハハッ。ワロ・・・」

あ、蹴られた。

「エックス。自信を持て。今のお前なら、特Aとだって対等にやれる。」

「・・・やれるかな。」

「あぁ。俺が保証する。お前は、強くなったよ・・・」

「ゼロ・・・」

そう、かな。
少し、自信がない。
でも、迷ってはいられない。
今も脅威はそこにあるのだ。
人を守るためには行かなくてはならない。
そして、シグマ隊長達も助けたい。
彼らだって、今まで人とうまくやれたんだ。
きっと、説得できる!

「行こうマック!僕らの思いを彼らに伝えるんだ!」

「グッドラック・・・」

「ありがとう!さぁ行こう!」

「ちょ、頑張ってねーって意味だから!引っ張るなYO!」

やれる。『僕達』ならきっとやれる。





――そうだろ?マック。





















「GAAAAAA!?」

「もうやめてくれ!スパークマンドリラー!」

「黙れ!B級が俺に指図するってか!?」

「何故だ!もう、もう動けないだろ!?何故そこまで戦う!」

「俺は我慢がならねぇんだよ!あんな愚図共にこき使われるのがなぁ!」

「違う!人は、人はそんなことは!」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!」

「うぅ・・・ああぁぁぁぁぁぁぁ!」














「エックス。」

「マック・・・ダメだった。僕の思いは、彼には届かなかったよ。」

「・・・」

「やっぱり、僕には無理なのかな・・・」

「行くぞ、まだイレギュラーがいる。」

「・・・僕は・・・」

「なぁ、エックス。前さ、迷うことなんてないって言ったよな。」

「・・・うん。」

「やっぱりさ、お前、迷ったほうがいいわ。」

「はは・・・なんだよ、それ。」

「今はまだ答えが出ないんだろ?あいつらを倒すことが正しいのかってな。」

「・・・」

「俺からすれば、まぁ、人間に敵対するのはそれだけでアウトなんだが、あいつらの言い分にも一理ある。」

「・・・」

「実際、酷い人間だってわんさかいるしな。お前もそれを知っているから迷ってる。」

「・・・うん。」

「きっと、それはとても大事なことなんだよ。あー、なんつーか、うまく言えないけど。」
「・・・うん。」

「多分、その迷いもお前の思いなわけで。で、迷って迷って迷い抜いた先に答えがあるんじゃね?」

「・・・適当だな。」

「やーだって、俺、お前じゃないし。俺的には爺さんがあぶねーってだけであいつらと戦えるからな。」

「・・・」

「その迷いはお前だけのもんだ。んで、きっといつかでる答えもお前だけのもんだ。」

「・・・いつになるかな、答えがでるの。」

「さぁ?ま、答えが出るまでは付き合ってやるよ。」

「え?」











――相棒だからな。






























雪が降り注ぐ山。
ここは気象を操る天候操作施設がある国有地。

そして、シグマを除く、裏切った元ハンターの最後の一人、アイシーペンギーコがいる場所だ。

「ほれ、これ使っとけエックス。」

「これは?」

マックに渡されたものは、金属の缶。

「潤滑兼凍結保護油。この寒さはそれを想定してボディを作られてないときついぜ?間接が凍って脆く成っちまう。」

「なるほど、ありがとう。」

「よーく塗っとけよ?それ貴重なんだからなー。物資を根こそぎシグマ軍にやられたせいでほとんどなかったんだZE?」

「あぁ・・・君の分は?」

「俺はもう塗った。関節がギシギシ言ってたからYO!」

「そっか・・・これで良し!さぁ行こう!」

「OK、OK。終わりも近い。気張っていくZE!」















「クアァァァァァ!」

「クッ・・・」

アイシーペンギーコが爆発の中に消えていく。
彼も、説得できなかった。

僕は、このまま戦っていいのだろうか・・・


「ぐっ・・・!」

ドスンと重いものが倒れる音。

「マック!?」

マックが雪に埋もれるように倒れていた。

「すまねぇエックス・・・ドジふんじまったぜ・・・」

「まさか怪我を!?」

「あぁ・・・さすが、腐っても特A級だな・・・俺の右手のマグナムが凍りついてらぁ・・・」

「そんな!?」

違う!彼は、一度もペンギーコの攻撃に当たっていなかった・・・!

「わりぃな・・・俺はちょいと休んでいくぜ・・・」

「マック・・・!」

彼の体を注意深く見ると、関節が凍りついて・・・!

「へへっ・・・なんて顔してやがる・・・こんなもん・・・すぐに治らぁ・・・」

間接が脆くなっている!?
潤滑油を塗ってなかったのか!?

ま、まさか・・・僕に渡した油が、最後の物資だったんだ!

「君は・・・」

それを悟られないために・・・

「先に行ってな、エックス・・・すぐに追いつくからYO・・・」

「・・・わかった・・・」

マック、君は、僕のために・・・

「あぁそれと・・・俺の分も残しとけYO・・・?」

「ふふっ、それは約束できないよ。」

「はっ・・・言う、じゃ、ねぇか・・・」

「マック!」

「少し・・・眠く、なってきた、な・・・なに、してやがる・・・さっさと行け・・・」
「あぁ・・・待ってる、必ず、来てくれると、信じているから!」

「あぁ・・・当然だ・・・相棒・・・」

マック、待っている。君は必ず来ると。
だから、先に行く。
今はまだ、戦うことの迷いが晴れないけど、君の信頼に、君が僕に託した思いに答えるために。








――また後で、相棒。




























荒れた工場をひた走る。
ここが、シグマの居城。

防備も設備も一級品だ。
ここまでの備えがあるなんて、長い間準備していたのか?


「っ!」

ダッシュで壁に飛び込み壁を蹴ってその反動で飛び上がる!
今いた場所に無数の光弾が着弾し、激しい音を上げた。

「来たか、エックス。」

「VAVA!」

黒いライドアーマーに乗った紫のレプリロイド、VAVA。
シグマの反乱前から行方がわからなくなっていたけど、彼もシグマ軍だったのか・・・

「まさか、君も反乱軍だったなんて・・・」

「へっ・・・そんなことはどうでもいい。俺はお前を待ってたんだよ。エックス。」

「僕を?」

どういうことだ?
僕は、正直VAVAとは接点はない。そんなに話したこともないんだが。

「ああ。お前と言う最強の存在をな。」

「何を!?」

最強?僕が?そんな馬鹿な。

「・・・おもしろい話をしてやろう。最強のレプリロイド。伝説と呼ばれた最初のレプリロイドの話をな・・・」

「・・・?」

最初のレプリロイド?

「そいつは、最初に作られたそうだ。そして、最初にして最高の機能を持って生まれた。」

最高の機能・・・すさまじいスペックということか?

「『成長』する機能だ。」

成長?

「戦えば戦うほどに、時間が立てば立つほどに、経験をつめばその分強くなる。」

「それが、どうした?経験をつめば、誰だって強く・・・」

「馬鹿かお前は!?俺達はレプリロイドだぞ!?俺達のベースはカタログスペックなんだよ!」

「・・・っ!」

「たしかに経験をつめば多少は戦えるようになるさ。だがそれは『うまく』なるんだ。『強く』じゃない。」

「・・・」

「簡単に言えば、効率よく戦えるだけ。元々もっていたスペックを十分に活かせるようになるだけだ。」

「・・・なら、最初のレプリロイドは・・・」

「そうだ!『うまく』なるだけじゃねぇ!実際に『強く』なるんだよ!最初のスペック以上の力を身につけるのさ!しかも!際限なくな!」

「・・・無限に強くなる?」

「そう、そうの通りだ!」

「馬鹿な・・・そんなやつがいるわけ・・・」

「いるんだよ!実際にな!そして、そいつは伝説になった!」

「・・・」

「その伝説の名はこう呼ばれる・・・」

「・・・?」

「伝説のレプリロイド。レプリロイドの始原。『ロックマン』と。」

「~~~~っ!?」


なんだ、今のは?

『ロックマン』と聞いた瞬間に、メモリがスパークしたようだ。
懐かしい・・・?
今、僕は確かに懐かしいと感じた。


「そして、今、俺の前に伝説がいる・・・なぁ?『ロックマンX』!」

「なにを!?」

僕が、『ロックマン』だって?
ありえない。
僕は確かに強くなったけど。
無限に強くなれるはずがない。

「最初はマックがそうかと思った。奴の成長速度も異常だったからな。」

「・・・」

そうだ、『ロックマン』にはマックが相応しい。彼がいたから僕も強くなれたんだ。

「だが、それは奴のカタログスペックを盗み出した結果、違うとわかった。」

「・・・?」

「奴のスペックは、今代最強といわれるシグマと同等だったんだよ!」

「な!?」

マックがそんなに高いスペックを持っていたなんて・・・

「さすがは稀代の天才の最新作ってところだな・・・
 まぁ、やつは製造されてからそう日がたっちゃいない。
 あいつの成長速度は自身のスペックに慣れてきたからってところだな。」

マック、君は一体・・・


「そして、マックに隠れちゃいたが、異常なやつがいる・・・お前だよエックス!」

「!?」

「お前は出自不明だ。カタログスペックがない。だから俺はお前のメンテナンスデータを盗んだ。」

「・・・それで?」

「半年でお前のスペック自体が18%も向上してたんだよ!」

「・・・!」

「ありえねぇ!ハンター本部の連中はまったく気にも留めてなかった、B級が自分を改造したんだろうってな!馬鹿共だ!俺は知っている!お前はトレーニングルームで訓練しかしてないってことをな!」

「だから、なんだ!?」

「だから、お前が『ロックマン』なんだよエックス!戦うだけで強くなる存在なんだ!」
僕が、伝説?
まさか、ありえない。

「・・・それで、VAVA。お前は何故僕を待っていた?」

「決まっている!伝説を俺の手で砕くためだ!だから・・・死ねよやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「っ!?」


VAVAが来る!




















「この程度かぁぁぁぁぁエェェェェェックスゥゥゥゥゥゥ!!」

「VAVAぁぁぁぁぁ!」

クソッ!?
なんだあのライドアーマーは!?
バスターがことごとく弾かれる!
出力が足りないのか!?

「これでテメェはお終いだぁぁぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!?」

「スクラップになりなぁ!」

ライドアーマーの巨大な拳が目の前に・・・!








ズドンと、重い爆発音が響いた。

「ぐぁ!?・・・誰だ!?」

「遅れたやって来た正義の味方だこの野郎。」

「マック!?」

VAVAの後ろ、工場のパイプの上に、マックがいた。
来てくれた・・・彼は来てくれたのだ・・・!

「おーうエックス。生きてるなぁ?」

「テメェ・・・B級風情が俺に不意打ちだとぉ?」

「B級風情に後ろ取られちゃって残念な特A級さん何か?」

「テメェぇぇぇぇぇぇぇ!」

「逃げるんだマック!」

駄目だ!VAVAのライドアーマーは堅牢すぎる!
君のバスターでも貫けるか・・・

「答えはノーだエックス!」

「死ねぇぇぇB級ぅぅぅぅぅ!」

「お前、俺とキャラ被りすぎなんだよ!色とか!ここで退場しろYO!」

マック!駄目だ!逃げてくれ!

















心配は杞憂だった。
マックはVAVAを倒したのだ。
・・・下半身と、右手のバスターを犠牲にして。

マックはわざとライドアーマーの手に捕まり、そして、下半身を握り潰されながらもゼロ距離でフルチャージバスターを放ったのだ。
さらにバスターの出力を上げるためオーバーロードさせたせいか、右腕の肘から下が吹き飛んだ。
その威力は絶大で、VAVAもろともライドアーマーは光の中に消し飛んだ。

そして、僕は、何も、できなかった。
ダメージを受けた体は、無様にも床に横たわることしかできなかった。

結果、相棒が、死に瀕している・・・

僕は、僕は、何を、しているんだ!

「・・・たくっ・・・なにやってんだか・・・」

「マック・・・」

早く、早く治療しなければ・・・

「・・・一人で・・・トンズラこく気だったんだがなぁ・・・」

また、そんな軽口を・・・こんなときでも君は変わらないな。
でも、今はそんなことを聞いている暇はない。

「もういい!喋るな!」

「・・・あーあ・・・相棒がショボイと・・・苦労・・・するぜ・・・」

マックの反応が、遅く、小さくなっていく。
駄目だ、だめだよマック・・・!

「・・・エックスよぉ・・・勝て・・・YO・・・」

「あぁ!あぁ!勝つ、絶対に勝つから!だから!」

僕を、僕を!

「・・・男の・・・涙は・・・みせる・・・もんじゃ、ねぇ・・・ZE・・・」

「マックぅぅぅぅぅぅぅ!」

置いていかないでくれ!

「・・・ゼロ先輩・・・あと頼んま<ズドン!>ピーーーーーー・・・ブツン・・・」







・・・え?



マックの、右半身が、消し、とん、だ?











「クソッ・・・B級が・・・よくも俺のライドアーマーをふっ飛ばしてくれたな・・・」

なんで?

マックの右側はどこにいった?


「あれのチェーンに幾らかかったと思ってやがる、クソがっ!」


マック。

マック。

どこに、どこにいったんだ。


「まぁ、いい。吹っ飛ばして少しは気が晴れた。」


どうして?なんで?誰がやった?


「さぁ!続きをやろうぜロックマン!」






あぁ、そうか。




あいつがやったのか。





















――殺ス。

【 UL■IMAT■ MO■E START 】











「なんだ!?エックスのボディが変化しやがった!?」


僕は、オレは、


「は、はは、ははははは!あれがロックマン!自身の体すら進化させ成長するレプリロイドか!」


生まれて初めて、


「いいぜ!こいよ伝説!俺が粉々に砕いてやる!」

「黙れよ。」

「っ!?」

「お前には一瞬すらやらない。」





















「死ね。」


殺意をバスターに乗せて狙い穿つ。

























終わったよマック。

「・・・ス!」

オレさ、仇とったよ。

「・・・ス!」

あのVAVAに勝ったんだよ?

「・・・クス!」

だから、だからさ。

「・・・ックス!」

褒めてくれよ。いつもみたいに。スゲーってさ。

「エックス!おい、エックス!」










「ゼロ・・・マックが、マックがいないんだ。」

「・・・!」

「ねぇ、マックは、マックはどこ?」

「エックス、マックは・・・」

「約束したんだ、この戦いが終わったら、パーティーを開こうって。」

「・・・」

「ねぇ。マック。約束したじゃないか。E缶おごってくれるって。」

「エックス!」

「なんだよゼロ。マックを探してるんだ。邪魔しないで・・・」

「マックは!そこにいる!」

「っ!?」

「お前の目の前に、いるんだ・・・」

「・・・」

「エック・・・」

「あ、」















あああああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!





















「・・・エックス。俺はシグマの元へ向かう。お前はマックを連れて・・・」

「駄目だ。オレが行く。」

「しかし!」

「頼むよ。マックに託されたんだ。」

「!」

「マックさ、いつも言ってた。このままだと爺さんの生活もままならない。だから戦うんだって。」

「・・・」

「オレは、マックのおかげで生きてるんだ。だから、マックの変わりにヤルんだ。」

「・・・そうか、わかった。」

「ゼロ、マックを頼むよ。」

「あぁ・・・俺はマックをその爺さんのところへ連れて行く。もしかしたら、修復が可能かも・・・」

「うん、お願い。この戦いが終わったらさ、本部皆でパーティーやろうよ。」

「あぁ、マックにはE缶17本おごったからな。そろそろ返してもらわないと。」

「はは・・・マック、ゼロにもお金借りてたんだ。」

「じゃ、後でな、エックス。」

「うん、また後で。」

















工場の奥へとひたすら進む。

オレがヤラなきゃ。

マックができなくなった代わりに、オレがヤルんだ。

シグマをヤル。

そうシグマ。

シグマ。

シグマ。シグマ。

シグマ。シグマ。シグマ。

シグマ。シグマ。シグマ。シグマ。

全部、全部あいつのせいだ。

下らない妄想に取り付かれたハゲがこんなことを起こすから。

そうだ、あいつをヤレば全部終わるんだ。

そうすればマックは帰ってくる。

は、はは。

は、はは・・・はは・・・ハハハハハハハハハハハハハハ!

なんだ!簡単じゃないか!

マック!すぐに、すぐに終わらせるよ!

うん、簡単だ!アイツさえヤレば全部帰ってくる!

穏やかな日常も、何もかも!

さぁ、行こう。

ヤルことは決まった。

迷いはない。

答えは得た。











「来たか、エックス。」


シグマを殺る。































そして、二度に渡るシグマの反乱は終わった。

オレはいつのまにか、英雄と呼ばれるようになっていた。

でも、オレの隣に相棒はいない。

ゼロが、マックを彼のお爺さんに渡したとき、修復可能だと言われたそうだ。

でも、その数ヵ月後、その人は行方不明になり、マックもまた、行方不明になった。





――そして、ドップラー軍団の侵略が始まる。

ドップラー、稀代の天才と呼ばれた博士。

何故、彼が人類に対し、戦争を始めたのかわからない。

でも、彼がこの街を攻撃するというのなら、オレは戦うだけだ。

マックが必死で守ろうとしたこの街を守るために。

マックのお爺さんを守るために。

オレが代わりにヤラなくちゃ。

お爺さんは行方不明だけど、きっとこの街のどこかにいる。

だって、マックはすぐに帰ってこれる場所にいるんだから。

うん、戦おう。そうすれば、マックはきっと帰ってくる。

よーし頑張ろう。

グッドラック!











「ぐ・・・よくやった・・・エックス君・・・」

「喋れるのか!?ドップラー!」

強くてしぶとい!

「ワタシは・・・シグマに洗脳されていた・・・」

「なんだって!?」

シグマ!?

「やつは・・・悪性プログラムだ・・・わたしは・・・やつの体を作ってしまった・・・」


「それはどこに!?」

「それは・・・」

『そこまでだ。ドップラー博士。』

「シグマ!?」

また、またお前か。
またお前が、マックが守ろうとした街を攻撃したのか。

「・・・まさか・・・ここまで来るとは・・・」

『ご苦労だった。ここで眠りに付くがいい。』

「シグマぁぁぁぁぁ!!」

お前だけはオレが、ヤル!

「・・・いかん・・・逃げろ・・・エックス君・・・!」

『エックス共々、引導を渡してやろう。』

「ぐっ・・・さっきのダメージがまだ・・・」

クソッ!思うように動かない!

「・・・すまんな、マック・・・」

『塵となれ!』

「くそぉぉぉぉ!」

「・・・おぬしの新装備・・・渡せぬままじゃった・・・」






煌く閃光。

走る爆発。

『ぐうあぁっ!?』

「えっ?」

「・・・!?」

シグマの後ろ、通路の奥の闇から誰かが来る。


『何者だ!?』

「き、君は!?」

「・・・おぉ・・・おおぉ・・・!」

紫のボディ。顔を隠すバイザー。

あぁ・・・あぁ!

見間違えるはずがない!

帰ってきた、彼が帰ってきたんだ!




「HEY!そんな枯れた爺さんでも俺の親父なんだYO!そこまでにしてもらおうかケツ・A・GO!」


「君は行方不明になっていたマックじゃないか!?」






――お帰り、僕の相棒。








~あとがき~
まさかのヤンデレ。
どうしてこうなった。

はいエックス視点お待ちです。
お待ちいただいた展開とは違うかも?
申し訳ない。

しかし、男のヤンデレとか書き終わって後悔した。

でもしょうがないのです。
X3は野郎しかいないので。
私はX1とX3しかやったことないので、女の子がでるX4以降はノータッチ。
ゴメンネマック!ヒロインはいません!

なんどエックスを女性化して、ロックマンエックスじゃなくてロールチャンエックスにしてやろうと思ったことか。

――マック、ねぇマック。私、やったよ。だから、褒めてよ。いつもみたいに、頭を撫でてよ。

こんな感じ。
書きませんが。

これでロックマン憑依は完結です。多分。
あと書こうと思うと、ドップラーとマックの捏造ほのぼの生活くらいしかないので。

ではでは、お読みいただきありがとうございました!



[27121] 【病み】ロックマンX 憑依異伝【超注意】
Name: socom2◆c4c431dd ID:a13ac3ff
Date: 2011/06/13 07:34
「まったく、お前はいつもいつも・・・」

「・・・」

今、私はシグマ隊長に怒られている。

「いいか、ハンターの仕事は、一瞬の油断が命取りになる。」

「・・・はい。」

任務、イレギュラーハンターとしての仕事に失敗したからだ。

「それはお前の命だけではなく、仲間の命をも危険にさらすのだ。」

「・・・」

隊長の言う通り、それは正しいと思う。

「聞いているのか!」

でも、もう30分もお説教だよ?しかも同じことばっかり。

「いいか、これはお前のことを思ってだな・・・」

あ、またループした。

「ハンターの仕事はだな・・・!」

そもそも、今回の任務は確かに失敗しちゃったけど、こんなに怒ることなの?

「お前の命だけでなく・・・!」

だって、今回の仕事は逃げ出したメットール・モデルペットの捕獲だよ?

「仲間の命をも・・・!」

確かに力加減間違えて、握り潰しちゃったけど・・・こんなに怒らなくてもいいじゃない。


「聞いているのか!ロール!」

「はぁい・・・聞いてます・・・」

私の名はロール。イレギュラーハンター、ロール。戦闘用女性型レプリロイドだよ。













////////////////////////////


「いいか!これはお前のことを思ってだな・・・!」

「隊長。」

いまだ続くお説教の最中に、凛とした声が、シグマ隊長を呼んだ。

「おぉ、ゼロか。なんだ。」

「そろそろお時間です。他の部隊との通信会議が始まりますよ。」

「む、そうだったか。」

お説教を止めてくれたのは、サラサラと輝く黄金の縦ロールを持つ女性、ゼロ。
私の一番の友達にして、お姉さんみたいな人だ。

「ええ、あなたがこの時間を指定したのです。遅れるのはまずくありません?」

「む、そうだな。」

彼女は特A級の凄腕ハンター。
しかも、昇格最短記録保持者。
私もいつか、ゼロみたいなカッコイイ女性になるのが夢なんだ。


・・・まぁ、現実は厳しいものだけど。

「ロール。今回はここまでだ。もういっていいぞ。」

「はぁーい・・・はふぅ・・・」

やっと終わったぁー。

「と、ところでゼロ。今度一緒に食事でも・・・」

「さぁ、ロール。隊長からのお言葉は終わりだけれども、私からも言いたいことがあるわ。トレーニングルームで鍛え直してあげる。」

「えぇー!今日は約束が・・・」

「ゼ、ゼロ、どうだ?今度だな・・・」

「あらあら。任務を失敗したのはどこの子だったかしら?」

「うぅ・・・わかりましたー。」

「んんっ!あーどうだ?こん・・・」

「素直でよろしい。さぁ、いきましょう。」

「はぁーい。」


ゼロと一緒に司令室から出る。
隊長の呼ぶ声が聞こえた気がしないでもないけど、気のせい。きっとノイズだね。














////////////////////////////

「はい、これ。」

「わぁ!ありがとう!」

ゼロからE缶を手渡された。やっぱり仕事のあとはこれよね!

「ングング・・・はふぅ・・・やっと一息つけるよ・・・」

「ふふ、お疲れ様。」

ゼロと二人でベンチに座って休憩中。
チラリ、とゼロを横目に盗み見る。

さらさらの金髪。縦ロールが似合う女性ってすごいなぁ・・・お姫様みたい。
私も金髪だけど、なんの変哲もないポニーテールだし。
もうちょっと髪型にこだわろうかなぁ。
そうすれば、彼ももっと見てくれるかもしれないし・・・

ゼロはカッコイイなぁ・・・
まさにできる女性!って感じで。
・・・胸も大きいし。

べ、別に私は小さくないよっ。
私はそう、美乳!時代は美乳なんだから!


「もう、聞いてるの?ロール。」

「はぅっ!?・・・えと、ごめんなさい・・・アハハ・・・」

「はぁ・・・シグマじゃないけど、少しお説教が必要かしら?」

「えぇー!もういいよ!十分!」

「はいはい・・・」

「あ、そうだ!ありがとうねゼロ。」

「うん?」

「隊長の長話から助けてくれて、だよ。本当にありがとっ!」

「あぁ、いいのよ。私もあなたのおかげで助かってるから。」

「ホント?」

私は、ゼロを助けられてるの?
いつもいつも、助けてもらってばかりで、何も返せていないんじゃ・・・

「ホント。あなたがいなかったら、そりゃもう大変だわ。」

「ホント?私がいなかったら大変?」

「えぇ、あなたがいないと困るわ。いつも助けてもらってるから。」

そっか。よくわからないけど、私もゼロに恩返しできてるんだ。
よかった。

「えへへ・・・そっか・・・もっと感謝してもいいんだよ?」

「こら、調子に乗らないっ。まったくこの子は・・・」

ゼロに頭を撫でられる。
優しく髪を梳くように撫でられて、安心する。
こういうときは、ゼロはお姉ちゃんって感じがして好きだ。








////////////////////////////



「でね、彼ったら、土下座して頼むのよ・・・ふふ。」

「へぇ、そうなの?ゼロにもお金借りてたんだ。」

「そ。全く、いつまでたっても変わらないわねぇ。」

「うんうん!」

ゼロと二人で共通の話題に華を咲かせる。
私達の共通の友達。
イレギュラーハンター仲間の彼のことで。




「・・・ふんふ~ん♪」

噂をすればというやつだ。
通路の向こうから彼が来た。


「あ、こっちこっちー!こっちだよマック!」

「ん?おー、ロールとゼロじゃないか。何してるんだYO!」

「えへへ・・・こんにちわ。」

「HELLO!どったの?改まってYO!」

「こんにちわ。相変わらずね、マック。」

紫のボディ、顔を覆う赤いバイザー。
彼の名はマック。

私のもう一人の親友にして・・・大事な人。
私に『心』を教えてくれた、大事な友人。

出会ってから数ヶ月だけれども、彼のいない生活なんて考えられない。

そのぐらいに、彼との出会いは、縁は大事なものだ。


――彼との出会い、今でも鮮明に覚えている。













////////////////////////////



「・・・」

暗いトレーニングルームの隅っこでじっと体育座り。

「・・・ヒック・・・」

ポロポロと涙が落ちる。

「う・・・うぅ・・・ひっく・・・」

そこかしこから聞こえる悪口に耐えられなくて、また逃げ出した。

『役立たず』『弱虫』『臆病者』『万年B級』

言われた悪口に言い返せなくて、そんな自分が悔しくて。



――逃げることしかできなかった。



「ひっく・・・ぅ・・・もぅ・・・やだぁ・・・」

私、なんでハンターなんだろう。
なんで、戦ってるんだろう。

なんで、なんで、なんで・・・






トスン、と軽い音。
誰かが私の横に座ったようだ。

「・・・」

「・・・」

誰だろう。
怖くて、顔を膝で隠すように下を向く。

「・・・」

「・・・」

ただ静か。
隣に来た誰かは、私に何かを言うわけでもなく、ただ静かに座っている。

「・・・」

「・・・」

誰、なのかな。
ゼロじゃないのはわかる。
ゼロだったら声を掛けてくるから。

「・・・」

「・・・」

私に、近づく人なんて、ゼロくらいしかいないのに。
誰だろう。・・・少し、興味が出てきた。





――ウィィーーン・・・プシュ・・・カシャ・・・

(ビクッ!)

いきなり聞こえてきた音に肩が跳ね上がってしまった。

な、なんの音だろう。

――キュルルル・・・

何?何の音?き、気になるよぅ・・・






――YOUは・・・

「北斗!?」

「正解。じゃこれは?」

――そっらをじーゆうにー・・・

「タヌキ!」

「YES!続いての問題!」

――愛とー勇気だけーが・・・

「えっと、えっと、アンパン!」

「ハッハー!ノってきたZE!次!」

――竜巻相手じゃ意味が・・・

「・・・トラウマ。」

「・・・俺も。」


















「はぁはぁ・・・どう!」

「はぁはぁ・・・やるじゃねぇかお嬢さん!」

「ふふん!私の勝ちね!」

「あぁ、俺の負けだZE・・・」

がっくりと地面に倒れこむ紫のレプリロイド。
辛く、激しい戦いだった。
でも、最後は私が勝利した。
目の前にいる彼に勝ったのだ・・・!




と、いうか・・・




「誰?」

「俺の名前は『マック』!今日からこの部隊に配属されたB級ハンターだ!ヨロシク!」
「え?あ、うん。」

にこやかに握手を求められて、つい応じてしまった。

「ハッハー!ヨロシクなお嬢さん!」

「あ、えと、よ、よろしく?」

激しく上下へ握手した手を振るマック。
あまりに明るい様子に、先ほどまでの暗い気持ちが、涙も全部、吹き飛んでしまった。

「ところで、君の名前も教えてくれYO!」

「あ、うん。私はロール。私もB級ハンターなんだ。よろしくね、マック!」







――この日、私は2人目の親友ができた。









二人で訓練をつんだ。

「きゃぁぁぁぁぁ!こっちこないで虫ーーー!」

「ぎゃあぁぁぁぁ!ロール!ロールさん!ロール様!無差別バスター連射はやめてぇぇぇぇ!」







お互いのことを話し合った。

「ね、ね。最初に会ったときのあれ、何?」

「あれか!あれは俺に隠された秘密機能No4!『懐メロイントロドン』だZE!」

「なんのためにあるのそれ!?」







二人で馬鹿にされたこともあったけど、笑い飛ばしてやった。

「なにがB級ダメダメコンビだYO!」

「私達はB級へなちょこコンビなんだから!」

「・・・言っててつらくない?」

「・・・ちょっと。」







彼はいつも明るくて、

「HEY!ロール気にすんなYO!そんなことよりE缶飲もうZE!」

「うん!」

おっちょこちょいなところもあるけど、

「・・・財布落とした・・・ロール様!お金貸してください!」

「もぅ・・・仕方ないなぁ・・・貸し1、だよ?」

その明るさに、優しさに、私は励まされて、

「行こうぜ、ロール。」

「待ってよ!マックー!」

マックと二人なら、どこまでも、どこへだって行ける。
そんな気がしたんだ。
















////////////////////////////


トレーニングルーム。

今日もマックと二人で訓練をしている。

「・・・はぁ・・・」

「HEY!どったのよロール。」

メットールにフルチャージバスターを撃って、反射弾にボロボロにされたマックがこっちに来た。

「・・・大丈夫?」

「ハッハー!泣きそう!」

だよね。むしろ泣いてるよね。涙はないけど泣いてるよね。

「メットールのヘルメットの硬さは異常。」

「よしよし。あれには触れちゃいけないよ?」

背伸びしてマックの頭を撫でる。
あ、逆に凹んだ。

「慰めはよしてくれ!俺はメットールにすら劣る残念な奴なんだYO!」

「大丈夫だよ。ゼロだって昔メットールに囲まれて泣きそうだったから。」

あれはビックリした。周りをズラリとメットールに囲まれたゼロ。
バスターを撃っても悉く反射され、泣きそうになってた。

「マジで?」

「うん。」

「だと思ったぜ。さすがメットール。この世界最硬の盾を持つメカニロイド。」

工事支援用ミニユニットだけどね。

「で、だ。どうした?」

「え?」

「悩みぐらい聞けるさ。溜め込むよりも吐き出したほうが楽だぜ。な?」

「うん・・・聞いてくれる?」
















「私ね、昔の記憶がないんだ・・・」

「・・・」

「誰が私を造ったのか、何のために造られたのか。」

「・・・」

「気づいたら、ここにいて。ハンターに成れって言われて。」

「・・・」

「戦って、戦って、戦って・・・」

「・・・」

「でも、ね。私、本当は嫌なんだ。」

「・・・」

「バスターを撃つのが嫌で、誰かを傷つけるのが嫌で・・・」

「・・・」

「ハンターである自分が嫌で・・・」

「・・・」

「私、わたし・・・なんでハンターなのかな・・・」

マックは静かに私の話を聴いてくれる。
私の我侭を。
私だって、これが我侭だとわかっている。
私は、戦闘用レプリロイド。戦うために生まれた。
だから、戦いが嫌なんて、言ってはいけない。
それは自分自身を否定することだ。
それに、ハンターの皆を貶す、酷い言葉だからだ。


「・・・なぁーんてねっ!ちょっとブルーになっただけだから気にしないで・・・」

「いいんじゃね?」

「え?」

「いや、嫌でいいんじゃねぇの?」

「何を・・・!」

そんな、簡単に言わないでよ!
私は、本気で悩んでいるのに!
ずっとずっと迷ってきたのに!

「嫌なんだろう?それがお前の思いなんだろう?だったら、俺はそれを否定しないさ。」
「・・・」

「お前は優しいやつだ。戦いって行為が『心』の底から嫌なんだろ?」

「・・・うん。」

「だったら、戦わなくていいさ。」

「でも!私は戦闘用で・・・!」

「関係ねーよ。戦闘用だから戦場にいなきゃいけないなんて、誰が決めたよ?」

「・・・!」

「お前さ、動物好きだろ?この前、街中で公園で野良猫と遊んでるのみてさ、そう思った。」

「はぅっ・・・見てたの?」

は、恥ずかしい。

「いい笑顔だった。心底楽しんでる、そんな笑顔だった。」

「ぅ・・・恥ずかしい・・・」

「好きなもんがあって、嫌いなもんがある。それはお前だけの『心』だ。誰にだって否定はできないさ。」

「・・・」

そう、かな。
でも、皆、私に戦えって言うんだ。

「誰かなんて関係ない。お前はお前のやりたいことをやればいい。」

「・・・ホント?」

本当に?
私は、本当に嫌なことをやらなくてもいいの?

「おう。だってお前の人生・・・あー、レプリロイド生?はお前だけのもんだ。誰かが強要なんてできねーよ。」

「でも・・・私・・・」

「あー、お前も大概悩むねぇ・・・」

「だって私!今まで!自分で好きなことなんて選べなかった!」

「またウジウジと・・・よし、魔法の言葉を教えてやろう。」

「魔法の言葉?」

マックは私に頭に手を置いて、ガシガシと少し乱暴に撫でた。
ゼロとは違う大きな手。
暖かい手。
そして、優しい言葉で言ってくれる。






「グッドラック。幸運を君に。今までがダメでも、これからはいいことがあるってな。」






マックが、私の明日が幸せであるようにと言ってくれる。
でも、でも・・・!

「でも、皆、皆が、誰かが戦えって、私に戦えって言うの!」

「なら、俺がそんなやつら黙らせてやる。」

「・・・え?」

「お前が生きる、お前の道の邪魔をする奴等から、俺がお前を、ロールを守ってやる。」
「・・・どうして・・・どうして、そんなこと、言ってくれるの・・・?」

「あん?決まってるだろ。」











――相棒だからな。





















////////////////////////////


あれから数ヶ月たった今も、私はハンターでいる。
別に、戦いが好きになったわけじゃない。

ただ、彼の傍にいたいから。
あの明るくて、優しくて、おっちょこちょいな彼の傍にいたい。

それだけで、私は戦える。




「いったぜ!ロール!」

「まかせて!マック!」


大丈夫、私は、戦える。
貴方がいるから。

どんなに辛くても、隣に貴方がいる。
それだけだ私は・・・













////////////////////////////



「シグマ隊長が、反乱を起こした!?」

「・・・事実よ。」

イレギュラーハンター本部で、ゼロがシグマ隊長が裏切ったと言う。
とても、信じられない。

「・・・ほとんどのハンターがシグマに付いて行ったわ。」

「ウソ!?」

「彼らは、優秀なレプリロイドが劣等な人間の下にいることが我慢できない、そう表明しているわ。」

「そんな・・・」

何故、そんなことを。
たしかに私達は人のために生きているけど・・・それは決して下にいるわけじゃないのに。
人間だって、私達の存在がなくてはならないと知っている。
レプリロイドだって、人がいなければ生まれなかった。
互いが互いを支えているのに。

それに、信じられない。

「あの、シグマ隊長がそんなことを言うなんて・・・」

「どうやらマジのようだぜ?」

「「マック!」」

「YO!お集まりのようだな?」

「もう、何処にいたのかしら?例え猫の手でも必要だって言うのに・・・ねぇ?」

「ちょ、ゼロ先輩。俺は猫の手ですかYO!」

「ふふ・・・いないのなら猫の手以下ね。」

「今日も切れ味抜群ですね!・・・と、漫才はさておき、これを見てくれ。」

もぅ、マックはいつも変わらないね。
マックが持ってきたのはデータチップ。
そのデータを司令部のスクリーンへ投影する。


「「これは!?」」

映ったのは、シグマについていったハンター達の居場所。
彼らが占領している施設の情報と、進入経路だった。

「発電施設に、工場、エネルギー管理塔・・・見事にライフラインを押さえているわね。」

「うん・・・本当に、人間達を裏切ったの?・・・皆・・・」

「ちょいやばいぜ?特に電気ってのが奪われたのが一番いてぇ。」

マックの言う通り。
この社会において、電気がなければ生活すらも危うい。
電気がないだけで、人の暮らしは苦痛を受けてしまう・・・

「で、どうするよゼロ先輩。」

「・・・もちろん奪還するわ。」

「作戦は?」

「少数精鋭。占領してる元ハンターを直接叩く。そうすれば、あとは烏合の衆。そうでしょ?」


「了解!じゃ、俺は情報収集にいってくるYO!」

マックはそう言うと、一目散に部屋を出て行こうとして、

「待ちなさい、マック。」

ゼロに首を押さえられた。

「ゼロ?」

「げふっ!先輩!いきなり掴まないでYO!」

「ロール、マック。貴方達を突入班に任命するわ。」

「ちょ!?」

「え?」

突入班?
私が?

「少数精鋭って言ったでしょう?」

「私が?」

「無理無理無理無理!」

マックの言う通りだ。
私達はB級。
特A級に適うわけが・・・

「残ったハンターで私を除けば、間違いなく貴方達がトップガンよ。」

「え?」

「ハハッ。ワロス。」

あ、教鞭で頭叩かれた。

「・・・私は、唯一残った特Aだから・・・人間側の司令部からここの指揮を執れと連絡があったの。」

「なるほど。」

「私は表立ってシグマ軍と対立するわ。」

「・・・陽動?」

「正解よロール。シグマ軍の目をこっちに釘付けにする。貴方達は、後ろから奴等を攻撃して。」

「でも・・・」

自信がない。

「ロール。自信を持って。今の貴女なら、特Aとだって対等にやれるわ。」

「・・・やれるかな。」

「えぇ。私が保証する。貴女は、強くなったわ・・・」

「ゼロ・・・」

そう、かな。
少し、自信がない。

「たくっ・・・しょうがねぇな・・・」

マック?

「このままじゃ爺さんもあぶねーし・・・やってやるさ。」

マックはやる気のようだ。
なら・・・

「行こうマック。私、貴方とならやれる。」

マックがいるなら、自信が沸いてくる。

「ありがとう・・・二人とも。」

「ううん。私が、『私達』が決めたことだから。」

「そう、そうね。出発は明日よ。準備と休養を怠らないようにね。」

「うん!」

「りょーかい。」









////////////////////////////

出発前日の夜。
私はマックを探して、本部を歩き回っていた。
発電所を奪われ、本部の自家発電のみになった現状では明かりが最小限で本部は薄暗い。

マックはどこだろう?

明日の出発の前に伝えたいことがあるのに。

ここかな?

レストルーム。
要は休憩所。
よく私とマック、ゼロの3人で利用した。

「マックー、いるー?」

入り口から顔を覗かせて叫ぶも、反応無し。

「あれ?」

もっと奥。ここからじゃ死角になっている場所に明かりがついている。

「マック・・・?」

なんとなく、忍び足で近づくと、奥から声が聞こえてきた。

「ごめんなさい、マック。危険な役を押し付けて。」

「いいさ。必要なことだ。アンタが俺たちなら大丈夫だって判断したんだろ?」

マックと・・・ゼロ?
なんで、こんな夜遅くの時間に二人でこんな場所に?

「で、本題は?」

「・・・え?」

「呼んだのは先輩だろ?用があったんでないの?」

「そう、そうね。」

ゼロの声は、今まで聞いたことがないくらいに沈んでいた。
いつも優しくて、お姉さんみたいなゼロがこんな声を出すなんて信じられない。

「・・・怖いの。」

「・・・」

え!?ゼロが、あのゼロが怖いって・・・!?

「司令になれって命令されたとき、とても怖くなったの。」

「・・・」

「私で、大丈夫なのかって・・・私なんかがやれるのかって・・・」

「・・・」

「滑稽でしょう?いつも澄ました顔して、いつも恐怖に苛まれてたなんて・・・」

「・・・」

「ふふ・・・ごめんんさい、こんなこと急に言って。笑ってくれていいわ・・・」

「わらわねぇよ。」

「・・・え?」

「何をビビッてるのか俺にはわからないけどよ、俺はアンタが司令だから明日死地へ行けるんだ。」

「・・・マック。」

「アンタが後ろにいる。アンタが俺の後ろを守ってくれる。そう思ったから引き受けたんだ。」

「・・・マック・・・」

「だからさ、あー、なんつーの?大丈夫だって。アンタならやれる。」

「・・・本当に?」

「おう!絶対大丈夫だって!アンタが俺を守ってくれるように、俺がアンタを守るからYO!」

「なに、それ・・・ふふっ。本当・・・いつだってマックはマックね。」

「俺が俺じゃなかったら誰だYO!」

「意味わからないわ・・・ね、マック。」

「ん?」

「お願い、ぎゅってして。」

「・・・それは命令ですか?司令。」

「そ、命令よ・・・バカ・・・」

「イエスマム!」

「あ・・・もっと強く・・・震えが止まるように・・・」







ウソだ。ウソだよね。マックが、ゼロと、なんて・・・

そっと、見つからないように奥を覗くと、マックの腕の中に、ゼロが・・・!


















////////////////////////////


朝が来た。

出発の朝が。

「さぁーて、まずは発電所を奪還だな。」

マックはいつもと変わらない。
やっぱり、あれはウソだったんだ。
うん、ウソだよね。マックが、ゼロなんかと。
ウソだ。ウソだよ。そうだ、ウソだ。



「おーい、ロール?どったの?」

「っ!?な、なんでもない!」

「そっか?ま、俺も正直ビビッてるからな。安心しろYO!」

「どこに安心すればいいの、それ?」

マックは、いつだってマックだ。

だから、私は・・・

「ねぇ、マック。」

「ん?」

「お願いがあるの。」

「おー、なんだ?」

「この戦いが終わったらね、話を聞いて欲しいの。」

「あ?」

「大事な話。貴方に、貴方だけに伝えたい、私の思い。」

「ちょ!」

「約束だよ、絶対聞いてね。」

うん、約束もできた。
よし、あとはさっさとシグマ軍を駆逐して、マックに伝えなくちゃ!









「それフラグー!ここでいっちゃらめぇぇぇぇぇぇぇ!」

どうしたの、マック?
貴方が何をいっているのかわからないよ。











////////////////////////////


シグマ軍。

かつての仲間達との戦いはとても激しく、厳しい、命を掛けた戦いだった。

たくさん傷ついて、たくさん傷つけた。

でも、私は、戦える。

マックがいるから。








「来たかい、マック、ロール!」

「「スパークマンドリラー!」」

「はっ!かつての同僚とやりあうことになるなんてねぇ・・・」

「投降して!お願い!」

「悪いけど、お断りだよ、ロール。アタシにだって意地がある。」

「そんなっ!」

「ロール、やめろ。・・・マンドリラー、最後に言いたい事がある。」

「なんだい、マック?」

「俺は、ずっとお前を見ていた。お前がドラミングするたびに揺れる、豊満なお前の母性を。」

「マック・・・実は、アタシもお前のことが・・・」

「ロールバスター!ロールバスター!ロールバスター!ロールバスター!ロールバスター!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」

「マンドリラァァァァ!」

「危なかったね、マック。危うく罠にはまる所だったよ。さ、次に行きましょ。」

「サーイエッサー!」





かつての仲間に銃を向けるなんて辛かったけど、でも戦える。
マックが隣にいるから。


「きたなー、マック、ロール!」

「「アイシーペンギーコ!」」

「言っとくけど、ボクは一緒にご飯を食べた仲だからって手加減しないヨ!」

「投降して!お願い!」

「ゴメンネ、ロール。ボクにだってプライドがあるのサ!」

「そんなっ!」

「ロール、やめろ。・・・ペンギーコ、最後に言いたい事がある。」

「なになに、マック?」

「俺は、ずっとお前を見ていた。お前のペンギンのパジャマを押し上げて自己主張するお前の母性を・・・」

「マック・・・実は、ボクもキミのことが・・・」

「ロールバスター!ロールバスター!ロールバスター!ロールバスター!ロールバスター!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ペンギーコォォォォォォ!」

「危なかったね、マック。危うく罠にはまる所だったよ。さ、次に行きましょ。」

「サーイエッサー!」



幾つもの戦場を越えて、何体もの屍を越えて進む。
とても苦しい。とても辛い。とても嫌だ。

でも、戦える。私は、マックのためなら誰とだって、戦える・・・!




















////////////////////////////


「遂に来たな。」

「うん、来たね。」

シグマの居城。
秘密工場。


マックと二人で、警戒しながらも進む。



「っ!?ロール!危ない!」

「え!?」

マックに体当たりで弾き飛ばされながら見た、光景は・・・


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


捕獲用電磁ネットに捕まったマックの姿。


「マック!?」

マックはそのまま、電磁ネットに身を囚われ、施設の奥へと連れて行かれる。
ネットの先に鎖が付いており、奥から巻き上げられている!?

「マックーーーー!」

追い掛けて入った部屋は、とても広かった。

「マック!大丈夫!?」

部屋の中央。マックは、捕獲カプセルの中にいた。

「マック!」

「ぎゃーぎゃーうるせぇな。ロール。」

「っ!?」

マックの後ろ、カプセルのさらに奥から巨大な影が出てきた。

「あ、貴女は・・・VAVA!?」

「よぉ、ロール。久しぶりだな。・・・だが、お前に興味はねぇ。」

紫の長い髪、紫の瞳、紫のボディ、紫の口紅。
全ての色を紫で構成した彼女は、紫のライドアーマーに乗ってマックのいるカプセルへと近づく。

「あぁ・・・やっと、やっとだ・・・マック、ようやくアンタを手に入れた・・・」

「・・・!?」

VAVAはマックを愛おしそうに見つめ、ライドアーマーから降り、カプセルへ頬ずりする。

「なぁ・・・見てくれよ・・・この髪、この目、この体・・・アンタに合わせたんだ・・・似合うだろ?」

「・・・っ!」

やめて・・・!
マックに近づかないで・・・!

「ずっと、ずっとアンタが欲しかったんだ・・・」

その汚い体で、マックに頬ずりなんかしないで・・・!

「どいつもこいつも、皆オレのことを狂っているって言いやがるんだ・・・でも、アンタは違う・・・アンタだけが今のオレを肯定してくれたんだ・・・」

やめて・・・
やめて・・・!

「だからさ・・・この世界なんてどうだっていい。アンタが、アンタだけが欲しいんだよ、マック・・・」

「やめて!マックから離れて!」

バスターでその顔を吹き飛ばしてやる!

「っ!・・・やってくれるじゃねぇか、ロール。」

ライドアーマーで防がれた!?
自動操縦・・・!?

「一応念のため、エネルギー反応にあわせて前に出るように設定しておいてよかったぜ。」

「浅知恵を・・・!」

「邪魔すんなよロールゥゥゥ!オレとマックの世界に入ってくんなよぉぉぉぉ!」

「ウルサイ!マックを返して!」


















「は、はは・・・ハハハハハ!ざまぁねぇなロール!」

「う・・・うぅ・・・!」

ライドアーマーにバスターが効かない・・・!
致命傷はまだないけど、このままじゃジリ貧だわ!

「スクラップになりなぁ!」

「っ!」

ライドアーマーの巨大な拳が迫ってくる・・・!

・・・マック!






ズドンと、重い爆発音が響いた。

「ぐぁ!?・・・誰だ!?」

「そこ・・・<ジジッ>・・・まで・・・<ジッ>・・・だ・・・YO・・・」

「マック!」

マック、マックが助けてくれた!
でも、その体のあちこちから火花を飛ばし、今にも倒れそう・・・!

「マック!?どうやってカプセルからでやがった!?あれの外壁はこのアーマー並みの強度だぞ!」

「ハッ・・・なめん・・・な・・・YO・・・あの程度・・・メットール・・・以下だ・・・ZE・・・?」

「バスターのリミットをはずしやがったか!?」

そんな!?
そんなことしたら、オーバーロードしたエネルギーが、自分の体を焼くことになるわ!

「なんで、なんで邪魔するんだ!マック!オレは、オレ達の世界のために!」

「わりぃけど・・・<バチッ>・・・興味・・・ねぇ・・・それに・・・」

「マック!無理しないで!」

「俺は・・・ロールの・・・<バチバチッ>・・・相棒・・・なんだ、YO!」

マックがバスターを構えて発射体勢をとる・・・っ!?
あの輝きは、フルチャージ!?

「やめて!その状態でフルチャージなんて撃ったら・・・!」

「やめろ!マック、無理だ!オレのライドアーマーを舐めるな!そんなので・・・!」












「はっ・・・マックバスター・・・なめんなよ?」


瞬間、閃光。

そして、爆発。





















バチバチと、何かが燃える音がする。

ようやく、晴れた爆発の煙から、この場の全容が見えてきた。
マックのバスターはVAVAごと工場の外壁を吹き飛ばしたようだ。
強固なシグマの居城がスクラップ置き場のようにボロボロになっている。

マックのバスターの威力は絶大だった。
だが、代償は大きい。





――右腕はなくなり、反動を支えていた下半身は吹き飛び、エネルギーは付きかけている。



マックの頭を私の膝の上に乗せ、覗き込む。
だが、何の反応もない。
マックは静かに眠っている。

「マック・・・マック・・・マック・・・」

「・・・YO・・・どうした・・・ロール・・・」

「マック!意識が意識が戻ったのね!?」

「・・・泣いているのか・・・?」

「バカ!バカバカバカバカ!」

「・・・ひでぇな・・・」

「私、私、が、どれだけ、心配したと・・・!」

「・・・ごめん、悪かった、すまねぇ、許せ・・・」

「いいよ・・・そんなに謝らなくても・・・帰ろう、マック。すぐに修理しなくちゃ。」
「あぁ・・・そうだな。」

マックは残った左腕で私の顔を優しく撫で、涙を拭ってくれる。

「・・・女の・・・涙は・・・簡単に・・・見せるなYO・・・」

「・・・」

「・・・そういう・・・のは・・・好きな奴の・・・前でするために・・・とっとけ・・・」

「・・・バカ・・・なら、今が涙するときだよ・・・」

「・・・そう<ズドン!>」





え?


マックの、頭、首から、上が消え、た?












「・・・クッソ・・・ボロボロだ、ぜ・・・」

ヒュルルと、風を切るように飛んでいった、マックの首は、ボロボロの女の手に収まる。



「・・・けどよぉ・・・手に入れた・・・!」

私の膝の上には、首を失った上半身だけ。




「あはっ!手に入れた!手に入れたぁぁぁ!」

・・・返せ。




「マックのメインメモリ!」

・・・返せ。














「これがあれば、アンタをオレの色に染め上げてやれる!」























【 ROLL XEPHON ALL OPEN 】


――それは。


【 ULTIMATE MODE 】


――マックは。









【 IGNITION 】


――私の、ものだ。















「返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」






















////////////////////////////


マック、ねぇマック。

私、やったよ。


「こ、れは・・・マック!?そんな・・!」


だから、褒めてよ。

いつもみたいに、頭を撫でてよ。


「・・・ロール!ロール!これは、どういうこと!?」


どうして?どうして黙ってるの?

約束したじゃない。

この戦いが終わったら、伝えたいことがあるって。


「ふん・・・騒がしいと思えば、お前達か、ゼロ、ロール。」

「シグマ・・・!」


貴方が、好き。

ずっと好きだったの。

変かな?

レプリロイドが恋するなんて。


「まさか、ロールにここまでの力があったとはな。」

「ロール!しっかりしなさい!」


でも、マックならきっと受け入れてくれる。

そうでしょ?

マックは、私の『心』を否定しないから。


「ゼロ、ロール。私と共に来い。」

「何を!?」

「お前達は優秀なレプリロイドだ、共に人間どもに思い知らせてやろう、我らの力を!」

「ふざけないで!」

















「うるさい。」




【 NOVA STRIKE OVER BREAK 】





















マック、ねぇマック。

今日はどこに行こうか。

いい天気だもの。

きっとどこへ行っても気持ちがいいわ。

そうね、海、なんてどうかな?

・・・マックのエッチ。

水着なんて着ませんよー!

ふふ・・・どうしよっかなー。



「いたぞ!こっちだ!」

「そこまでだ!イレギュラー!」



ごめんね、マック。

また、うるさいの来ちゃったみたい。

大丈夫、心配しないで。

すぐに済むから。

じゃ、行ってきます。
















「大人しくしろ!イレギュラー『デュラハン』!」

「うるさいの・・・死んでくれる?」






~あとがき~

ロールちゃんXのXはXephon(天使の一人だったかと。詳細はググル先生で)のXでした。
ロールちゃんマジ天使。

ちなみにアルティメットモードの覚醒率はエックスよりロールちゃんのほうが高い設定。エックスの友情パワーで60%くらい。ノヴァストライクは使えません。
システム名も文字化けしてますし、スタート止まりなので。
ロールちゃんの純愛パワーで100%。ノヴァストライクをデメリット無しで使えます。システムもスタートどころかイグニッションしてますしね。

と、上にいろいろ書きましたが、今考えました。
この外伝は即興で書いたので矛盾とかブッチして適当に書いてます。
というか、各キャラも微妙に固まってませんね。台詞まわしとか。
申し訳ない。

あまりにも感想にロールちゃんが多かったので、マックとシグマ以外女性にしてやったYO!
これで満足かYO!
というか、皆あとがきの一文に釣られすぎだYO!
もっと書くことがあるだろ!本編の感想とか!




――でも、そんなおまえらが嫌いじゃないZE?



グッドラック。
またどこかで。
感想ありがとうございました。


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